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後日談
初めての喧嘩
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やっちゃった。言いすぎた。あんなこと言わなきゃ良かった。いや、もっと言ってやれば良かった。悔しい。ムカつく。信じられない。あり得ない。
最低。最悪。汚い、汚い汚い!!
胸の中が負の感情でごっちゃごちゃのぐっるぐるになって、気持ち悪い。次から次に湧いてくるどす黒い感情を吐き出してしまいたいのに、それはできず、鼻の奥や目頭に鈍い熱が籠る。
何あれ、何だったの一体。
私は脇目もふらずに早足で来た道をずんずんと進む。
庁舎を出て階段を降り、広場の噴水を横切って、露店の並ぶメインストリートを脇目もふらず通り抜ける。
さっきの出来事が、彼女の言葉が、ジョセフの顔が、ずっと頭の中で繰り返し流れ、私はわかりたくもないのに大体のことが分かってしまった。
こういう時、頭の回転が早い自分が恨めしいと思う。そして多分、それはあながち間違っていない。
「エィミ!!」
後ろから私の名前を呼ぶ声がする。その名前で呼ぶ人なんて、この世界では一人しかいないのを知っていながら、私は知らん振りして歩き続ける。
なんで追いかけてくるの?放っておいてよ。ついてこないで、どっか行って。顔も見たくない!
そう心の中で罵りながらも、追いかけてきてくれた事実に安堵し喜んでいる自分もいる。
浅ましい自分に嫌気がさして、泣きたくなる。こんな汚い感情で一杯になった私を見られたくない。
「エィミ!待って!!」
後ろから手首を捕まれ、私の身体が止まる。短く荒い呼吸が聞こえ、ジョセフが急いで追いかけてきてくれたことがわかった。
「……離して」
「駄目だ。エィミ、何か勘違いしてるよね?」
……勘違い!?一体私が何を勘違いしてるっていうの!
カッと頭に血が上って大きな声を上げたくなったが、実際に口から出たのは自分でもびっくりするぼど冷ややかな落ち着いた声だった。
「いいから、離して」
顔を見ないまま思いきり腕を振ってその手を解こうとするが、さらにぎゅっときつく握られてしまう。
「お願いだ、話を聞いてほしい」
ぐるぐるだった胸の中が更に混沌と化す。
ジョセフの切なげな声に絆されそうになる自分、絶対に言うことを聞いてやるかと反発する自分、全部なかったことにしたいと後悔する自分。ありのままのたくさんの自分が好き勝手に暴れまわって収集つかなくなって。
私は何も言えずに俯いた。
「……ここじゃあ、人の目があるから。こっちに行こう」そう言って軽く手を引かれ、私は抵抗を示す様に腕に力を籠めた。
「……そうだね。こんなみすぼらしい格好した黒髪の異民族の女と揉めてる所なんて見られたら、格好悪いもんね」
乾いた笑いと共に自嘲気味にそう言えば、ジョセフが息を呑む気配がした。罪悪感と後悔が瞬時に募る。でも、発してしまった言葉を訂正する気も起らなかった。ただ、この場からすぐにでも逃げ出したい衝動に駆られ、何もかもが嫌になった。
「……離して。もう、帰る」
「……帰る?じゃあ、今準備するからちょっと待ってて」
「いいの。一人で帰るから。ジョセフは仕事なり友達に会うなり、好きにしたらいいよ。ほら、顔なじみの女性がいるんじゃないの?」
もう夕暮れが差し迫ったこの時間に、女一人で隣町まで帰る手段なんてないに等しい。乗合馬車や商人の荷馬車に乗せてもらうにも、これからそれを探す気力はなかった。
歩いて帰る。一番手っ取り早いのはそれだ。
何時間かかるかはわからないが、意地でも一人で帰ってやる。ジョセフの手なんて絶対に借りない。私の心は頑なにそう決めていた。
ーーこれが日本だったら。
電車やタクシーに乗って帰るなり、ネカフェで朝まで過ごすなり、何とでも方法はある。そもそも外灯のおかげで夜でも明るいし、遅い時間じゃなければ女一人で出歩いても危険もない。
日本で当たり前にできていたことが、こっちでは絶対にできない。
