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退魔の輝き
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リリアの上に伏せたオリヴィエを、ドラゴンの尾が強襲したのも。
「貴様ァ、よくも!!」
「団長! いけません……!」
ルーカスは絶望を感じる前に、刃を閃かせ、魔物に切り掛かる。
この手で振るう刃ごときで、この巨大なドラゴンに打ち勝てるとは露ほども思わない。
しかし、この時にはもう、何も考えられなかった。
仲間の制止を振り切って、大刀を浴びせる。
剣を振り抜いたが、鋼のような皮膚には傷一つつかない。
それどころかドラゴンは駄目押しにもう一撃を、無慈悲にもオリヴィエの上に振り下ろした。
ルーカスには目もくれない。
執拗に、オリヴィエを嬲る。
爪の先で抉って皮膚が裂けたのか、赤い飛沫が宙を舞った。
「やめろ! おのれェ!」
ルーカスは激昂する。
敵わぬと知りながらも、再び斬撃を繰り出す。
すると今度は刃の触れた切っ先辺りから、黒い霧のようなものが宙に噴き上がった。
ギュォオォン
「団長! やった!」
同時に前方からは魔獣の咆哮が、背後からは見当違いな歓声が上がる。
間近で見ているルーカスにだけはわかった。これは、ルーカスの一撃によるものではない。
刃は皮一枚切り裂いていない。黒い霧は、もっと足元のほうから上がっている。
ルーカスは敏速に、ドラゴンの正面へ回り込んだ。
倒れ伏したオリヴィエの姿を見るのは耐え難い。
だが、確かめないわけには――
「ウッ、何だ……!?」
もわもわと上がる黒い霧は、ドラゴンの足元から立ち昇っていた。
よく見ると、ドラゴンの爪先は、水をかけられた砂糖菓子のようにもろもろと溶けだしている。
溶けだした足が、空気中に散っている。
筆舌に尽くし難いが、そんな光景だ。
ウォオォォ……ン
痛みを伴うのだろうか。ドラゴンは怒りの咆哮を上げながらも、失った右足を庇い、仰け反った。
ドラゴンが傾いだと同時に、閃光が迸る。
「ウッ」ルーカスは余りの眩しさに呻き、腕で目を覆う。
閃光は一瞬で駆け抜けた。
目を開けると、ドラゴンの身体は縦に真っ二つに割れていた。
左右に分かれた身体が、ゆっくりと大地に――落ちない。
砂でできた巨像のように、断面から崩れて……ボロボロと剥がれ行くのに、粒子は落下せず空気中に霧散した。
先ほど目撃した、黒い霧となって。
「何だ? それに、あの光は……」
閃光は瞬く間に過ぎ去ったが、まだ発光は続いたままだった。
光源は探すまでもない。
地に伏せていたままの、オリヴィエの身体が、光り輝いている。
「オリヴィエ……」
唖然として呟くと、呼び声に呼応するかのように、身体がふぅわりと浮いた。
騎士服にマントも、ドラゴンの爪によって、大きな裂け目ができている。
「貴様ァ、よくも!!」
「団長! いけません……!」
ルーカスは絶望を感じる前に、刃を閃かせ、魔物に切り掛かる。
この手で振るう刃ごときで、この巨大なドラゴンに打ち勝てるとは露ほども思わない。
しかし、この時にはもう、何も考えられなかった。
仲間の制止を振り切って、大刀を浴びせる。
剣を振り抜いたが、鋼のような皮膚には傷一つつかない。
それどころかドラゴンは駄目押しにもう一撃を、無慈悲にもオリヴィエの上に振り下ろした。
ルーカスには目もくれない。
執拗に、オリヴィエを嬲る。
爪の先で抉って皮膚が裂けたのか、赤い飛沫が宙を舞った。
「やめろ! おのれェ!」
ルーカスは激昂する。
敵わぬと知りながらも、再び斬撃を繰り出す。
すると今度は刃の触れた切っ先辺りから、黒い霧のようなものが宙に噴き上がった。
ギュォオォン
「団長! やった!」
同時に前方からは魔獣の咆哮が、背後からは見当違いな歓声が上がる。
間近で見ているルーカスにだけはわかった。これは、ルーカスの一撃によるものではない。
刃は皮一枚切り裂いていない。黒い霧は、もっと足元のほうから上がっている。
ルーカスは敏速に、ドラゴンの正面へ回り込んだ。
倒れ伏したオリヴィエの姿を見るのは耐え難い。
だが、確かめないわけには――
「ウッ、何だ……!?」
もわもわと上がる黒い霧は、ドラゴンの足元から立ち昇っていた。
よく見ると、ドラゴンの爪先は、水をかけられた砂糖菓子のようにもろもろと溶けだしている。
溶けだした足が、空気中に散っている。
筆舌に尽くし難いが、そんな光景だ。
ウォオォォ……ン
痛みを伴うのだろうか。ドラゴンは怒りの咆哮を上げながらも、失った右足を庇い、仰け反った。
ドラゴンが傾いだと同時に、閃光が迸る。
「ウッ」ルーカスは余りの眩しさに呻き、腕で目を覆う。
閃光は一瞬で駆け抜けた。
目を開けると、ドラゴンの身体は縦に真っ二つに割れていた。
左右に分かれた身体が、ゆっくりと大地に――落ちない。
砂でできた巨像のように、断面から崩れて……ボロボロと剥がれ行くのに、粒子は落下せず空気中に霧散した。
先ほど目撃した、黒い霧となって。
「何だ? それに、あの光は……」
閃光は瞬く間に過ぎ去ったが、まだ発光は続いたままだった。
光源は探すまでもない。
地に伏せていたままの、オリヴィエの身体が、光り輝いている。
「オリヴィエ……」
唖然として呟くと、呼び声に呼応するかのように、身体がふぅわりと浮いた。
騎士服にマントも、ドラゴンの爪によって、大きな裂け目ができている。
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