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Prologue
Prologue16
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上空の飛行機の窓から遠くなっていくイギリス、ロンドンの街並みを俺は眺めていた。
リリー王女の天然攻撃に危うく殺されるところだった俺は、エリザベス3世が用意してくれた日本直行便のスイートクラスの部屋で椅子に座って寛いでいた。いわゆるVIPルームと言われるであろうこの部屋は、広さが6畳程で、部屋に備え付けてあった家具も全て高級ブランドの椅子やベッドにテレビや小型冷蔵庫などなど一人暮らし顔負けのものが揃っていた。
イギリス、ロンドンの街並みがだんだんと小さくなり見えなくなっていくなか、そんな景色を俺は名残惜しそうに窓の外から黙って眺めながら、一時的にチームを組んだセイナ・A・アシュライズのことを思い出していた。最初二人一組を組んで神器を探して欲しいと言われた時は正直焦った、こんな小さな少女のおもりをしろなんて面倒以外の何でもないと考えていた。だが、短い時間とはいえ作戦を共にこなしてその考え方は変わっていた。アイツは俺と違って真面目で、どこまでも物事を真っすぐに見れる良さを持っていた。仲間として俺の考え方や策を一生懸命読み取ろうと頑張り、妹や人質を救うのに誰よりも早く駆け付けようとし、自分の身を危険にさらしても臆しない強さを持っていた。
それは良さであると同時に弱点でもある。真っすぐすぎて周りが見えなくなり、自分が危険であっても気づかないのだ。俺が礼拝堂で撃たれそうになった時にセイナは自分が撃たれる可能性が有ることなど気にせずに俺のカバーをしてくれた。そう、セイナは目標達成のためならば自分の身のことなど考えていないのだ。エリザベス3世はおそらくそれに気づいていて弱点を補うパートナーとして俺を呼んだのだろう。セイナと違って真っすぐに物事が見れなくなった俺のことを……
(さて……)
俺は遠くなっていくヨーロッパの大地から目を離して、スマートフォンである人物に電話をかける。
テロ事件は無事に解決することができたが、未だに行方知れずの皇帝陛下、盗まれた神器、謎の組織「ヨルムンガンド」と問題は山済みである。
セイナとは二人一組を組まないにしても、部外者と言ってこの問題に関わらない、というわけにもいかないということくらい俺にもよく分かっていた。
なかなか決心をつけることができなかったが、真っすぐな心を持つセイナを見て、俺が今後何をすべきか考えをまとめることができた。
「Hello、私だ」
8回目のコール音と少し遅れたあと、スマートフォンから低い男の声が聞こえてくる。
「Hello大統領閣下、お久しぶりです。フォルテです」
電話をかけた相手であるアメリカの大統領閣下の「ガブリエル・ベアード」本人に俺は挨拶をする。
「一年ぶりか……君から直接電話をかけてくるなんて珍しいな……要件は例のイギリスでのテロ事件かな?」
ベアード大統領は低く落ちつた声のままこちらの要件を一発で当ててきた。
「ハイ、その件についてです。流石大統領閣下、よく分かりましたね」
流石はアメリカ大統領、人の心をよむその鋭い洞察力において、彼の右に出るものは恐らくいないだろう。
そう思いながら、尊敬の念を込めて俺がそう返すと、電話の向こうからはなぜかベアード大統領のため息が聞こえてきた。
「嫌でも分かるよ……あのニュースを見れば……」
「あのニュース……何の話ですか?」
何を言っているのかよく分からなかった俺がオウム返しのようにそう聞くと、ベアード大統領は若干呆れたように続けた。
「君は当事者なのにあのニュースを見ていないのか?」
「はぁ……すみません、ここ一週間ずっと寝込んでいて今朝方目覚めたばかりでしたので……」
俺が申し訳なさそうにそう返すと、ベアード大統領は「そうか……」と呟き、少し黙ってから軽く咳ばらいをして。
「イギリスのテロ事件を知った我々が色々と情報収集をしていた中、一つのニュースが流れてきた。なんでも謎の男女2人がイギリスキングスカレッジ礼拝堂人質立てこもり犯に対して強行突入を行い、無事に人質を奪還、そのあとすぐに姿をくらませた。イギリス政府や警察、軍関係者も二人の存在に関しては詳しく知らない様子で、存在は謎に包まれたまま。唯一分かっているのは、男は黒髪に紅い眼をしていて、女は碧眼の金髪ポニーテールだったということだけ……そしてその映像がこれだ」
ニュースの内容に関してベアード大統領は詳しく説明しながら、一つの映像を俺のスマートフォンに転送してきた。それを俺は恐る恐る指でタッチし再生すると、ものすごく見覚えのある黒髪紅目と金髪碧眼の二人が銃を撃つ映像が流れてきた。人質の誰かがスマートフォンを隠し持っていて撮影したのか、激しく手振れしたその映像にははっきりとは顔は映っていなかったものの、親しい人物が見たら、その風貌から誰なのかは一目瞭然なのだろう。
