65 / 65
若旦那の求婚
5話
しおりを挟む
「おぉいー! もしや、そこに誰かいるの」
惣一郎も黙って悠耶を見つめていたが、声が聞こえると、急に目が動く。
「あの船は……五幸丸だ! おっ母さん、どうしてこんな所へ?」
どの船も花火がよく見えるように橋の近くに、船腹を平行にして浮かんでいる。
なのに、一隻の大船だけが、悠耶たちのほうへ舳先を向けて進んで来た。
どことなく覚えのある声だと思ったら、惣一郎のおっ母さんなのか。
「その声! 惣一郎だね? どうして、そんな所にいるのか、聞きたいのは、こっちさ」
船が近づくに連れ、周囲は、ぼんやりだが明るくなった。
船の舳先には、五人か六人。
提灯の灯りを背中に背負っているので、顔かたちは定かでない。
だが、菊を含めて六人分の人影があった。
「そうだよ、俺だよ。手拭を落としちまってさ、拾おうと飛び込んだんだ」
「まあ、やっぱり! 落としたのは、この手拭だろ? あんたが巻いていた、この手拭が、川に浮いて流れて来たのさ。寛太がたまたま見つけて、拾おうとしたら、小魚が急に飛び上がってさ。それから引っきりなしに飛ぶもんだから、花火どころじゃないや。魚を追って来たんだよ。すると、水の中に酔狂な人影があったから」
まさか自分の息子だったとは、と菊は呆れ声だ。
寛太が提灯を捧げ持って来てくれた。
それでやっと提灯の持ち主が寛太で、広げた手拭が確かに惣一郎の物だとわかる。
悠耶は両手を叩いて喜んだ。
「そうそう、それだよ! 月の絵の入った手拭!」
「お待ち、もう一人そこにいるのね。誰だい?」
菊にも、悠耶たちの姿はしかと見えないようだ。
船の舳先は、もう目の前に迫っていた。
舳先からこちらへ身を乗り出したのは、三人。影しか見えず、悠耶には残り一人がわからない。
だが惣一郎には全員が誰だかわかっているようだ。
「ちょうど良いから、引き揚げておくれよ。皆んなにも紹介しなくちゃなんねえから」
「こんばんは。おいらは酒井悠耶です。惣一郎の手拭を追っかけて、川を泳いでいました」
紹介されたと思ったから、悠耶は真面目に自己紹介をした。
なのに、惣一郎は急に吹き出した。
改めて、皆に見えるように、悠耶を抱き直す。
船上の一人一人の、顔を確かめてから笑って言った。
「おっ父さん、おっ母さん、俺は、こいつと夫婦になるよ。この通り変わった女だから、どうか覚悟しておいておくれ」
惣一郎も黙って悠耶を見つめていたが、声が聞こえると、急に目が動く。
「あの船は……五幸丸だ! おっ母さん、どうしてこんな所へ?」
どの船も花火がよく見えるように橋の近くに、船腹を平行にして浮かんでいる。
なのに、一隻の大船だけが、悠耶たちのほうへ舳先を向けて進んで来た。
どことなく覚えのある声だと思ったら、惣一郎のおっ母さんなのか。
「その声! 惣一郎だね? どうして、そんな所にいるのか、聞きたいのは、こっちさ」
船が近づくに連れ、周囲は、ぼんやりだが明るくなった。
船の舳先には、五人か六人。
提灯の灯りを背中に背負っているので、顔かたちは定かでない。
だが、菊を含めて六人分の人影があった。
「そうだよ、俺だよ。手拭を落としちまってさ、拾おうと飛び込んだんだ」
「まあ、やっぱり! 落としたのは、この手拭だろ? あんたが巻いていた、この手拭が、川に浮いて流れて来たのさ。寛太がたまたま見つけて、拾おうとしたら、小魚が急に飛び上がってさ。それから引っきりなしに飛ぶもんだから、花火どころじゃないや。魚を追って来たんだよ。すると、水の中に酔狂な人影があったから」
まさか自分の息子だったとは、と菊は呆れ声だ。
寛太が提灯を捧げ持って来てくれた。
それでやっと提灯の持ち主が寛太で、広げた手拭が確かに惣一郎の物だとわかる。
悠耶は両手を叩いて喜んだ。
「そうそう、それだよ! 月の絵の入った手拭!」
「お待ち、もう一人そこにいるのね。誰だい?」
菊にも、悠耶たちの姿はしかと見えないようだ。
船の舳先は、もう目の前に迫っていた。
舳先からこちらへ身を乗り出したのは、三人。影しか見えず、悠耶には残り一人がわからない。
だが惣一郎には全員が誰だかわかっているようだ。
「ちょうど良いから、引き揚げておくれよ。皆んなにも紹介しなくちゃなんねえから」
「こんばんは。おいらは酒井悠耶です。惣一郎の手拭を追っかけて、川を泳いでいました」
紹介されたと思ったから、悠耶は真面目に自己紹介をした。
なのに、惣一郎は急に吹き出した。
改めて、皆に見えるように、悠耶を抱き直す。
船上の一人一人の、顔を確かめてから笑って言った。
「おっ父さん、おっ母さん、俺は、こいつと夫婦になるよ。この通り変わった女だから、どうか覚悟しておいておくれ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる