169 / 223
ランドットにて
諍い 4
しおりを挟む
だが、エステルは”俺は負けない”と断言した。
先程まで押しかけた住民で一杯だった家に、残っているのは4人。
アルダシールとローネッド、エステルとユリウス・マルフォン。
手狭かと思われた屋内には充分な広さがあった。
がらんとした部屋を片付けるため、ユリウスだけが行き来を繰り返していた。
「先ほどはエステル姫を庇ってくださり、ありがとうございました。私も手伝います」
話が途切れたところで、アルダシールはユリウスを振り返った。
至る所に放置された、客用のコップを片端から集める。
「いえ、あれは……待ってください、お客様にそのようなことはさせられません」
「とはいえ、貴方も使用人というわけではないのでしょう」
ユリウスが止めようとすると、エステルも、すいと片付けに混じる。
「その通りよ。皆で一緒にすれば早いわ」
にこやかに微笑んで、ユリウスから盆を取り上げた。
エステルは掴みどころがない。
アルダシールがアラウァリアの国王だと知っているのに、皿洗いを止めようともしない。
お忍びで放浪していた時期の経験で、アルダシールは炊事も家事も一通りこなせるが、眉一つ動かさないのだから、相当な大胆さだ。
それもきっと、エステルの持つ能力に由来しているのだろう。
エステルは最初から全てを知っていた。
最初は何処となく、母と重なる面影に目を惹かれただけだった。
自分の容姿がアルダシールの関心を惹くことすら、エステルにはわかっていたようだった。
「わかった。君がそこまで覚悟しているのなら、もう何も言うまい。健闘を期待している」
ローネッドはアルダシールにこの地に留まる気があるのか、確かめたかったのだろう。
アルダシールにそれだけ声をかけると、玄関口から出てしまった。
何世代かに1人、ラークの民には”星読み”の能力を継ぐものが現れる。
それがエステルだ。
エステルは最初から全てを知っていた。
アルダシールたちの置かれている状況も、アルダシールの抱く願望も、まるで見ていたかのように正確に把握していた。
(まあ、ある程度は予測も可能なものだが……。それを差し置いてもエステルの誘いに応じる価値はある)
兎にも角にも、明日の競い合いで勝利する。
その一点に集中しよう。
そう決意を新たにし、アルダシールも片付けに加わった。
***
川沿いを歩いてしばらく進むと、靄の向こうに山小屋のような景色が見えてくる。
枝から張り出した太い幹と、密集した葉の茂みが壁のように取り囲んでいる。
「アシュレイ様、あちらです」
速足での移動で、軽快に砂利を蹴散らし、息を弾ませながらキャヴスが前方を指差す。
「この先は居住区になります。あの建物で物見と合流する手筈になっています」
絶えず流れる、せせらぎが心地良い。
残念すぎてしょうもないが、これくらいの動機がなければ、ランドットに来る機会はなかっただろう。
先程まで押しかけた住民で一杯だった家に、残っているのは4人。
アルダシールとローネッド、エステルとユリウス・マルフォン。
手狭かと思われた屋内には充分な広さがあった。
がらんとした部屋を片付けるため、ユリウスだけが行き来を繰り返していた。
「先ほどはエステル姫を庇ってくださり、ありがとうございました。私も手伝います」
話が途切れたところで、アルダシールはユリウスを振り返った。
至る所に放置された、客用のコップを片端から集める。
「いえ、あれは……待ってください、お客様にそのようなことはさせられません」
「とはいえ、貴方も使用人というわけではないのでしょう」
ユリウスが止めようとすると、エステルも、すいと片付けに混じる。
「その通りよ。皆で一緒にすれば早いわ」
にこやかに微笑んで、ユリウスから盆を取り上げた。
エステルは掴みどころがない。
アルダシールがアラウァリアの国王だと知っているのに、皿洗いを止めようともしない。
お忍びで放浪していた時期の経験で、アルダシールは炊事も家事も一通りこなせるが、眉一つ動かさないのだから、相当な大胆さだ。
それもきっと、エステルの持つ能力に由来しているのだろう。
エステルは最初から全てを知っていた。
最初は何処となく、母と重なる面影に目を惹かれただけだった。
自分の容姿がアルダシールの関心を惹くことすら、エステルにはわかっていたようだった。
「わかった。君がそこまで覚悟しているのなら、もう何も言うまい。健闘を期待している」
ローネッドはアルダシールにこの地に留まる気があるのか、確かめたかったのだろう。
アルダシールにそれだけ声をかけると、玄関口から出てしまった。
何世代かに1人、ラークの民には”星読み”の能力を継ぐものが現れる。
それがエステルだ。
エステルは最初から全てを知っていた。
アルダシールたちの置かれている状況も、アルダシールの抱く願望も、まるで見ていたかのように正確に把握していた。
(まあ、ある程度は予測も可能なものだが……。それを差し置いてもエステルの誘いに応じる価値はある)
兎にも角にも、明日の競い合いで勝利する。
その一点に集中しよう。
そう決意を新たにし、アルダシールも片付けに加わった。
***
川沿いを歩いてしばらく進むと、靄の向こうに山小屋のような景色が見えてくる。
枝から張り出した太い幹と、密集した葉の茂みが壁のように取り囲んでいる。
「アシュレイ様、あちらです」
速足での移動で、軽快に砂利を蹴散らし、息を弾ませながらキャヴスが前方を指差す。
「この先は居住区になります。あの建物で物見と合流する手筈になっています」
絶えず流れる、せせらぎが心地良い。
残念すぎてしょうもないが、これくらいの動機がなければ、ランドットに来る機会はなかっただろう。
171
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ!
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました
チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。
王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。
エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。
だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。
そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。
夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。
一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。
知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。
経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる