理由なき悪意

keima

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  時は戻って現在
 
「・・・・・・・」


「兄さん、遠い目しているけどどうしたの?」

 薬を塗布している間、昔の記憶に浸っていたアルフェンはヴァルトの声でハッと記憶の海から現実にあがってきた。

「いや、昔のことを思い出してね・・・」

「・・・・ひょっとしてあの変態クソ野郎のことか?」

「変態クソ野郎って……まあ、否定はしないけど。」

「だってあの変態、兄さんだけじゃなく他の人達にまで迷惑かけてたじゃねぇかよ。」

 自警団に被害届をだしたあと『ヒバリ亭』の大将と女将は部屋を滅茶苦茶にしたザルツマンに憤慨し、彼らもまた被害届を出し兄である領主にも報告した。

 報告を聞いた領主がアルフェンや『ヒバリ亭』の大将のもとを訪れ、地面に頭をつけて謝罪(東の大陸ではこれはドゲザと言うらしい)し、異母弟の代わりに慰謝料と部屋の修繕費を払ってもらった。

「領主様には気の毒な事をしたよね。」

「気の毒と言うか、あの変態のせいで割を食って可哀想とは思うよ。」

 実家に戻ってからもザルツマンは好き勝手して領主である異母兄を困らせてばかりいた。あの日、兄弟の下宿先に襲来する直前、異母兄である領主と揉めていたザルツマンは怒りのままに屋敷から出ていった。

「出ていった直後に『ヒバリ亭』の僕達の部屋を漁ったらしいよ。」

「何でそこで俺達の部屋を漁るって考えになったんだよ。変態の考えてることってわかんないなぁ・・・でも、まさかアイツが過激派集団の一員だったとはな。」

 ザルツマンの襲撃の翌日、自警団の団長から部屋の中でみつかった首飾りが今、王都や各地で騒がれている過激派集団『あの日の約束』の信者の証であることが判明した。

『あの日の約束』は東の大陸に伝わる「輪廻転生」の思想を信仰する者が集まった宗教団体で、当初は『リコリスの華教』として「輪廻転生」を語っていたが、次第に彼らは
「自分は前世の記憶をもっている。」
 と言い出すようになり、次第に 
「自分達が世界の中心である」「自分達は特別な存在である」
 と語り出すようになり、やがて『リコリスの華教』から『あの日の約束』に名称を変え、強盗、略奪、殺人などに手を染めるようになり、最近では教会の最高神職者の暗殺を企むなどその行動はエスカレートしてきていた。

「アイツ、自分の両親が亡くなってから「自分は前世の記憶がある」とか言い出したんだよな。」

「そうみたいだね。ザルツマンあの人の幼なじみだった副ギルド長曰く、『自分はとある国の王子様だ!!』って言っていたらしいよ。」

 ーー昔のアイツは明るくてお人好しで、平民の俺たちと一緒に遊んでいたんだけど、10年前に馬車の事故でザルツマンアイツは頭に傷を負っただけで済んだけど、先代の領主様と奥様が亡くなったんだよ。それからかな?アイツが変わったのは。
 事故に遭ってから、自分の思い通りにならないと癇癪を起こし暴れたり、平民俺たちを見下したり、更には慕っていた今の領民様自分の兄上までも蔑むようになって、以前とは別人になったアイツをみんな避けるようになったんだよ。
 その直後かな、アイツ「自分は前世、ある国の王子だったが、悪を倒すために戦っていたが、志半ばで死んでしまったんだ。」って言いだしたんだ。そんな話誰も信じなかった。もちろん俺も。その後、アイツ領地を出て王都に行っちまって、風の噂で新興宗教の信者になったってことは聞いていたけど、あそこまでひどくなっていたなんて……

 ザルツマンから嫌がらせを受けているとギルド長に報告したとき、その隣で話を聞いていた副ギルド長は頭を抱えながらそう教えてくれた。

「ふーん……でも、何であの変態はアルフェン兄さんの事を「悪魔の化身」て言って目の敵にしてたんだ?」

「さぁ、それは今でもわからないよ。ただ、あの後シシイが僕のところに来て教えてくれたんだけど…シシイ、あの男を占ったみたいでそれがあまりいいものではなかったみたいなんだよ。」

 ーーちょっとアルフェン!あの男ヤバいわよ。誰がって?ホラッ、領主様の異母弟。さっきあの男を占いで見てみたんだけど最悪よ最悪!!悪い星が2つも出ているんだから。 
 おまけにあの男、この前『ヒバリ亭』のアンタたちの部屋を襲撃したとき。『ヒバリ亭』みせの前に来てたのよ。そのときあの男……………わらっていたの。
 アンタが苦しんでいるのを想像して嗤っていたのよ。 
  もう、ほんっと気持ち悪いって言うか、恐かったんだから。
 あの男、か~な~り~ヤバいわよ!!何考えてんのかわかんない表情かおしているし、
アルフェンあんたあの男にかかわらないほうがいいわよ!!
 えっ?向こうから絡んでくる? 徹底的に避けなさい。て言うか逃げろ。
 そもそも、何の接点もかかわりのないアンタを一方的に嫌って絡んでくるなんておかしいでしょう。何か魂胆か意図があるハズよ!! 
 とにかく徹底的に逃げなさい。わかった?



「何かの意図って・・・何だ?」

「いや、シシイもそこまではわからなかったみたい。でも……ひとつだけ分かっているのは、僕の背中の火傷コレ、故意にやるつもりはなかったんじゃないかなって思うんだ。」

「故意じゃないって・・・でもアイツは・・・・」

「ヴァルトの言いたいことはわかるよ………確かに、あの男はやり過ぎた。」

 ギュッといつの間にか握りしめていた拳に力が入る。
  
「ヴァルト、僕はね……あの男に何を言われても平気だった。どんなに暴言を吐かれても、ぶつかられたりしても気にしないようにしてた。」

 そもそも、友人でも何でもない上、自分を嫌っているザルツマンと親しくするつもりはないし、絡みたいとも思わなかったので、シシイの忠告通りザルツマンに関わらないようにしてきた。 


ーーあの日、あの事件が起きるまでは………







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