SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

仲間と共に《Bet my soul》5

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「ま、そんなこんなで戻ってこれたってわけよ。納得したか?」

 これまでの経緯を全部話すと長くなってしまうので、ある程度掻い摘んで説明したが、それでも経験した本人ですら信じられない話し。
 そう簡単に信じて貰えないと思ったが、黙って聞いていたセイナは戸惑いこそ見せたが、それでも信用してくれたらしくコクコクと頷いてくれた。

「にわかには信じられないけど……こうして起こっている以上本当なんでしょうね」

「で、だ。どうしてお前はそんな俺のことをフォルテだと認識してくれたんだ?」

 セイナの身体がビクッと跳ね上がる。
 下ろしていた髪が一度大きくウェーブするほどの驚きようだ。
 さっきは何とか俺からの問い掛けを逸らしたと思い込んでいたようだが、残念なことに忘れてなどいない。
 寧ろさっきからそればかりが気になって仕方なかったくらいだ。

「い、言わなきゃダメなの……?」

「そんなに困る理由なのか?」

 さっきのキスはあくまで気付いてもらうためというよりも、奥手なセイナの気を逸らすための強硬手段であり、まさか本当に気付いてもらえるとまでは思っていなかった。
 そして俺もこのセイナが九分九厘本人であると確信してはいるものの、最後の可能性として彩芽が化けていることも無いとは断定できない。
 だからこそ確認しておきたかった。
 どうしてセイナは俺のことを見分けることができたのかを。
 しかし当の本人はさっき告白した時よりも渋る様にその訳を話すことを拒んでいる。

「…………」

 もじもじと指遊びしつつ誤魔化すようにこちらへ上目遣いに訴えかけてきたが、俺からの真剣半分興味半分の視線に気圧され観念したらしく、セイナはほんの僅かに口を開いた。

「────じめて……じゃなかったの……」

「……?なんだって?」

 口籠ってよく聞き取れん。
 聞き入る様に片耳を傾ける。

「だから……アンタとの、その、キ……ス……が、その、初…め…じゃな……フォルテが眠ってる時に……何度か、アタシから……我慢できなくて……」

「えーと、俺が眠っているときになんだって?」

「あーもうッ!!だから知ってたのよ!!その……感触を……っ」

「さっきから何の話をしているんだ?途切れ途切れでハッキリと────」

「察しろ!!このバカぁっ!!」

 鼓膜が破裂するかと思うほどの叫喚。
 ごにょごにょしていて聞こえなかったから何度も聞き返しただけだというのに、理不尽極まりない。

「わ、分かった。それだけ元気ならもう大丈夫だ」

 理由まではよく理解できなかったが、懸念していたことが吹っ飛ぶくらいのセイナ本人の反応が見れたのでまあ問題ないだろう。

「ア、アタシがだいじょーぶじゃないッ!!」

「なんで怒ってんだよ!?」

 犬歯を剥き出しにふーふーと息を荒げるセイナと、その理由わけも分からず困惑する俺。
 崩落する戦艦内でとは思えない痴話喧嘩を繰り広げていると、頭上に聳える神殿の方で人の気配がした。

「────お前はやはり、最初の段階で殺しておくべきだったな……」

 こちらを見下ろすように呟いたのはオスカーだ。
 構図こそと同じ様相を呈していたが、状況だけは全く別物となっていた。
 崩落した天蓋、遠来する爆撃の轟音。
 見下ろすオスカーのスーツは皺や傷みが目立ち、未だダメージが抜けきっていないらしく片腕で抱いた肩は激しく上下している。
 一方それに対し俺達は、溢れ出る力を身に纏い、外界から差し込む暁の下に佇んでいた。

「終わりよオスカー!」

 俺が生きていたことでいつもの気勢を取り戻していたセイナがピシリと指を突き立てる。

「これ以上戦ってもお互いにメリットがないわ。大人しく投降しなさい」

 この戦艦における唯一無二の防護手段ともいえる魔術防壁を失った以上、撃墜されるのは時間の問題だ。それに当の本人も『共存レゾナンス』を会得したセイナとの戦闘で満身創痍なうえ、俺が生きていたことで数的不利な状況。
 まともな思考の持ち主であれば撤退などの保身へ走るのが建設的、いや、生物として至極真っ当な判断と言えるだろう。
 だが相手は世界に喧嘩を売ろうとしていた異常者だ。
 自らの死程度で止まれるくらいの安い覚悟ならば、元よりテロなど起こしていないだろう。

「いいや……寧ろこれでいい……」

 圧倒的不利な状況にも関わらず、オスカーの頬が不敵に吊り上がる。

「この場所が甲板に近いから損傷こそ派手に見えるが、そう簡単に戦艦ヨルムンガンドは堕ちんよ。少なくとも……」

「まさか────」

 決して強がりではないオスカーの考えに気付いて、セイナの表情が青ざめる。

「お前の考えた通りだセイナ、このまま撃墜されるくらいならばこの戦艦ヨルムンガンドごと中国へ突っ込んでやる。彼奴等きゃつらは気付いていないようだが、この戦艦の動力源は巨大な神器、つまりは膨大な魔力塊まりょくかいだ。中途半端に衝撃を与えようものなら半径数百キロ程度までなら道連れにできる」

 オスカーの言っていることは確かに的を得ている。
 確かにあの『戦死者の館ヴァルハラ』が暴走し、莫大な魔力が拡散されたとなれば多くの人々を殺めるまびくことができるだろう。
 セイナはその考えに落胆と悲壮をぜにしたような表情を浮かべたまま唇を噛み締めていた。
 自身の父親が頑なに考えを変えないことに、もうどうしたらいいか分からないといった様子だ。
 けれど俺は、一度死んだおかげで頭が冷えたのか、はたまた肉体面が回復したことで正常に考察できるようになったのかは分からないが、オスカーの言葉に妙な違和感があることを感じ取っていた。

「それにセイナ、お前は何を勘違いしているか知らないが、少なくともまだ私は一度も自身の敗北も、お前の勝利も認めたつもりは一切ない。何故なら────」

 お前にはまだ弱点があるからだ。
 その言葉を伏せたままオスカーが左手小指と中指の金指輪を煌かせた。

 ヴァンッ!!シュッ────!!

 崩落した瓦礫の中から黒羽くろはの翼が翔ける。
 二羽の渡鴉が弾丸の如く奇襲を仕掛けてきたのだ。
 角度も全く違う、死角を突いた二撃。

「フォルテッ!!」

 思惑に気付いたセイナが声を張り上げた。
 魔力を伴い突出する身体は戦車の砲弾以上の力を伴っており、躱すことは皆無。
 それを両方とも俺に向けてオスカーは放ったのだ。
 さっき俺を殺した時と全く同じように────

 ガキィィィィィンッ!!

「な────」

 その光景に表情を揺るがせたのはセイナではなく、攻撃を放ったオスカーの方だった。
 奴はおそらく俺が再びむくろとなることを想像していたのだろう。
 しかしそうはならなかった。
 なんせ俺は死角から飛び込んできたその亜音速を超える二撃を、両腕に構えた武器で受け止めていたからだ。
 右腕に携えた紅い染まる小太刀と────

「蒼い銃……だとっ!?」

 そして、左腕に携えた蒼い銃によって。

「貴様まさかっ!?」

「そうだオスカー。これが俺の左眼ブルームーンアイの新しいだ」


 俺はその重圧を撥ね退けるよう力任せに両腕を振り払うと、亜音速で接近していたはずの鴉達はそれぞれ音速の速度で壁へと叩きつけられた。
 光を失った二つのリングを見るよりも先に、オスカーが追撃を要求するべく別の二リングを俺へと突き出す。
 すると今度は周辺の瓦礫の中から見たこともない二匹の狼が飛び出して来る。
 靴を履いていても怪我しそうな戦艦の残骸をその強靭で極太な四脚で蹴散らし、体躯に纏った禍々しい光と闇の魔術ごと俺に覆い被さらんと中空へと躍り出た。

「させないわ!!」

 相棒を庇うよう前に出たセイナが双頭槍グングニル半分に分解させつつ地面へと突き立てる。
 バチリッと小さな身体に一閃が走ると、瞬く間に周囲を電撃の戦慄が迸った。
 瓦礫の破片を織り交ぜた電撃の嵐に図らずも飛び掛かってしまった狼達が撃ち落される。
 セイナお前……いつの間にこれほどの電撃を操れるようになったんだ。

「もう二度と、アタシの目の前で相棒を殺させはしない」

 相棒の背は小柄で華奢だが、世界で一番信頼できるほど大きく見えた。
 これができるのならもしかしたら────

見縊みくびるなよ小童共!!」

 思考を忘却してしまいそうなほどの怒声が上部から降りかかる。
 金指輪四つの色を喪ったオスカーが怒りの感情をあらわにしていた。

「お前達がたとええ共存レゾナンスを二つ使えたところで所詮はまだ子供同然、貴様ら如き小細工に屈する私ではない!!」

 今までのポーカーフェイスがまるで嘘のように、溢れる魔力を隠そうとしない様は、恐ろしくもあると同時に余裕が無いことの証明ともなっていた。

「フォルテ……」

 セイナが振り向かずに俺へと不安を表した。
 彼女自身も力を制御することに成功してはいるもの、暴走する父親をどうすればよいか分からず戸惑っているらしい。

「大丈夫だセイナ」

 俺はそんな相棒の肩へ触れた。
 力の篭ったなで肩の硬直を緩めるよう、ゆっくりとその身体を抱き寄せ、小さな花のような耳元へと顔を近づける。

「俺に考えがある────」

 最初こそいきなり触れられたことで「ひゃうっ!?」っと可愛い反応を見せてドギマギしていたセイナだったが、俺の考えを聞くうちに、その理にかなった論理と作戦内容に驚嘆を見せていた。

「なるほど……確かにどうして今まで気づかなかったのかしら……」

「互いに目の前の事象に囚われすぎて頭が固くなってたってことだろ、だけど本当にできそうか?」

 今伝えた作戦はセイナが鍵となる。
 自信がないのであれば別の手段を講じる他ないが、そこはやはり俺の相棒ということもあり────

「上手くできるか分からないけど……やろうフォルテ。どのみちアタシ達にはもう退路なんて残されていないんだから。やるしかないわ」

 力強く踏み鳴らした意志に揺らぎは無かった。
 もう彼女に父親だからといった弱音は存在しない。
 例え数パーセントしか可能性が無かったとしても、セイナは最後の一瞬まで抗う決意を瞳に宿し、俺と同じように先導者コンダクターを見据える。

「よし、俺達二人で『ヨルムンガンド』に引導を渡すぞ」

「うん、行こう!!」

『ヨルムンガンド』を────オスカーを止めるべく、俺達二人は同時に飛び出した。
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