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舞踏会
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もう少し、オリヴィエとの距離を近づけるなどの小細工に、時間をかけたい気持ちもある。
だが、セルゲイの忠告の通り、不利な立場だからこそ先手必勝こそ、正攻法というものなのだろう。
(どんなに綺麗な言葉で言い繕っても、俺はただ、オリヴィエが欲しいだけなんだ)
一度欲しいと認めてしまったら、どんな言い訳も通じない。
手に入れるか、突き放すか。
欲しければ、手を伸ばすしかない。
誰よりなりふり構っていられない立場なのは確かだ。
ルーカスは、腹を括った。
***
朝食の後で、二手に別れた。
招待客として会場入りするルーカス、オリヴィエ、セルゲイの3人と、周辺の見回りをする8人に。
先発隊の騎士たちには、街での情報収集も担当してもらう。
招待客に扮する3人は、舞踏会の開催時刻に合わせて出立をする。
セルゲイが馬車を手配している間に、ルーカスは身支度を済ませた。
一人の侍女もいない状況で、オリヴィエはさぞ不便を強いられているだろう。
セルゲイの話によれば、衣裳の調達にはマダム・ラシェルを採用したらしい。
口煩い女性だが、仕事の腕は確かだ。
その辺りもしっかりと配慮してくれていると、信じたい。
いつ、迎えに行けば良いかわからず、ルーカスは自分の部屋で悶々としていた。
オリヴィエが困っているかもと思えば気になるが、まさか手伝ってやるわけにもいかない。
(いや、せめて、手伝いが必要かどうか声を掛けるか? 少しは距離が縮まるかも……)
いやいや、と首を振る。そんな真似をすれば、オリヴィエが恥ずかしがる。
ともすれば余計に変態疑惑が深まる。
ルーカスは、気を取り直すように窓に手をついた。
庭を見下ろすと、馬車寄せにはセルゲイの手配した馬車が到着した。
「ゴーウェル卿、お迎えに上がりました」
外から、セルゲイの声がした。
ルーカスは手を振って応えた。
(……やむを得ん)
女性を急かすのは気が引ける。
しかし、進捗を確認するくらいはしなくては。
ルーカスはオリヴィエの部屋の扉の前で、わざとらしく咳払いをしてからノックした。
「オリヴィエ、俺だ。支度は済んだか?」
「あ、はい。……いえ、レヴァン、ちょっと待ってね。今開けますから」
親し気な口調に言い換えられて、オリヴィエの中では”ごっこ”がもう始まっていると知る。
オリヴィエが駆け寄る足音が近づくと、扉が素早く開いた。
「お待たせしてすみません」
扉を開けて、ルーカスを部屋に迎え入れる。
「いや、こちらこそわざわざ済まないな。もう済んでいるなら出掛けよう」
スイッチが入っていない時に、親し気な笑顔を向けられると照れくさい。
ルーカスは少し視線を外しながら返す。
「ええ。でも、その前に見てください。……どうですか? おかしいところはないかしら?」
そうか、気つけてくれる侍女がいないものだから、自分の姿に自身がないんだな。
そうとわかって、ルーカスは躊躇いながら目を向けた。
オリヴィエは、見違えるようだった。
一陣の風が吹いたように、心を攫われる。
裾に向かって色が濃くなるグラデーションのドレスは、オリヴィエの清楚な印象を、より引き立てていた。
だが、セルゲイの忠告の通り、不利な立場だからこそ先手必勝こそ、正攻法というものなのだろう。
(どんなに綺麗な言葉で言い繕っても、俺はただ、オリヴィエが欲しいだけなんだ)
一度欲しいと認めてしまったら、どんな言い訳も通じない。
手に入れるか、突き放すか。
欲しければ、手を伸ばすしかない。
誰よりなりふり構っていられない立場なのは確かだ。
ルーカスは、腹を括った。
***
朝食の後で、二手に別れた。
招待客として会場入りするルーカス、オリヴィエ、セルゲイの3人と、周辺の見回りをする8人に。
先発隊の騎士たちには、街での情報収集も担当してもらう。
招待客に扮する3人は、舞踏会の開催時刻に合わせて出立をする。
セルゲイが馬車を手配している間に、ルーカスは身支度を済ませた。
一人の侍女もいない状況で、オリヴィエはさぞ不便を強いられているだろう。
セルゲイの話によれば、衣裳の調達にはマダム・ラシェルを採用したらしい。
口煩い女性だが、仕事の腕は確かだ。
その辺りもしっかりと配慮してくれていると、信じたい。
いつ、迎えに行けば良いかわからず、ルーカスは自分の部屋で悶々としていた。
オリヴィエが困っているかもと思えば気になるが、まさか手伝ってやるわけにもいかない。
(いや、せめて、手伝いが必要かどうか声を掛けるか? 少しは距離が縮まるかも……)
いやいや、と首を振る。そんな真似をすれば、オリヴィエが恥ずかしがる。
ともすれば余計に変態疑惑が深まる。
ルーカスは、気を取り直すように窓に手をついた。
庭を見下ろすと、馬車寄せにはセルゲイの手配した馬車が到着した。
「ゴーウェル卿、お迎えに上がりました」
外から、セルゲイの声がした。
ルーカスは手を振って応えた。
(……やむを得ん)
女性を急かすのは気が引ける。
しかし、進捗を確認するくらいはしなくては。
ルーカスはオリヴィエの部屋の扉の前で、わざとらしく咳払いをしてからノックした。
「オリヴィエ、俺だ。支度は済んだか?」
「あ、はい。……いえ、レヴァン、ちょっと待ってね。今開けますから」
親し気な口調に言い換えられて、オリヴィエの中では”ごっこ”がもう始まっていると知る。
オリヴィエが駆け寄る足音が近づくと、扉が素早く開いた。
「お待たせしてすみません」
扉を開けて、ルーカスを部屋に迎え入れる。
「いや、こちらこそわざわざ済まないな。もう済んでいるなら出掛けよう」
スイッチが入っていない時に、親し気な笑顔を向けられると照れくさい。
ルーカスは少し視線を外しながら返す。
「ええ。でも、その前に見てください。……どうですか? おかしいところはないかしら?」
そうか、気つけてくれる侍女がいないものだから、自分の姿に自身がないんだな。
そうとわかって、ルーカスは躊躇いながら目を向けた。
オリヴィエは、見違えるようだった。
一陣の風が吹いたように、心を攫われる。
裾に向かって色が濃くなるグラデーションのドレスは、オリヴィエの清楚な印象を、より引き立てていた。
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