猫貴族ウル・カウネールの華麗なる猫(ニャン)生

とんでもニャー太

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フリスキー叔父さんの珍実験!社交界デビューへの道は険しい?

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 カウネール家の馬車が、フリスキー叔父さんの屋敷に到着した。
 サイ兄さんと一緒に降り立った僕は、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

「ウル、大丈夫かい?」
「え? ああ、はい……ちょっと緊張してて」
「そうだね。フリスキー叔父さんは少し変わった人だからね」

 サイ兄さんの言葉に頷きながら、僕は屋敷を見上げた。
 まるで魔法使いの城のような、奇妙な形をした建物。
 尖った屋根や歪んだ窓、煙を吐く無数の煙突……どこか不気味な雰囲気だ。

「にゃ、にゃんてところに住んでるんだ……」
「ほら、行こう」

 サイ兄さんに背中を押されるようにして、僕たちは玄関に向かった。
 ノックする前に、ガチャリと扉が開く。

「おや、これはこれは。サイくんとウルくんじゃないか」
「叔父上、お久しぶりです」
「にゃ、こんにちは……」

 現れたのは、銀色の長い髪とヒゲを蓄えた老人。
 目にはキラキラとした好奇心の光が宿っている。
 これが噂の変わり者、フリスキー叔父さんか……。

「ほう、これは面白い。ウルくん、君は本当に猫になってしまったのかね?」
「はい……朝起きたらこんな姿に」
「むむ、なるほどなるほど」

 フリスキー叔父さんは、眼鏡の奥で目を輝かせながら僕の周りをグルグル回り始めた。

「素晴らしい! これは素晴らしい現象だ!」
「え? 素晴らしいんですか?」
「もちろんさ! こんな珍しい事例に出会えるなんて、錬金術師冥利に尽きるというものだ」

 フリスキー叔父さんは、まるで宝物でも見つけたかのように喜んでいる。
 僕はちょっと複雑な気分になった。

「さあさあ、中へ入りたまえ。さっそく調べさせてもらうよ」

 案内された部屋は、まさに錬金術師の研究室そのもの。
 壁一面に並ぶ本棚、不思議な形をした器具、泡立つ薬品の入った試験管……。

「ウルくん、ここに座ってくれたまえ」

 指示された椅子に座ると、フリスキー叔父さんはあれこれと器具を取り出し始めた。

「では、まず体温を測ってみようかね」
「えっと、普通の体温計じゃダメなんですか?」
「いやいや、これは特製の魔力感知温度計だよ」

 フリスキー叔父さんは、まるでタコの触手のような奇妙な形をした器具を僕の額に当てた。

「むむ、通常の猫より少し高めだね。人間の体温にも近い……興味深い」
「それって、良いことですか?」
「さあ、どうだろうね。ともかく、次は毛並みの分析だ」

 フリスキー叔父さんは、今度は櫛のような器具を取り出した。
 それで僕の背中を何度もなでると、櫛の先端が七色に光り始めた。

「おお! これは……驚くべき魔力の濃度だ!」
「魔力ですか?」
「そうさ。君の毛には、並外れた魔力が宿っているようだね」

 フリスキー叔父さんの目が、ますます輝きを増していく。
 僕はなんだか実験台にされている気分だった。

「叔父上」サイ兄さんが口を開いた。「ウルを人間に戻す方法は……」
「ああ、そうだった」

 フリスキー叔父さんは、少し考え込むような素振りを見せた。

「正直なところ、すぐには難しいねえ。こんな事例は初めてでね」
「そうですか……」

 僕の耳がしょんぼりと垂れ下がる。

「しかし!」フリスキー叔父さんが声を張り上げた。「不可能ではない。研究を重ねれば、必ず方法は見つかるはずだ」
「本当ですか!?」
「ああ。だが、時間がかかるだろうねえ。早くて半年、下手すれば数年……」

 がくっ。
 僕の肩が落ちる。そんな長い間、猫のままなんて……。

「ウル」サイ兄さんが僕の肩に手を置いた。「大丈夫さ。家族みんなで支えるからね」
「サイ兄さん……」

 その時、フリスキー叔父さんが思いついたように指を鳴らした。

「そうだ! 社交界デビューは予定通り行うといい」
「えっ!?」僕とサイ兄さんが同時に声を上げる。
「だって、こんなチャンスはめったにないだろう? 話題性は抜群さ」
「でも……」
「心配することはない。むしろ、これは君にとって大きなアドバンテージになるはずだよ」

 フリスキー叔父さんは、にやりと笑った。

「なにしろ、誰も君のことを忘れないだろうからね。『あの猫貴族』って」
「それは……そうかもしれませんが」

 僕は少し迷った。確かに、印象に残るのは間違いない。
 でも、それって良い意味なのかな?

