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「え、あ、ちょ!まって、しじまくん!」
しつこいくらいに乳首を責められ、快感でボーとしていると、あっという間に志島くんにズボンを脱がされてしまった。しかも下着も一緒に。
慌てて太腿をクロスさせ、大事な部分を必死に隠すも、志島くんの大きな手が太腿に当てられ、ぐいっとそこを開かれてしまう。
「わー!わーわー!!!わあわあわあっ!」
さっきまでの甘い雰囲気も吹き飛んで、間抜けな悲鳴を繰り返す。
志島くんによってぱかんと大きく広げられ、外気に触れたお股がスースーする。なのに、じっと食い入るようにそこを見つめられて全身がかっと熱くなる。
恥ずかしくてたまらなくなって、股を閉じたいのに物理的に閉じられなくって、もう泣きたくなって両手で顔を押さえた。
顔を隠してお股隠さず、とはこのことである。
「やだーやだー」
「川村」
「見ないでー!あと息止めて!それか口で息して!」
「川村……濡れている」
わざわざ口に出して言わないで欲しい。しかも私にって言うよりは事実確認するみたいに淡々と。
「ひゃ、あっ」
「濡れている、が。女性というものは常にこれくらい濡れているものなのか?気持ちよくなると濡れる、とは言うが、これはその状態なのか?」
ブツブツと呟きながら、志島くんがひだの部分をなぞるように指を滑らせる。
にち、にち、と控えめな水音が耳に入り、そこの状態がどうなっているのか、正確に私に伝えてくる。
志島くん、これは濡れているで間違いありません。
「よく、びしょびしょだとか、溢れるだとか、大洪水だとか表現されるが。そこまでではないな。……ああ、しかし。少し垂れてはいる」
「やあっ、しじまくん!」
お尻の穴の少し上を指ですくわれ、反射的に逃げるように身体を捩った。
「これは気持ちいいから、こうなっているのか?」
にちにち、にちにち。
志島くんの指の動きに合わせて、音がする。
ひだの外側をなぞり、徐々に内側へと移動し、その間の表面を撫でられる。
指は多分、一本か二本。
焦らすような優しすぎる指の動きがもどかしくって、腰が揺れる。
「う、あっ、ああ、んーーー」
「川村」
「あっ!そ、そこは、あ、あ」
「川村」
にちょにちょ、と耳に入る音が激しさを増す。私の名前を呼ぶ志島くんの低すぎる声が、まるでベース音みたいに身体に響いていて。
恥ずかしい、もどかしい、気持ちいい。うん、気持ちいい。
ぬめりを確かめるように撫でていた指がぬかるみに少しだけ侵入し、くるりと一回りする。他の指がその上にある隠された突起をかすめ、新たな刺激が身体を走った。
「あっやあっ!あー」
「川村」
「しじま、くん」
顔を覆っていた手をゆっくり外すと、通常の何倍も鋭さを増した三白眼と目が合った。
志島くんの顔は全体的に紅潮し、表情もガッチガチに硬い。うっすらとこめかみに浮き出ている血管に、眉間と顎に刻まれた深い皺。
一見、目の前で敵対する組員に腹心の部下を撃たれて怒り心頭の若頭かと見間違えるくらい怖い顔をしている。
でも、彼はごく普通の真面目で優しいサラリーマンで、しかも私の好きな人だ。
だからやっぱり、全然怖くない。
この顔は多分、不安な顔。我慢してる顔。嬉しいって顔。あと、気持ちいいって顔。
怒ってないってだけじゃなくて、今志島くんかどういう気持ちなのか察せれるようになって、そのことがすごく嬉しい。
「しじまくん……きもち、いー」
志島くんに聞きたかったのか、私がそうだと伝えたかったのか。
志島くんの顔を見たら、色んな感情がぶわっと込み上げてきて、我慢できなくなった。
志島くんの目がちょっとだけ開いて、閉じて、また開く。
その顔を見たら急激に笑いが込み上げてきて、ぶふっと豪快に噴き出した。
「あははっ!しじまくん。なにその顔」
「……変か?」
「はははは、あれあれ!足の小指をぶつけて痛くて痛くて悶絶しそうで、それを悟られないように必死に平気な顔を装ってるんだけど実際全然隠せてなくてバレバレ、って顔してるよ」
一人でケラケラ笑っていると、志島くんはさらに眉間の皺を深めて「なんだ、それは」と優しく笑った。
◇
ボタンがあれば押したくなるし、白髪があれば抜きたくなるし、耳クソを見つければ取りたくなる。
好きな人が勃起してれば抜きたくなるし、好きな人に自分のアソコを延々と弄られてイカされまくれば、入れて欲しくなるのも当然だと言うもので。
あの後、真面目な顔をした志島くんにひたすらアソコを弄り続けられた私は、何度目かの絶頂を経て、ついにその言葉を口にした。
いや、口にしようとした。
