猫貴族ウル・カウネールの華麗なる猫(ニャン)生

とんでもニャー太

文字の大きさ
3 / 20

にゃんと人気者!? 嫉妬と陰謀の社交界

しおりを挟む
 社交界デビューから数週間が過ぎた。
 予想外の展開に、僕は毎日驚きの連続だった。

「ウル様、またお誘いの手紙が届いておりますよ」

 執事のジェームズが、山のような招待状を手に現れた。
 僕は溜め息をつきながら、その中の一枚を手に取る。

「今度は……ロゼッタ伯爵家からか。にゃんて人気なんだ……」

 そう。僕は社交界で、予想外の人気者になっていたのだ。

「ウル様の立ち振る舞いが素晴らしいからですよ」
「いや、そんな……」

 確かに、最初は物珍しさから注目を集めていたかもしれない。
 でも、会話を重ねるうちに、多くの貴族たちが僕の知性と教養に惹かれていったらしい。

「猫の姿でこれほど雄弁なのは驚きだ」
「カウネール家の教育は素晴らしいわね」
「あの毛並みときたら、触りたくてたまらないわ!」

 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
 特に令嬢たちの間での人気は凄まじく、「猫王子様」なんてあだ名まで付けられてしまった。

 そんなある日のこと。
 ヒルデハイン公爵家の館で開かれたお茶会に招かれた僕は、ロナウドと再会した。

「や、やあウル。元気そうだね」

 ロナウドの声には、どこか覇気がない。
 目の下にはクマができていて、明らかに疲れた様子だ。

「どうかしたのかい、ロナウド?」
「う、うん……まあね」

 ロナウドは僕の目を避けるようにして答えた。
 その時、ふと耳に入ってきた会話。

「ねえねえ、今度のパーティー、ウル様は来るのかしら?」
「きっと来るわよ。私、楽しみで仕方がないの!」
「ウル様ったら、本当に素敵よね。聡明で、優しくて……」

 ロナウドの表情が一瞬曇るのを、僕は見逃さなかった。

「もしかして……僕のことで何か気になることでもあるのかい?」
「え!? い、いや、そんな……」

 ロナウドは慌てて否定したが、その様子があまりにぎこちない。
 僕は少し考えてから、そっと尋ねた。

「僕が最近人気になったことが……気になってるのかな?」

 ロナウドは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに諦めたように肩を落とした。

「さすがウル、鋭いね。実は……そうなんだ」
「ロナウド……」
「僕は、ずっと注目されることに慣れてきたんだ。でも君が現れてから、みんなの目が君に向いていて……正直、戸惑っているんだ」

 ロナウドの正直な告白に、僕は胸が痛んだ。
 確かに、彼は公爵家の跡取り。常に注目を集める立場だったはずだ。

「ごめん、ロナウド。僕のせいで……」
「いや、謝らないでよ。むしろ僕が恥ずかしいよ。こんな風に嫉妬するなんて……」

 ロナウドは自嘲気味に笑った。
 その時、僕はあることを思いついた。

「ねえ、ロナウド。一緒にチャリティーイベントを企画してみない?」
「え?」
「僕たち二人で主催するんだ。そうすれば、お互いの良さを生かせると思うんだ」

 ロナウドの目が輝きを取り戻す。

「そ、それはいいアイデアだね! でも……どんなイベントにする?」
「うーん、そうだな……」

 僕たちは頭を寄せ合って、アイディアを出し合い始めた。
 そうして生まれたのが、「月光の庭園コンサート」という企画だった。

「これは素晴らしいね! 音楽を通じて人々を結びつけることができる」
「そうだね。それに、僕も演奏できるし……」

 ロナウドと僕は顔を見合わせて、クスリと笑った。

 その日から、僕たちは熱心に準備を進めた。
 場所は、なんと王族から借りることになった離宮の庭園。
 ロナウドの人脈のおかげだ。

 準備の合間、僕は不思議な出会いをした。
 離宮の裏庭で、一人の令嬢が花を愛でていたのだ。

「あの、失礼ですが……」

 僕が声をかけると、令嬢はゆっくりと振り返った。
 そこにいたのは、まるで月光を纏ったかのような銀髪の少女。
 その瞳は深い藍色で、僕をじっと見つめている。

「まあ、あなたが噂の猫貴族様?」

 彼女の声は、風鈴のように透き通っていた。

「は、はい。カウネール家のウルと申します」
「私はリリア。リリア・ムーンブルームよ」

 リリアは優雅に会釈すると、僕に近づいてきた。

「不思議ね。猫の姿なのに、こんなにも凛々しいなんて」
「あ、ありがとうございます」

 僕は思わず赤面してしまった。
 リリアは微笑むと、手に持っていた青い薔薇を僕に差し出した。

「これ、あなたに似合うわ」
「え? 僕に?」
「ええ。その瞳と同じ色だもの」

 リリアの優しい笑顔に、僕の心臓が高鳴る。
 こんな気持ち、初めてだった。

 その後も、コンサートの準備をしながら、僕はリリアと何度か会う機会があった。
 彼女は音楽に精通しており、コンサートのプログラム作りにも協力してくれた。

「ウル、その曲素敵ね」
「ありがとう。リリアのアドバイスのおかげだよ」

 話すたびに、僕は彼女にますます惹かれていく。
 でも、リリアの正体は謎に包まれていた。
 彼女がどこの貴族の娘なのか、誰も知らないようだった。

 そして、コンサート前日。
 ロナウドが興奮した様子で僕の部屋に飛び込んできた。

「ウル! 大変なんだ!」
「どうしたの、ロナウド?」

「明日のコンサートに、王族が来るらしいんだ!」
「えっ!? にゃんてことだ!」

 僕は思わず猫語が出てしまった。
 ロナウドは続けた。

「しかも、白皇子アルフレッド様と黒皇子クロフォード様の両方が……」

 突然の知らせに、僕たちは顔を見合わせた。
 これは大変なことになるかもしれない。

「それに……」ロナウドは少し躊躇した後、言葉を続けた。「王族主催の仮面舞踏会の話も聞いたんだ。もしかしたら、明日のコンサートで正式な招待があるかもしれない」

「仮面舞踏会?」
 僕は首を傾げた。何やら不吉な予感がする。

 その時、窓の外で青い光が一瞬きらめいた。
 振り返ると、リリアが庭園で何かを呟いている姿が見えた。

 一体、何が起ころうとしているんだ?
 僕は不安と期待が入り混じった気持ちで、コンサート当日を迎えることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...