SEVEN TRIGGER

匿名BB

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月下の鬼人(ワールドエネミー)下

at gunpoint (セブントリガー)6

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 器官が焼けるような爆風が、抱き合った俺達を無造作に床に押し付けた。

「……ッ……!」

 右手に刺すような激痛と、背中と首にはバットで殴られたような鈍痛。夜闇に慣れてしまっていた眼にはあまりにも眩しい閃光で、意識が朦朧とする。
 地上で喘ぐ魚のように、荒い呼吸を何度もさせながら酸素を取り入れていくうち、意識と痛みがはっきりとしてきた。
 どうやらRPGロケットランチャーを撃ち込まれたらしく、俺達は部屋の隅まで吹き飛ばされ、壁に背を衝突させたらしい。
 窓があった場所には全てを灰燼かいじんす焔が蔓延はびこり、ソファーを、机を、棚を、皆との思い出の詰まった諸々を黒く、黒く染めていく。
 あと少しでも回避が遅れていたら、俺も今頃バラバラに────

(そうだベルは……ッ!)

 恨み節なんかよりも先に、庇ってくれた仲間の安否の方に意識向く。

「ベル!?」

 俺の胸の中、力なくうずくまる少女の姿が目に入る。
 故郷の雪のように白い、名前の由来でもある白髪は煤汚すすよごれ、額からはツーと鮮血が一筋流れる。
 口元に手を寄せると息は────している。
 どうやら気絶しているだけのようだ。
 幸い爆風による熱は羽織っていたICコートが防いだようだが、あれだけ凄烈な衝撃波に充てられて、タダで済むほど彼女も頑強ではない。

「……ゥッ……!」

 鋭い痛みが再び右手に走って呻吟しんぎんを漏らす。
 見れば、爆炎で砕け散った掃き出し窓の一部が右手の平に突き刺さっていた。
 どうやら健を切ったらしく、指先には力が入らない。
 しばらく使い物にならない、が、それでもベルの背に突き刺さらなくて良かった。

「ふー……っ!」

 鋭角に尖ったガラス片を口で引き抜き吐き捨てる。
 苦い表情に合わせて鮮血がほとばしり、彼女の白絹のような白髪を濡らすことに内心で詫びを入れていると、外の斜め上、月明かりにしては眩し過ぎる照射が掃き出し窓があった場所から俺達へと充てがわれる。

『聞こえるかセブントリガー!!』

 大気を切りつけるプロペラの羽音。
 それに負けず劣らずのスピーカー音で、誰ともしれない男の声がそう告げた。
 スポットライトの照射の先、姿を見せたのは夜闇に溶け込む漆黒の怪鳥。
 戦闘EC665ヘリティーガーだ。

『君達は完全に包囲されている!!』

 現実リアルでも作り物フィクションでも嫌と言うほど聞いたお決まりのセリフ。
 間違いない……FBI奴らだ……!

『君達には国家反逆罪が掛けられている!!抵抗するなら長官殿から射殺も許可されている!!大人しく投降しろ!!』

 軍靴の如き突入部隊と思われるブーツの音。
 どうやら本当に包囲されているらしい。
 迂闊だった。まさかここまで早く手を打ってくるとは……!
 右腕の内にぐったりとしたベルを庇うように抱きかかえ、逆らうことを許さない赫々かっかくたるサーチライトへと右眼を向ける。
 部隊を代表して、反抗の意を示すように。

『返事が無い場合は抵抗したと見做すぞッ!!』

 再びの警告。
 だが、今の俺にそんな言葉は耳に入らない。
 入るはずがない。
 仲間を……意味もなく傷つけたお前たちなど……ッ!
 瞼の内で何かが渦を巻き、照射で青白く輝いていた林の夜景が真っ赤に染まろうとしていた。
 抑えきれない感情を表すかのように半ば前のめりで出た一歩が、フローリングに亀裂を走らせた。

『────し、始末しろッ!』

 俺の姿がどんなふうに見えたのか。
 狼狽えた声で叫ぶと同時に度とから何かが投げ込まれた。
 手榴弾マークⅡ
 照らされる楕円形の投擲物が宙を舞う姿に、左手が無意識下で銃を突き出していた。
 訓練され身体に染みついていた動きを左腕が忠実に再現し、放たれた数発の銃弾は、宙を舞っていた手榴弾マークⅡを押し返す。
 衝撃で爆発しないように銃弾の当たり具合まで計算し、投擲者の手前で起爆するように返された手榴弾マークⅡが、幾つもの火薬と金属片、人の悲鳴を併せて引き出す。
 爆風で舞うICコート。
 だが、その程度で止まる俺ではない。
 風圧に逆らってさらに一歩、もう一歩と、どんどん前に……
 ただ愚直に殲滅すべき敵へと歩み寄る中────背後から何かの気配に気づいて銃を突き出さんと半身を翻した。
 廊下の暗闇から、二つの手が俺の左腕に巻き付いた。

「……ッ」

 無理矢理力任せに振り払おうとするも、その勢いを逆手に取られて後ろ手に拘束される。
 このッ……!
 右眼を介して更に力を入れようとしたところで────

 ゴチンッ!

 後頭部をふざけた威力しか誇らない拳が軽く振るわれ、俺はそこでようやく自分を拘束していた人物が誰であるかを認識した。

「シャドー!?」

 闇夜に溶け込む漆黒の装甲に身を包んだシャドーの姿がそこにはあった。
 気づいて俺は力を緩める。
 それだけで嘘のように拘束が解けた。

『短気は損気』

 短く手話でシャドーは俺へそう告げる。
 右眼に供給されていた力の根源を断ち切るかのように。

「……悪い」

 どうやら俺は、怒りで我を忘れていたらしい。
 あのままシャドーが止めてくれなければ、俺はベルを抱えていたことすら忘れて外の連中と刺し違えていたかもしれない。

「皆を集めて脱出しよう、奇襲を受けたこの状況下で下手に迎え撃つのは愚策だ」

 今の俺には自分の失敗を悔やむ時間すらない。
 自らの愚行を認めるようそう告げた俺へと、シャドーが頷く。
 今だ目覚めないベルを片腕に抱え、せるような熱気に包まれたリビングを飛び出す。
 正面は無理だとしても、まだ裏口なら……
 言葉を交わさずともシャドーと俺の意志は合点し、迷うことなく裏口に向かって走り出した瞬間、突き当りの通路を爆炎が通り過ぎ、

「クソッ!」

 それに押し出されるような形で、HK417マークスマンライフルを装備したレクスが姿を現した。
 スナイパーという役割から部隊内でも損傷率がダントツで低く、比較的冷静な彼が、装着していた黒装束やICコートを傷だらけにし悪態をく様は、それだけ今自分達が追い込まれていることを表しているようだった。

「隊長ッ!こっちはもう無理だ。裏口は完全に包囲されている!」

「なら、二階から別の場所に────」

「みぎゃッ!」

 すぐ真隣にあった階段を駆け上がろうとしたところ、上から何かが降ってきて。
 痛ましい悲鳴を上げて。

「ロナッ!?」

 二階から叩きつけられた衝撃に苦悶の表情を浮かべる銀髪の少女へと、ベルを担いだまま駆け寄った俺のすぐ真上で、

 ガチャリッ……

 聞き慣れた嫌な音へと反射的に振り向く。
 二階の位置から彼女を突き飛ばしたのであろう敵が、焔で黒光りするアサルトライフルをこちらへと構えていた。

「ちぃっ!」

 舌打ち交じりに銃を向けるが────すでに構えた敵よりも早く構えることは不可能。
 撃たれるッ……!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 突出した腕の先で銃弾の雨は降ることなく、代わりに気迫に満ちた少女の叫びが響き渡る。
 刹那、猛進するピンクの閃光が敵の身体をくの字に折り曲げる。

「早く引いて!二階はもうこれ以上耐えられない!」

 手にしていたステアーAUGをセミオートで威嚇射撃しつつ、器用にバックステップで階段を数段飛ばしで降りてきたリズが合流するも。
 裏口、二階、正面玄関、包囲された俺達がこの家から脱出するための退路は全て抑えられてしまっている。
 更には火を付けられた家内は業火と有毒なガスを蔓延させ、半焼から全焼に移り変わろうとしていた。
 悠長に打開策を練っている暇すら、俺達には残されていなかった。
 この場に集結した隊員達の視線が一気に俺へと集まる。
 部隊結成以来最大の危機に、周辺で燃える炎のように、皆の瞳が迷いで揺れている。
 死への危機感、仲間の窮地も重なってか、かつないほど活性化された俺の脳がフル回転して答えを模索するも、有効と言える答えを導き出すことはできない。
 クソッ!クソッ!一体どうすればッ!?
 グルグルと回る思考は悪循環を生み、時間だけが数倍の速さで流れていく。
 こうなったら、俺一人で敵を引き付けて……

 とんとん……

 肩を突かれて反射的に振り向くと、

「シャドー?」

 特徴的な真っ黒い手が肩に乗っていた。
 シャドーは何も言わないまま、皆の輪から外れるように裏口の方へと歩き出し────

 くいくいッ

 シャドー自らが望んで使っている自室の場所。
 階段下の収納を開け『こっちに来い』とでも言わんばかりに手招きする。
 皆が初めて見たシャドーの自室。
 ずっと気になっていた開かずの間、パンドラの箱には……私物どころか物という物が何一つ置いていなかった。
 その代わりに、

「これは……」

 鋭角に切られた人一人が寝れるくらいしかないスペース。
 そこに唯一あったものに、俺は思わず感嘆の声を漏らしていた。
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