5 / 11
エウリーカ
5
しおりを挟む「で、思い出作りに来たの?」
ヴィクトルは死ぬつもりだ。死ぬ覚悟が、殺される覚悟ができている目をしている。
最期の最期に会いに来てくれた今もなお、やっぱりヴィクトルは私を見てはくれない。
「最期、死ぬ前に私の顔を見に来たの?死ぬって思ったら怖気付いた?幼馴染が恋しくなった?」
「エウリーカ、僕は」
「…ふざけんなよ。勝手に、あんたの思い出作りの材料にしないでよね。私を、勝手に!思い出になんかにするなぁ!!」
きつく握りしめた拳を振り上げると、ヴィクトルがきつく目をつむった。
ふざけんな、勝手すぎる。
勝手に突っ走って、勝手に死のうとして、なのに私に会いに来て……っ!!
ふにゅりと触れ合ったそこは、とても温かくて、ヴィクトルが生きていることを私に教えてくれた。
「…っ!……え?」
睫毛が触れ合う距離で視線が合う。
夏の深緑によく似たヴィクトルの瞳は相変わらずとても綺麗で、真ん丸の硝子細工のようだ。
「でも、まあ、いーや。せっかくだから、思い出つくろっか?」
ここ何年も胸の中でぐるぐると回っていたヴィクトルへの罵詈雑言が消えていく。
ヴィクトルに会ったら言いたかったことたくさんあった。でも、本当は言いたかったんじゃない。
ただ、会いたいだけだったんだ。
ヴィクトルに会いたかった。深緑の瞳に私を映して欲しかった。私も一緒に連れてって欲しかった。一人で行ってほしくなかった。自分が弱いせいで置いて行かれたかと思うと悔しかった。寂しかった、不安だった。ヴィクトルが捕まっちゃうんじゃないか、私の知らない所で知らないうちに殺されちゃうんじゃないかって、毎日怯えてた。
でも、今、会えた。
ボロボロでヘロヘロだけど、生きてるヴィクトルに。もしかしたらヴィクトルは明日死ぬかもしれない。ううん、多分死ぬ。殺される。それ以外の未来はヴィクトルに残されていない。それくらい重大な(相手にとっては些末なことだけど)ことをしたんだから。
でも死ぬ前に会えた。会いに来てくれた。他の誰でもない、私に。
…もう、いーや。それだけで、いーや。
もう一度唇を重ね、ヴィクトルの身体に覆いかぶさる。
温もりが、ヴィクトルが生きてる証拠が欲しくって、何度も何度もそれを繰り返す。
温かい。柔らかい。気持ちいい。ヴィクトルと初めてキスをした。生きてる。嬉しい。
唇を押し付けながら頬を撫でていると、そっとその手を取られ、顔が離れた。
「ごめん」
態度で、言葉で、拒絶された。きつく胸が締め付けられ、息ができなくなる。
「本当に、ごめん。エウリーカ」
鼻先が触れそうな距離にあるヴィクトルの顔。眉間には深い皺、下がった眉、引き結んだ薄い唇。困った様な、今にも泣き出しそうな笑顔。……笑顔?
その意味を考える前に、静かにヴィクトルの顔が近付いて、もう一度唇が触れ合った。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる