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8年前④
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多くの旅人や商人などが訪れるこの町で人気の大衆食堂兼宿屋「ヒバリ亭」は明るくおおらかな女将と寡黙だが料理の腕は確かなマスタ一と最近結婚したばかりの娘夫婦で切り盛りしている。
1階は食堂。2階は宿となっておりその部屋のひとつをアルフェンら兄弟が借りていたのだが……
「これは・・・酷いな・・・」
いつもは綺麗に片づけられている部屋は壁紙が剥がれ、備え付けの椅子や机はひっくり返され、見るも無惨な姿に変貌している。
「ザルツマンが部屋を荒らしているとは聞いてたけど、ここまで酷いとは・・・壁紙破れているし、家具まで壊しちまいやがって・・・兄さん何探してんの?」
ボロボロになった部屋の中でアルフェンはゴソゴソと何かを探していた。
「・・・・あった!!よかった・・・」
散らばった床から何かを探していたアルフェンは上品な革で作られた手のひらサイズの手帳を見つけだし安堵する。
「兄さんそれ・・・」
「……母さんの日記だよ。」
「やっっぱり・・・」
自分達を造りだした錬金術師の名前を久々に聞いてヴァルトは眉間にしわを寄せる。
「・・・・そういう顔しないの。」
「・・・わかってるよ。」
ここ数年、母親の名前を聞いただけでも不機嫌な顔をするヴァルトにアルフェンは苦笑しつつ、散らばった本を拾い集めパラパラとぺ一ジをめくって破られたり抜き取られたところはないか確認する。
「・・・・よし、大丈夫だ。」
「日記だけじゃなく医学書や薬草学の本は無事みたいだな。」
「・・・・・・・」
「どうしたの兄さん?変な顔して・・」
「・・・僕の下着がない。」
「はあっ!?」
「・・・本と一緒に服が散乱していたんですけどさ、僕の下着だけがなくなっているんだよ・・・」
「アイツ、変態かよ・・・」
「ここまで酷いとは………」
ザルツマンの行為にアルフェンとヴァルトはお互いに呆れと嫌悪の入り混じった表情でヒクヒクと顔を引き攣らせた。
「兄さん、兄さん。」
いつの間にか近くにきていた末弟のリュ一クがクイクイとアルフェンの服の裾をひく。
「どうしたんだいリュ一ク?」
「お部屋の中にこれがおちてたよ。」
そう言ってリュ一クが見せたのは、銀細工で作られた花の首飾りだった。
「リュ一クこれ、どこにあったんだい?」
「ドアの近くに落ちてた。」
「何だこれ?花か?見たことないなあ。」
花破片が細く反り返ったその花はあまりみたことがない品種だ。
「なんか百合の花に似ているけど、ちょっと違うよな・・」
「今度、花の種類に詳しいギルド長かシシイに聞いてみよう。とりあえずこれは自警団に預けるよ。」
「わかった。」
数分後、女将さんが呼んだ自警団の団員がやってきて、事情を話したあと、首飾りを団員の1人に託した。
シシイが「ヒバリ亭」に着いた時にはすでに店の前はすでに野次馬でごった返していた。その野次馬の中にいる人物を見つけ思わず声をあげた。
「あっ、アイツ・・・・」
スッと整った鼻立ち、鋭いアイスブルーの切れ長の瞳に毛先が少しカールした金色の髪を持つ細身の男が店を睨んでいた。
その男こそ先代領主の次男で現領主の異母弟ザルツマン・グラースである。
10年ぶりに戻ってきて、シシイの友人であるアルフェンに訳の分からない言いがかりをつけては絡んでくる男はザワザワと騒がしい人の波の中で親の仇でも見るような目で「ヒバリ亭」を睨みつけていた。
ーーアレは店を通してアルフェンを睨んでいるつもりなのかしら。
やがて、紅でも塗ったかのように艶のある唇がゆっくりと開いた。
「 」
「っ・・・・・・・・!?」
その瞬間、背中にゾワリと氷の様に冷たい衝撃が走った。 そしていつの間にかザルツマンの姿は人込みの中から消えてしまっていた。
―――アイツ、思ったよりもヤバすぎるでしょう。
ザルツマンの異常さに戦慄し、シシイは自分の身体を抱きしめた。
「アルフェンあんた・・・とんでもないヤツに目を着けられたわね・・・」
1階は食堂。2階は宿となっておりその部屋のひとつをアルフェンら兄弟が借りていたのだが……
「これは・・・酷いな・・・」
いつもは綺麗に片づけられている部屋は壁紙が剥がれ、備え付けの椅子や机はひっくり返され、見るも無惨な姿に変貌している。
「ザルツマンが部屋を荒らしているとは聞いてたけど、ここまで酷いとは・・・壁紙破れているし、家具まで壊しちまいやがって・・・兄さん何探してんの?」
ボロボロになった部屋の中でアルフェンはゴソゴソと何かを探していた。
「・・・・あった!!よかった・・・」
散らばった床から何かを探していたアルフェンは上品な革で作られた手のひらサイズの手帳を見つけだし安堵する。
「兄さんそれ・・・」
「……母さんの日記だよ。」
「やっっぱり・・・」
自分達を造りだした錬金術師の名前を久々に聞いてヴァルトは眉間にしわを寄せる。
「・・・・そういう顔しないの。」
「・・・わかってるよ。」
ここ数年、母親の名前を聞いただけでも不機嫌な顔をするヴァルトにアルフェンは苦笑しつつ、散らばった本を拾い集めパラパラとぺ一ジをめくって破られたり抜き取られたところはないか確認する。
「・・・・よし、大丈夫だ。」
「日記だけじゃなく医学書や薬草学の本は無事みたいだな。」
「・・・・・・・」
「どうしたの兄さん?変な顔して・・」
「・・・僕の下着がない。」
「はあっ!?」
「・・・本と一緒に服が散乱していたんですけどさ、僕の下着だけがなくなっているんだよ・・・」
「アイツ、変態かよ・・・」
「ここまで酷いとは………」
ザルツマンの行為にアルフェンとヴァルトはお互いに呆れと嫌悪の入り混じった表情でヒクヒクと顔を引き攣らせた。
「兄さん、兄さん。」
いつの間にか近くにきていた末弟のリュ一クがクイクイとアルフェンの服の裾をひく。
「どうしたんだいリュ一ク?」
「お部屋の中にこれがおちてたよ。」
そう言ってリュ一クが見せたのは、銀細工で作られた花の首飾りだった。
「リュ一クこれ、どこにあったんだい?」
「ドアの近くに落ちてた。」
「何だこれ?花か?見たことないなあ。」
花破片が細く反り返ったその花はあまりみたことがない品種だ。
「なんか百合の花に似ているけど、ちょっと違うよな・・」
「今度、花の種類に詳しいギルド長かシシイに聞いてみよう。とりあえずこれは自警団に預けるよ。」
「わかった。」
数分後、女将さんが呼んだ自警団の団員がやってきて、事情を話したあと、首飾りを団員の1人に託した。
シシイが「ヒバリ亭」に着いた時にはすでに店の前はすでに野次馬でごった返していた。その野次馬の中にいる人物を見つけ思わず声をあげた。
「あっ、アイツ・・・・」
スッと整った鼻立ち、鋭いアイスブルーの切れ長の瞳に毛先が少しカールした金色の髪を持つ細身の男が店を睨んでいた。
その男こそ先代領主の次男で現領主の異母弟ザルツマン・グラースである。
10年ぶりに戻ってきて、シシイの友人であるアルフェンに訳の分からない言いがかりをつけては絡んでくる男はザワザワと騒がしい人の波の中で親の仇でも見るような目で「ヒバリ亭」を睨みつけていた。
ーーアレは店を通してアルフェンを睨んでいるつもりなのかしら。
やがて、紅でも塗ったかのように艶のある唇がゆっくりと開いた。
「 」
「っ・・・・・・・・!?」
その瞬間、背中にゾワリと氷の様に冷たい衝撃が走った。 そしていつの間にかザルツマンの姿は人込みの中から消えてしまっていた。
―――アイツ、思ったよりもヤバすぎるでしょう。
ザルツマンの異常さに戦慄し、シシイは自分の身体を抱きしめた。
「アルフェンあんた・・・とんでもないヤツに目を着けられたわね・・・」
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