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フェロモンの秘密 2
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「空いてる部屋はあるかな?」
津久井の問いに、高梨が廊下を示す。
「客室は三つありますから。好きな部屋を使ってください」
「ありがとう」
そう言うと、背広姿の紳士は光斗をお姫様抱っこに抱き直し、「じゃあ」と言って部屋を出ていった。
残された陽斗と高梨は、まだ床に横たわったまま動けずにいた。
「……とりあえず、よかった。光斗を無事に津久井さんに渡せて」
安堵の息をつくと、高梨が陽斗のつむじにキスをする。
「そうだね。君が頑張ってくれたおかげだ」
「けど、津久井さん怒るかな。俺が光斗を手でなだめたこと」
「どうかな。僕が彼だったら、怒りはしないな。嫉妬はするかもしれないけど」
高梨は陽斗の髪に、自分の頬をくっつけて話した。その声は、以前と同じ穏やかなものになっている。
「君がどういう子かわかればきっと許してくれるだろう。昨夜の事情は僕がきちんと説明してあげるよ」
かるくキスをして、それから身を起こした。
「さあ、ベッドにいこうか。まだ眠いだろう」
「……ん」
高梨が立ちあがり、陽斗の手を引いてベッドへと連れていく。陽斗が中に入ると、高梨もジャケットとスラックスを脱いで隣にやってきた。
陽斗は彼と顔を向きあわせるのがちょっと恥ずかしかったので、俯きがちに横たわった。
「まだしたい?」
高梨が陽斗の首の下に、手を差し入れてくる。腕枕の体勢だ。
「……ううん」
発情はもうおさまっている。身体はデトックスしたようにすっきりとしていた。
「けど、どうしてなんだろ」
陽斗は不思議に思ったことを口にした。
「うん?」
陽斗の呟きに、高梨が問いかける顔をする。
「なんで、俺、発情したのが、噛まれた後だったんだろう」
まったく予想していない結果だった。
今まで発情の兆候が全然なかったのに、噛まれた瞬間、いきなり発情した。
オメガの発情は一般的に、アルファを誘うためのものだ。だから番になった後であんなに激しく発情しても意味はないのに。
「さあ? 君の身体のことだから、僕にはよくわからないけど」
高梨は陽斗の短い前髪を梳きあげて言った。
「けど、発情したってことは、噛まれたことでストレスがなくなったってことじゃないかな」
「……ああ、そうなのかな……」
彼の言葉に、答えを得た気分になる。
自分はずっと、発情は怖いもの、貞操を守るために絶対に避けなければならないものと思いこんでいた。いつもその戒めが心の底にあった。
けれど成長するにつれて、肉体は発情の準備ができていたようだし、高梨と出会って恋に落ちて、自身も発情したいと望むようになった。
なのに、臆病なためにその一歩を踏み出せないでいた。鬱々とした心を抱えたままで、彼に対して素直にもなれていなかった。
しかし昨夜の出来事で、やっと自分の心を高梨にさらけ出してうなじを噛んでもらい、番になることができた。これでもう他のアルファを誘うこともなくなるし、襲われる心配もない。発情は怖いものではなくなった。その安心感が心を解放して、発情を呼び起こしたのだ。
光斗にも言われたが、どうやら自分は思っていた以上に潔癖な質だったらしい。安心できる環境が整わないと、発情も芽吹かなかった。
津久井の問いに、高梨が廊下を示す。
「客室は三つありますから。好きな部屋を使ってください」
「ありがとう」
そう言うと、背広姿の紳士は光斗をお姫様抱っこに抱き直し、「じゃあ」と言って部屋を出ていった。
残された陽斗と高梨は、まだ床に横たわったまま動けずにいた。
「……とりあえず、よかった。光斗を無事に津久井さんに渡せて」
安堵の息をつくと、高梨が陽斗のつむじにキスをする。
「そうだね。君が頑張ってくれたおかげだ」
「けど、津久井さん怒るかな。俺が光斗を手でなだめたこと」
「どうかな。僕が彼だったら、怒りはしないな。嫉妬はするかもしれないけど」
高梨は陽斗の髪に、自分の頬をくっつけて話した。その声は、以前と同じ穏やかなものになっている。
「君がどういう子かわかればきっと許してくれるだろう。昨夜の事情は僕がきちんと説明してあげるよ」
かるくキスをして、それから身を起こした。
「さあ、ベッドにいこうか。まだ眠いだろう」
「……ん」
高梨が立ちあがり、陽斗の手を引いてベッドへと連れていく。陽斗が中に入ると、高梨もジャケットとスラックスを脱いで隣にやってきた。
陽斗は彼と顔を向きあわせるのがちょっと恥ずかしかったので、俯きがちに横たわった。
「まだしたい?」
高梨が陽斗の首の下に、手を差し入れてくる。腕枕の体勢だ。
「……ううん」
発情はもうおさまっている。身体はデトックスしたようにすっきりとしていた。
「けど、どうしてなんだろ」
陽斗は不思議に思ったことを口にした。
「うん?」
陽斗の呟きに、高梨が問いかける顔をする。
「なんで、俺、発情したのが、噛まれた後だったんだろう」
まったく予想していない結果だった。
今まで発情の兆候が全然なかったのに、噛まれた瞬間、いきなり発情した。
オメガの発情は一般的に、アルファを誘うためのものだ。だから番になった後であんなに激しく発情しても意味はないのに。
「さあ? 君の身体のことだから、僕にはよくわからないけど」
高梨は陽斗の短い前髪を梳きあげて言った。
「けど、発情したってことは、噛まれたことでストレスがなくなったってことじゃないかな」
「……ああ、そうなのかな……」
彼の言葉に、答えを得た気分になる。
自分はずっと、発情は怖いもの、貞操を守るために絶対に避けなければならないものと思いこんでいた。いつもその戒めが心の底にあった。
けれど成長するにつれて、肉体は発情の準備ができていたようだし、高梨と出会って恋に落ちて、自身も発情したいと望むようになった。
なのに、臆病なためにその一歩を踏み出せないでいた。鬱々とした心を抱えたままで、彼に対して素直にもなれていなかった。
しかし昨夜の出来事で、やっと自分の心を高梨にさらけ出してうなじを噛んでもらい、番になることができた。これでもう他のアルファを誘うこともなくなるし、襲われる心配もない。発情は怖いものではなくなった。その安心感が心を解放して、発情を呼び起こしたのだ。
光斗にも言われたが、どうやら自分は思っていた以上に潔癖な質だったらしい。安心できる環境が整わないと、発情も芽吹かなかった。
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