SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
204 / 361
月下の鬼人(ワールドエネミー)下

maintenance(クロッシング・アンビション)7

しおりを挟む
 気が付くと、俺は自室のベッドに横たわっていた。
 壁の時計は五時を指し、外の夕焼けが雲の切れ間から覗いていた。
 どうやら仮眠を取るつもりが、爆睡していたようだ。

「書類……やらねーと……」

 譫言のように零して、視界の霞んだ眠り眼を擦ろうと────

「……ッ!!」

 一瞬頭が真っ白になる。
 なんだッ……これ……!?
 全身に激痛が走ったかと思えば、身体を起こすことができない。

「目覚めて第一声がそれか……まだ万全じゃねえんだから安静にしておけよ」

 そう声をかけてきたのはレクスだった。
 首だけ向けると彼は何故かベッドの横に椅子を付け、小難しい顔で本を読んでいる最中だった。
 万全?安静?
 言っている意味が分からない俺が、何とか聞き返そうとするも。

「あー喋らなくていいから、きついんだろ?俺がみんなを呼んでくるから、隊長はそこで待っててくれ」

 本を閉じつつそう告げて、レクスは部屋から出ていく。
 椅子に置いて行かれた本へと眼をやると、

『女にモテる百選の方法』

 もうちょっとマシな本を読めないのか……?
 熟読しているなと何を読んでいるかと思えば、もう少しマシな本を読めないのかアイツは……
 呆れ気味に戻した首が悲痛な叫びを上げる。

(イテテ……それにしても……)

 これはどういうことだ?
 静寂に包まれていた部屋で、俺は眠りにつく前の状況を思い出す。
 ……俺は確か……核弾頭を回収する作戦で指揮を執っていて、それで確か、ロナとアキラがピンチに……
 ────思い出した。
 全身激痛で気づくのが遅れたが、右眼だけが他に増してやけにヅキヅキと悲痛を訴えていた。
 俺は、ずっと隠していた「眼」の力を使ったんだ。
 それで加減をミスった俺は────

「フォルテ……!」

 誰かが部屋に飛び込んでくる。
 差し込む西日に肩を上下させていたのは、ロナだった。
 彼女はその銀髪を振り乱し、飛び込んできた勢いそのままに俺の傍らへ縋りつきいてきた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私が独断で行動しなければ……ごめんなさい」

 涙声で鼻を啜り、顔をシーツに埋もれさせながら、くぐもった謝罪の言葉を繰り返すロナ。
 良かった……怪我や後遺症は見当たらなかった。
 ブラウスにショートパンツといったラフな格好。いつも見ている姿そのままだった。
 普段とは違う点を挙げるとするなら、いつも綺麗な銀髪には若干の枝毛が混じり、表情も疲労でやつれていたくらいだ。

「作戦はどうなったんだ?」

 起き上がれない俺は、首だけロナの方に向けてそう聞いた。

「……核弾頭は……グスッ……無事に回収した……グスッ……フォルテが私達を助けてくれた後、シャドーがフォローしてくれたの……グスッ……テロリストもレキに……ひぎわだした……」

「そうか……」

 安堵のため息をつく。
 作戦失敗となれば、ベアードに何をされるか分かったものではない。
 それに……シャドーに関しても、裏切り者ではないという俺の見立ては、どうやら間違いなかったようだ。

「でも……でも……ッ!フォルテがぁ……!」

 思い出したかのように、涙を溢れさせてわんわん泣くロナ。

 コツンッ

「イタッ……!」

 俺はその銀髪に、軽い拳骨を食らわせてやる。
 大して痛くもないはずなのに、それに驚いたロナが、目尻に涙をたらふく貯めた瞳で上目遣いに見上げてくる。

「俺がお前を隊に入れた時、何て言ったか覚えているか?」

「え……?あ……」

 はっ……と何かを思い出すロナ。

「そう、『何度も謝るな……』だ。あれはお前が正しいと思ってやった行動なんだろ?それで作戦は成功した。なら別にいいじゃねーか」

「で、でも、本当に危なかったんだよ!?心停止だってしたんだよ……?私のせいで……」

「だーかーら、別に誰も死んでないだろ?傷だってほっとけば治る」

 俺は優しくロナの頭を撫でてやる。
 艶やかな銀髪の感触は、猫でも撫でているみたいだ。

「いいか、お前は他人のことばっか気にし過ぎなんだ。プライベートにしろ、戦闘にしろ、周りの顔色ばっか見て……」

「でも、そうでもしないと私……足手まといで……戦闘ではロアにならないと足ばっかり引っ張って、みんなに迷惑ばかりかけてるから────」

「バカ……それだけがお前の全てじゃないだろ?」

「えっ?」

 右手の中で再びロナが顔を上げた。

「ロアの戦闘力は確かに凄い。だけど、アイツにあってお前にあるものは、幾らでもあるじゃないか」

「……!」

 その言葉に、本当に驚いたような表情を見せるロナ。

「アイツはアイツ、お前はお前だ。責任とか周りの意見とか気にせず、お前はもっとこう……自分の感情に素直になっていいんじゃねーか?それは、この世に生まれたお前自身の特権だ。誰にも阻害できるもんじゃねーよ、それでも気になるなら、俺が隊長として幾らでも責任は取ってやる」

 涙の痕を、黄昏時の夕日が映し出す。
 もうそのあとを追随する涙はなかった。

「だからもう泣くな。お前にそれは似合わん。可愛い顔には笑顔が一番だ」

 眼を細めて歯を見せた俺に、ロナは何故かプルプルと身体を震わせてから……

「……フォルテ……フォルテェェェェ!!」

 猫のような跳躍で、宙に飛び上がった。

「うおッ!?」

 覆い被さるように、寝そべる俺へと抱きついてくる。
 発展途上とはいえ、久しく触れていなかった女性の柔らかな感触が全身を包み込み、俺はその感触を確かめて────

「イデデデデッ!!!?」

 ────いる余裕は皆無だった。
 本調子じゃない身体が激痛で悲鳴を上げる。
 確かに素直になれとは言ったが、欲望に忠実にとは一言も言ってないぞ!?