ムカついて顔も合わせたくないと思っていても、帰るにはその彼に頼るしかないなんて。
そのどうしようもない不自由さに、知らない間に積もり積もったフラストレーションが一気に爆発した。
「……もう、やだ。帰りたい。こんな未発達で何もなくて不便で情勢も安定してないような異世界」
日本にいた時、私は一人で何でもできた。
働いてお給料もらって、一人で暮らして家事もこなして。休みの日は漫画読んだり映画見たり、大好きなパン屋に行って好きなもの買って好きなだけ食べて。肩までじっくりと温泉に浸かって疲れを癒して、ストレスが溜まったら就業後にジムに行ったりして。
そうやって暮らしてきた。一人で気ままに、やりたいように自由に。
異世界ではそれが、何もできない。
「……日本に帰りたい」
目頭が熱くなって、衝動的にそう呟いた。
ひゅっとジョセフの息を呑む音が聞こえる。
言ってはいけない言葉を吐いた自覚はある。だけど抑えられなかった。これは紛れもない今の私の本心だから。
捕まれた手首が更にきつく握られ痛みを覚える。でも、手首よりも胸の方が痛かった。掴んでいるジョセフの手も、心なしか震えている。ジョセフを傷つけてしまったかもしれない。そう思うとさらに痛みは増して、一層ジョセフの顔は見れなかった。
「……そんなこと、絶対に許さない」
ボソリと呟かれた声は、感情の読めない抑揚のないものだった。掴まれた手をぐっと引かれ、私は体勢を崩した。つんのめりながらなんとか踏ん張るも、強引にそのままどこかへと連れてかれる。
「ちょっと、待って!」と制止の声を投げ掛けても、ジョセフは一切答えてくれない。私の方を見向きもしてくれない。私の存在を無視したかのようなジョセフの後ろ姿は、私の知らない全くの別人のようにも見え、途端に言いようのない恐怖がせり上がってきた。
ーー私、この異世界に、一人ぼっちだ。
そう思ったら心が急速に冷えていき、後ろへと流れていく情景から色が消えた。
悲しすぎて、空しすぎて、涙も出ない。
色あせた世界の中で、ジョセフのマントだけが辛うじて紺色を残していた。
目的の場所はすぐ近くだったらしく、一軒の家の前でジョセフは歩みを止めた。ここはどこなのか、と外観を見る間もなくジョセフに手を引かれ家の中に押し込められる。バタンと大きな音を立てて扉が閉まり、鍵を閉めたと思ったら、私の身体は壁に強く押し付けられ、ジョセフの両腕で囲い込まれていた。
いわゆる、壁ドンだ。
あんなに夢見ていた憧れのシチュエーションだったはずなのに、私の胸がきゅんすることはない。むしろ恐怖で動悸が激しい。
お互いの鼻が付きそうなくらい顔を近付けられ、咄嗟に顔を反らした。怖くて、堪らなくて、とてもジョセフの顔を見れない。
「《ニホン》って、エィミの元いた場所だよね?今更帰りたいって、どうして?」
鼻で嗤ってから、わざと癇に障るような丁寧な口調でそう聞かれ、私は口をきつく結んだ。
「そもそも帰れるの?帰れないよね?まだ諦めてなかったの?」
えぐるようなジョセフの言葉がぐさぐさと胸に突き刺さる。誰かが『言葉はナイフだ』と表していたが、今まさにそれを実感している。
ーー胸が、痛い。
私が俯いたまま何も言えずにいると、ジョセフは呆れたように息を吐いた。反射でびくりと身体が跳ねる。
「……俺のこと嫌になった?だから帰りたいって思ったの?」
口調は優しくなったが、相変わらず声は冷たい。何も答えたくなくて、何を答えたらいいのか分からなくて、私は無言を貫いた。
「……それとも、《ニホン》に忘れられない男でもいるの?そいつのことが恋しくなった?俺を捨ててそいつの方の所へ行きたいの?」
「そんなわけない!そんな人、いない」
「本当に?」
責めるように私の言葉を疑われ、頭にカッと血が上る。
「どうしてそんな風に思うの?それは、私の台詞。忘れられない女性がいるのはそっちの方なんじゃないの?」
抑えきれずにそう声を荒げれば、頭の上でジョセフが大きなため息をついた。
「さっきのテレスティアのことだけど。……俺は嘘は言っていない。テレスティアと交際もしていないし結婚の約束だってしていない」
