黄金の檻 〜高慢な貴族連中を裏から支配するんでよろしく〜

とんでもニャー太

文字の大きさ
3 / 10

蜘蛛の糸①

しおりを挟む
約束の日、俺はセリアと密かに会った。
彼女は興奮と不安が入り混じった表情を浮かべていた。

「本当に大丈夫?」セリアが小声で尋ねる。
「ご心配なく、私がお守りいたします」

俺は穏やかに微笑んだ。

俺たちは人目を避けるように下層街へと向かった。
セリアは粗末な服に身を包み、化粧を落としている。それでも、その立ち振る舞いには気品が漂っていた。

下層街に足を踏み入れた瞬間、セリアの表情が凍りついた。
狭い路地、汚れた建物、そして疲れ果てた表情の人々。彼女の知る世界とは、あまりにもかけ離れていた。

「こ、これが...現実なのね」セリアが呟いた。

俺は彼女を導きながら、下層街の日常を説明していく。
貧困に喘ぐ家族、病気と闘う子供たち、そして必死に生きる人々の姿。

セリアの目に涙が浮かんだ。「どうして...こんなに」

その時だった。路地の奥から悲鳴が聞こえた。

「泥棒だ!誰か捕まえてくれ!」

俺たちの目の前を、一人の少年が駆け抜けていく。
その手には小さな袋が握られていた。

セリアが身を竦ませる中、俺は瞬時に動いた。
少年の逃走経路を読み、近道を通って追いかける。

路地を曲がったところで、俺は少年を捕まえた。

「離せ!」少年が叫ぶ。
「落ち着け――」

俺はセリアに聞こえるように「なぜ盗んだ?」と問いただした。

少年の目に涙が浮かぶ。

「妹が...妹が病気なんだ。薬を買う金がなくて...」

その時、追いかけてきた店主が到着した。怒りに満ちた表情で少年に詰め寄る。

「このクソガキ……ただじゃおかねぇぞ……」
「待ってください!」

セリアの声だった。
彼女は震える手で財布から銀硬貨を取り出すと、店主に差し出した。

「こ、これで、盗まれた分は十分でしょう……どうか、彼を許してあげてください」

店主は困惑した表情を浮かべたが、下卑た笑みを浮かべて頷いた。

「へっへっへ、こりゃあどうも、十分でさぁ……」

ホッと胸をなで下ろすセリア。
よし、もういいだろう。

「薬を買うんだろう?」俺は静かに言った。「急げ」

少年は涙ながらに頭を下げると、走り去っていった。
うん、良い演技だな。あとで報酬を追加してやろう。

セリアはその後ろ姿を見送りながら、黙って立ち尽くしていた。

「お嬢様」
「ええ」セリアが振り返る。
その目には、何かが変わったように見えた。

「カイン、私のした事は間違っているのかしら……」
「いいえ、間違いなくお嬢様が慈悲を施したことで、彼と彼の妹は救われるでしょう」

セリアは俺をじっと見つめた。

「私にできることは、限られていますけど……」

俺は静かに首を振った。

「お嬢様にできないことなど、この下層にはございません」

セリアの目に決意の色が浮かぶ。

「カイン、私の手助けをしてもらえる?」
「ええ、もちろんですとも」

その日以来、セリアは俺を完全に信頼するようになった。
彼女は俺の助言を熱心に聞き、下層街の実情を学び始めた。

俺は内心で冷笑を浮かべていた。
愚かな女め。善意など、この世界では何の役にも立たない。

だが、彼女が俺に向ける信頼こそが、俺の計画には不可欠だ。

そして、数ヶ月後――。
俺はセリアの客分として、ローレン家の晩餐会に招待されることになった。


* * *


晩餐会当日――。

俺は鏡の前に立ち、最後の仕上げをしていた。
上質な生地でできた服は体にぴったりと馴染み、髪も丁寧に整えられている。
まるで生まれながらの貴族のようだ。

「完璧だな」

俺は満足げに微笑んだ。
今夜、俺はセリアと共にローレン家の晩餐会に潜入する。
貴族たちの間に入り込み、彼らの秘密を探る絶好の機会だ。