「あっあっ!そ、そこっ、やぁ、ら!」
「ここ?ここが気持ちいいのか?」
「ああっ!もうっイクから!やぁっ!あ、あっああー!」
大きな親指でクリを押し潰されながら、その内側をトントンと刺激され、あっという間に私は果てた。
志島くんは、私のアソコを満遍なく探索し、私の反応を事細かく観察し、そしてデータを集めるかのように何度も何度も同じことを繰り返し、見事にこの短時間で私の快感スポットを探し出すことに成功した。
そう、彼は真面目な研究者であり、かつ私と同じアドベンチャーだったのだ。
にちゃにちゃと聞こえていた音は最終的に、ぐちゃぐちゃ、ぐっぽんぐっぽん、ぼっふぅぼっふぅ、と空気音が混じった変な音に変わっていたし、垂れる程度だったアソコの蜜は、お尻を通り過ぎて太ももをびちゃびちゃに濡らすほど溢れて止まらなかった。
大洪水というよりは満潮によって嵩が増え、その結果溢れたと例える方が適切だな、と志島くんは分析結果を報告する研究者のようにそう言った。
大洪水でも満潮でも、そんなのどうでもいい。もう、限界。もう、だめ。指じゃ、足りない。
もっと奥まで。
――志島くんの、熱くてぶっとくてコッチコチでギンギンになったオチンチンで、私の中をぐっちょんぐっちょんに掻き回して欲しいよぅっ!!!
「し、じまくん!もう、い―」
―――入れて欲しい!
そう口にしようとして、できなかった。
「……う、くぅっ」
太ももに熱いものをかけられ、志島くんが射精したことを知ったから。
「……志島くん」
ざっぱーん、と波が岩に打ち付けられ、さぁーっと静かに引いていく映像が頭によぎった。始まりを告げるはずのそれが、今私に終わりを告げている。
「……ス、スマン」
志島くんがシュッシュッと何枚もティッシュを取り出し、かけられたそれを慌てて拭う。
何も言ってないのに志島くんが何度も謝ってきて、熱に浮かされていた頭が若干冷えた。創作の世界でしか言う女子はいないだろう、とんでもなく恥ずかしい言葉も、スーと消えた。うん、これは消えてくれて良かった。
「……触ってもないのに、イッたの?」
「スマン!」
「……本当に、気持ちよかったんだね」
「ス、スマン」
ああ、またスマンロボットになってしまった。
純粋に不思議に思ってそう言ったのだけど、責めてる風に聞こえたのだろうか。志島くんはバツが悪そうに、常に視線を揺らしている。
あれだ。小学校の時、先生のことを間違ってお母さんと呼んでしまった男子と同じ顔をしている。
人類最強向かうところ敵なし、みたいな外見をしてるくせに。
――ああ、可愛いなあ。
「ううん、良かった。気持ちよくなってくれて。なんか、私ばっかり、その、してもらって申し訳なかったっていうか。だから……うん。今度はまた私がしてもいい?でさ、次は、私の、中に―」
「川村」
志島くんが私の名前を呼ぶ。
もじもじぐるぐるさせていた指を止めて視線を上げると、真剣な顔をした志島くんと目が合った。
「それは、好きな相手とするものだ」
諭すように、淡々と、突き放すように、そう言われた。
一瞬頭が真っ白になって、息が止まる。
「え、あ、そう、だよね」
「……ああ」
志島くんがさっと視線を伏せて、カチャカチャとベルトを締め始める。ハッとなって私も慌てて服を着た。
今のこの状況がいかに異常でおかしなものなのかが、言葉にされなくても思い知らされてしまった。
そうだ、志島くんの言う通りだ。何言っちゃってるんだ私。勘違いしてるぞ、完全に調子に乗ってるぞ。
志島くんに対しての申し訳ない気持ちと、またしてもとんでもないことをしでかしてしまったという恥ずかしい気持ちが一緒くたになって私を襲う。
志島くんのことが好きだから、志島くんにアレコレされて嬉しかった。志島くんをアレコレできて嬉しかった。それは私にとってはごく普通のことで当たり前のようにその先もあるんだと思ってた。
でも、そうだ。
志島くんは私の気持ちを知らないし、志島くんの気持ちだって私は知らない。
何も言ってないし、聞いていない。
私と志島くんの関係を分類するならば、仲の良い同期。もうちょっと踏み込んで言えば、友達以上恋人未満。
志島くんの言ってることは正しい。
誤魔化しきれない気まずさをそのままに、志島くんはそそくさと帰っていった。
付き合ってたら、恋人同士だったら、泊まってもらえるのになぁ。
エッチだって最後までできて、終わったら裸のままイチャイチャして、お風呂にも一緒に入っちゃったり、あと一緒のベッドで寝たり、腕枕してもらったり。
あ、そういえばまだ、ぎゅってしてもらったことない。ていうか、手を繋いだこともなければキスもしたことない!
当たり前だ!付き合ってないないからね!
はあっと大きく息を吐く。
調子に乗ってたというか、暴走してた自分が馬鹿すぎて恥ずかしい。
昔はヤンチャしてたんだよな、と酒が入ると語り始める大人達は皆こんな気持ちなんだろうか。
穴があったら入るどころか埋まって、暖かくなるまでじっとそこで寝ていたい。
恥ずかしい、というか恥。恥かいた!
――でも待てよ?
つまりは付き合えばいいだけじゃない?
好きって言って、付き合って欲しいって言えば、さっき浮かんだ志島くんとやりたいこと全部できるじゃん。
なーんだ、そうだよ簡単じゃん。
そういえば来週はバレンタインだし、土日のどっちかでチョコを買いに行って、志島くんに渡しがてら告白すればいいんじゃん。
なーんだ、そうだよ!よし、買いに行こう!さあ行こう!すぐ行こう!
『あんたの良い所は切り替えの早いとこ、悪い所は物事を深く考えない楽観的なとこ』
何か失敗する度に、母親に小さい頃から言われ続けてきたこの言葉。
言われた時は、その通りだと納得して反省するのに、すぐに忘れてしまうこの言葉。
――調子という名の盗んだバイクにビュンビュン乗っていたその時の私は、志島くんに告白すれば付き合えるって信じて疑わなかったんだ。
しつこいくらいに乳首を責められ、快感でボーとしていると、あっという間に志島くんにズボンを脱がされてしまった。しかも下着も一緒に。
慌てて太腿をクロスさせ、大事な部分を必死に隠すも、志島くんの大きな手が太腿に当てられ、ぐいっとそこを開かれてしまう。
「わー!わーわー!!!わあわあわあっ!」
さっきまでの甘い雰囲気も吹き飛んで、間抜けな悲鳴を繰り返す。
志島くんによってぱかんと大きく広げられ、外気に触れたお股がスースーする。なのに、じっと食い入るようにそこを見つめられて全身がかっと熱くなる。
恥ずかしくてたまらなくなって、股を閉じたいのに物理的に閉じられなくって、もう泣きたくなって両手で顔を押さえた。
顔を隠してお股隠さず、とはこのことである。
「やだーやだー」
「川村」
「見ないでー!あと息止めて!それか口で息して!」
「川村……濡れている」
わざわざ口に出して言わないで欲しい。しかも私にって言うよりは事実確認するみたいに淡々と。
「ひゃ、あっ」
「濡れている、が。女性というものは常にこれくらい濡れているものなのか?気持ちよくなると濡れる、とは言うが、これはその状態なのか?」
ブツブツと呟きながら、志島くんがひだの部分をなぞるように指を滑らせる。
にち、にち、と控えめな水音が耳に入り、そこの状態がどうなっているのか、正確に私に伝えてくる。
志島くん、これは濡れているで間違いありません。
「よく、びしょびしょだとか、溢れるだとか、大洪水だとか表現されるが。そこまでではないな。……ああ、しかし。少し垂れてはいる」
「やあっ、しじまくん!」
お尻の穴の少し上を指ですくわれ、反射的に逃げるように身体を捩った。
「これは気持ちいいから、こうなっているのか?」
にちにち、にちにち。
志島くんの指の動きに合わせて、音がする。
ひだの外側をなぞり、徐々に内側へと移動し、その間の表面を撫でられる。
指は多分、一本か二本。
焦らすような優しすぎる指の動きがもどかしくって、腰が揺れる。
「う、あっ、ああ、んーーー」
「川村」
「あっ!そ、そこは、あ、あ」
「川村」
にちょにちょ、と耳に入る音が激しさを増す。私の名前を呼ぶ志島くんの低すぎる声が、まるでベース音みたいに身体に響いていて。