「どうだか。だったらなんで、彼女はそういう風に思ってたの?どうせ思わせぶりな態度を取ってたんじゃないの?やたら手繋いできたり、優しくしたり」
付き合う前の私に対するジョセフの態度を思い出して鼻がツンとした。
私にしたみたいにあの子に接していたのかもしれない。私にしたみたいにあの子に触れて、私を見るのと同じ眼差しを向けて。ーーそして、あの子と身体を繋げて。
もし本当にそうだったら、あの子が好きになるのも当然だ。あっけなく恋に落ちた、私と同じように。
そう考えたら、また胸の中がぐるぐると激しくかき回された。
ああ、嫌だ。こんなことばっかり考えてしまう自分が、本当に嫌いだ。
さっきからずっと、あの子に対する嫉妬が止まらない。
知りたくないと思いながら、全部知りたいとも思ってる。聞きたくもないのに、聞かずにはいられない。
恋に溺れて癇癪を起こしてるのは、あの子だけじゃない。私もじゃないか。
少しの沈黙の後、ジョセフが静かに口を開いた。
「……騎士の道が閉ざされて自暴自棄になってる時、この街にいたんだ。その時つるんでいた仲間の一人が商人の息子で、そいつ繋がりでテレスティアとも知り合った。テレスティアはその時からいわゆる我儘なお嬢様で、初め俺のことは眼中になかったんだけど、アークが来て俺が伯爵の弟だと分かると手のひらを返したように俺に好意を伝えてくるようになった。それを無視して屋敷に帰ってきた後も、定期的に手紙は届いたけど、一切返事はしていない。中身も見ていない」
ジョセフは確かに悪いやつらとつるんでたって言ってた。その時この街にいて、テレスティアさんとも知り合ったというのなら、話の辻褄はあっている。嘘は言ってない、と思う。
「だから、本当にテレスティアとは何もない。だけどー」
ジョセフが言葉を切って、口を閉ざす。ゆっくり一拍置いてから、「お金を貰って女性と寝たことはある」と言い切った。
「軽蔑する?」
ジョセフの問いに小さく首を横に振る。
予想はしていた。彼女の言ったことから、そうではないかと思っていた。だから、ああ、やっぱりそうかと、妙にすっきりとした気もする。
だけど、やっぱり。私の勘違いであってほしかった。聞きたくなかった。そうであってほしくなかった。
じくじくと胸が鈍く痛みを訴え、息をするのが苦しい。
「……しないよ。だけど、ごめん。今はジョセフの顔、見れない」
「嫌いになった?」
私を気遣うようなジョセフの声に、何とも言えない感情が湧いてくる。
嫌いになんてなるわけがない。そもそも、最初こそジョセフのことを童貞だと思っていたが、それはすぐに違うと気づいていた。それに、嘘をつかれていたわけでもない。私が勝手にそう思っていただけだ。
「ジョセフが私と付き合う前に誰と何をしてたかなんて、今の私には関係ないし考えても仕方ないことだから」
「本当にそう思ってる?」
そっと顎に手を当てられ、そのまま上を向かされた。見上げたジョセフの顔は逆光になって、よく見えない。そのことに不安を覚え、微かに身体が震えた。
「……え?」
「エィミは俺が以前に何をしてたかんて、どうでもいいの?」
どうでもいい訳ない。嫌だ。ものすごく嫌だ。
でも、過去のことはもう変えられないし、そのことに対して今私が色々言っても仕方ないじゃないか。
ただ、ただ私がジョセフの過去に対して嫉妬してるだけだ。
「俺はエィミが処女じゃなかったってことが、今でもまだムカついて仕方ないのに」
「え?」
「俺は、エィミを抱いた男が俺以外にいると思うだけで、目の前が真っ赤になって嫉妬でどうにかなってしまいそうなのに」
ジョセフの声が不自然に震えた。
悲しいのか、怒っているのか、それとも泣いているのか。薄明りの中、なぜか私にはジョセフの瞳が不安定にゆらゆらと揺れているのが分かった。
ーーああ、私本当に馬鹿だ。
ジョセフのことばかり責めておきながら、自分だって同じことをジョセフにしてる。ジョセフを傷つけて、ようやくそのことに気付くなんて。
本当に馬鹿すぎる。
私は日本にいる時、二人とセックスをした。
一人目は大学の時の先輩。飲み会で誘われて何となく。
二人目は社会人になって合コンで知り合った人。何回か会ったけどただそれだけ。
二人とも交際していたわけでも何でもなく、いわゆるセフレだった。向こうも私も、恋愛感情なんてものは抱いておらず、ただ身体を重ねるだけの関係。お金を貰って女性を抱いたことがあるといったジョセフを責める資格なんてない。私だって同じくらい、いやそれ以上に軽蔑されてもおかしくないじゃないか。
「俺は最低だ。エィミが自分の故郷に帰れなくて泣いているのに、俺はそのことを喜んでいるんだから。だって、エィミを抱いた男にはもう二度と会えない。この世界でエィミを抱いたことがあるのは俺だけだ。その事実があるからこそ、俺は平静でいられる。醜い嫉妬だって自分でも分かってる。だけど、エィミの可愛い顔を知ってるのは俺だけじゃないと嫌なんだ。ルーシー達にだって見せたくない。俺の前でだけ笑ってほしい。……呆れた?」
「ジョセフ」
「いつまでたっても俺は独占欲丸出しのガキのまんまで、エィミみたいに割り切れない」
ジョセフが目を伏せ、一歩下がると同時に掴んでいた手を離す。まるでこのままどこかへ行ってしまいそうで、私は追いかけるように離れたジョセフの手首をぎゅっと掴んだ。
「ほ、本当は」
私とは全然違う、筋肉の盛り上がった逞しいジョセフの腕。いつも私を守ってくれて優しく包んでくれるその腕を見つめながら、私は祈る様に口を開いた。
「私だって、嫌だ。ジョセフがいつも私を抱くように他の誰かを抱いてたなんて、想像もしたくない。なのに、さっきからそのことばっかり考えちゃって。嫉妬が止まらなくって。今、ジョセフが好きなのは私だってわかってても、どうしても嫌で」
溜め込んだ思いが流れ出て行く。こんな子供っぽくて女々しい自分を認めたくなくて、ジョセフに知られたくなくて、声が震える。だけど、一度溢れたものは、もう止まらない。
「ジョセフが私以外の人を好きになって、私以外の人に愛を囁いて、優しく触れて、とか。もう、やだ。やだ!この先だって!もし、私のことが好きじゃなくなって、愛想つかされて、他の人の所に行っちゃったら。……そしたら私、一人になっちゃう。どうやって異世界で生きていけばいいのか、わかんない。私には、ジョセフしかいないのに。ジョセフがいないと、生きていけない。……こんな、ジョセフに依存してる自分なんて、嫌だ」
「エィミ」
そっと頬に手を当てられ、優しく指でなぞられる。そのことで、初めて自分が泣いてることに気付いた。
こうやって、すぐ泣くのも嫌だ。
日本にいた時は感動する映画を見た時だって泣かなかった。なのに私は異世界に来てからというもの泣いてばかりだ。ジョセフに甘えて縋って。まるで、浅ましい女の典型じゃないか。
ジョセフが私を弱くする。ジョセフのせいで私は、前みたいに一人で立つことができなくなった。
俯いた私に目線を合わせるようにジョセフがかがみ、二人の視線が交差する。
目の前のジョセフは、目を潤ませてとろけるような笑みを浮かべて私を見つめていた。
「ごめん。俺、嬉しくって死にそうだ」
「え?」
「エィミが嫉妬してくれるほど俺のことを好きになってくれて、俺のことを必要としてくれて。なんか、夢みたいだ」
ジョセフが堪えきれないとばかりに頬を弛めている。本当に嬉しいんだと、そう言っている。
「……呆れないの?」
「何で?」
「昔のことに嫉妬するとか、面倒だと思わないの?」
しかも、さっきなんて実際には関係がなかった少女に対して、対抗心剥き出しでみっともなく言い募ってしまった。
罪悪感と後悔で眉を顰めれば、ジョセフが小さく笑った。
「俺の話聞いてなかった?俺はエィミを抱く度に以前の男のこと殺したくなるほど嫉妬してるって。俺の方がかなり嫉妬深くて面倒くさいと思うけど」
くすくすと笑いながら、両手を私の背中に回し優しく抱きしめられる。
「でも、エィミはもう俺から逃げられないよ。ずっと俺と、この世界で。一生一緒に暮らしていくんだ。だから、諦めて?」
最低。最悪。汚い、汚い汚い!!
胸の中が負の感情でごっちゃごちゃのぐっるぐるになって、気持ち悪い。次から次に湧いてくるどす黒い感情を吐き出してしまいたいのに、それはできず、鼻の奥や目頭に鈍い熱が籠る。
何あれ、何だったの一体。
私は脇目もふらずに早足で来た道をずんずんと進む。
庁舎を出て階段を降り、広場の噴水を横切って、露店の並ぶメインストリートを脇目もふらず通り抜ける。
さっきの出来事が、彼女の言葉が、ジョセフの顔が、ずっと頭の中で繰り返し流れ、私はわかりたくもないのに大体のことが分かってしまった。
こういう時、頭の回転が早い自分が恨めしいと思う。そして多分、それはあながち間違っていない。
「エィミ!!」
後ろから私の名前を呼ぶ声がする。その名前で呼ぶ人なんて、この世界では一人しかいないのを知っていながら、私は知らん振りして歩き続ける。
なんで追いかけてくるの?放っておいてよ。ついてこないで、どっか行って。顔も見たくない!
そう心の中で罵りながらも、追いかけてきてくれた事実に安堵し喜んでいる自分もいる。
浅ましい自分に嫌気がさして、泣きたくなる。こんな汚い感情で一杯になった私を見られたくない。
「エィミ!待って!!」
後ろから手首を捕まれ、私の身体が止まる。短く荒い呼吸が聞こえ、ジョセフが急いで追いかけてきてくれたことがわかった。
「……離して」
「駄目だ。エィミ、何か勘違いしてるよね?」
……勘違い!?一体私が何を勘違いしてるっていうの!
カッと頭に血が上って大きな声を上げたくなったが、実際に口から出たのは自分でもびっくりするぼど冷ややかな落ち着いた声だった。
「いいから、離して」
顔を見ないまま思いきり腕を振ってその手を解こうとするが、さらにぎゅっときつく握られてしまう。
「お願いだ、話を聞いてほしい」
ぐるぐるだった胸の中が更に混沌と化す。
ジョセフの切なげな声に絆されそうになる自分、絶対に言うことを聞いてやるかと反発する自分、全部なかったことにしたいと後悔する自分。ありのままのたくさんの自分が好き勝手に暴れまわって収集つかなくなって。
私は何も言えずに俯いた。
「……ここじゃあ、人の目があるから。こっちに行こう」そう言って軽く手を引かれ、私は抵抗を示す様に腕に力を籠めた。
「……そうだね。こんなみすぼらしい格好した黒髪の異民族の女と揉めてる所なんて見られたら、格好悪いもんね」
乾いた笑いと共に自嘲気味にそう言えば、ジョセフが息を呑む気配がした。罪悪感と後悔が瞬時に募る。でも、発してしまった言葉を訂正する気も起らなかった。ただ、この場からすぐにでも逃げ出したい衝動に駆られ、何もかもが嫌になった。
「……離して。もう、帰る」
「……帰る?じゃあ、今準備するからちょっと待ってて」
「いいの。一人で帰るから。ジョセフは仕事なり友達に会うなり、好きにしたらいいよ。ほら、顔なじみの女性がいるんじゃないの?」
もう夕暮れが差し迫ったこの時間に、女一人で隣町まで帰る手段なんてないに等しい。乗合馬車や商人の荷馬車に乗せてもらうにも、これからそれを探す気力はなかった。
歩いて帰る。一番手っ取り早いのはそれだ。
何時間かかるかはわからないが、意地でも一人で帰ってやる。ジョセフの手なんて絶対に借りない。私の心は頑なにそう決めていた。
ーーこれが日本だったら。
電車やタクシーに乗って帰るなり、ネカフェで朝まで過ごすなり、何とでも方法はある。そもそも外灯のおかげで夜でも明るいし、遅い時間じゃなければ女一人で出歩いても危険もない。
日本で当たり前にできていたことが、こっちでは絶対にできない。
ムカついて顔も合わせたくないと思っていても、帰るにはその彼に頼るしかないなんて。
そのどうしようもない不自由さに、知らない間に積もり積もったフラストレーションが一気に爆発した。
「……もう、やだ。帰りたい。こんな未発達で何もなくて不便で情勢も安定してないような異世界」
日本にいた時、私は一人で何でもできた。
働いてお給料もらって、一人で暮らして家事もこなして。休みの日は漫画読んだり映画見たり、大好きなパン屋に行って好きなもの買って好きなだけ食べて。肩までじっくりと温泉に浸かって疲れを癒して、ストレスが溜まったら就業後にジムに行ったりして。
そうやって暮らしてきた。一人で気ままに、やりたいように自由に。
異世界ではそれが、何もできない。
「……日本に帰りたい」
目頭が熱くなって、衝動的にそう呟いた。
ひゅっとジョセフの息を呑む音が聞こえる。
言ってはいけない言葉を吐いた自覚はある。だけど抑えられなかった。これは紛れもない今の私の本心だから。
捕まれた手首が更にきつく握られ痛みを覚える。でも、手首よりも胸の方が痛かった。掴んでいるジョセフの手も、心なしか震えている。ジョセフを傷つけてしまったかもしれない。そう思うとさらに痛みは増して、一層ジョセフの顔は見れなかった。
「……そんなこと、絶対に許さない」
ボソリと呟かれた声は、感情の読めない抑揚のないものだった。掴まれた手をぐっと引かれ、私は体勢を崩した。つんのめりながらなんとか踏ん張るも、強引にそのままどこかへと連れてかれる。
「ちょっと、待って!」と制止の声を投げ掛けても、ジョセフは一切答えてくれない。私の方を見向きもしてくれない。私の存在を無視したかのようなジョセフの後ろ姿は、私の知らない全くの別人のようにも見え、途端に言いようのない恐怖がせり上がってきた。
ーー私、この異世界に、一人ぼっちだ。
そう思ったら心が急速に冷えていき、後ろへと流れていく情景から色が消えた。
悲しすぎて、空しすぎて、涙も出ない。
色あせた世界の中で、ジョセフのマントだけが辛うじて紺色を残していた。
目的の場所はすぐ近くだったらしく、一軒の家の前でジョセフは歩みを止めた。ここはどこなのか、と外観を見る間もなくジョセフに手を引かれ家の中に押し込められる。バタンと大きな音を立てて扉が閉まり、鍵を閉めたと思ったら、私の身体は壁に強く押し付けられ、ジョセフの両腕で囲い込まれていた。
いわゆる、壁ドンだ。
あんなに夢見ていた憧れのシチュエーションだったはずなのに、私の胸がきゅんすることはない。むしろ恐怖で動悸が激しい。
お互いの鼻が付きそうなくらい顔を近付けられ、咄嗟に顔を反らした。怖くて、堪らなくて、とてもジョセフの顔を見れない。
「《ニホン》って、エィミの元いた場所だよね?今更帰りたいって、どうして?」
鼻で嗤ってから、わざと癇に障るような丁寧な口調でそう聞かれ、私は口をきつく結んだ。
「そもそも帰れるの?帰れないよね?まだ諦めてなかったの?」
えぐるようなジョセフの言葉がぐさぐさと胸に突き刺さる。誰かが『言葉はナイフだ』と表していたが、今まさにそれを実感している。
ーー胸が、痛い。
私が俯いたまま何も言えずにいると、ジョセフは呆れたように息を吐いた。反射でびくりと身体が跳ねる。
「……俺のこと嫌になった?だから帰りたいって思ったの?」
口調は優しくなったが、相変わらず声は冷たい。何も答えたくなくて、何を答えたらいいのか分からなくて、私は無言を貫いた。
「……それとも、《ニホン》に忘れられない男でもいるの?そいつのことが恋しくなった?俺を捨ててそいつの方の所へ行きたいの?」
「そんなわけない!そんな人、いない」
「本当に?」
責めるように私の言葉を疑われ、頭にカッと血が上る。
「どうしてそんな風に思うの?それは、私の台詞。忘れられない女性がいるのはそっちの方なんじゃないの?」
抑えきれずにそう声を荒げれば、頭の上でジョセフが大きなため息をついた。
「さっきのテレスティアのことだけど。……俺は嘘は言っていない。テレスティアと交際もしていないし結婚の約束だってしていない」
「どうだか。だったらなんで、彼女はそういう風に思ってたの?どうせ思わせぶりな態度を取ってたんじゃないの?やたら手繋いできたり、優しくしたり」
付き合う前の私に対するジョセフの態度を思い出して鼻がツンとした。