「あーこれは……思いっきり映っていますね……」
俺はバツが悪そうな表情でそうこぼした。
人の心をよむその鋭い洞察力において、大統領閣下の右に出るものは恐らくいないだろう。それに関しては否定しないが、どうやら今回それは関係なかったらしい。
「別にもう構わないが、全く君は本当に昔から目立つのが好きだね……だがニュースを見て少し驚いたよ、君はいま日本に住んでいるんじゃなかったのか?」
俺の性格をよく知っているベアード大統領はあきらめたように苦笑まじりにそう言ってきた。その声は、国民の前で演じている威厳のあるようなものではなく、一年越しでも変わらない、親しい友人に話すような口調だった。
「ええ、本当はそうなんですが……それも含めて色々ありまして、いま時間を少々頂きたいのですがよろしいですか?」
俺の言葉にベアード大統領は唸るような声を出しながら少し考えたあとに短く答えた。
「5分なら問題ない」
「なるほど……そんなことがあったのか……」
ここ最近自分の身に起きた出来事についての俺の説明に、ベアード大統領は相槌を打った。
話した内容を簡単にまとめるとこんな感じだった。
日本で生活していたが、イギリス旅行に行った最中に偶然近くでテロ事件が発生。女王陛下に連絡し派遣してもらった特殊部隊と一緒にこの事件を解決したと……
「はい、そのあとヨルムンガンドの一員と名乗る教唆犯と交戦しましたが、ヤツは俺の正体も知っていたようで手痛い反撃にあい、犯人を逃がした挙句、情けない話ですが一週間意識を失っていました」
本当は嘘をつきたくはないが、セイナや皇帝陛下に関しての話しを他国に漏らせば、国家間の問題に発展する可能性が有る。実際の話とは、かなり内容が変わってきてしまうが、こればかりは仕方ない。
「ヨルムンガンド……だと?」
ベアード大統領はヨルムンガンドに反応して俺に聞き返してきた。
「はい、何か知っているのですか?」
ベアード大統領の含みのある聞き方に俺は肯定しつつ質問を返す。だが、ベアード大統領は少し黙って何か考えるように唸ってから
「いや、そんな組織は聞いたことないな」
と素っ気なく返される。俺はそんなベアード大統領の言葉を一瞬不審に思ったが、立て続けに話をしてきたベアード大統領の言葉にその思いはすぐにかき消される。
「しかし……君が負けるなんて相手は相当な手練れだったのか?それとも腕が鈍っていたのか?」
「どちらもです。本当に情けない話ですが……」
俺はあの黒ドレスの女のことを思い出して右手で持ったスマートフォンに力が入る。子供ごと俺を殺そうとした卑劣な奴と言ってしまうのは簡単だが、戦闘ではそんなこと言っていられない。どんな卑怯な手段を使っても結局は殺したほうが勝者だ。負けて殺されてしまえばそいつは抗議することさえ許されない。だから別に卑怯な手を使われたことに関しては一切怒っていない。頭にきているのは卑怯な手を使った相手に負けた自分の実力に一番怒りを感じていた。卑劣な手段程度で負けた自分に……
そんな俺の気持ちを電話越しにベアード大統領は察したのか
「君は一年ものあいだ現場を離れていたのだ、仕方ないさ」
と俺に言ってきた。そしてそのまま続けて。
「で、君はなにか私に言いたいことがあってわざわざ電話してきたのだろう?」
多分もう俺が何を頼もうとしているのか恐らく気づいているのだろう。だが、あくまでそれを俺の口から聞きたいらしくベアード大統領はそう言ってきた。
俺は少し黙ってから意を決して自分の考えをを口にした。
「俺はヨルムンガンドの一員と言っていたあの教唆犯を捕まえて、組織を壊滅させようと考えています」
本当はテロ事件を解決したら今回の件にはもう関わらないつもりだった。だが、真っすぐに行動するセイナを見て、二人一組を組まないにしても、俺個人として何かできないかと色々考えていた。そこで、神器や皇帝陛下を探せなくても、それにつながる手掛かりとしてあの黒ドレスの女とその組織であるヨルムンガンドを捕まえ、壊滅させるという考えに至ったのだ。それに、ヤツにやられたままでは俺の性に合わない。
俺の考えを聞いたベアード大統領は少しだけ押し黙ってから低く落ち着いた声で
「私がつけていた君の枷はもう外したはずだよ。これから君が何をしようと我々に制限する権利は持ち合わせていない。やりたいことをやればいいさ」
「あぁ……ありがとうベアード大統領。じゃあまた」
「ああ、待て待て、一つ言い忘れていた」
そう言って電話を切ろうとした俺にベアード大統領が呼びかけてきたので再びスマートフォンを耳に戻す。
「もしアメリカに来ることがあるのなら、連絡さえ寄越せば私の知り合いを迎えに送るよ。その方が国際指名手配中の君でも安全に入国できるはずだ」
