3 / 11
エウリーカ
3
しおりを挟むヴィクトルと私が育った村は、王都から遥か彼方、隣国との国境を隔てる険しい山脈の麓にあった。
交流の乏しい辺境の地に暮らす村人達の生活はとても貧しく厳しかったけど、暮らす人々は皆とても温かかったのを覚えている。
ヴィクトルは私の二個下で、村に歳の近い子どもはヴィクトルだけだった。
私にとってヴィクトルは幼馴染で、弟で、家族で、親友で、それから婚約者で。
私達はいつも一緒だった。遊ぶのも、勉強するのも、狩りも、炊事も、何するのもいつも一緒。
これからも、この先も。ずっと一緒に、この村で暮らすはずだった。
世界が一転するのは一瞬だ─
忘れもしない。私が十三歳、ヴィクトルが十一歳の時だった。
秋のとある日、私とヴィクトルは母さんに頼まれて山菜を採りに山へ入った。
母さんの料理は何でも美味しいのだけどその中でも山菜入りのシチューは格別美味しかったので、私達はすぐに快諾した。
どっちが多く採れるか競争しながら山菜を集め、ある程度採ったところで下山すると。村はなくなっていた。
正確に言うと、村はあった。ただ、目の前に広がるそれは到底私の知っている村ではなかった。
家は燃やされ、破壊され、倒壊し。ボコボコに踏み荒らされた地面には、人であっただろういくつもの黒炭が──
……何が何だか…訳が分からない。
あまりに突然のことに怒りも悲しみも湧かず、何もわからないことにただ怯えるだけで。
目の前に広がる凄惨で壮絶な光景に、私とヴィクトルは互いをきつく抱き合うことしかできなかった。
村を襲ったのは野盗だった。悪事を繰り返した為に国を追われた犯罪者集団だ。
半年ほど山奥に潜んでいたが、金や食べものに困って私達の村を襲ったらしい。そのことを教えてくれたのは、この国の騎士団長であり私達を保護してくれたジラルド様だった。
ジラルド様率いる王国第三騎士団はこの野盗らを追っていた。半年かけてようやくアジトを突き詰め、一網打尽にしようとした矢先、野盗らに勘づかれ逃げられてしまったらしい。そして、騎士団に追い詰められた野盗らが、私達の村を急襲した。ジラルド様達が村に来た時はもう……という訳だ。
ジラルド様は全ては自分たちの不手際のせいだと、涙ながらに謝罪してくれた。この国の限りなく中枢に位置する高貴なお方が、辺境の地に暮らす何も持っていない子供なんかに頭を下げるなんて。許しをこうなんて。世間知らずの私達にだって、それがどれだけすごいことかわかっていた。
でも、驚いたのはそれだけじゃなかった。
なんとジラルド様は自分の責任だからと言って、孤児となった私達の身元引受人になってくれたのだ。
王都に連れて行かれた私とヴィクトルはそのままジラルド様のお屋敷で暮らす様になり、さらにジラルド様の推薦で騎士養成学校へと入学し、そして騎士になった。
破格の待遇であることはわかっていた。
田舎の子供が普通に暮らしていて、騎士になんてなれるはずがない。上流階級の子達に混じって英才教育を受けられるなんて、使用人ではなく何不自由ない主人側として豪勢な屋敷で暮らすなんて、ありえないことなんだって。
全てはジラルド様のおかげ。
私達が生きているのも、今の立場も暮らしも、用意されているこれからの未来も。
ジラルド様には、感謝してもし足りないほどの多大なる恩恵をいただいた。いただき続けている。
その多大なる恩に報いるためにも、私達二人は努力しなければならなかった。
ジラルド様のお役に立てるよう。ジラルド様の剣に、盾になれるよう。
それは私達の意思ではなく、義務、責務だった。選択肢も拒否権も、私達は持ってなかった。
それなのに、ヴィクトルは──
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる