SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》6

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 空を飛ぶこと数分、中国山地にできた半円状のクレーター、さっきロナがハッキングしたグリーズのレーザーで薙ぎ払った痕の上で、アイリスが迷彩柄のパラシュートを切り離した。
 衛星写真でも見た大きな樹木……クスノキか?が倒れる横で、俺はアイリスの脚を掴んでいた手をほどき、先に着地した。

「……」

 すると後から着地したアイリスは、無言のままクレーター横に生い茂る草木を掻き分け、どんどん先に行ってしまう。
 省エネ状態で眼を開けながら眠っている状態の彼女にとって、俺のことや不法入国したことなどはどうでもいいらしい。先日、自分で「国境に気を付けろ」とか俺に言ってたくせに……
 見失わないよう急いで後を追いかけつつ、甘栗色の垂れさがるロング三つ編みに向かって唇を曲げ、渋い顔付きを俺は向けた。不満を露わにしても意味がないことは理解しているが、話しができない以上そうする他なかった。
 そんな俺の前でアイリスは突然立ち止まった。
 何かに気づいたらしく、その視線は地面の方へと向けられていた。

「……?どうした?」

 ぶつかりそうになりつつも何とか立ち止まった俺が、高さがセイナ達とさして変わりないアイリスの低身長、その上から地面を覗き込んだ……なんの変哲もない密林で怪しく光るそれに気づいて、俺の眼光は鋭さを増す。

「血痕か、てことは……この近くに奴がいるのか?」

 俺の問いかけに、アイリスは無言のまま血の道しるべを追っていく。
 まるで彼女の自身の感情ではなく、刷り込まれた復讐心、その本能がそうさせるかのように小さな身体は歩みを止めない。
 ぼたぼたと垂れる血痕を追っていくと、途中で俺はあるものに気づいた。
 迷彩柄のデカくて長い鉄の塊、あれは確か……

「……奴が使っていた銃だ……」

 突然、目の前にいたアイリスがそう告げた。

「お前……起きたのか?」

 全然気づかなかった……いつの間に────
 死んだ魚のような据わった眼には変わりないが、アイリスの瞳にはハイライトが僅かに戻っていた。

「……PGM Hécate IIへカートツー、フランス製の対物アンチマテリアルライフルだ……」

 PGM Hécate IIへカートツーはアイリスの7.62mmの銃弾に対し、12.7mm弾を使用する超大型ライフル。以前アメリカでヘリを撃ち落としたトリガー5ことレクス・アンジェロ、アイツが愛用しているバレッタM82A1と同じ系統のライフルだ。どうりであれだけ威力の高いアイリスの銃弾をいなし続けられていた訳か……
 だが、落ちていたHécate IIへカートツーからはそれをさらに上回る、アイリスが最後に放った銃弾……その威力の高さが物語られていた。
 というのも、Hécate IIへカートツーに搭載されていた銃の反動を抑える弁当箱のように大きなマズルブレーキ、それが先端についた銃身がまるでラッパやチューバといった管楽器を連想させるほど、えげつない曲線を描いていた。こういうのを見るとつくづく魔術というものが恐ろしくなるぜ……
 生唾を飲み込む俺の前を、仮眠から目覚めたアイリスが再び歩き始めた。
 少女が突き進む後を俺が追う────血痕へと足を踏み入れていくたびに、ベトナムの高温多湿なはずの空気がドンドン重く、冷たくなっていくのを感じた。
 まるでこれ以上、俺達が進むことをこの密林が拒んでいるかのように……
 数分も歩かないうちに密林の中で少しだけ開けた場所に俺達は出た。草木に覆われた小さな広場のような場所、その中央に生えた一本の木の根元には、一人の人物が幹に身体を預けた状態で座り込んでいた。血痕はその人物へと続いている。
 ギリースーツに全身を隠し、弾き飛ばされた片腕を懐に抱いたそいつは、息こそ荒いが大した出血量では無かった……俺も過去に腕を斬り落とされたことがあるので、どれほどの血が流れるか知っているが、あの出血量の少なさは一体どういうことだ?

「……」

 不審に思う俺を置いて、スタスタと歩いていったアイリス。
 父を殺された恨み節も、復讐を果たしたことへの罵詈雑言や歓喜すら上げず、一歩一歩とその人物へと近づき────

 ────バサッ!

 被っていたギリースーツのフードを乱暴に剥がした。
 湿り気の混じった微風が俺達を軽くなでた────
 魔術弾マジックブレット使いの顔は、アイリスが間にいるせいで俺は確認することができない。
 一体どんな奴なのか……?アイリスの横に向かおうとしたその時だった。

「……ぁぁ……あぁ……!」

 魔力の切れかけていたアイリスが、全身を震わせながら声にならない嗚咽おえつを漏らし、ゆっくりと数歩後退した。
 そこまで感情を露わにすることのなかった少女が、まるで別人のように動揺していた。

「どうした!?アイリス!!」

 俺は思わず駆け出していた。
 何か魔術弾マジックブレット使いからの攻撃を受けたのではないかと、震えの止まらないアイリスを支えつつ、身を庇うように間に割って入る。
 ────外傷は……無い、それどころか、魔術や特殊な攻撃を受けた形跡も見受けられない……?
 精神的な攻撃を受けたのかとも思ったそうではない無さそうだった。
 流れ落ちる砂時計のような琥珀色アンバーの瞳は、瞬きすら忘れてしまったかのように見開かれていた。さっきの死んだ魚のような眼が嘘であるかのように……そしてその瞳は真っすぐ、魔術弾マジックブレット使いを見ていた。
 俺はそこでようやく魔術弾マジックブレット使い、その隠された素顔を見たところで電流のような物が全身を駆け巡った。
 ────なんなんだ、コイツは……!?
 視界に映ったのは、茶髪の短髪を短く刈り上げた三十代行くか行かないかくらい印象の、東洋系のだった。
 額には銃のダメージか、玉のような汗を浮かべていたその男性自体は別にそこまで不思議は無かった。ただ俺が気になったのは────
 ────俺は……コイツを知っている……!?
 どこか親近感を覚える既視感のような感情だった。
 こんな奴、俺の知り合いにはいないはず……だが何故だろう、俺はこの男の素顔を見たことがある。が、同時にそんな有り得ないと脳が告げていた。

「げほッ……!!げほッ……!!」

 俺の身体を杖のようにしていたアイリスが、過呼吸に陥ってその場に倒れそうになってしまう。

「おいアイリス……!しっかりしろ……!」

 身体をさすってやりながら介抱する。
 ここまで動揺するということは……知っているんだ、この男の正体を……

「げほッ……!!どうして……?どうしてアナタがお前なんだ……!?」

 両手両膝をつき、マフラーの下からそう漏らしたアイリスの瞳からは────ボロッ!ボロッ!
 大粒の涙がぼたぼたと零れ落ちた。

「お前は……アナタははずだろ……!!なのにどうして……!?」

 あのアイリスからとは思えない、魂の叫び……それはまるで魔術弾マジックブレット使いにではなく、こうなってしまった運命に向けて訴えかけているような悲痛な叫喚きょうかんだった。

「どうして生きているんだ!?父さん……!!」
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