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退魔の輝き

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 ルーカスの距離だから、見て取れた。

 ドラゴンの足を溶かしたのは、オリヴィエの血だったに違いない――

(駄目だ。まだ、決めつけるな……)

 ルーカスは逸る気持ちを抑えて、冷静を務めた。

 まだ、何の確証もないし、分からないことだらけだ。

 オリヴィエの受け答えは明瞭だ。意識に障害もない。

 あれだけ凄まじい打撃を受けた後だとは思えないほどに。

「ともかく撤収だ。怪我人を医師に診せよう。オリヴィエ、お前もだ」

「えっ、団……きゃ」

 ルーカスは膝裏に手を入れて、オリヴィエを抱き上げる。

 オリヴィエは身じろいで、手足をばたつかせた。

「ちょ、私は大丈夫です。降ろしてください」

「お前を大丈夫だと思える奴は、この場に一人もいない。医師が大丈夫だと診断を下すまで、お前は怪我人だ」

「そんな、恥ずかしいです」

 オリヴィエの抵抗は、黙殺する。

 ルーカスは後方の騎士たちを振り仰いで、声高らかに呼ばわった。

「お前たちも見ていただろう!? 魔物は消え去った。原因の究明は急務だが、いずれ明らかになるだろう!」

 騎士たちはルーカスと共に、一部始終をその目に映していた。

 魔獣を包囲し、そこへ聖女リリアが現れたこと。

 リリアが狙われ、飛び出したオリヴィエが身を挺してリリアを庇ったこと。

 それぞれ、先の見えない状況に疲弊し、恐怖に戦慄していて、頭は混乱を極めていた。

 固唾を飲んで状況を見守っていたが、ルーカスの言葉で、はっと意識が呼び戻される。

 意味を自らの中で反芻し、ようやく実感へこぎつけた。

 一斉に、歓喜の雄叫びが上がる。

「やった! やったんだ!!」

「すげぇ……団長!!」

「奇跡だーー!!」

「先ずは、撤退だ!! 宿舎へ戻り、怪我人の手当てに移る!」

「はい!! 総員、撤退ーー!」

 第3隊副隊長のコルクスが、指示を出すと、騎士たちは剣を納める。

 コルクスはルーカスの元へ馳せ参じた。

「団長、手伝います」

「いい。それよりリリアを頼めるか」

「はいっ」

 切れの良い返答を背中で聞きながら、ルーカスは一足先に宿舎へと歩き出した。

 




 ***





 ざく、ざく、ざく、とルーカスは一定の歩調で林道を進む。
 
 規則的な揺れと、逞しい腕や、胸の温もりが心地よい。

 何が起きたのか、オリヴィエには全く分からない。
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