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かすみ
メタモルフォーゼ
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家に帰ってきてすぐ、悠馬は私を裸に剥いてベッドに押し倒した。
性急で乱暴で、でもどこか優しい愛撫に、私の身体が高められていく。
ようやくセックスができて、ホッとする。
セックスはいい。気持ちよくて頭の中が空っぽになるから。
悠馬のモノが埋められると安心する。悠馬が吐き出すと満たされる。
存在証明。悠馬が私の身体を必要としてくれてる。それが普通に嬉しい。
淡白で、やや乱暴なくらいが丁度いい。快楽だけを求めた、付き合ってた時には遠慮してできなかったようなプレイを求められるのもいい。
身体の繋がりだけだって思えるセックスがいい。
「あっあっ、そこ、やだ」
「なんで?気持ち良さそうだけど」
「だか、らぁ、はっん!あーーっ」
後ろから突かれたまま結合部の上の突起をぐりぐりと押される。悠馬は腰を振らず、奥の方をノックだけしていて、それがすごく気持ちいい。なのに、微妙に快楽のポイントが噛み合わなくって、それがもどかしくってたまらない。
「ゆ、ま。あっあっあ、お願い、うごいて」
イキたいのにイケない。それが苦しくって我慢できなくて、自ら腰を振ろうとするも、悠馬がそれを許さない。
「このままイケよ」
「やぁ、ら、うごいて。うごいてよー」
ぐりぐりと絶えず突起に刺激を与えられ、頭がおかしくなる。自分でもわかるくらいに悠馬を締め付けてて、少しでも突かれれば今すぐにでもイッちゃいそうだ。でも悠馬は意地悪く動いてくれない。快感が閾値いっぱいになってるのに超えられない。イキそうなのに、イキたいのに。気持ち良くって苦しくって、おかしくなる。
「ゆーま!おねがい、ゆーまがいい!」
快楽に酔って力の入らない頭を持ち上げ、悠馬に懇願する。悠馬は身体を被せ、私の肩をがりっと噛んだ。
「…っ!」
「動いて欲しい?」
「い、いたい。やだ、噛まないで、っつぅ!」
同じ場所をまた噛まれ、鋭い痛みが走る。甘噛みじゃ感じることのできない、容赦のない痛みだ。唇をきつく噛み締め、コクコクと首を振る。
「じゃあ、俺の代わりに自分でココ触ってて」
「……え」
「ほら、早く」
手を取られ、誘導される。中指を伸ばすと、ぬるりとした膨れた突起に触れた。
「かすみの気持ち良いようにやればいいから。ほら、やれって。じゃないと動いてやんない」
ぐっぐっと奥を突かれ、期待にきゅんと中が締まった。もっと、ぐりぐりして欲しい。ズボズボめちゃくちゃに動いてほしい。ぐちょぐちょにかき混ぜて、奥の奥を力強く突いてほしい。
恐る恐る中指でくりっと押すと、快感がダイレクトに子宮へと突き刺さった。なに、これ。気持ちいい。だめ、止まらない。
それを知ってしまったら最後。後はもう、本能の赴くままに指を動かすだけ。
「あっああああっ!!ゆー、まっ!は、っあっあっ!」
機を見計らっていたかのように、悠馬が抽送を始める。待ち望んでた場所を思いっきり突かれ、そして自分の与えている刺激が一緒になって快感が全身を駆け巡る。
ああ、すごい。気持ちよすぎて頭バカんなる。
「っ、かすみ」
「ああっ、んんんんーーー」
さっき噛まれた場所にまたしても歯を当てられる。今度は痛くなかった。そのかわり、火傷しそうなくらい熱い。その熱がなぜかセックスで与えられる快楽に似ているような気がして、性器を愛撫されてるような錯覚に陥る。
無心になって突起を擦り、悠馬に激しく突かれ、肩を噛まれ。今まで経験したことのないよう大波がせり上がって、呑み込まれて、遥か遠くに意識が飛んだ。
※ ※
薄く目を開けると部屋の中は真っ暗で、悠馬に腕枕をされていた。お互い裸であることに、一瞬ドキリとする。悠馬は目を閉じて、規則的な呼吸を繰り返していた。
寝てるなら……
