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発情してはいけない 9*
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発情中のオメガは理性も道徳も吹き飛び、ただすることしか考えられなくなる。禁忌の縛りもなくなって、動物のようにそこにいる相手を求めてしまう。
バース性に囚われた不幸なオメガ。そんな奇異な本能の落とし子である自分ら双子。今ならわかる。母がどうして自分たちにあれほど強く、オメガの本能に振り回されるなと教えてきたのか。
オメガの呪われた欲望は、何もかもを破壊する力を持っているから。幸せも愛情も信頼関係も、すべてをまるであざ笑うかのように。
そしてそれは、発情にあてられたアルファにとっても同じことだった。
早く光斗を鎮めなければ。首輪もなく発情してしまったオメガがアルファに出会ったら。最悪の事態を考えると身震いする。明日には津久井が帰国するというのに。
陽斗はもう一度、ドアの向こうに耳をそば立てた。何の物音もしない。書斎は廊下を少し進んだところにある。陽斗は意を決して、鍵をあけた。
カチャリと音が響き、鍵が解かれる。ゆっくりとドアをあけて、廊下側を見ようとしたとき、ドアの真ん前に何か大きな障害物があることに気がついた。
「――え?」
陽斗は目をこらした。夕暮れの薄明かりの中、そこにいたのは――。
「……どうしてあけたんだ」
低く、咎めるような声がする。視線を上に向けると、表情をなくした高梨が立っていた。
「…………あ」
男がドアに手をかける。そして大きく外側にひらいた。
「部屋に籠もっているようにと、言ったのに」
絶望的な口調に、陽斗は凍りついた。
「ごめんな、さ……」
高梨が陽斗の頬に触れてくる。その手の甲には血が滲んでいた。ボディガードを押さえこんだときに怪我をしたのかと考えて、向かいの壁に血の跡がついていることに気がついた。
多分、高梨は、光斗のフェロモンに誘われてここまできてしまい、けれど我慢を強いるために、壁を殴りつけたのだ。自身の欲情を抑えて正気を保つため、あえて手に怪我を負わせて。
「もう遅い」
高梨からもフェロモンが放出されている。甘く刺激的な、彼自身の香り。それを嗅ぎながら、陽斗は泣きたくなった。
「お願い、出ていって。光斗を放っておいて」
「わかってるよ」
口ではそう言いながら、まったく出ていく気配はない。高梨の目は部屋の中の一点を見つめていた。光斗の寝ているベッドを。
「高梨さん、頼むから。光斗を襲わないで」
「そんなことするもんか」
高梨の目に、陽斗は映っていない。燃えるような眼差しは、発情するオメガのみを捕らえている。
「お願いだから、光斗を見ないでよ」
陽斗は相手に縋って懇願した。どうやってこの人を引き留めたらいいのかわからなくて、ただ闇雲に胸を叩いて押し戻す。けれど高梨はものともせず、一歩、また一歩、ベッドへと近づいていく。
振り返れば、光斗も熱に浮かされた顔でベッドをおりて、こちらに向かって歩いてきていた。
ふたりの濃厚なフェロモンが混ざりあい、陽斗の胸を圧迫する。
光斗は下半身をむき出しにしていた。
バース性に囚われた不幸なオメガ。そんな奇異な本能の落とし子である自分ら双子。今ならわかる。母がどうして自分たちにあれほど強く、オメガの本能に振り回されるなと教えてきたのか。
オメガの呪われた欲望は、何もかもを破壊する力を持っているから。幸せも愛情も信頼関係も、すべてをまるであざ笑うかのように。
そしてそれは、発情にあてられたアルファにとっても同じことだった。
早く光斗を鎮めなければ。首輪もなく発情してしまったオメガがアルファに出会ったら。最悪の事態を考えると身震いする。明日には津久井が帰国するというのに。
陽斗はもう一度、ドアの向こうに耳をそば立てた。何の物音もしない。書斎は廊下を少し進んだところにある。陽斗は意を決して、鍵をあけた。
カチャリと音が響き、鍵が解かれる。ゆっくりとドアをあけて、廊下側を見ようとしたとき、ドアの真ん前に何か大きな障害物があることに気がついた。
「――え?」
陽斗は目をこらした。夕暮れの薄明かりの中、そこにいたのは――。
「……どうしてあけたんだ」
低く、咎めるような声がする。視線を上に向けると、表情をなくした高梨が立っていた。
「…………あ」
男がドアに手をかける。そして大きく外側にひらいた。
「部屋に籠もっているようにと、言ったのに」
絶望的な口調に、陽斗は凍りついた。
「ごめんな、さ……」
高梨が陽斗の頬に触れてくる。その手の甲には血が滲んでいた。ボディガードを押さえこんだときに怪我をしたのかと考えて、向かいの壁に血の跡がついていることに気がついた。
多分、高梨は、光斗のフェロモンに誘われてここまできてしまい、けれど我慢を強いるために、壁を殴りつけたのだ。自身の欲情を抑えて正気を保つため、あえて手に怪我を負わせて。
「もう遅い」
高梨からもフェロモンが放出されている。甘く刺激的な、彼自身の香り。それを嗅ぎながら、陽斗は泣きたくなった。
「お願い、出ていって。光斗を放っておいて」
「わかってるよ」
口ではそう言いながら、まったく出ていく気配はない。高梨の目は部屋の中の一点を見つめていた。光斗の寝ているベッドを。
「高梨さん、頼むから。光斗を襲わないで」
「そんなことするもんか」
高梨の目に、陽斗は映っていない。燃えるような眼差しは、発情するオメガのみを捕らえている。
「お願いだから、光斗を見ないでよ」
陽斗は相手に縋って懇願した。どうやってこの人を引き留めたらいいのかわからなくて、ただ闇雲に胸を叩いて押し戻す。けれど高梨はものともせず、一歩、また一歩、ベッドへと近づいていく。
振り返れば、光斗も熱に浮かされた顔でベッドをおりて、こちらに向かって歩いてきていた。
ふたりの濃厚なフェロモンが混ざりあい、陽斗の胸を圧迫する。
光斗は下半身をむき出しにしていた。
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