「────あーお邪魔だったか?」

「「……!?」」

 俺とロナが同時にベッドで飛び跳ねる。
 声のした先で、アキラが苦笑いを浮かべながら立っていた。

「い、いつからそこに……!?」

 よっぽど恥ずかしかったのだろう……戦闘時でも見たことないほど、両手をシャカシャカと振り回しながら、雪のように白い肌をピンク色に紅潮させたロナ。
 その様子から目を背け、気まずそうに頬をポリポリ掻きながらアキラは口を開いた。

「お前が隊長に抱きついて、全身を擦りつけてたところからだ……」

 綺麗だったハニーイエローの瞳に濁りが混じっていく。

「終わった……」

 ダークイエローに堕ちた瞳。
 それから、人形のような抑揚のない笑いをロナは漏らし始めた。
 怖い怖い!
 良からぬ精神病みたいもん発症してんぞ!

「アハ、アハハハ……いや……まだ私の本性を見たのはアキラだけだから……一人始末すればまだ……今のうちにアノニマスに連絡して、死体一つを隠す準備を……」

「お、おーい?ロナさん……?」

 声をかけるも、自分の世界に入り込んでしまっているロナは、ぶつぶつと何かをつぶやくばかり……
 ま、まずい……俺が余計なことを言ったばかりに。
 早く何とかしないと……

「あー二人とも、ちょっと残念なお知らせがあるんだ……」

 そう告げたアキラの後ろ、えらく見慣れたピンクの頭がひょこんと現れた。

「……っ」

 リズが居た。
 アキラに隠れて気づかなかったが、ピンク髪を逆立てメラメラと陽炎のようなものを燃やす彼女の瞳には、「激怒」と書いてある……気がした。

「全く隊長は手が早いなぁ!おい!羨ましいかよコノヤロー!」

「思ったよりも元気そうで良かったにゃ」

「……」

 それに続く形で、他の隊員達も続々と姿を見せると同時に、段々とロナの表情も真っ青へと切り替わっていく。
 結局全員(珍しくシャドーもいる)が集合したところでアキラが肩を竦める。

「実は……俺一人じゃなくて全員でし────ぐあッ!?」

 喋っている最中、リズが右手でアキラを薙ぎ払い、ズカッ!!ズカッ!!と足音を立てながら近づいてくる。
 リズ……何故君は拳を握りこんでいるんだい?

「……人が柄にもなく心配してたってのに……やっぱり男って奴はッ……!」

 肩で風を切る姿はいつもの淑女(?)らしさゼロ。掲げた拳には炎のようなものが宿っているように見えた。
 顔に書いてあるから知っていたが、酷くお怒りのご様子……なんで?

「私のロナッ!!じゃなくて、傷心した乙女心に付け込んで、そんなうらやま……けしからん行為をするなんてッ……!度し難いにも程があるわよ!!この変態隊長ッ!!」

 何度も噛みながら叫ぶリズ。どうやら、呂律が回らないほどに怒りの業火を燃やしているらしい。
 しかも、どうやら彼女の眼には、俺が無理矢理ロナをベッドに引き入れたと思っているらしい。

「いやいやちょっと待て!!これは俺からじゃなくロナからやったことであって!決して俺はそんなこと……」

「そうだよリズ!!これは私からやったことだから……フォルテが「我慢しなくていい、責任は俺が取ってやる」って言ってくれたから、それで……つい……」

 ロナがさっきの行為を思い出したのか、恥ずかしそうに視線を逸らす。

「ロ、ロナさん!?」

 確かにそんな感じのことは言ったけど、それだとだいぶ意味合いが変わってくんだろ!?
 お前さっき一体何を聞いていたんだ!?
「まじかよ最低だな」「おいおい、隊長も隅に置けねえなあコノコノ!」「ドン引きにゃ」『ブーブー』と、薄ら笑いで(弱一名ブーイング)述べる各々がさらに油へと火を注ぐ。
 お前ら不可抗力だと絶対分かってやってるだろ!?

「フォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥテェェェェェェッ!!!!」

「ひぃぃぃぃ!?」

 腹底が震える怨霊のような声に、後ずさりしたくともできない!ベッドだから!

「リ、リズってば話しを……きゃっ!?」

 さらに追い打ちをかけるかのように、後ずさりしたロナが皆に見せつけるように俺へと覆いかぶさる。
 お前もうわざとやってるだろ!?

「アンタはッ……!骨どころか遺言すら残させないッ……!」

 せっかく生きていたというのに、一難去ってまた一難。
 ボロボロの身体に、手加減抜きの一撃を耐える余裕は無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

処理中です...