捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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復讐

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 エドワードは、リチャードから託された蝋管を携え、自国へと舞い戻った。

 エドワード自身は不休で、馬を乗り継ぎ疾走したが、太陽は既に正中を過ぎている。

 ここへ来て、エミリアが先に提案した「線路」の重要性を噛みしめる。

 馬には限界がある。

 鉄道が導入されれば、どれほどの威力が発揮されるか。

 自国で自由に鉄道を敷ける、地の利は利便性を最大限に生かす手段の一つだと、今更ながらに思い知った。

(この差は大きいね……貴女って女性は)

 王都に辿り着いた時には、偉丈夫のエドワードも困憊を極めていた。

 だが、悠長に休息を取っている暇はない。

 三日ぶりの帰城に、家臣は元より、父のロズウェルドまで、首を揃えてエドワードの帰りを待ち構えていた。

 ヴォルティア城に潜ませた配下から報告を受けていたが、今回は相当な大事になっているようだ。

 直ぐに執務室に呼ばれる。

「だから、私は反対だったのです。隣国の王妃なんて……」

 厄介ごとの種にしかならないのに。と、滅多に執務室に同席しないソーニャがぼやく。

「私の暴力について、あちらから何か書状が届きましたか?」

「やはり、事実だったのか。お前が軽はずみにヴォルティア王を殴ったとは信じていないが」

 ロズウェルドは嘆息した。同席した宰相も小さく同意する。

「ありがとうございます。先ずはその信頼に感謝致します。書簡を見せて頂けますか」

「うむ」

 ロズウェルドが書簡をエドワードに渡す。

 王直筆のサインが記された、ヴォルティア国王の使者からの書状だ。

 軽く目を通すと、国王フィリップへ対する侮辱、及び暴力行為。

 ヴォルティア王妃エミリアに対する暴行の罪で、エドワードに以下の処罰を求める、旨が書かれていた。

 こちらから送ったエミリアの離婚については一言も触れられていない。

「暴力をふるったのは、確かに私の落度です。しかし、理由があります。ヴォルティア国王は殴られても仕方ないほ
どの罪を犯しました」

 ロズウェルドは首肯した。

「申し開きを聞こう」

 エドワードは胸元にしまい込んだ細長い筒を取り出した。

 中身は保護されており、中心から伸びた棒で上下を固定してあった。

「蓄音機を持って来てくれ」

 控えていた執事が慌てて退室する。

「それは、なんですの?」

 一見だけでは何の道具か判別がつかなかったソーニャが尋ねる。

「これは蝋管です。城には音楽家が常駐しているので、あまり見慣れていないでしょうが、音を刻む道具です」

「音を?」

「はい。ここに、私が何故ヴォルティア国王に暴力をふるったかの、一部始終が収められています」

 説明を聞いても、ソーニャはいまいちピンと来ていないようだった。

「どうであったか私が語るより、こちらを聞いて頂くほうが早いでしょう」

 エドワードは蓄音機の到着を待ち、蝋管をセットした。

 ゼンマイを回すと、女性と男性の話声――

 エミリアとフィリップの会話が再生された。

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