そっと悠馬の胸に寄り添い、そこに唇を当てる。起きたら、と思うとドキドキする。でも悠馬は起きなかった。だからもう一歩踏み込んで、悠馬の背中に手をまわしてみる。それでも悠馬は起きる様子もなくよく寝ていた。しばらくそのまま悠馬に身を委ねてみる。
『じゃあ、かすみが付き合ってくれよ』
『お前のことが、好きだかー』
先週のやり取りが頭に過ぎる。
悠馬と付き合うとか、絶対無理。
そもそも私のことが好きっていうのも、ただ今の関係になって何となくそうだと勘違いしてるだけだ。本当に、本当の私のことを好きな訳じゃない。
胸がじくじくする。だというのに、温かい。ずっとこうしてたい。このままがいい。
人肌の心地よさに眠気を誘われ、それに逆らうことなく目を閉じた。
※ ※
バイブ音で目が覚めた。
私のものかと思って確認してみたけどディスプレイは真っ黒なままで、どうやら鳴ったのは悠馬の方みたいだ。少し遅れて悠馬が身体を起こし、スマホを手に取る。
「おはよ」と一言だけ交わし、悠馬がスマホをチェックする。とりあえず何か着ようとベッドから降りようとすると、手を取られてベッドに引き戻された。
「え、なに」
「もうちょっと」
横になったまま後ろから抱え込まれ、そのまま悠馬がスマホをいじり始める。ディスプレイは見えないけど、メールの返信をしてるだろうってことが何となく伝わってきた。
「私、もう帰るから」
「これだけ打ったら俺も起きるから、このままいろよ」
「何で」
ぐるりと身体を反転させられ、悠馬と向かい合わせになる。メールを送信し終えたのか、悠馬はスマホをベッドの隅に置き、私と視線を合わせ目元を細めた。意地悪い顔だ。
「メール。誰とか気になる?」
「ならない」
「本当に?」
「本当に決まってるでしょ。何で気にする必要があるの。私には関係ないのに」
付き合ってた時の私なら、気になって仕方なかった筈だ。悠馬にメールが届く度に相手は誰だと、確かに聞いていた。今も同じだなんて絶対に思われたくない。昔みたいに悠馬に過干渉する気はさらさらないんだという、あっけらかんとした笑みをつくってみせる。
「関係あるだろ。俺に彼女ができたら、かすみとこうやって会うこともなくなるんだし」
「……できるの?」
「さあ、どうだろ。さっきの、俺のこと好きだっていう後輩からだった。一昨日の飲み会でID交換してくれっていうからしたら、早速メールきたわ」
一昨日の飲み会、もとい合コンで。悠馬のことを好きだという後輩が……?
ざわり、と嫌な風が胸に吹いた。
「何てきたか、気になる?見せようか?」
ぐっと手を突っ張り、密着していた身体を離す。
頭ん中がぐるぐる回って、眩暈を起こしてるみたいに気持ち悪い。全然思考がまとまらない。
でも頭の奥の方で、笑え、笑え!と誰かが必死に叫んでる。その声に素直に従い、にかっと歯を見せて笑った。
「良かったじゃん。彼女と上手く行ったら教えてね」
笑え、笑え。
何でもいい、どうでもいいって顔で笑え。
「……あっそ。じゃあ、オッケーって返そうかな。これから、午後一緒に出掛けないかって誘われたから」
悠馬を至近距離で真っすぐに見ているはずなのに、悠馬が今どんな表情をしているのかよく見えない。目で見てるのに、頭がそれを処理できない。
「早速デートのお誘いとか、その子悠馬に本気なんだね。すごいじゃん!おめでとう、頑張って。じゃあ、私帰るね」
すっと立ち上がる。今度は悠馬に引き止められることはなかった。
床に無造作に脱ぎ捨てられてる服を拾う。昨日買った安い服は、見事に皺くちゃになっていた。
帰るだけと言っても、こんなの着て公共の乗り物に乗るとか、みっともない。だからと言って、一昨日の仕事着を着るのも大分抵抗がある。どっちがマシか、どっちもどっちか。
「これ」
声をかけられ振り向くと、悠馬に紙袋を渡された。昨日、悠馬が買ったやつだ。
無言で受け取り、中の服を取り出す。
「え……これ」
「それ着てけば?」
私が昨日買おうか悩んだワンピース。悠馬に私っぽいって言われて、やめたやつ。まさか、悠馬が買ったの?
「……こ、こんなの、貰えないよ」
「誰もやるなんて言ってない。俺が買ったのを貸してやるだけ」
貸す?
「だから、ちゃんと返せよ。今週の金曜に」
目を丸くしたまま固まる私に向かって、悠馬が笑う。目尻に皺を寄せて。さっきよりも、柔らかく。
「金曜。多分そんなに遅くならないと思うからまた駅で待ち合わせよう。遅くなるようなら先に家で待ってて」
そっと後頭部を引き寄せられ、軽く唇が触れ合った。
すっと悠馬が立ち上がり、振り向くことなく部屋を出る。少しして、微かにシャワーの音がした。
さっき笑えと繰り返し言っていた声が、今度は急げと私を急かす。悠馬が出てくる前に、この家を出ないと。最低限の身支度だけ整え、忘れ物がないかを確認して、逃げるようにして悠馬の部屋を後にする。
私の身体を纏うワンピースの存在が、私の心を落ち着かなくさせる。さっきの出来事が、夜の、昨日の、再会してから今までの出来事が、頭の中で蛇行しながら不規則に回っていて酔いそうだ。
フラフラになりながら何とか家の前まで辿り着き、バッグからキーケースを取り出すと、そこには鍵が二本ついていた。
私のと、ーー
「なんで……」
返したはずのそれが当たり前のように並んでいて、私はそれ以上考えるのを放棄した。
一直線にベッドに向かい、倒れこむ。
なんで、なんで。なんでなんでなんでーー
ぐるぐるぐるぐると絶えず流れる思考の波に揺られながら、深い深い意識の底へと沈んでいった。
性急で乱暴で、でもどこか優しい愛撫に、私の身体が高められていく。
ようやくセックスができて、ホッとする。
セックスはいい。気持ちよくて頭の中が空っぽになるから。
悠馬のモノが埋められると安心する。悠馬が吐き出すと満たされる。
存在証明。悠馬が私の身体を必要としてくれてる。それが普通に嬉しい。
淡白で、やや乱暴なくらいが丁度いい。快楽だけを求めた、付き合ってた時には遠慮してできなかったようなプレイを求められるのもいい。
身体の繋がりだけだって思えるセックスがいい。
「あっあっ、そこ、やだ」
「なんで?気持ち良さそうだけど」
「だか、らぁ、はっん!あーーっ」
後ろから突かれたまま結合部の上の突起をぐりぐりと押される。悠馬は腰を振らず、奥の方をノックだけしていて、それがすごく気持ちいい。なのに、微妙に快楽のポイントが噛み合わなくって、それがもどかしくってたまらない。
「ゆ、ま。あっあっあ、お願い、うごいて」
イキたいのにイケない。それが苦しくって我慢できなくて、自ら腰を振ろうとするも、悠馬がそれを許さない。
「このままイケよ」
「やぁ、ら、うごいて。うごいてよー」
ぐりぐりと絶えず突起に刺激を与えられ、頭がおかしくなる。自分でもわかるくらいに悠馬を締め付けてて、少しでも突かれれば今すぐにでもイッちゃいそうだ。でも悠馬は意地悪く動いてくれない。快感が閾値いっぱいになってるのに超えられない。イキそうなのに、イキたいのに。気持ち良くって苦しくって、おかしくなる。
「ゆーま!おねがい、ゆーまがいい!」
快楽に酔って力の入らない頭を持ち上げ、悠馬に懇願する。悠馬は身体を被せ、私の肩をがりっと噛んだ。
「…っ!」
「動いて欲しい?」
「い、いたい。やだ、噛まないで、っつぅ!」
同じ場所をまた噛まれ、鋭い痛みが走る。甘噛みじゃ感じることのできない、容赦のない痛みだ。唇をきつく噛み締め、コクコクと首を振る。
「じゃあ、俺の代わりに自分でココ触ってて」
「……え」
「ほら、早く」
手を取られ、誘導される。中指を伸ばすと、ぬるりとした膨れた突起に触れた。
「かすみの気持ち良いようにやればいいから。ほら、やれって。じゃないと動いてやんない」
ぐっぐっと奥を突かれ、期待にきゅんと中が締まった。もっと、ぐりぐりして欲しい。ズボズボめちゃくちゃに動いてほしい。ぐちょぐちょにかき混ぜて、奥の奥を力強く突いてほしい。
恐る恐る中指でくりっと押すと、快感がダイレクトに子宮へと突き刺さった。なに、これ。気持ちいい。だめ、止まらない。
それを知ってしまったら最後。後はもう、本能の赴くままに指を動かすだけ。
「あっああああっ!!ゆー、まっ!は、っあっあっ!」
機を見計らっていたかのように、悠馬が抽送を始める。待ち望んでた場所を思いっきり突かれ、そして自分の与えている刺激が一緒になって快感が全身を駆け巡る。
ああ、すごい。気持ちよすぎて頭バカんなる。
「っ、かすみ」
「ああっ、んんんんーーー」
さっき噛まれた場所にまたしても歯を当てられる。今度は痛くなかった。そのかわり、火傷しそうなくらい熱い。その熱がなぜかセックスで与えられる快楽に似ているような気がして、性器を愛撫されてるような錯覚に陥る。
無心になって突起を擦り、悠馬に激しく突かれ、肩を噛まれ。今まで経験したことのないよう大波がせり上がって、呑み込まれて、遥か遠くに意識が飛んだ。
※ ※
薄く目を開けると部屋の中は真っ暗で、悠馬に腕枕をされていた。お互い裸であることに、一瞬ドキリとする。悠馬は目を閉じて、規則的な呼吸を繰り返していた。
寝てるなら……
そっと悠馬の胸に寄り添い、そこに唇を当てる。起きたら、と思うとドキドキする。でも悠馬は起きなかった。だからもう一歩踏み込んで、悠馬の背中に手をまわしてみる。それでも悠馬は起きる様子もなくよく寝ていた。しばらくそのまま悠馬に身を委ねてみる。
『じゃあ、かすみが付き合ってくれよ』
『お前のことが、好きだかー』
先週のやり取りが頭に過ぎる。
悠馬と付き合うとか、絶対無理。
そもそも私のことが好きっていうのも、ただ今の関係になって何となくそうだと勘違いしてるだけだ。本当に、本当の私のことを好きな訳じゃない。
胸がじくじくする。だというのに、温かい。ずっとこうしてたい。このままがいい。
人肌の心地よさに眠気を誘われ、それに逆らうことなく目を閉じた。
※ ※
バイブ音で目が覚めた。
私のものかと思って確認してみたけどディスプレイは真っ黒なままで、どうやら鳴ったのは悠馬の方みたいだ。少し遅れて悠馬が身体を起こし、スマホを手に取る。
「おはよ」と一言だけ交わし、悠馬がスマホをチェックする。とりあえず何か着ようとベッドから降りようとすると、手を取られてベッドに引き戻された。
「え、なに」
「もうちょっと」
横になったまま後ろから抱え込まれ、そのまま悠馬がスマホをいじり始める。ディスプレイは見えないけど、メールの返信をしてるだろうってことが何となく伝わってきた。
「私、もう帰るから」
「これだけ打ったら俺も起きるから、このままいろよ」
「何で」
ぐるりと身体を反転させられ、悠馬と向かい合わせになる。メールを送信し終えたのか、悠馬はスマホをベッドの隅に置き、私と視線を合わせ目元を細めた。意地悪い顔だ。
「メール。誰とか気になる?」
「ならない」
「本当に?」
「本当に決まってるでしょ。何で気にする必要があるの。私には関係ないのに」
付き合ってた時の私なら、気になって仕方なかった筈だ。悠馬にメールが届く度に相手は誰だと、確かに聞いていた。今も同じだなんて絶対に思われたくない。昔みたいに悠馬に過干渉する気はさらさらないんだという、あっけらかんとした笑みをつくってみせる。
「関係あるだろ。俺に彼女ができたら、かすみとこうやって会うこともなくなるんだし」
「……できるの?」
「さあ、どうだろ。さっきの、俺のこと好きだっていう後輩からだった。一昨日の飲み会でID交換してくれっていうからしたら、早速メールきたわ」
一昨日の飲み会、もとい合コンで。悠馬のことを好きだという後輩が……?