恥ずかしい、もどかしい、気持ちいい。うん、気持ちいい。
ぬめりを確かめるように撫でていた指がぬかるみに少しだけ侵入し、くるりと一回りする。他の指がその上にある隠された突起をかすめ、新たな刺激が身体を走った。
「あっやあっ!あー」
「川村」
「しじま、くん」
顔を覆っていた手をゆっくり外すと、通常の何倍も鋭さを増した三白眼と目が合った。
志島くんの顔は全体的に紅潮し、表情もガッチガチに硬い。うっすらとこめかみに浮き出ている血管に、眉間と顎に刻まれた深い皺。
一見、目の前で敵対する組員に腹心の部下を撃たれて怒り心頭の若頭かと見間違えるくらい怖い顔をしている。
でも、彼はごく普通の真面目で優しいサラリーマンで、しかも私の好きな人だ。
だからやっぱり、全然怖くない。
この顔は多分、不安な顔。我慢してる顔。嬉しいって顔。あと、気持ちいいって顔。
怒ってないってだけじゃなくて、今志島くんかどういう気持ちなのか察せれるようになって、そのことがすごく嬉しい。
「しじまくん……きもち、いー」
志島くんに聞きたかったのか、私がそうだと伝えたかったのか。
志島くんの顔を見たら、色んな感情がぶわっと込み上げてきて、我慢できなくなった。
志島くんの目がちょっとだけ開いて、閉じて、また開く。
その顔を見たら急激に笑いが込み上げてきて、ぶふっと豪快に噴き出した。
「あははっ!しじまくん。なにその顔」
「……変か?」
「はははは、あれあれ!足の小指をぶつけて痛くて痛くて悶絶しそうで、それを悟られないように必死に平気な顔を装ってるんだけど実際全然隠せてなくてバレバレ、って顔してるよ」
一人でケラケラ笑っていると、志島くんはさらに眉間の皺を深めて「なんだ、それは」と優しく笑った。
◇
ボタンがあれば押したくなるし、白髪があれば抜きたくなるし、耳クソを見つければ取りたくなる。
好きな人が勃起してれば抜きたくなるし、好きな人に自分のアソコを延々と弄られてイカされまくれば、入れて欲しくなるのも当然だと言うもので。
あの後、真面目な顔をした志島くんにひたすらアソコを弄り続けられた私は、何度目かの絶頂を経て、ついにその言葉を口にした。
いや、口にしようとした。
「あっあっ!そ、そこっ、やぁ、ら!」
「ここ?ここが気持ちいいのか?」
「ああっ!もうっイクから!やぁっ!あ、あっああー!」
大きな親指でクリを押し潰されながら、その内側をトントンと刺激され、あっという間に私は果てた。
志島くんは、私のアソコを満遍なく探索し、私の反応を事細かく観察し、そしてデータを集めるかのように何度も何度も同じことを繰り返し、見事にこの短時間で私の快感スポットを探し出すことに成功した。
そう、彼は真面目な研究者であり、かつ私と同じアドベンチャーだったのだ。
にちゃにちゃと聞こえていた音は最終的に、ぐちゃぐちゃ、ぐっぽんぐっぽん、ぼっふぅぼっふぅ、と空気音が混じった変な音に変わっていたし、垂れる程度だったアソコの蜜は、お尻を通り過ぎて太ももをびちゃびちゃに濡らすほど溢れて止まらなかった。
大洪水というよりは満潮によって嵩が増え、その結果溢れたと例える方が適切だな、と志島くんは分析結果を報告する研究者のようにそう言った。
大洪水でも満潮でも、そんなのどうでもいい。もう、限界。もう、だめ。指じゃ、足りない。
もっと奥まで。
――志島くんの、熱くてぶっとくてコッチコチでギンギンになったオチンチンで、私の中をぐっちょんぐっちょんに掻き回して欲しいよぅっ!!!
「し、じまくん!もう、い―」
―――入れて欲しい!