「いえ、仮にも私はFBI長官暗殺未遂の容疑がかかった身、大統領との現在の関係が明るみに出れば失脚の可能性もあります。そこまで迷惑をかけるわけにはいきません」
「それは気にしなくていい。そんな濡れ衣を着せてしまったこちらにも非があるのだからな。それに、迎えを頼む知り合いに関しても、本当に信頼できる人物だから心配しなくて大丈夫だ」
「そうですか……では機会があればよろしくお願いします」
「ああ、それでは」
電話が切れたことを確認して俺はスマートフォンをゆっくりポケットにしまい、座席に体重を預けて天井に向けて大きくため息をついた。
「SEVEN TRIGGER」通称S.T
世間はおろか、各国の特殊部隊の間でしか語り継がれていない元米軍最強の特殊部隊。もちろんその部隊を指揮する隊長や隊員は世間に知られてはいない。だが、隊長を務めていた男は、世間ではこう言われていた。
一年前、FBI本部を襲撃、FBI長官の暗殺に失敗してFBI本部の建物を吹き飛ばした凶悪犯。「フォルテ」と
イギリスのヒースロー空港から約12時間のフライトを経て、俺の乗った飛行機は東京の羽田空港に無事着陸した。飛行機から降りた俺はそのまま京浜空港線の電車に乗って品川駅に向かい、さらにそこで新幹線に乗り換え、午後2時頃には自宅のある港町まで帰ってきていた。エリザベス3世に手渡されたチケットや交通費はほぼ使い切ってしまったが、手元には千円弱のお金が残っていた。おそらく駅から自宅までのタクシー代を考慮してのものなのだろうが、ずっと座席に座わったままだった身体をほぐす為に俺はタクシーを使わずに歩いて自宅に帰ることにした。
町はいつもと変わらない様子だったが、色々あったせいか、たかだか数日離れていただけなのに、その風景に俺はどこか懐かしさのようなものを感じていた。
駅から市場を通って丘にある自宅に向かって歩いていると、数日ぶりだというのに街の人達はいつものように声を掛けてくれて俺は疲れた様子を見せずに愛想よく返事を返していく。
そうしていくうちにバーバラの経営するタバコ屋の前を通りかかった時に「どうだった?」とバーバラから一言だけ聞かれ、俺は「また死にかけた」と一言だけ返し、とぼとぼと市場をあとにする。
市場を抜けて街の外れから山道を登っていく。木々のトンネルのおかげで日差しは遮られていたが、それでも俺は額に汗を掻いていた。四月の日本はわりと涼しいはずなのだが、イギリスの寒さを体験した後では暑いとすら感じた。俺は額の汗を拭いながら坂を上り切って丘にたどり着いた。
数日ぶりの自宅を前にして俺は僅かに笑みを浮かべた。
今となっては自分の中で唯一帰るべき場所と言えるのはここだけになってしまった。
俺は自宅の扉の前まで歩いていく。途中で吹いた春風が、丘に咲いたタンポポの種と一緒に俺の服を靡かせる。扉の前にたどり着いた俺は、今後の活動について考えようとしたが直ぐに止めた。今日ぐらい長旅で疲れた自分の身体を、世界で唯一心を許しているこのオアシスでゆっくり休めてもいいじゃないか。そう思ったのだ。
「あら、遅かったじゃない?」
家の扉を開けて中に入ろうとした俺の前に、何故か黄金色の金髪ロングのポニーテールを携えたブルーサファイアの碧眼を持つ俺より一回りも二回りも小柄な少女が、左手を腰に当て、片足に体重を乗せた状態で立っていた。
「……」
俺は黙って扉を閉めて丘の方に振り返ってに2~3回深呼吸をして心を落ち着かせる。深呼吸している間にも、家の中から何か声が聞こえているが、多分疲れからの幻聴だろう。幻聴であってくれ。
俺がもう一度ゆっくり扉を開くと、やはりそこには白のブラウスに黒色のスカートとニーソックスを履いた私服姿の金髪碧眼の少女が立っていた。その少女は俺の行動に対して────
「あんた……何してるの?」
と冷ややかな視線を向けながらそう言ってきたのである。
「何でお前がここにいるんだよセイナ!?お前、確か特殊任務に就いたはずじゃあ……」
「何言ってるのあんた?だからこうしてここにいるんじゃない?女王陛下からちゃんと話し聞いてないの?」
特殊任務中???どういうことだ?俺は突然の異常事態に頭がショートして回らなくなり、ポカーンとしていると「あっそういえば忘れてた」と言いながらセイナがスカートのポケットから手紙を取り出し、俺に差し出してきた。
「これは……?」
「女王陛下からアンタがここに帰ってきたら渡せって言ってたものよ」
俺は恐る恐るセイナから手紙を受け取り、何も書かれていない封筒の表と裏を確認して、生唾を飲み込みながら意を決して開けてみると、中から手紙のような紙がいくつか入っていて、そのうちの「フォルテへ」と書かれた手紙を俺は一つ取り出して開けてみた。するとそこにはエリザベス3世からのメッセージが書かれていた。
