明日死ぬ君と最後の夜を

遙くるみ

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エウリーカ

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 「で、思い出作りに来たの?」

 ヴィクトルは死ぬつもりだ。死ぬ覚悟が、殺される覚悟ができている目をしている。
 最期の最期に会いに来てくれた今もなお、やっぱりヴィクトルは私を見てはくれない。

「最期、死ぬ前に私の顔を見に来たの?死ぬって思ったら怖気付いた?幼馴染が恋しくなった?」

「エウリーカ、僕は」

「…ふざけんなよ。勝手に、あんたの思い出作りの材料にしないでよね。私を、勝手に!思い出になんかにするなぁ!!」

 きつく握りしめた拳を振り上げると、ヴィクトルがきつく目をつむった。

 ふざけんな、勝手すぎる。
 勝手に突っ走って、勝手に死のうとして、なのに私に会いに来て……っ!!



 ふにゅりと触れ合ったそこは、とても温かくて、ヴィクトルが生きていることを私に教えてくれた。

「…っ!……え?」

 睫毛が触れ合う距離で視線が合う。
 夏の深緑によく似たヴィクトルの瞳は相変わらずとても綺麗で、真ん丸の硝子細工のようだ。
 
「でも、まあ、いーや。せっかくだから、思い出つくろっか?」

 ここ何年も胸の中でぐるぐると回っていたヴィクトルへの罵詈雑言が消えていく。
 ヴィクトルに会ったら言いたかったことたくさんあった。でも、本当は言いたかったんじゃない。

 ただ、会いたいだけだったんだ。

 ヴィクトルに会いたかった。深緑の瞳に私を映して欲しかった。私も一緒に連れてって欲しかった。一人で行ってほしくなかった。自分が弱いせいで置いて行かれたかと思うと悔しかった。寂しかった、不安だった。ヴィクトルが捕まっちゃうんじゃないか、私の知らない所で知らないうちに殺されちゃうんじゃないかって、毎日怯えてた。

 でも、今、会えた。

 ボロボロでヘロヘロだけど、生きてるヴィクトルに。もしかしたらヴィクトルは明日死ぬかもしれない。ううん、多分死ぬ。殺される。それ以外の未来はヴィクトルに残されていない。それくらい重大な(相手にとっては些末なことだけど)ことをしたんだから。
 でも死ぬ前に会えた。会いに来てくれた。他の誰でもない、私に。

 …もう、いーや。それだけで、いーや。

 もう一度唇を重ね、ヴィクトルの身体に覆いかぶさる。
 温もりが、ヴィクトルが生きてる証拠が欲しくって、何度も何度もそれを繰り返す。
 温かい。柔らかい。気持ちいい。ヴィクトルと初めてキスをした。生きてる。嬉しい。

 唇を押し付けながら頬を撫でていると、そっとその手を取られ、顔が離れた。

「ごめん」

 態度で、言葉で、拒絶された。きつく胸が締め付けられ、息ができなくなる。

「本当に、ごめん。エウリーカ」

 鼻先が触れそうな距離にあるヴィクトルの顔。眉間には深い皺、下がった眉、引き結んだ薄い唇。困った様な、今にも泣き出しそうな笑顔。……笑顔?

 その意味を考える前に、静かにヴィクトルの顔が近付いて、もう一度唇が触れ合った。



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