プラスチック・ファンタジア ~デザインナイフで作る異界のダンジョン~

蕪菁

文字の大きさ
14 / 44
第三幕【古き魔女の復活】

3-4【結託】

しおりを挟む
 周囲の様子や自らへの自責の念。そして勇者への好意的な感情。

 俺には分からないあらゆるものを抱え、それでもなお自分にできることを模索してきた。

 そんな今日まで努力してきたフィーちゃんも、いよいよ我慢の限界に来てしまったようだ。


 彼女の放つ魔力と呼応するように揺れる家。

 下の階からは割れ物が落ちる音まで響いてくる始末だ。


「はてさて、どうしたものかのぉ」
「何でそんな他人事!? 挑発したのアンタじゃん!!」


 椅子の陰に隠れながら腕を組み、うんうんと唸るリーンシェッテ。

 先ほどまでの妖艶な仕草はどこへやら。

 床で胡坐あぐらをかくその姿は、どこか年寄りのオッサン臭さまで漂ってくる。

 務めて妖艶さを演じていただけで、こちらが彼女本来の姿なのかもしれない。


「いやぁ。ワガハイ的には適当にいなせば良いだけだが、坊はどうしたものかと思って」
「うぐっ……」
「さっき素直に帰っておけばよいものを。アレを開くのもそんなに楽ではないのだぞ?」


 ジト目で睨むリーンシェッテの視線に耐えられず、俺は彼女から目を逸らす。


 確かに出しゃばっている感は自分でも分かっている。

 しかし素直に従うということは、フィーちゃんを見捨てて逃げ出すのと同じように感じられてしまってできなかった。


 とどのつまり、現状において俺は完全にお荷物なわけだ。

 魔法なんぞとは無縁の生活を送っていたのだから当然だが。


「でもアンタが挑発しなきゃ安全だったのも事実だろっ」
「そうかの? あー、そうかも知れんなぁ」
「だから何で他人事なんだよ!!」


 本当に頼りになるのか? この古の大魔女様は。

 そんなことを思いつつ、俺は力を暴走させつつあるフィーちゃんの方を見る。


 両手で持った杖で自らの体を支えるように立つフィーちゃん。

 怒りを剥き出しにするその目からは、いつしか大粒の涙がこぼれていた。


『あの方が安寧を得られる場所を用意したいんです!!』


 彼女の悲痛な叫びが頭を過る。

 もちろんその言葉の意味を出会ったばかりの俺が理解できるはずもない。

 だが今見せている涙はきっと、あの子の罪悪感の表れなのだろう。

 それくらいは凡人の俺にだって理解できる。


 どうしてあんな小さな子がこんな気持ちにならなきゃいけないのか。

 どうしてあの子が一人で背負わなきゃいけなかったのか。

 世界が違えばなんて理由も分かるが、それでも俺には納得ができない。


 あらゆる思考によって頭がかき乱される。

 そんな中、相変わらずリーンシェッテはフィーちゃんの様子を窺うばかりで。


「というか、さすがにそろそろまずいかも知れんな」


 と、ついには非常に気掛かりなことまでつぶやきだす始末だ。


「まずいって、これ以上何が起きるっていうんだ?」


 それが俺の身に降りかかる災いか。それともフィーちゃんにとっての問題なのか。

 どちらにせよ、聞き捨てならないリーンシェッテの言葉に俺は不安を隠せずにいた。


 リーンシェッテが至って冷静であることは、この場においては逆に助かるようにも思えてきた。


「いやぁ。娘がこれ以上魔力を放出したら、そろそろ枯渇しかねんと思ってのぉ」
「枯渇って、つまり暴走が止まるってことじゃないのか?」
「そりゃあ止まるさ。だがその後の魔力を失った体が問題なのさ」


