王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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決着

夫婦喧嘩 2

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「話だけでも、聞いては頂けませんか。わたしのような小娘一人、陛下が恐れる理由などありませんもの」

 悪意のある者、心暗い算段を隠し持つ人間は、どう繕っても滲み出るものだ。

 アルダシールは改めてエステルを観察したが、そのような邪気や狡猾さは感じない。

 もう少し、出自について尋ねたい気もあって、アルダシールはエステルの申し出を了承した。




「陛下? まさか、お眠りになっているのですか?」

「……ん?」

 アルダシールは大きな木の幹にもたれ、目を瞑って微睡んでいた。

 マクシムの呼びかけで目を醒ました。

「ああ、眠っていたようだ」

「競い合いの決着も知れぬのに、どうしてそのように落ち着いているのです」

「そうだな。そんなに気を抜いたつもりもなかったのだがな」

 深くもたれすぎてズレた姿勢を正して座り直す。

 こんな風に、ただ流れる時に身を委ねるのはいつぶりだろう。

 ゆったりしているだけのつもりが、いつの間に寝ていたのか。

「シルランとその一味の身柄がこちらにある以上、全部エステルの望んだ通りに進んでいるはずだ。済めばあちらからやって来るだろう」

 早くエステルから目当ての情報を聞き出したいが、はっきりとした決着がつくまでは待つしかない。

 最悪の場合、迎えに来てくれるのはアシュレイ一人の可能性もあるが、そこまで非常識ではないと信じよう。

「そのように呑気にしていて良いのですか? このような時ですから、陛下から行動を起こすべきでは」

 心穏やかに過ごしているアルダシールとは対照的に、気を揉んでいるのがマクシムだ。

「どこにいるのかも知れない状態だ。下手に動いて行き違うより良いだろう」

 件の内戦で、マクシムはすっかりアシュレイに心酔している。

 だからこそ安心して護衛を任せていられたのだが、先ほどの反抗といい、度が過ぎる気もする。

「しかし、少しでも信頼を取り戻さないと。足元を掬われてからでは」

「マクシム、お前は……」

 あっ、と言葉を遮られ、アルダシールは目を眇める。

 足元を掬われるとは? 誰が、誰に?

 噂をすれば何とやらで、俄かにアルダシールを呼ぶ声が舞い込んだ。

「陛下、大変お待たせ致しましたーー」

 大切な女性の接近を知ると、意外や意外、胸がドキリと音を立てる。

 跳ね起きて目を向ければ、巨大なレインツリーの枝葉の下に3人の影がある。

 エステル、アシュレイ、それからユリウスが順に並んでいる。

「アシュレイ様! ご無事で何よりです。ああ良かった。陛下、さあ」

 マクシムが手で招いて前進を促す。

 役者は全て揃った。

 エステルは好きな男がいるからと、競い合いの反故を望んでいた。

 詳細は伏せられたまま、雲を掴むような話だった。

 だがそれでも、エステルの提案に乗せられてランドットまでやって来た。

 ユリウスと一緒にいるところを見ると、想い人はユリウスだったのだと確信を得た。

 それで全てが、落着した、はずだった。

(……何だ? 足が……)

「陛下? どうなさったのです」

 エステルの望みが叶って、上手くいった。

 これでエステルから報酬代わりの情報を得られる。

 めでたしとなるはずだったのに、アルダシールは足をその場に縫い付けられたように動けなくなった。

 
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