私にしたみたいにあの子に接していたのかもしれない。私にしたみたいにあの子に触れて、私を見るのと同じ眼差しを向けて。ーーそして、あの子と身体を繋げて。
もし本当にそうだったら、あの子が好きになるのも当然だ。あっけなく恋に落ちた、私と同じように。
そう考えたら、また胸の中がぐるぐると激しくかき回された。
ああ、嫌だ。こんなことばっかり考えてしまう自分が、本当に嫌いだ。
さっきからずっと、あの子に対する嫉妬が止まらない。
知りたくないと思いながら、全部知りたいとも思ってる。聞きたくもないのに、聞かずにはいられない。
恋に溺れて癇癪を起こしてるのは、あの子だけじゃない。私もじゃないか。
少しの沈黙の後、ジョセフが静かに口を開いた。
「……騎士の道が閉ざされて自暴自棄になってる時、この街にいたんだ。その時つるんでいた仲間の一人が商人の息子で、そいつ繋がりでテレスティアとも知り合った。テレスティアはその時からいわゆる我儘なお嬢様で、初め俺のことは眼中になかったんだけど、アークが来て俺が伯爵の弟だと分かると手のひらを返したように俺に好意を伝えてくるようになった。それを無視して屋敷に帰ってきた後も、定期的に手紙は届いたけど、一切返事はしていない。中身も見ていない」
ジョセフは確かに悪いやつらとつるんでたって言ってた。その時この街にいて、テレスティアさんとも知り合ったというのなら、話の辻褄はあっている。嘘は言ってない、と思う。
「だから、本当にテレスティアとは何もない。だけどー」
ジョセフが言葉を切って、口を閉ざす。ゆっくり一拍置いてから、「お金を貰って女性と寝たことはある」と言い切った。
「軽蔑する?」
ジョセフの問いに小さく首を横に振る。
予想はしていた。彼女の言ったことから、そうではないかと思っていた。だから、ああ、やっぱりそうかと、妙にすっきりとした気もする。
だけど、やっぱり。私の勘違いであってほしかった。聞きたくなかった。そうであってほしくなかった。
じくじくと胸が鈍く痛みを訴え、息をするのが苦しい。
「……しないよ。だけど、ごめん。今はジョセフの顔、見れない」
「嫌いになった?」
私を気遣うようなジョセフの声に、何とも言えない感情が湧いてくる。
嫌いになんてなるわけがない。そもそも、最初こそジョセフのことを童貞だと思っていたが、それはすぐに違うと気づいていた。それに、嘘をつかれていたわけでもない。私が勝手にそう思っていただけだ。
「ジョセフが私と付き合う前に誰と何をしてたかなんて、今の私には関係ないし考えても仕方ないことだから」
「本当にそう思ってる?」
そっと顎に手を当てられ、そのまま上を向かされた。見上げたジョセフの顔は逆光になって、よく見えない。そのことに不安を覚え、微かに身体が震えた。
「……え?」
「エィミは俺が以前に何をしてたかんて、どうでもいいの?」
どうでもいい訳ない。嫌だ。ものすごく嫌だ。
でも、過去のことはもう変えられないし、そのことに対して今私が色々言っても仕方ないじゃないか。
ただ、ただ私がジョセフの過去に対して嫉妬してるだけだ。
「俺はエィミが処女じゃなかったってことが、今でもまだムカついて仕方ないのに」
「え?」
「俺は、エィミを抱いた男が俺以外にいると思うだけで、目の前が真っ赤になって嫉妬でどうにかなってしまいそうなのに」
ジョセフの声が不自然に震えた。
悲しいのか、怒っているのか、それとも泣いているのか。薄明りの中、なぜか私にはジョセフの瞳が不安定にゆらゆらと揺れているのが分かった。
ーーああ、私本当に馬鹿だ。
ジョセフのことばかり責めておきながら、自分だって同じことをジョセフにしてる。ジョセフを傷つけて、ようやくそのことに気付くなんて。
本当に馬鹿すぎる。
私は日本にいる時、二人とセックスをした。
一人目は大学の時の先輩。飲み会で誘われて何となく。
二人目は社会人になって合コンで知り合った人。何回か会ったけどただそれだけ。