 言っていることがよく分からず、俺は再びフィーちゃんの様子を窺う。

 先程よりも息が荒くなったように見える彼女の姿からして、相当疲弊していることは見て分かる。


「あのまま無暗に魔力を枯渇させれば、今度は娘の体に地の魔力が入り込む余地が生まれてしまう」


 地の魔力。つまり天の魔力を持つ人々が忌諱する瘴気のことだ。

 そんなものが肉体に入り込んでもしたら……。


「上の者たちが言う瘴気。すなわち地の魔力をあ奴らが取り込むと、肉体がそちらに適応するために異常な変化を起こすこととなる」
「異常って……異形がどうとかってフィーちゃんは言ってたぞ?」
「その通り。あの娘は人ならざる化け物になるぞ」


 それを先に言えよ!!

 俺は冷静に語るリーンシェッテの前で天井を仰いだ。

 つまりこのまま暴走を続ければ、その先に待つのはフィーちゃんのモンスター化だ。


 苦心の末世界を旅してきたあの子の結末がこれなんて、あんまりではないか。

 いくら近付くのは危険だと言われても、ただ傍観しているだけというのは感情として無理だ。


 俺は立ち上がり、もう一度フィーちゃんの傍に寄ろうとする。

 だがそんな俺の肩を、同じく立ち上がったリーンシェッテが強く掴む。


「おい、近寄るなと言うただろっ」
「それどころじゃないだろ! あのまま放っておいたらフィーちゃんがあっ!?」


 リーンシェッテの手を振り払い、前進しようと足を踏み出す。

 だがそこに床はなく、俺の右足が穴の中に吸い込まれる。


 俺の脚を取った穴が急激に広がり、俺の下半身はその穴に嵌る形になってしまう。


「お、おいっ! これもお前の仕業だな!」
「仕方ないだろう。坊を無駄死にさせるのはワガハイとしても本意ではない」
「そう思うなら! 早く、何とかっ、しろ!!」


 正直他人頼みにするのは俺としてもあまりいい気分ではない。

 だがここまで俺を死なせまいとするのならば、フィーちゃんにも同じ気持ちで接してもらいたい。

 その思いを込め、俺を見下ろすリーンシェッテを睨む。

 ドレスのスリットから覗く肌色の脚は魅力的だが、今はそちらに視線を向ける気になれない。


「今日出会ったばかりの相手に、随分と肩入れするものだな」


 穴に嵌った俺を前に、呆れた様子でため息をつくリーンシェッテ。

 だが俺自身それくらいは理解している。フィーちゃんは昨日まで一切関りを持つことのなかった他人だ。

 それでも、やはりどうにかしてあげたいと思ってしまうのだ。


『素晴らしいですっ! 現実を追及するあなたの姿勢、感服いたしました!!』


 現金な奴だと思われても仕方がない。

 しかしだ、一人で作っているものと向き合う時間が大半を占める模型の世界において、ああやって純粋に褒められることはどうしようもなく嬉しいのだ。

 これまで趣味のために培ってきたものを求めてもらえるのが、至上の幸福に思えてしまうのだ。


 そして何より、あの子は嘘偽りのない本心を常に見せてくれている。

 そういう風に信じてしまったからには、俺も相応の相手でありたいと願ってしまうのだ。


 だから俺は勢いで言い切ってしまうのだ。


「肩入れするだけの理由ができたからなっ!」


 俺の趣味がフィーちゃんの心を救う一助になるなら、喜んで協力したい。

 だからこのまま終わりにするのではなく、しっかりあの子とこの先のことを話し合いたいのだ。


 たった一日の不思議な出会いで終わらせるにはもったいないじゃないか。


「なるほどのぉ」


 そんな俺の啖呵も、リーンシェッテの心には届かなかったのだろう。

 冷めた目で俺を見下ろし、短いため息をつく。

 そしてそのまま俺から目を逸らし……。


「ほれ」


 右手の指を打ち鳴らしたその瞬間、続いていた家の振動が突然収まる。

 そしてリーンシェッテを見ていた俺の耳に届く、杖が床に転がる音――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...