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復讐
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音声の再生が終わり、深紅の絨毯の上に、沈黙が立ち込めた。
エドワードは一部始終を把握していたのに、エミリアとヴォルティア国王フィリップとの会話は表面上は穏やかながら、内容は、耳を塞ぎたくなるものだった。
改めて、怒りの感情に支配されそうになる。
”愛する人をこんな風に侮辱されて、どうして黙って見過ごすことができるでしょう”
自分の行為の正統性を説かなければ。
エドワードは深く息を吸うと、話を再開せんと口を開いた。
「これが、エミリアとヴォルティア国王との会話なの……? 本当にこのようなことが?」
エドワードが声を発する前、ソーニャは信じられないとばかりに、喉の奥を震わせた。
「当然、これらは一部始終です。リチャードが密かに録音したものです」
エドワードはきっぱりと断言する。
「あの子は……こんなにおぞましい仕打ちを受けても、ヴァルデリアに戻ったの?」
ソーニャは震える声でエドワードに問いかけた。
「私に不当な罪を着せぬためです。現にこの証拠がなくては、私の無実を明かせなかったでしょ……」
「ああ!」
エドワードの言葉を遮って、唐突にソーニャが天を仰いだ。
「あの子がこんなに悲惨な目に遭っているのは、私が追い出したせいなのね!! 私は何と罪深い振る舞いを!」
ソーニャは自分の頬を手で覆い、絶望に震えた。
「ご理解頂けたようで……何よりです」
元々ソーニャは、根は素直で情に厚い人柄だ。
反応に若干驚いたが、同情してくれるなら話は早い。
「これは彼女が軟禁されながらも手に入れてくれた貴重な証拠です。これがあれば、どのような訴訟の場でも、負けはしません。しかし、だからこそあの人をこれ以上あの」
「この、おぞましい場所から一刻も早く助け出してちょうだい!」
ロズウェルドに向き直り、許可を得ようとする横から、またもやソーニャが遮る。
「あんなに愛らしくて聡明な女性が、不当な境遇に置かれて良い筈がありません。ああ、私、何もわかっていなかった……」
「もちろん、そのつもりです。父上、よろしいでしょうか。私はこれより、ヴァルデリアの王太子として、ヴォルティア王妃の身柄を奪って参ります」
母の翻意の落差に、エドワードは動揺を隠せない。
ロズウェルドは宥めるように、ソーニャの肩を押さえた。
「ソーニャはエミリアを初対面でとても気に入っていたのだ。それを後から隠された身分を知って、裏切られたような気持ちになったのだろう。ちょっとしたいざこざがあったようだが……」
ロズウェルドはソーニャへ向けていた目を、エドワードへ戻す。
「エミリアはお茶会でソーニャに一杯食わせたらしいな? 其方の妻としても、私たちの娘としても、上手くやって行ける」
ロズウェルドは言葉少なく、エドワードを支持してくれた。
エドワードは一部始終を把握していたのに、エミリアとヴォルティア国王フィリップとの会話は表面上は穏やかながら、内容は、耳を塞ぎたくなるものだった。
改めて、怒りの感情に支配されそうになる。
”愛する人をこんな風に侮辱されて、どうして黙って見過ごすことができるでしょう”
自分の行為の正統性を説かなければ。
エドワードは深く息を吸うと、話を再開せんと口を開いた。
「これが、エミリアとヴォルティア国王との会話なの……? 本当にこのようなことが?」
エドワードが声を発する前、ソーニャは信じられないとばかりに、喉の奥を震わせた。
「当然、これらは一部始終です。リチャードが密かに録音したものです」
エドワードはきっぱりと断言する。
「あの子は……こんなにおぞましい仕打ちを受けても、ヴァルデリアに戻ったの?」
ソーニャは震える声でエドワードに問いかけた。
「私に不当な罪を着せぬためです。現にこの証拠がなくては、私の無実を明かせなかったでしょ……」
「ああ!」
エドワードの言葉を遮って、唐突にソーニャが天を仰いだ。
「あの子がこんなに悲惨な目に遭っているのは、私が追い出したせいなのね!! 私は何と罪深い振る舞いを!」
ソーニャは自分の頬を手で覆い、絶望に震えた。
「ご理解頂けたようで……何よりです」
元々ソーニャは、根は素直で情に厚い人柄だ。
反応に若干驚いたが、同情してくれるなら話は早い。
「これは彼女が軟禁されながらも手に入れてくれた貴重な証拠です。これがあれば、どのような訴訟の場でも、負けはしません。しかし、だからこそあの人をこれ以上あの」
「この、おぞましい場所から一刻も早く助け出してちょうだい!」
ロズウェルドに向き直り、許可を得ようとする横から、またもやソーニャが遮る。
「あんなに愛らしくて聡明な女性が、不当な境遇に置かれて良い筈がありません。ああ、私、何もわかっていなかった……」
「もちろん、そのつもりです。父上、よろしいでしょうか。私はこれより、ヴァルデリアの王太子として、ヴォルティア王妃の身柄を奪って参ります」
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「ソーニャはエミリアを初対面でとても気に入っていたのだ。それを後から隠された身分を知って、裏切られたような気持ちになったのだろう。ちょっとしたいざこざがあったようだが……」
ロズウェルドはソーニャへ向けていた目を、エドワードへ戻す。
「エミリアはお茶会でソーニャに一杯食わせたらしいな? 其方の妻としても、私たちの娘としても、上手くやって行ける」
ロズウェルドは言葉少なく、エドワードを支持してくれた。
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