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姫と忍
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恐れる必要は全くないので、問題はない。
だが、これ以上ややこしくしないでもらいたいので、口早に囁く。
「お夏様、下郎と口を利いてはなりませぬ」
「下郎とは、馬鹿にしてくれるな、優男。これでも、粋がった口を聞いていられるか」
一味が三人、木陰からぬうっと影を伸ばした。
どの男も最初に出て来た男と似たり寄ったりの風貌で、金品欲しさに乱暴を働く一味だと明らかになった。
後方から現れた三人は、各々手に光物を携えている。
しかし、武装の稚拙さに、内心で花月は鼻白んだ。
一番後方の男の得物は、刃毀れも甚だしい鎌だ。
こんな体で風魔に挑もうとは笑わせる。もっとも奴らは、こちらを頼りない旅の一味と踏んでいるだろうが。
辺りの気配は、花月の領解する限りこの四人で全てだ。
「さあ、命が惜しかったらその荷と手持ちの金をそっくり置いていきな」
野伏は得意顔だ。こちらは、男一人の三人連れ、侮られて当然だ。
「ふむ。四人で連れは全員か? 儂らから金子を奪って、何に使うつもりなのじゃ」
「何をって? はあ? そりゃ……」
「そりゃ、食い物だ! 腹いっぱい、米を食うんだ!」
「馬鹿野郎、肉だよ! 奴ら良い馬を持ってやがる」
「やめろ、馬は金に換えるんだろう。俺は酒、酒が飲みてえ!」
夏の素朴な問いに、新たに顔を出した三人の一味が、別々の要求を捲し立てる。
どうでも良い主張に、花月は頭が重くなった。
こんな連中にかかずらわっては、単に時の無駄だ。
抛擲して立ち去りたいくらいだが、夏はそうでもないようだ。
「なるほど。食い詰めて悪党に身を落としたのか。のう、安芸よ。そなた先ほど人足に駄賃を渡しておったな。手持ちの金子に余裕はあるか」
「はあ、旦那様には旅支度に過分なほど用立てて頂きました故……て、お夏様、まさかあいつらに恵んでやるおつもりですか?」
「ならば渡せるだけ渡してやっておくれ。お主らがひもじい思いをせねば良い。儂のことなら構う必要はない」
「ええっ、嫌ですよぉ! 物乞いならいざ知らず、何故このように無礼で、むっさい男どもに」
安芸はあからさまに顔をしかめて、懐を押さえた。そこに財布をしまっているようだ。
安芸は端から一銭たりと渡すつもりはない。
花月も同様だ。
だが、世間知らずの姫君は、真摯な瞳で安芸を見つめる。
「北条の領地で、飢えた民を放ってはおけぬ」
思い違いながら、心構えは天晴だ。血は争えぬというか、娘も十分に人が善い。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。余裕ではなく、全部すっかり寄こすんだよ。馬も、荷もだ。こいつが見えねえのか」
安芸が返答に迷っていると、野伏が嘲弄した。後ろの相棒が刃の毀れた大刀を投げて渡す。
「全部はやれぬ。この二人は儂の大切な供じゃ。儂にはこの者らも守る責任がある。馬もやらぬ。だが、できうる限り応えよう」
「何だとう!?」
一番先頭の毛だらけが、怯まない夏に凄んだ。手にした大刀を振り上げ、威喝する。
そこまでされては、花月も黙っていられない。
だが、これ以上ややこしくしないでもらいたいので、口早に囁く。
「お夏様、下郎と口を利いてはなりませぬ」
「下郎とは、馬鹿にしてくれるな、優男。これでも、粋がった口を聞いていられるか」
一味が三人、木陰からぬうっと影を伸ばした。
どの男も最初に出て来た男と似たり寄ったりの風貌で、金品欲しさに乱暴を働く一味だと明らかになった。
後方から現れた三人は、各々手に光物を携えている。
しかし、武装の稚拙さに、内心で花月は鼻白んだ。
一番後方の男の得物は、刃毀れも甚だしい鎌だ。
こんな体で風魔に挑もうとは笑わせる。もっとも奴らは、こちらを頼りない旅の一味と踏んでいるだろうが。
辺りの気配は、花月の領解する限りこの四人で全てだ。
「さあ、命が惜しかったらその荷と手持ちの金をそっくり置いていきな」
野伏は得意顔だ。こちらは、男一人の三人連れ、侮られて当然だ。
「ふむ。四人で連れは全員か? 儂らから金子を奪って、何に使うつもりなのじゃ」
「何をって? はあ? そりゃ……」
「そりゃ、食い物だ! 腹いっぱい、米を食うんだ!」
「馬鹿野郎、肉だよ! 奴ら良い馬を持ってやがる」
「やめろ、馬は金に換えるんだろう。俺は酒、酒が飲みてえ!」
夏の素朴な問いに、新たに顔を出した三人の一味が、別々の要求を捲し立てる。
どうでも良い主張に、花月は頭が重くなった。
こんな連中にかかずらわっては、単に時の無駄だ。
抛擲して立ち去りたいくらいだが、夏はそうでもないようだ。
「なるほど。食い詰めて悪党に身を落としたのか。のう、安芸よ。そなた先ほど人足に駄賃を渡しておったな。手持ちの金子に余裕はあるか」
「はあ、旦那様には旅支度に過分なほど用立てて頂きました故……て、お夏様、まさかあいつらに恵んでやるおつもりですか?」
「ならば渡せるだけ渡してやっておくれ。お主らがひもじい思いをせねば良い。儂のことなら構う必要はない」
「ええっ、嫌ですよぉ! 物乞いならいざ知らず、何故このように無礼で、むっさい男どもに」
安芸はあからさまに顔をしかめて、懐を押さえた。そこに財布をしまっているようだ。
安芸は端から一銭たりと渡すつもりはない。
花月も同様だ。
だが、世間知らずの姫君は、真摯な瞳で安芸を見つめる。
「北条の領地で、飢えた民を放ってはおけぬ」
思い違いながら、心構えは天晴だ。血は争えぬというか、娘も十分に人が善い。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。余裕ではなく、全部すっかり寄こすんだよ。馬も、荷もだ。こいつが見えねえのか」
安芸が返答に迷っていると、野伏が嘲弄した。後ろの相棒が刃の毀れた大刀を投げて渡す。
「全部はやれぬ。この二人は儂の大切な供じゃ。儂にはこの者らも守る責任がある。馬もやらぬ。だが、できうる限り応えよう」
「何だとう!?」
一番先頭の毛だらけが、怯まない夏に凄んだ。手にした大刀を振り上げ、威喝する。
そこまでされては、花月も黙っていられない。
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