『親愛なるフォルテへ、この手紙を読んでいるということは、無事に娘と合流できたということで話をしていきます。突然のことで驚いているとは思いますが、娘には特別任務として日本であなたとチームを組んで皇帝陛下及び神器捜索にあたるよう命令しました。』
その一文を読んで俺は数秒間思考が停止し膠着した。何度読み返したところで手紙の内容が変わることはなかった。そして
「はぁああああ!?」
ついに耐え切れなくなった俺は大きな声上げた。セイナはそんな俺のことを訝しむように冷たい目線で見ていたが俺はそんなこと気にせずに手紙の続きを読んでいく。
『本当はロンドンを拠点としてあなた達にチームを組ませたかったのですが、私もいい加減子離れをしなければならないと断腸の思いで決断しました。日本の生活は不自由ないと思いますが娘のサポートのほど、よろしくお願いします。』
手紙を読んでいき俺はイギリスを発つ前にエリザベス3世との会話を思い出した。
「今回の作戦での活躍を評価して、私の方から直々に特別任務を割り振ってあげたわ。ホントはフォルテにここで、あの娘のことを面倒見て欲しかったのだけど……あの娘は一人でも大丈夫だということが今回の事件でよく分かったし、私も子離れが必要みたいだしね……折角イギリスまであなたを連れてきたのに、無駄足になってしまいましたね」
まさかアイツ、娘が自分のいるイギリスから離れて暮らすのが嫌でそんなこと言っていたのか……一人でも大丈夫って単独行動のことじゃなくて、要は私が近くに居なくても娘は生活していけるという意味だったってことかよッ!どんだけ過保護なんだよッ!
俺は心の中でツッコミをを入れながら、文句を言ってやろうとスマートフォンを取り出して電話をかけようとする。エリザベス3世の電話番号を電話帳から探している間にさらに手紙を読み進めていくと。
『とは言っても、あなたは簡単に納得してくれないでしょうから一つ良いことを教えてあげましょう。』
その文章を読んでスマートフォンを操作していた俺の指が止まる。
なんだろう、無性に嫌な予感しかしない、そう思いながらもさらに読み進めていくと。
『テロ事件によるケンブリッジ大学の損害に対しての弁償金の話なのだけど、あなたの口座のお金を全て当てても弁償金は足りませんでした。残りの借金の額は封筒の中に入っています。』
「なにぃ!?」
俺は思わぬところからボディーブローを食らったような気分になり、思わず変な声で手紙の文章に聞き返してしまう。特殊部隊に所属していた時に貯めていたお金は軽く億単位であったはずなので、恐らく足りるだろうと思っていたのだが……するとパサッと音を立てながら一枚の紙が落ちたので、拾い上げて中身を確認するとそこには
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億……う、嘘だ……なんなんだこの額は!?」
借用書には「8.200.000.00」と八桁の数字がきっちり書かれていた。下の方には端数抜きで12億―4億で8億と書いてあった。恐らく12億が弁償金で-4億は俺の貯金だろう。だがよく見ると単位は円ではなく€だったのだ。つまり日本円に換算すると────
(約10億円)
俺は一日にして借金王になったことに唖然として開いた口が閉じなくなってしまう。
人間、相当なショックを受けると声がでなくなるというのは本当のことなんだなぁ~と呆然とした俺のことをなぜか客観的に見ていた俺がそう思った。
て、いやいや、感心している場合じゃないッ
俺は顔を無理矢理振り、口から抜け出た魂をギリギリのところで現世につなぎとめて、自分の中に戻した。そして、エリザベス3世の手紙の続きを再び読み進めると。
『流石に私もあなたと違って鬼ではないので、人質と娘を救ってくれたお礼に、返済が滞っても金利が掛からないよう借金は全額こちらで立て替えておきました。ただし、交換条件として、借金返済または皇帝陛下及び神器の回収が済むまで、娘とチームを組んで面倒を見てはくれませんか?それでも嫌なら娘をこちらに返しても構いませんが、その時は借金+金利(といち)で支払っていただきます。あーあと娘は借金に関しては全く知らないので、あとで気づかれて妙な心配をかけさせないように。では、God blessyou』
「……」
この日、神は死んだ。そう思った。
こんな条件出されては呑まざる得ない。というか断るという選択肢がない。
交換条件どころかほぼ脅迫に近い文章に俺はついに忍耐力が限界値を超えて後ろに力なくばたりと倒れた。
「ちょッ!?フォルテ!?」
突然倒れた俺にセイナが駆け寄ってきて身体を揺するが、俺は当分起き上がることができそうになかった。
こうして、急遽チームを組むことになった「フォルテ・S・エルフィー」と「セイナ・A・アシュライズ」の二人はこの時まだ知らなかった。自分たちの出会いが世界に大きく影響を与えていくということを。