ざわり、と嫌な風が胸に吹いた。
「何てきたか、気になる?見せようか?」
ぐっと手を突っ張り、密着していた身体を離す。
頭ん中がぐるぐる回って、眩暈を起こしてるみたいに気持ち悪い。全然思考がまとまらない。
でも頭の奥の方で、笑え、笑え!と誰かが必死に叫んでる。その声に素直に従い、にかっと歯を見せて笑った。
「良かったじゃん。彼女と上手く行ったら教えてね」
笑え、笑え。
何でもいい、どうでもいいって顔で笑え。
「……あっそ。じゃあ、オッケーって返そうかな。これから、午後一緒に出掛けないかって誘われたから」
悠馬を至近距離で真っすぐに見ているはずなのに、悠馬が今どんな表情をしているのかよく見えない。目で見てるのに、頭がそれを処理できない。
「早速デートのお誘いとか、その子悠馬に本気なんだね。すごいじゃん!おめでとう、頑張って。じゃあ、私帰るね」
すっと立ち上がる。今度は悠馬に引き止められることはなかった。
床に無造作に脱ぎ捨てられてる服を拾う。昨日買った安い服は、見事に皺くちゃになっていた。
帰るだけと言っても、こんなの着て公共の乗り物に乗るとか、みっともない。だからと言って、一昨日の仕事着を着るのも大分抵抗がある。どっちがマシか、どっちもどっちか。
「これ」
声をかけられ振り向くと、悠馬に紙袋を渡された。昨日、悠馬が買ったやつだ。
無言で受け取り、中の服を取り出す。
「え……これ」
「それ着てけば?」
私が昨日買おうか悩んだワンピース。悠馬に私っぽいって言われて、やめたやつ。まさか、悠馬が買ったの?
「……こ、こんなの、貰えないよ」
「誰もやるなんて言ってない。俺が買ったのを貸してやるだけ」
貸す?
「だから、ちゃんと返せよ。今週の金曜に」
目を丸くしたまま固まる私に向かって、悠馬が笑う。目尻に皺を寄せて。さっきよりも、柔らかく。
「金曜。多分そんなに遅くならないと思うからまた駅で待ち合わせよう。遅くなるようなら先に家で待ってて」
そっと後頭部を引き寄せられ、軽く唇が触れ合った。
すっと悠馬が立ち上がり、振り向くことなく部屋を出る。少しして、微かにシャワーの音がした。
さっき笑えと繰り返し言っていた声が、今度は急げと私を急かす。悠馬が出てくる前に、この家を出ないと。最低限の身支度だけ整え、忘れ物がないかを確認して、逃げるようにして悠馬の部屋を後にする。
私の身体を纏うワンピースの存在が、私の心を落ち着かなくさせる。さっきの出来事が、夜の、昨日の、再会してから今までの出来事が、頭の中で蛇行しながら不規則に回っていて酔いそうだ。
フラフラになりながら何とか家の前まで辿り着き、バッグからキーケースを取り出すと、そこには鍵が二本ついていた。
私のと、ーー
「なんで……」
返したはずのそれが当たり前のように並んでいて、私はそれ以上考えるのを放棄した。
一直線にベッドに向かい、倒れこむ。
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