「ウル」サイ兄さんが真剣な表情で僕を見つめた。「君の才能や人柄は、姿形に関係ないはずだ。むしろ、こんな状況を乗り越えられたら、君の真価が証明できるんじゃないかな」

 サイ兄さんの言葉に、僕は少し勇気づけられた。
 そうだ。ピンチをチャンスに変えるんだ。

「わかりました。やってみます!」
「その意気だ、ウルくん!」フリスキー叔父さんが僕の背中を叩く。

 こうして、僕の猫としての社交界デビューが決まった。
 果たして、うまくいくのだろうか……。

 そして、パーティーの日。
 僕は緊張しながら、会場に向かう馬車に乗り込んだ。
「頑張るんだぞ、ウル」
 父上が送り出してくれた。

 会場に到着し、扉が開かれた瞬間、僕は深呼吸をして一歩を踏み出した。

「お越しになられましたのは、カウネール男爵家の末子、ウル・カウネール様でございます」

 執事の声が響き渡ると同時に、会場内が静まり返った。
 そして次の瞬間、驚愕の声が一斉に上がった。

「な、なんですって!?」
「あれが……カウネール家の?」
「冗談でしょう?」
「まさか本当に猫なの?」

 ざわめきが広がり、皆の視線が僕に集中する。
 中には杯を取り落とす者もいれば、目を擦って何度も確認している貴族もいる。

「これは何かの趣向かしら?」
「いや、聞いたところによると本当に猫になってしまったそうだ」
「まさか魔法? 呪い?」
「カウネール家も大変ね……」

 小声でのやり取りが飛び交う中、僕はなんとか威厳を保とうと背筋を伸ばして歩を進めた。
 が、緊張のあまり尻尾が思わずピンと立ってしまう。

「あ! 尻尾が動いた!」
「本物の猫なの!?」
「かわいい~」
「バカね、貴族のお坊ちゃまよ。かわいいなんて失礼じゃないの」

 様々な反応が入り乱れる中、ついに僕は今回の主役であるヒルデハイン公爵家の御曹司、ロナウド様の前に辿り着いた。

「こ、こんにちは。カウネール家の末子、ウル・カウネールと申します」

 ロナウド様は、目を見開いて固まったままだ。
 周囲の貴族たちも息を潜めて、この異様な状況の成り行きを見守っている。

 数秒の沈黙の後、ロナウド様がようやく口を開いた。

「き、君が……本当にウル・カウネール?」
「は、はい。こんな姿で大変申し訳ありません」
「い、いや、そんな……ただ驚いただけだ」

 ロナウド様は、明らかに動揺している。
 だが、次の瞬間、彼の表情が和らいだ。

「ふっ……あはは! すごいね、キミ! こんな状況でも、ちゃんと挨拶できるなんて」

 ロナウド様の明るい笑い声に、周囲の雰囲気も少しずつ和らいでいく。
 とはいえ、まだまだ警戒の目は解けない。

「面白いや。ねえ、もっと話を聞かせてよ。どうしてそんな姿になったの?」

 ロナウド様の興味津々な様子に、僕は少し安心する。
 が、その瞬間、ある貴族が割って入ってきた。

「ちょっと待ってください! これは何かの冗談ですか? 猫を貴族として扱うなんて、我々の身分を愚弄しているとしか思えません!」

 その声に同調するように、再びざわめきが起こる。

「そうだ! これはどういうことだ?」
「カウネール家は我々を馬鹿にしているのか?」

 僕は耳をペタンと伏せて、どう対応すればいいのか戸惑っていた。
 その時、ロナウド様が前に出て、大きな声で言った。

「皆さん、落ち着いてください。確かに驚くべき事態ですが、ウル君がここに来たのは、我々と交流するためです。彼の勇気を称えるべきではないでしょうか?」

 ロナウド様の言葉に、少しずつ場の空気が変わっていく。

「そうね……確かに大変な思いをして来てくれたのよね」
「話を聞いてみるのも面白いかもしれないな」
「猫の貴族か……前代未聞だが、なかなか粋じゃないか」

 僕は深々と頭を下げた。

「皆様、このような姿でご挨拶することになり、大変申し訳ございません。ですが、カウネール家の末子として、皆様と交流させていただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします」

 僕の言葉に、会場からは小さな拍手が起こり始めた。
 まだまだ油断はできないが、少なくとも最悪の事態は避けられたようだ。

 さて、この波乱の幕開けとなった社交界デビュー。
 それとも……。
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