そんなこと知る由もない俺はセイナが揺するのを無視して、外の風に吹かれて揺れる木々の音や、シジュウカラといった野鳥の鳴き声に耳を傾けながら現実逃避するのだった。
リリー王女の天然攻撃に危うく殺されるところだった俺は、エリザベス3世が用意してくれた日本直行便のスイートクラスの部屋で椅子に座って寛いでいた。いわゆるVIPルームと言われるであろうこの部屋は、広さが6畳程で、部屋に備え付けてあった家具も全て高級ブランドの椅子やベッドにテレビや小型冷蔵庫などなど一人暮らし顔負けのものが揃っていた。
イギリス、ロンドンの街並みがだんだんと小さくなり見えなくなっていくなか、そんな景色を俺は名残惜しそうに窓の外から黙って眺めながら、一時的にチームを組んだセイナ・A・アシュライズのことを思い出していた。最初二人一組を組んで神器を探して欲しいと言われた時は正直焦った、こんな小さな少女のおもりをしろなんて面倒以外の何でもないと考えていた。だが、短い時間とはいえ作戦を共にこなしてその考え方は変わっていた。アイツは俺と違って真面目で、どこまでも物事を真っすぐに見れる良さを持っていた。仲間として俺の考え方や策を一生懸命読み取ろうと頑張り、妹や人質を救うのに誰よりも早く駆け付けようとし、自分の身を危険にさらしても臆しない強さを持っていた。
それは良さであると同時に弱点でもある。真っすぐすぎて周りが見えなくなり、自分が危険であっても気づかないのだ。俺が礼拝堂で撃たれそうになった時にセイナは自分が撃たれる可能性が有ることなど気にせずに俺のカバーをしてくれた。そう、セイナは目標達成のためならば自分の身のことなど考えていないのだ。エリザベス3世はおそらくそれに気づいていて弱点を補うパートナーとして俺を呼んだのだろう。セイナと違って真っすぐに物事が見れなくなった俺のことを……
(さて……)
俺は遠くなっていくヨーロッパの大地から目を離して、スマートフォンである人物に電話をかける。
テロ事件は無事に解決することができたが、未だに行方知れずの皇帝陛下、盗まれた神器、謎の組織「ヨルムンガンド」と問題は山済みである。
セイナとは二人一組を組まないにしても、部外者と言ってこの問題に関わらない、というわけにもいかないということくらい俺にもよく分かっていた。
なかなか決心をつけることができなかったが、真っすぐな心を持つセイナを見て、俺が今後何をすべきか考えをまとめることができた。
「Hello、私だ」
8回目のコール音と少し遅れたあと、スマートフォンから低い男の声が聞こえてくる。
「Hello大統領閣下、お久しぶりです。フォルテです」
電話をかけた相手であるアメリカの大統領閣下の「ガブリエル・ベアード」本人に俺は挨拶をする。
「一年ぶりか……君から直接電話をかけてくるなんて珍しいな……要件は例のイギリスでのテロ事件かな?」
ベアード大統領は低く落ちつた声のままこちらの要件を一発で当ててきた。
「ハイ、その件についてです。流石大統領閣下、よく分かりましたね」
流石はアメリカ大統領、人の心をよむその鋭い洞察力において、彼の右に出るものは恐らくいないだろう。
そう思いながら、尊敬の念を込めて俺がそう返すと、電話の向こうからはなぜかベアード大統領のため息が聞こえてきた。
「嫌でも分かるよ……あのニュースを見れば……」
「あのニュース……何の話ですか?」
何を言っているのかよく分からなかった俺がオウム返しのようにそう聞くと、ベアード大統領は若干呆れたように続けた。
「君は当事者なのにあのニュースを見ていないのか?」
「はぁ……すみません、ここ一週間ずっと寝込んでいて今朝方目覚めたばかりでしたので……」
俺が申し訳なさそうにそう返すと、ベアード大統領は「そうか……」と呟き、少し黙ってから軽く咳ばらいをして。
「イギリスのテロ事件を知った我々が色々と情報収集をしていた中、一つのニュースが流れてきた。なんでも謎の男女2人がイギリスキングスカレッジ礼拝堂人質立てこもり犯に対して強行突入を行い、無事に人質を奪還、そのあとすぐに姿をくらませた。イギリス政府や警察、軍関係者も二人の存在に関しては詳しく知らない様子で、存在は謎に包まれたまま。唯一分かっているのは、男は黒髪に紅い眼をしていて、女は碧眼の金髪ポニーテールだったということだけ……そしてその映像がこれだ」
ニュースの内容に関してベアード大統領は詳しく説明しながら、一つの映像を俺のスマートフォンに転送してきた。それを俺は恐る恐る指でタッチし再生すると、ものすごく見覚えのある黒髪紅目と金髪碧眼の二人が銃を撃つ映像が流れてきた。人質の誰かがスマートフォンを隠し持っていて撮影したのか、激しく手振れしたその映像にははっきりとは顔は映っていなかったものの、親しい人物が見たら、その風貌から誰なのかは一目瞭然なのだろう。
「あーこれは……思いっきり映っていますね……」
俺はバツが悪そうな表情でそうこぼした。