二人とも交際していたわけでも何でもなく、いわゆるセフレだった。向こうも私も、恋愛感情なんてものは抱いておらず、ただ身体を重ねるだけの関係。お金を貰って女性を抱いたことがあるといったジョセフを責める資格なんてない。私だって同じくらい、いやそれ以上に軽蔑されてもおかしくないじゃないか。
「俺は最低だ。エィミが自分の故郷に帰れなくて泣いているのに、俺はそのことを喜んでいるんだから。だって、エィミを抱いた男にはもう二度と会えない。この世界でエィミを抱いたことがあるのは俺だけだ。その事実があるからこそ、俺は平静でいられる。醜い嫉妬だって自分でも分かってる。だけど、エィミの可愛い顔を知ってるのは俺だけじゃないと嫌なんだ。ルーシー達にだって見せたくない。俺の前でだけ笑ってほしい。……呆れた?」
「ジョセフ」
「いつまでたっても俺は独占欲丸出しのガキのまんまで、エィミみたいに割り切れない」
ジョセフが目を伏せ、一歩下がると同時に掴んでいた手を離す。まるでこのままどこかへ行ってしまいそうで、私は追いかけるように離れたジョセフの手首をぎゅっと掴んだ。
「ほ、本当は」
私とは全然違う、筋肉の盛り上がった逞しいジョセフの腕。いつも私を守ってくれて優しく包んでくれるその腕を見つめながら、私は祈る様に口を開いた。
「私だって、嫌だ。ジョセフがいつも私を抱くように他の誰かを抱いてたなんて、想像もしたくない。なのに、さっきからそのことばっかり考えちゃって。嫉妬が止まらなくって。今、ジョセフが好きなのは私だってわかってても、どうしても嫌で」
溜め込んだ思いが流れ出て行く。こんな子供っぽくて女々しい自分を認めたくなくて、ジョセフに知られたくなくて、声が震える。だけど、一度溢れたものは、もう止まらない。
「ジョセフが私以外の人を好きになって、私以外の人に愛を囁いて、優しく触れて、とか。もう、やだ。やだ!この先だって!もし、私のことが好きじゃなくなって、愛想つかされて、他の人の所に行っちゃったら。……そしたら私、一人になっちゃう。どうやって異世界で生きていけばいいのか、わかんない。私には、ジョセフしかいないのに。ジョセフがいないと、生きていけない。……こんな、ジョセフに依存してる自分なんて、嫌だ」
「エィミ」
そっと頬に手を当てられ、優しく指でなぞられる。そのことで、初めて自分が泣いてることに気付いた。
こうやって、すぐ泣くのも嫌だ。
日本にいた時は感動する映画を見た時だって泣かなかった。なのに私は異世界に来てからというもの泣いてばかりだ。ジョセフに甘えて縋って。まるで、浅ましい女の典型じゃないか。
ジョセフが私を弱くする。ジョセフのせいで私は、前みたいに一人で立つことができなくなった。
俯いた私に目線を合わせるようにジョセフがかがみ、二人の視線が交差する。
目の前のジョセフは、目を潤ませてとろけるような笑みを浮かべて私を見つめていた。
「ごめん。俺、嬉しくって死にそうだ」
「え?」
「エィミが嫉妬してくれるほど俺のことを好きになってくれて、俺のことを必要としてくれて。なんか、夢みたいだ」
ジョセフが堪えきれないとばかりに頬を弛めている。本当に嬉しいんだと、そう言っている。
「……呆れないの?」
「何で?」
「昔のことに嫉妬するとか、面倒だと思わないの?」
しかも、さっきなんて実際には関係がなかった少女に対して、対抗心剥き出しでみっともなく言い募ってしまった。
罪悪感と後悔で眉を顰めれば、ジョセフが小さく笑った。
「俺の話聞いてなかった?俺はエィミを抱く度に以前の男のこと殺したくなるほど嫉妬してるって。俺の方がかなり嫉妬深くて面倒くさいと思うけど」
くすくすと笑いながら、両手を私の背中に回し優しく抱きしめられる。
「でも、エィミはもう俺から逃げられないよ。ずっと俺と、この世界で。一生一緒に暮らしていくんだ。だから、諦めて?」
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