【R18】お前の相手は仕方なく

遙くるみ

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童貞は遂行する

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 適当な用事をつけて、経理部へ向かう。

 事務所の一番奥のデスク。
 そこだけぽっかりと切り取られているっていうか、ガン無視されてるっていうか、事務所の背景に同化してるっていうか。とにかく青島は今日も今日とて青島で、存在感を限りなく消して仕事をしていた。

「あーおしーまさん!これ、よろしくぅ」

 声を弾ませながら近づき、青島の肩をぽんっと叩く。すると、青島の身体が面白いくらいに跳ねた。コミュ障特有の過剰反応。俺は静電気ビリビリマシーンかっての。

「……はぃ……した」

 ガチガチに身体を強張らせ、プルプルと小刻みに震える青島。

 声が小さすぎて何言ってるかわかんねーよバーカ。マスクに全部吸収されてんじゃん防音仕様かそれ。つーか顔見て喋れ。視線を合わせらんなくてもせめてこっちの方を向け。わざわざ話しかけてやってんのに失礼だろが、俺に対して。

 いつもだったら必要最低限の会話だけして(もちろん青島にボディタッチなどしたことはない)速攻この場を去る所だが、今日は違う。肩に手を当てたまま青島との距離を縮めれば、青島がギョッとした様に身体を強張らせた。

「あ、そだ。今度同期の飲み会あるんだけど、青島さんもどう?」

「……ぃぇ、私は……」

「えー、いっつもそんなこと言って来ねえじゃん。俺もっと青島さんとオハナシしたいのに」

「……ぃぇ、わ、わたしは……」

 青島がマスクの下でモゴモゴと口籠もり、挙動不審に視線を泳がせる。いつも通りのキョドりっぷりといえばそうだが、内心いつも以上にテンパってるのだろう。
 そりゃそうだ。自分とは住む世界が違うと思ってた俺から話しかけられ触られ誘われてんだ。そーなるよな。

「あ、コレ。青島さんこのキャラ好きなの?」

「ぇ?は…はぃ…」

「こいつ人気あるよなー。つか青島さんゲームしてんの?」

 デスクの上に置いてあった多分青島のものだろうボールペンに目をつける。某大人気モンスター捕獲育成系ゲームの某メインキャラ。しかも『2018』って印字されてるから何らかのイベント限定販売されたやつっぽい。イベントにわざわざ参加して限定品ゲットだぜ!するってことは、もちろんゲームもやっているだろう。

「俺もこれ超好きー。今までのも全部やってっし。つーか最近新作出たじゃん。青島さんどっち買った?」

「…ぇ…の……」

「つーか携帯の持ってきてる?ねえ、俺と通信しよーよ」

 じりじり身体の距離を縮めると、同じ分だけ青島が距離を取ろうとする。が、肩に当てた手に力を入れて、それを阻止する。逃げたくても逃げられなくて更に震える青島に、思わず悪い笑みが零れる。何だこいつ、おっもしれ。

「……ぃぇ、もってきてな」

「ええ、そうなの?じゃあさ明日持ってきてよ」

「…ぇ、でも……」

「俺も明日持ってくるからさ。はい決定。絶対だぜ」

「…ぁ、ぁの……」

「仕事中ってのは流石にまずいから昼休憩中、あ、だめだ。俺明日出先だった。じゃあ就業後。青島さんいつも定時っしょ?俺も明日は定時で帰れそうなんだよね。あ、いつもは残業ばっかだよ?明日はたまたまね、本当に定時で帰れるなんてそうないんだから」

「…ぉ、ぉだじま君……」

「じゃ!青島さん!そういうことで、また明日ね!」

「…ぁ、ぇ」

 何か言いたそうな青島に手を振り、足早に経理部を出る。

 チョロい。チョロすぎるぞ青島。新聞の勧誘が来たら確実に契約成立するパターンだろ。野球の観戦チケットもラップも商品券も何もいらねえじゃん。

 やはり青島に目をつけた俺は間違ってはいなかった。
 重度のコミュ障である青島は、押しに弱い。内心嫌だと思っていたとしても、それを口にすることは絶対にできない。つーか誰かと会話することだけで(実際会話にすらなっていないが)一杯一杯で、断る余裕なんて青島にはない。一切ない。頭ん中パニックになって訳わからん内に会話は終了。後になって、ああ何であの時ちゃんと断れなかったんだろう…と後悔するのだ。

 ふ、ははははは。ヤバイ、笑いが止まらない。
 この調子で明日も押せば、確実にセックスに持ち込める。明日ついに童貞卒業だ!

 そう確信を深めた俺は、鼻歌まじりに営業部へと戻ったのだった。

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