そう口にしようとして、できなかった。
「……う、くぅっ」
太ももに熱いものをかけられ、志島くんが射精したことを知ったから。
「……志島くん」
ざっぱーん、と波が岩に打ち付けられ、さぁーっと静かに引いていく映像が頭によぎった。始まりを告げるはずのそれが、今私に終わりを告げている。
「……ス、スマン」
志島くんがシュッシュッと何枚もティッシュを取り出し、かけられたそれを慌てて拭う。
何も言ってないのに志島くんが何度も謝ってきて、熱に浮かされていた頭が若干冷えた。創作の世界でしか言う女子はいないだろう、とんでもなく恥ずかしい言葉も、スーと消えた。うん、これは消えてくれて良かった。
「……触ってもないのに、イッたの?」
「スマン!」
「……本当に、気持ちよかったんだね」
「ス、スマン」
ああ、またスマンロボットになってしまった。
純粋に不思議に思ってそう言ったのだけど、責めてる風に聞こえたのだろうか。志島くんはバツが悪そうに、常に視線を揺らしている。
あれだ。小学校の時、先生のことを間違ってお母さんと呼んでしまった男子と同じ顔をしている。
人類最強向かうところ敵なし、みたいな外見をしてるくせに。
――ああ、可愛いなあ。
「ううん、良かった。気持ちよくなってくれて。なんか、私ばっかり、その、してもらって申し訳なかったっていうか。だから……うん。今度はまた私がしてもいい?でさ、次は、私の、中に―」
「川村」
志島くんが私の名前を呼ぶ。
もじもじぐるぐるさせていた指を止めて視線を上げると、真剣な顔をした志島くんと目が合った。
「それは、好きな相手とするものだ」
諭すように、淡々と、突き放すように、そう言われた。
一瞬頭が真っ白になって、息が止まる。
「え、あ、そう、だよね」
「……ああ」
志島くんがさっと視線を伏せて、カチャカチャとベルトを締め始める。ハッとなって私も慌てて服を着た。
今のこの状況がいかに異常でおかしなものなのかが、言葉にされなくても思い知らされてしまった。
そうだ、志島くんの言う通りだ。何言っちゃってるんだ私。勘違いしてるぞ、完全に調子に乗ってるぞ。
志島くんに対しての申し訳ない気持ちと、またしてもとんでもないことをしでかしてしまったという恥ずかしい気持ちが一緒くたになって私を襲う。
志島くんのことが好きだから、志島くんにアレコレされて嬉しかった。志島くんをアレコレできて嬉しかった。それは私にとってはごく普通のことで当たり前のようにその先もあるんだと思ってた。
でも、そうだ。
志島くんは私の気持ちを知らないし、志島くんの気持ちだって私は知らない。
何も言ってないし、聞いていない。
私と志島くんの関係を分類するならば、仲の良い同期。もうちょっと踏み込んで言えば、友達以上恋人未満。
志島くんの言ってることは正しい。
誤魔化しきれない気まずさをそのままに、志島くんはそそくさと帰っていった。
付き合ってたら、恋人同士だったら、泊まってもらえるのになぁ。
エッチだって最後までできて、終わったら裸のままイチャイチャして、お風呂にも一緒に入っちゃったり、あと一緒のベッドで寝たり、腕枕してもらったり。
あ、そういえばまだ、ぎゅってしてもらったことない。ていうか、手を繋いだこともなければキスもしたことない!
当たり前だ!付き合ってないないからね!
はあっと大きく息を吐く。
調子に乗ってたというか、暴走してた自分が馬鹿すぎて恥ずかしい。
昔はヤンチャしてたんだよな、と酒が入ると語り始める大人達は皆こんな気持ちなんだろうか。
穴があったら入るどころか埋まって、暖かくなるまでじっとそこで寝ていたい。
恥ずかしい、というか恥。恥かいた!
――でも待てよ?
つまりは付き合えばいいだけじゃない?
好きって言って、付き合って欲しいって言えば、さっき浮かんだ志島くんとやりたいこと全部できるじゃん。
なーんだ、そうだよ簡単じゃん。
そういえば来週はバレンタインだし、土日のどっちかでチョコを買いに行って、志島くんに渡しがてら告白すればいいんじゃん。
なーんだ、そうだよ!よし、買いに行こう!さあ行こう!すぐ行こう!
『あんたの良い所は切り替えの早いとこ、悪い所は物事を深く考えない楽観的なとこ』
何か失敗する度に、母親に小さい頃から言われ続けてきたこの言葉。
言われた時は、その通りだと納得して反省するのに、すぐに忘れてしまうこの言葉。
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