セリアは俺の変装の腕前に目を丸くしていた。

「カイン、私、信じられないわ……。まるで本物の貴族みたい」
「お褒めいただき光栄です、お嬢様」

俺は丁寧に頭を下げた。
セリアは俺のことを、下層街出身の単なる情報屋だと思っている。

だが、俺の能力はそんなものじゃない。

下層には多様な人間が集まってくる。
世界中を荒らし回った詐欺師、組織を追われた諜報員、剣の道だけに生きる求道者。

俺は彼等を師として学んだ。

人を欺く術、潜入する技術、相手を制圧する武術……。
全て、今夜のために用意されたようなものだ。

「さあ、行きましょう」

俺たちは馬車に乗り込んだ。目的地はローレン家の邸宅だ。
セリアは緊張した様子で、小刻みに震えている。

「大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと緊張しているだけよ」

俺は優しく微笑んだ。

「心配いりません。私がついています」

その言葉に、セリアは少し安心したようだった。
馬車は静かに夜の街を進んでいく。

俺の頭の中では、既に計画が練られていた。
まずは、ローレン家の主要人物たちの関係性を探る。

次に、彼らの弱みを見つける。
そして最後に、その情報を利用して俺の地位を確立する。

全ては綿密に計算されていた。

馬車が止まり、俺たちは降り立った。
ローレン家の邸宅は、まるで小さな宮殿のようだった。

「準備はいいですか?」
「ええ」

セリアは深呼吸をして、背筋を伸ばした。
俺たちは並んで、邸宅の入り口へと歩いていった。

執事が俺たちを出迎え、広間へと案内した。
そこには既に大勢の貴族たちが集まっていた。華やかな衣装に身を包み、シャンパングラスを片手に談笑している。

俺は周囲を観察しながら、ゆっくりと部屋の中を歩いていった。
耳を澄ませば、あちこちで興味深い会話が聞こえてくる。

「ガリウス家の当主が病気だそうですね」
「ええ、後継者争いが始まるのは時間の問題でしょう」

「マーキュリー家の末娘が、隣国の王子と婚約するらしいわ」
「まあ、それは第二王子? だとしたら……」

俺は内心で笑った。
こんな場所で、こんなにも簡単に機密情報が漏れているとは。

貴族たちは自分たちの世界が安全だと思い込んでいる。
自分達の敵は自分達と同じ貴族しかいないと――。

その思い込みこそが、彼らの最大の弱点だ。

「カイン」セリアが俺を呼んだ。
「こちらに来て。父に紹介するわ」

俺は優雅に頷き、セリアについていった。

部屋の隅には、年老いた男性が立っていた。
その威厳ある態度から、ローレン家の当主だとすぐにわかった。

「父上、こちらがカインです」セリアが俺を紹介した。
「彼には……私の家庭教師をしていただこうかと思っています」

俺は丁寧に頭を下げた。
「お目にかかれて光栄です、ローレン様」

ローレン当主は俺を品定めするように見つめた。

「ほう、家庭教師か。どの分野を教えているのかね?」
「歴史と政治学です」俺は落ち着いた様子で答えた。

「最近では、光栄にも三大貴族家の歴史的変遷について、貴族家のご子息方に教える機会をいただいております」

その言葉に、ローレン当主の目が光った。

「そうか、それは興味深いな。どう思う?我が家の立場について」

俺は慎重に言葉を選んだ。

「ローレン家は常に帝国の中心にあり、その影響力は計り知れません。しかし……」

俺は声を潜めた。

「最近の政治的変動を考えると、新たな戦略が必要かもしれません」

ローレン当主は驚いたように俺を見た。

「……ほう、詳しく聞かせてもらおうか」

俺は内心で勝ち誇った。
これで、ローレン家の内部に入り込める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

処理中です...