明日死ぬ君と最後の夜を

遙くるみ

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ヴィクトル

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 守りたいものがあった。失ってはじめて、守りたかったんだと気付いた。いなくなってしまった今ではもう守ることは出来ない。どんなに守りたいと強く望んでも、どんなに生き返ってほしいと願っても。

 だから僕はもう間違わない。
 守りたい人を失わない為に。

 ※ ※

 僕の幼馴染で、親友で、兄弟で、家族で、婚約者だった、愛しのエウリーカ。
 僕は君を守りたかった。
 君の命を。君の笑顔を。
 そのために僕は努力した。そのために僕は愚かで無駄なことだと分かっていながらもこんなことをしたんだ。
 結果は予想以上に呆気なく悲惨なものだったけれど。でも悔いはない。君がこの先もずっと笑って暮らしていけるのなら、僕のやったことは全然無駄じゃないのだから。
 君の未来を守れるのなら、僕の命なんていくらでも捧げる。いや、いくらでも捧げたいのに一つしかなくてもどかしい位なんだ。

 王国の腐敗を我々が止めるのだと威勢よく奮起したその日のうちに、王国騎士団により呆気なく鎮圧。いくつかあったアジトも全て襲撃を受け、一人また一人と仲間は捉えられ、死んでいった。慈悲なんてあったもんじゃない。向かってくるもの、逃げるもの、動けないもの。そんなもの関係なく、容赦なく、徹底的に殺された。広場に並べられるいくつもの首。数時間前まで理想を語り合った仲間だったもの。どんどん増えていく。近い将来、例外なく僕もそこへ連れていかれるのだろう。

 覚悟はもちろん決めていた。村が焼かれ、王都に連れて来られたその日から。
 でも僕は最期の最期、死を目前にした時に、怖気ついてしまったんだ。恋しくなってしまったんだ。

 ──ああ、エウリーカ。君は元気だろうか。

 執拗に追ってくる王国騎士団から必死になって逃げている時。僕の頭の中はエウリーカで一杯だった。エウリーカしかいなかった。

 死ぬ前に一度だけ、エウリーカの顔を見たい。

 わかってる。反乱者である僕がエウリーカに会いに行ったことが知られれば、エウリーカに迷惑がかかるって。エウリーカと僕は無関係でなくてはならない。だからずっと何年も会わなかったんだ。だからエウリーカには何も伝えなかったんだ。僕はそうやって、僕からエウリーカを守ってきた。

 でも、最期だから許してほしい。
 エウリーカには本当に申し訳ないんだけど、迷惑だバカって怒られるかもしれないけど。少しだけ、一目だけだから。
 エウリーカが元気にしている所を見たら、これで本当に悔いなく死ねる。もう逃げるのは疲れた。いつ殺されるのかと怯え続けるのも嫌だ。死にたい。先に逝った仲間たちの元へ僕も、早く。

 エウリーカの顔を一目見たら、これで心置きなく死ねる。安らかに死ねる。
 そう思っていたんだ──
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