人の心をよむその鋭い洞察力において、大統領閣下の右に出るものは恐らくいないだろう。それに関しては否定しないが、どうやら今回それは関係なかったらしい。
「別にもう構わないが、全く君は本当に昔から目立つのが好きだね……だがニュースを見て少し驚いたよ、君はいま日本に住んでいるんじゃなかったのか?」
俺の性格をよく知っているベアード大統領はあきらめたように苦笑まじりにそう言ってきた。その声は、国民の前で演じている威厳のあるようなものではなく、一年越しでも変わらない、親しい友人に話すような口調だった。
「ええ、本当はそうなんですが……それも含めて色々ありまして、いま時間を少々頂きたいのですがよろしいですか?」
俺の言葉にベアード大統領は唸るような声を出しながら少し考えたあとに短く答えた。
「5分なら問題ない」
「なるほど……そんなことがあったのか……」
ここ最近自分の身に起きた出来事についての俺の説明に、ベアード大統領は相槌を打った。
話した内容を簡単にまとめるとこんな感じだった。
日本で生活していたが、イギリス旅行に行った最中に偶然近くでテロ事件が発生。女王陛下に連絡し派遣してもらった特殊部隊と一緒にこの事件を解決したと……
「はい、そのあとヨルムンガンドの一員と名乗る教唆犯と交戦しましたが、ヤツは俺の正体も知っていたようで手痛い反撃にあい、犯人を逃がした挙句、情けない話ですが一週間意識を失っていました」
本当は嘘をつきたくはないが、セイナや皇帝陛下に関しての話しを他国に漏らせば、国家間の問題に発展する可能性が有る。実際の話とは、かなり内容が変わってきてしまうが、こればかりは仕方ない。
「ヨルムンガンド……だと?」
ベアード大統領はヨルムンガンドに反応して俺に聞き返してきた。
「はい、何か知っているのですか?」
ベアード大統領の含みのある聞き方に俺は肯定しつつ質問を返す。だが、ベアード大統領は少し黙って何か考えるように唸ってから
「いや、そんな組織は聞いたことないな」
と素っ気なく返される。俺はそんなベアード大統領の言葉を一瞬不審に思ったが、立て続けに話をしてきたベアード大統領の言葉にその思いはすぐにかき消される。
「しかし……君が負けるなんて相手は相当な手練れだったのか?それとも腕が鈍っていたのか?」
「どちらもです。本当に情けない話ですが……」
俺はあの黒ドレスの女のことを思い出して右手で持ったスマートフォンに力が入る。子供ごと俺を殺そうとした卑劣な奴と言ってしまうのは簡単だが、戦闘ではそんなこと言っていられない。どんな卑怯な手段を使っても結局は殺したほうが勝者だ。負けて殺されてしまえばそいつは抗議することさえ許されない。だから別に卑怯な手を使われたことに関しては一切怒っていない。頭にきているのは卑怯な手を使った相手に負けた自分の実力に一番怒りを感じていた。卑劣な手段程度で負けた自分に……
そんな俺の気持ちを電話越しにベアード大統領は察したのか
「君は一年ものあいだ現場を離れていたのだ、仕方ないさ」
と俺に言ってきた。そしてそのまま続けて。
「で、君はなにか私に言いたいことがあってわざわざ電話してきたのだろう?」
多分もう俺が何を頼もうとしているのか恐らく気づいているのだろう。だが、あくまでそれを俺の口から聞きたいらしくベアード大統領はそう言ってきた。
俺は少し黙ってから意を決して自分の考えをを口にした。
「俺はヨルムンガンドの一員と言っていたあの教唆犯を捕まえて、組織を壊滅させようと考えています」
本当はテロ事件を解決したら今回の件にはもう関わらないつもりだった。だが、真っすぐに行動するセイナを見て、二人一組を組まないにしても、俺個人として何かできないかと色々考えていた。そこで、神器や皇帝陛下を探せなくても、それにつながる手掛かりとしてあの黒ドレスの女とその組織であるヨルムンガンドを捕まえ、壊滅させるという考えに至ったのだ。それに、ヤツにやられたままでは俺の性に合わない。
俺の考えを聞いたベアード大統領は少しだけ押し黙ってから低く落ち着いた声で
「私がつけていた君の枷はもう外したはずだよ。これから君が何をしようと我々に制限する権利は持ち合わせていない。やりたいことをやればいいさ」
「あぁ……ありがとうベアード大統領。じゃあまた」
「ああ、待て待て、一つ言い忘れていた」
そう言って電話を切ろうとした俺にベアード大統領が呼びかけてきたので再びスマートフォンを耳に戻す。
「もしアメリカに来ることがあるのなら、連絡さえ寄越せば私の知り合いを迎えに送るよ。その方が国際指名手配中の君でも安全に入国できるはずだ」
「いえ、仮にも私はFBI長官暗殺未遂の容疑がかかった身、大統領との現在の関係が明るみに出れば失脚の可能性もあります。そこまで迷惑をかけるわけにはいきません」
「それは気にしなくていい。そんな濡れ衣を着せてしまったこちらにも非があるのだからな。それに、迎えを頼む知り合いに関しても、本当に信頼できる人物だから心配しなくて大丈夫だ」
「そうですか……では機会があればよろしくお願いします」
「ああ、それでは」
電話が切れたことを確認して俺はスマートフォンをゆっくりポケットにしまい、座席に体重を預けて天井に向けて大きくため息をついた。
「SEVEN TRIGGER」通称S.T
世間はおろか、各国の特殊部隊の間でしか語り継がれていない元米軍最強の特殊部隊。もちろんその部隊を指揮する隊長や隊員は世間に知られてはいない。だが、隊長を務めていた男は、世間ではこう言われていた。
一年前、FBI本部を襲撃、FBI長官の暗殺に失敗してFBI本部の建物を吹き飛ばした凶悪犯。「フォルテ」と
イギリスのヒースロー空港から約12時間のフライトを経て、俺の乗った飛行機は東京の羽田空港に無事着陸した。飛行機から降りた俺はそのまま京浜空港線の電車に乗って品川駅に向かい、さらにそこで新幹線に乗り換え、午後2時頃には自宅のある港町まで帰ってきていた。エリザベス3世に手渡されたチケットや交通費はほぼ使い切ってしまったが、手元には千円弱のお金が残っていた。おそらく駅から自宅までのタクシー代を考慮してのものなのだろうが、ずっと座席に座わったままだった身体をほぐす為に俺はタクシーを使わずに歩いて自宅に帰ることにした。
町はいつもと変わらない様子だったが、色々あったせいか、たかだか数日離れていただけなのに、その風景に俺はどこか懐かしさのようなものを感じていた。
駅から市場を通って丘にある自宅に向かって歩いていると、数日ぶりだというのに街の人達はいつものように声を掛けてくれて俺は疲れた様子を見せずに愛想よく返事を返していく。
そうしていくうちにバーバラの経営するタバコ屋の前を通りかかった時に「どうだった?」とバーバラから一言だけ聞かれ、俺は「また死にかけた」と一言だけ返し、とぼとぼと市場をあとにする。
市場を抜けて街の外れから山道を登っていく。木々のトンネルのおかげで日差しは遮られていたが、それでも俺は額に汗を掻いていた。四月の日本はわりと涼しいはずなのだが、イギリスの寒さを体験した後では暑いとすら感じた。俺は額の汗を拭いながら坂を上り切って丘にたどり着いた。
数日ぶりの自宅を前にして俺は僅かに笑みを浮かべた。
今となっては自分の中で唯一帰るべき場所と言えるのはここだけになってしまった。
俺は自宅の扉の前まで歩いていく。途中で吹いた春風が、丘に咲いたタンポポの種と一緒に俺の服を靡かせる。扉の前にたどり着いた俺は、今後の活動について考えようとしたが直ぐに止めた。今日ぐらい長旅で疲れた自分の身体を、世界で唯一心を許しているこのオアシスでゆっくり休めてもいいじゃないか。そう思ったのだ。
「あら、遅かったじゃない?」
家の扉を開けて中に入ろうとした俺の前に、何故か黄金色の金髪ロングのポニーテールを携えたブルーサファイアの碧眼を持つ俺より一回りも二回りも小柄な少女が、左手を腰に当て、片足に体重を乗せた状態で立っていた。
「……」
俺は黙って扉を閉めて丘の方に振り返ってに2~3回深呼吸をして心を落ち着かせる。深呼吸している間にも、家の中から何か声が聞こえているが、多分疲れからの幻聴だろう。幻聴であってくれ。
俺がもう一度ゆっくり扉を開くと、やはりそこには白のブラウスに黒色のスカートとニーソックスを履いた私服姿の金髪碧眼の少女が立っていた。その少女は俺の行動に対して────
「あんた……何してるの?」
と冷ややかな視線を向けながらそう言ってきたのである。
「何でお前がここにいるんだよセイナ!?お前、確か特殊任務に就いたはずじゃあ……」
「何言ってるのあんた?だからこうしてここにいるんじゃない?女王陛下からちゃんと話し聞いてないの?」
特殊任務中???どういうことだ?俺は突然の異常事態に頭がショートして回らなくなり、ポカーンとしていると「あっそういえば忘れてた」と言いながらセイナがスカートのポケットから手紙を取り出し、俺に差し出してきた。
「これは……?」
「女王陛下からアンタがここに帰ってきたら渡せって言ってたものよ」
俺は恐る恐るセイナから手紙を受け取り、何も書かれていない封筒の表と裏を確認して、生唾を飲み込みながら意を決して開けてみると、中から手紙のような紙がいくつか入っていて、そのうちの「フォルテへ」と書かれた手紙を俺は一つ取り出して開けてみた。するとそこにはエリザベス3世からのメッセージが書かれていた。
『親愛なるフォルテへ、この手紙を読んでいるということは、無事に娘と合流できたということで話をしていきます。突然のことで驚いているとは思いますが、娘には特別任務として日本であなたとチームを組んで皇帝陛下及び神器捜索にあたるよう命令しました。』
