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エウリーカ
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しおりを挟むヴィクトルと私が育った村は、王都から遥か彼方、隣国との国境を隔てる険しい山脈の麓にあった。
交流の乏しい辺境の地に暮らす村人達の生活はとても貧しく厳しかったけど、暮らす人々は皆とても温かかったのを覚えている。
ヴィクトルは私の二個下で、村に歳の近い子どもはヴィクトルだけだった。
私にとってヴィクトルは幼馴染で、弟で、家族で、親友で、それから婚約者で。
私達はいつも一緒だった。遊ぶのも、勉強するのも、狩りも、炊事も、何するのもいつも一緒。
これからも、この先も。ずっと一緒に、この村で暮らすはずだった。
世界が一転するのは一瞬だ─
忘れもしない。私が十三歳、ヴィクトルが十一歳の時だった。
秋のとある日、私とヴィクトルは母さんに頼まれて山菜を採りに山へ入った。
母さんの料理は何でも美味しいのだけどその中でも山菜入りのシチューは格別美味しかったので、私達はすぐに快諾した。
どっちが多く採れるか競争しながら山菜を集め、ある程度採ったところで下山すると。村はなくなっていた。
正確に言うと、村はあった。ただ、目の前に広がるそれは到底私の知っている村ではなかった。
家は燃やされ、破壊され、倒壊し。ボコボコに踏み荒らされた地面には、人であっただろういくつもの黒炭が──
……何が何だか…訳が分からない。
あまりに突然のことに怒りも悲しみも湧かず、何もわからないことにただ怯えるだけで。
目の前に広がる凄惨で壮絶な光景に、私とヴィクトルは互いをきつく抱き合うことしかできなかった。
村を襲ったのは野盗だった。悪事を繰り返した為に国を追われた犯罪者集団だ。
半年ほど山奥に潜んでいたが、金や食べものに困って私達の村を襲ったらしい。そのことを教えてくれたのは、この国の騎士団長であり私達を保護してくれたジラルド様だった。
ジラルド様率いる王国第三騎士団はこの野盗らを追っていた。半年かけてようやくアジトを突き詰め、一網打尽にしようとした矢先、野盗らに勘づかれ逃げられてしまったらしい。そして、騎士団に追い詰められた野盗らが、私達の村を急襲した。ジラルド様達が村に来た時はもう……という訳だ。
ジラルド様は全ては自分たちの不手際のせいだと、涙ながらに謝罪してくれた。この国の限りなく中枢に位置する高貴なお方が、辺境の地に暮らす何も持っていない子供なんかに頭を下げるなんて。許しをこうなんて。世間知らずの私達にだって、それがどれだけすごいことかわかっていた。
でも、驚いたのはそれだけじゃなかった。
なんとジラルド様は自分の責任だからと言って、孤児となった私達の身元引受人になってくれたのだ。
王都に連れて行かれた私とヴィクトルはそのままジラルド様のお屋敷で暮らす様になり、さらにジラルド様の推薦で騎士養成学校へと入学し、そして騎士になった。
破格の待遇であることはわかっていた。
田舎の子供が普通に暮らしていて、騎士になんてなれるはずがない。上流階級の子達に混じって英才教育を受けられるなんて、使用人ではなく何不自由ない主人側として豪勢な屋敷で暮らすなんて、ありえないことなんだって。
全てはジラルド様のおかげ。
私達が生きているのも、今の立場も暮らしも、用意されているこれからの未来も。
ジラルド様には、感謝してもし足りないほどの多大なる恩恵をいただいた。いただき続けている。
その多大なる恩に報いるためにも、私達二人は努力しなければならなかった。
ジラルド様のお役に立てるよう。ジラルド様の剣に、盾になれるよう。
それは私達の意思ではなく、義務、責務だった。選択肢も拒否権も、私達は持ってなかった。
それなのに、ヴィクトルは──
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