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#03 Mission for Dating
第21話
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結婚式には参加したことがない。
つい最近まで身近な親族が殆どいないと思い込んでいた、いやちょっと違うな。そう刷り込まれていた俺にとってそういう親族ぐるみで発生しそうなイベントとは無縁だと思っていた。
「~♪」
それがどうだ。この隣で腕に引っ付いたまま離れようとしない腹黒幼女のおかげで、ただの下校時間が挙式後の花道かと思ってしまうほど、周りからその関係を祝福されている?
鳴り止まない拍手と黄色い歓声の花道に見送られ、そのまま学院を後にする。
祝福の裏に秘められた俺だけに向けられていた憎悪と殺気だけを誤魔化して。
「おい、いい加減離れてもいいだろ」
街道でもその熱々っぷりを演じるミーアを引き剝がそうとする。
いい加減周りの視線にも嫌気が指していたからだ。
しかしミーアは離れようとするどころか更に腕を強く抱きしめてくる。
「ダメよ、折角のデートなのだからそれっぽく振舞わないと」
「それっぽくって……何もこんなベタベタしているところを見せつけなくてもだな……」
「なに?忘れて帰ろうとしていた癖に口答えするの?」
「いや、それはその……確かにそうなんだけどよ……ミーアなら分かるだろ?ほら、後ろのやつ」
それとなく伝わるようにミーアへ囁く。
学院を出た辺りから背後に付き纏う私怨に満ちた視線。
それも気配丸出しの雑なものから、上手い具合に通行人に紛れたプロ顔負けのものまで様々だ。俺ほど周囲に気を張る人間でなければ、ここまで気が付けなかっただろう本当にヤバい気配まである始末だ。
これは経験則だが、この手の連中には突発的感情を基に行動している節がある者もいる。
そいつらが我慢の限界を迎えた時に何をしでかすか、正直気が気じゃない。
「ふん、私のストーカーの一人や二人御せなくして気ままにデートできるなんて思わないことね」
「こりゃ一本取られた。まさかミーアさんお抱えの公認ストーカーとは知らず、ついつい要らぬ心配を……っておい、そんなこと俺が言うとでも思ってるのか?なんでそんな面倒事に俺を巻き込むんだよ。大体さっきのだって────」
「秘密」
「全力で地獄の底までお付き合いさせて頂きます。神様、閻魔様、ミーア様」
「ヨシ」
畜生、これじゃあホントにただの忠犬じゃねーか。
この掴まれた腕も彼女に取っては俺を逃がさないための手綱、というよりも弾除けと称した方が正しいかもしれない。
やっぱり思っていた通りの禄でもないデートに、溜息どころか妙な納得感まで得てしまった。もうこの際ヤケだ。当初数か月と見積もっていた調査が短縮されたことを踏まえれば、数日遊んだってバチは当たらないだろう。
ここまで散々俺を苦しめてきた神様だって、流石にそこまで理不尽じゃないはずだ。
「それで、どこに行くの?」
「どこへ?」
「は?」
「え?」
道すがら同時に脚が止まり、同時に顔を見合わせる。
なんでこの腹黒少女は疑問符を浮かべた顔をしているのだろうか?
「何処か行きたいところがあるからデートに誘ってきたんじゃないのか?」
「そんなのあるわけないじゃない。貴方とデートしたいから誘っただけで行先なんて貴方が決めるものでしょ?」
「は?」
「え?」
ちょっと待ってくれ、なんだこれ。カフェイン不足で頭が回っていないせいか?
誰か俺が間違えているなら教えてくれ。
「つまりその、全くノープランで誘ってきたの?」
「そうよ、デートしたいと思っただけでプランなんてないわよ。それとも何か論理的解釈でも必要なのかしら?」
「当たり前だ。理由もなくデートなんてされてたまるか」
「なぜ?」
「なぜってそれは……なんかこう、相手のことがもっと知りたいとか、理解したいとか……人の行動原理上何かしらの意図ってものがあるはずだろ」
しかしミーアはあまりピンときていない様子で、その形の良い眉に皺を寄せながら小首を傾げる。
「何かをするのに理由なんて必要なのかしら?」
普段の誤魔化すような嘘であるならどれほど激高していただろうか。
しかし実際その解答をされた時、一瞬だけ眼から鱗が落ちたような衝撃に襲われる。
「いちいち何かするたびに理由付けする。そんな合理性の塊のような生き方なんてしていたら、あっという間につまらない人間になってしまうわよ?」
本気でそう思っている子供のように無垢なる解答に、呆れを通り越して妙な清々しさすら感じてしまう。誰にだって昔から存在したはずの無邪気さは、あの日を境に捨ててしまった。それからの俺は何もかもの行動原理に理由を付けては非合理を排斥し続けていた。まるで大人として振舞うかのように、自らの弱みを他者に見られてしまわないように。
そのことに気づいて少しだけ吹っ切れた。それにさっき自分で言ったじゃないか。
予定は予定以上に順調なんだ。数日遊んだってバチは当たらない。
「はぁ、分かったよ。今日は一日ミーアに付き合うよ。そうしたら場所はどうするか……どこか気になるところはないのか?」
「そうね……私もデートなんて初めてだから、どこにいったら良いのかよく分からないわ」
「そうか、それにしても初デートとは意外だな。あんな自然な誘われ方したから、てっきり経験豊富なのかと思ってたよ」
「失礼ね。私がそんな誰にでも心を赦すような軽薄な淑女に見えるのかしら?」
「別に、でもそれだと俺には心を赦しているって解釈で良いのかな?」
「貴方は特別よイチル」
ほんの僅かだけ抱き着いていた腕に力が入る。
先刻感じていた手綱をガサツに握る感覚とはまるで違う。もう他に頼れる物なんてない、唯一の命綱に本気でしがみ付く様に抱き寄せたまま、少女は上目遣いにこちらを見返してくる。
「だって貴方は……私にとっての駄犬なのだから。気を遣う必要なんてないじゃない」
「はいはい。その特別の意味にちょっとだけ期待した俺がバカでした。とにかくミーアに行きたいところが無いんだったら、今日は俺が気になっているところを回るぞ。それでいいな」
思いのほかキャンキャン吠えなかった俺に少しだけがっかりしながらも、ミーアは素直に頷いて見せた。
つい最近まで身近な親族が殆どいないと思い込んでいた、いやちょっと違うな。そう刷り込まれていた俺にとってそういう親族ぐるみで発生しそうなイベントとは無縁だと思っていた。
「~♪」
それがどうだ。この隣で腕に引っ付いたまま離れようとしない腹黒幼女のおかげで、ただの下校時間が挙式後の花道かと思ってしまうほど、周りからその関係を祝福されている?
鳴り止まない拍手と黄色い歓声の花道に見送られ、そのまま学院を後にする。
祝福の裏に秘められた俺だけに向けられていた憎悪と殺気だけを誤魔化して。
「おい、いい加減離れてもいいだろ」
街道でもその熱々っぷりを演じるミーアを引き剝がそうとする。
いい加減周りの視線にも嫌気が指していたからだ。
しかしミーアは離れようとするどころか更に腕を強く抱きしめてくる。
「ダメよ、折角のデートなのだからそれっぽく振舞わないと」
「それっぽくって……何もこんなベタベタしているところを見せつけなくてもだな……」
「なに?忘れて帰ろうとしていた癖に口答えするの?」
「いや、それはその……確かにそうなんだけどよ……ミーアなら分かるだろ?ほら、後ろのやつ」
それとなく伝わるようにミーアへ囁く。
学院を出た辺りから背後に付き纏う私怨に満ちた視線。
それも気配丸出しの雑なものから、上手い具合に通行人に紛れたプロ顔負けのものまで様々だ。俺ほど周囲に気を張る人間でなければ、ここまで気が付けなかっただろう本当にヤバい気配まである始末だ。
これは経験則だが、この手の連中には突発的感情を基に行動している節がある者もいる。
そいつらが我慢の限界を迎えた時に何をしでかすか、正直気が気じゃない。
「ふん、私のストーカーの一人や二人御せなくして気ままにデートできるなんて思わないことね」
「こりゃ一本取られた。まさかミーアさんお抱えの公認ストーカーとは知らず、ついつい要らぬ心配を……っておい、そんなこと俺が言うとでも思ってるのか?なんでそんな面倒事に俺を巻き込むんだよ。大体さっきのだって────」
「秘密」
「全力で地獄の底までお付き合いさせて頂きます。神様、閻魔様、ミーア様」
「ヨシ」
畜生、これじゃあホントにただの忠犬じゃねーか。
この掴まれた腕も彼女に取っては俺を逃がさないための手綱、というよりも弾除けと称した方が正しいかもしれない。
やっぱり思っていた通りの禄でもないデートに、溜息どころか妙な納得感まで得てしまった。もうこの際ヤケだ。当初数か月と見積もっていた調査が短縮されたことを踏まえれば、数日遊んだってバチは当たらないだろう。
ここまで散々俺を苦しめてきた神様だって、流石にそこまで理不尽じゃないはずだ。
「それで、どこに行くの?」
「どこへ?」
「は?」
「え?」
道すがら同時に脚が止まり、同時に顔を見合わせる。
なんでこの腹黒少女は疑問符を浮かべた顔をしているのだろうか?
「何処か行きたいところがあるからデートに誘ってきたんじゃないのか?」
「そんなのあるわけないじゃない。貴方とデートしたいから誘っただけで行先なんて貴方が決めるものでしょ?」
「は?」
「え?」
ちょっと待ってくれ、なんだこれ。カフェイン不足で頭が回っていないせいか?
誰か俺が間違えているなら教えてくれ。
「つまりその、全くノープランで誘ってきたの?」
「そうよ、デートしたいと思っただけでプランなんてないわよ。それとも何か論理的解釈でも必要なのかしら?」
「当たり前だ。理由もなくデートなんてされてたまるか」
「なぜ?」
「なぜってそれは……なんかこう、相手のことがもっと知りたいとか、理解したいとか……人の行動原理上何かしらの意図ってものがあるはずだろ」
しかしミーアはあまりピンときていない様子で、その形の良い眉に皺を寄せながら小首を傾げる。
「何かをするのに理由なんて必要なのかしら?」
普段の誤魔化すような嘘であるならどれほど激高していただろうか。
しかし実際その解答をされた時、一瞬だけ眼から鱗が落ちたような衝撃に襲われる。
「いちいち何かするたびに理由付けする。そんな合理性の塊のような生き方なんてしていたら、あっという間につまらない人間になってしまうわよ?」
本気でそう思っている子供のように無垢なる解答に、呆れを通り越して妙な清々しさすら感じてしまう。誰にだって昔から存在したはずの無邪気さは、あの日を境に捨ててしまった。それからの俺は何もかもの行動原理に理由を付けては非合理を排斥し続けていた。まるで大人として振舞うかのように、自らの弱みを他者に見られてしまわないように。
そのことに気づいて少しだけ吹っ切れた。それにさっき自分で言ったじゃないか。
予定は予定以上に順調なんだ。数日遊んだってバチは当たらない。
「はぁ、分かったよ。今日は一日ミーアに付き合うよ。そうしたら場所はどうするか……どこか気になるところはないのか?」
「そうね……私もデートなんて初めてだから、どこにいったら良いのかよく分からないわ」
「そうか、それにしても初デートとは意外だな。あんな自然な誘われ方したから、てっきり経験豊富なのかと思ってたよ」
「失礼ね。私がそんな誰にでも心を赦すような軽薄な淑女に見えるのかしら?」
「別に、でもそれだと俺には心を赦しているって解釈で良いのかな?」
「貴方は特別よイチル」
ほんの僅かだけ抱き着いていた腕に力が入る。
先刻感じていた手綱をガサツに握る感覚とはまるで違う。もう他に頼れる物なんてない、唯一の命綱に本気でしがみ付く様に抱き寄せたまま、少女は上目遣いにこちらを見返してくる。
「だって貴方は……私にとっての駄犬なのだから。気を遣う必要なんてないじゃない」
「はいはい。その特別の意味にちょっとだけ期待した俺がバカでした。とにかくミーアに行きたいところが無いんだったら、今日は俺が気になっているところを回るぞ。それでいいな」
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