その一文を読んで俺は数秒間思考が停止し膠着した。何度読み返したところで手紙の内容が変わることはなかった。そして
「はぁああああ!?」
ついに耐え切れなくなった俺は大きな声上げた。セイナはそんな俺のことを訝しむように冷たい目線で見ていたが俺はそんなこと気にせずに手紙の続きを読んでいく。
『本当はロンドンを拠点としてあなた達にチームを組ませたかったのですが、私もいい加減子離れをしなければならないと断腸の思いで決断しました。日本の生活は不自由ないと思いますが娘のサポートのほど、よろしくお願いします。』
手紙を読んでいき俺はイギリスを発つ前にエリザベス3世との会話を思い出した。
「今回の作戦での活躍を評価して、私の方から直々に特別任務を割り振ってあげたわ。ホントはフォルテにここで、あの娘のことを面倒見て欲しかったのだけど……あの娘は一人でも大丈夫だということが今回の事件でよく分かったし、私も子離れが必要みたいだしね……折角イギリスまであなたを連れてきたのに、無駄足になってしまいましたね」
まさかアイツ、娘が自分のいるイギリスから離れて暮らすのが嫌でそんなこと言っていたのか……一人でも大丈夫って単独行動のことじゃなくて、要は私が近くに居なくても娘は生活していけるという意味だったってことかよッ!どんだけ過保護なんだよッ!
俺は心の中でツッコミをを入れながら、文句を言ってやろうとスマートフォンを取り出して電話をかけようとする。エリザベス3世の電話番号を電話帳から探している間にさらに手紙を読み進めていくと。
『とは言っても、あなたは簡単に納得してくれないでしょうから一つ良いことを教えてあげましょう。』
その文章を読んでスマートフォンを操作していた俺の指が止まる。
なんだろう、無性に嫌な予感しかしない、そう思いながらもさらに読み進めていくと。
『テロ事件によるケンブリッジ大学の損害に対しての弁償金の話なのだけど、あなたの口座のお金を全て当てても弁償金は足りませんでした。残りの借金の額は封筒の中に入っています。』
「なにぃ!?」
俺は思わぬところからボディーブローを食らったような気分になり、思わず変な声で手紙の文章に聞き返してしまう。特殊部隊に所属していた時に貯めていたお金は軽く億単位であったはずなので、恐らく足りるだろうと思っていたのだが……するとパサッと音を立てながら一枚の紙が落ちたので、拾い上げて中身を確認するとそこには
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億……う、嘘だ……なんなんだこの額は!?」
借用書には「8.200.000.00」と八桁の数字がきっちり書かれていた。下の方には端数抜きで12億―4億で8億と書いてあった。恐らく12億が弁償金で-4億は俺の貯金だろう。だがよく見ると単位は円ではなく€だったのだ。つまり日本円に換算すると────
(約10億円)
俺は一日にして借金王になったことに唖然として開いた口が閉じなくなってしまう。
人間、相当なショックを受けると声がでなくなるというのは本当のことなんだなぁ~と呆然とした俺のことをなぜか客観的に見ていた俺がそう思った。
て、いやいや、感心している場合じゃないッ
俺は顔を無理矢理振り、口から抜け出た魂をギリギリのところで現世につなぎとめて、自分の中に戻した。そして、エリザベス3世の手紙の続きを再び読み進めると。
『流石に私もあなたと違って鬼ではないので、人質と娘を救ってくれたお礼に、返済が滞っても金利が掛からないよう借金は全額こちらで立て替えておきました。ただし、交換条件として、借金返済または皇帝陛下及び神器の回収が済むまで、娘とチームを組んで面倒を見てはくれませんか?それでも嫌なら娘をこちらに返しても構いませんが、その時は借金+金利(といち)で支払っていただきます。あーあと娘は借金に関しては全く知らないので、あとで気づかれて妙な心配をかけさせないように。では、God blessyou』
「……」
この日、神は死んだ。そう思った。
こんな条件出されては呑まざる得ない。というか断るという選択肢がない。
交換条件どころかほぼ脅迫に近い文章に俺はついに忍耐力が限界値を超えて後ろに力なくばたりと倒れた。
「ちょッ!?フォルテ!?」
突然倒れた俺にセイナが駆け寄ってきて身体を揺するが、俺は当分起き上がることができそうになかった。
こうして、急遽チームを組むことになった「フォルテ・S・エルフィー」と「セイナ・A・アシュライズ」の二人はこの時まだ知らなかった。自分たちの出会いが世界に大きく影響を与えていくということを。
そんなこと知る由もない俺はセイナが揺するのを無視して、外の風に吹かれて揺れる木々の音や、シジュウカラといった野鳥の鳴き声に耳を傾けながら現実逃避するのだった。
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