明日死ぬ君と最後の夜を

遙くるみ

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ヴィクトル

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 唇をそっと押し付けて、少しだけ離して。馬鹿の一つ覚えみたいにそれを繰り返す。
 柔らかな感触、漏れる熱い吐息。仄かに香るエウリーカの汗の匂い。
 何度繰り返しても全然飽きない。それどころかもっともっとと次を欲して止まないのは、僕が更なる行為をエウリーカに求めているからだろうか。

 流石にそれはマズい。いくら馬鹿で意志薄弱な僕でも、その一線だけは超えてはいけないとわかっている。ちゃんと抑制もできている。本能のまま勝手に動き出しそうになる手にぎゅっと力を込めて、それを必死に止めていたのに。

「いーよ」

「…え?」

 顔が離れ、エウリーカがふっと視線を落とした。
 呟かれた声は小さすぎて、上手く聞き取れなかった。だけど、聞き間違いじゃなければ今、エウリーカは…

 つ、とエウリーカが視線を上げ、再びキラキラとした菫色の瞳に捕らえられる。完全に夜へと変わる、一歩手前の空の色。

「私にアンタの思い出、ちょーだい」

 瞳一杯にキラキラと瞬くたくさんの星。

 エウリーカが小さく笑い、ゆったりとした寝間着に手をかけ、一気にそれを脱いだ。
 曝け出されたエウリーカの柔肌が、部屋に灯るランプの明かりによって妖艶に浮かび上がる。その美しすぎる光景に一瞬で心を奪われてしまった僕は、指一本動かすこともできずに、ただ凝視することしかできない。
 とても綺麗だ。何々のようだとか上手い例えをしてどれだけ綺麗かを表現したいのに、働かない頭ではただ綺麗だとしか言葉が出てこない。

 ──ああ、本当に。なんて綺麗なんだ。
 
「昔はひょろひょろで、何しても私の方が勝ってたのにな」

 いつの間にか僕の肌着は脱がされていた。多分、いや確実にエウリーカが脱がせたのだろうけど、全く覚えていない。

 エウリーカが一つ一つ、何かを確かめるように僕の身体に手を滑らせる。首筋、鎖骨。ゆっくりと下へと降りていき、腹筋へと辿り着く。エウリーカの指先がくすぐったくて、気持ち良くて、少しじれったい。

「もう、勝てないな……悔しい」

「悔しい?」

「私の方がお姉ちゃんだったのに。ここ、痛む?」

「いや、もう大丈夫」

 右の脇腹に負った一番新しい傷をつんと押され、ピリリと痛みが走った。
 治りきっていないこの傷は逃亡中に負ったもの(どういう経緯で負った傷かは覚えていない)で、本当はまだ触られると痛むのだけど、わざわざそれを言う必要はない。

「傷だらけだね」

「見苦しい、かな」

 全ては自己責任。どれだけたくさん、どれだけ深い傷を負おうと僕自身構わないし何とも思わないのだけど。傷だらけのこの身体を見てエウリーカが嫌悪感を抱いたら……ちょっと悲しい。
 でもエウリーカは眉間にきゅっと力を入れて、小さく首を横に振った。

「ねえ、私も触って?」

「で、も…」

「じゃあ、私が勝手にする」

「エウリーカ……ん」

 躊躇する僕に構うことなく、身体に当てられていたエウリーカの手が不埒に動きを始める。
 くるくると胸をさすり、飾りをひっかき、すぅーっと正中線を辿って。隆起したものを包まれた。

「気持ちいい?」

 円を描いたり、上下したり、軽く握られたり。エウリーカの手によって優しく愛でられ、なんとも言い表し難い不思議な感覚に襲われる。嫌な感じではなくて、ソワソワして落ち着かない。

「うん、多分」

「多分?」

「あんまり、そういうことしたことないから」

 こういう感覚を『気持ちいい』というのだろうか。よくわからないから断言できない。
 性に関するそういうことに興味がなかった訳ではないけど、王都に来てからというもの、与えられた課題や責務を果たすことにいっぱいで、どうやったらジラルド様の謀略からエウリーカを守るれるかを考えることに必死で。そんなことに時間を割く余裕は全くなかった。
 その結果、女性相手はもちろん、自分でだってほとんどしたことはない。

 実地経験はともかく、知識くらいは入れておくべきだったと今になって後悔している。

「やっぱ、私も触ってほしい」

 満足したのか、我慢できなくなったのか。エウリーカは少しして、蕩けた表情でそう溢した。

 いいのかな、いいのかな。
 そう視線で問いかけると、いいんだよって瞳で返された。
 ドキンと胸が大きく鼓動し、速足でリズムを刻み始める。

 おそるおそる乳房に手をのばし、触れてみる。少し力を込めてみる。

「……ん、はぁ…ん」

 ピクンと小さく身体が跳ね、エウリーカの蕩けたような吐息が耳に入った瞬間──

 僕の中の抑止力が完全に消失した。

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