お飾りドールのあぶない日常 〜神の力と仲間は最強です〜

ケイソウ

文字の大きさ
16 / 38

15話 神の声と偽りと

しおりを挟む

 來斗とベランダで話しをしていると、部屋のインターホンからチャイムの音が聞こえた。
 來斗は気付いていないのか出ようとしない。仕方がないので私がボタンを押して対応した。

「はい、どちら様ですか?」
 
『……アナタ、誰ですか? なぜそこに?』

 突然と女性の声が耳に入った。私は思わず言葉に詰まる――

「えっと、私は……」
 
『アナタ女? 誰だか知らないけど図々しい。いいから來斗を出してよ、ほら、早くして!』
 
「あ、はい…………來斗、お前を出せってさ。仕事を思い出したから先に出掛けるよ、じゃあ」

 言い知れぬ不安で私はつい、嘘をついた。

「えっ? 待てよキーナ、仕事って、おい!」

 いらつきながらも非常階段を降りて、駐車場から車を走らせると、入り口付近に後ろ姿の女性が立っていた。
 そこへ來斗が小走りにやって来ると、女性はおもむろに來斗と腕を組み、歩き出した。

「なんだ、約束があったのか、ならそう言えばいいだろ、隠すなよ……」

 私は來斗達がいなくなるを待って、猛スピードで山へと向かった。
 何故そうしたのか自分でも分からない。違う、あの怖いと感じた嫉妬心から逃げたかった、呑まれたくないと思った。
 

 頂上に着いて車の窓を開け、リクライニングを倒して、気持ちを切り替えようと、この星へ来た時のことを思い返した。
 
 友が楽しそうに語っていた青い惑星。だが、予想に反して現実は虚しいほど冷たく残酷で、騒々しく、楽しい事などひとつもなかった。
 それもそうか、ここは第二の地球と呼ばれる惑星、既に地球が滅びていたとは友も思うまい。
 
 期待は時に大きく姿を変える。期待した私が悪いのか、滅びた地球が悪いのか。
 この街はクレアティオ、創造という言葉に惹かれて住み着いたが、何を創造するのか、未だ不明だ。

 後は友と呼べる者ができたことか。デッドにマスター、それと直斗に來斗に桜ちゃん。
 忘れていた笑顔や笑い声、恋と切なさや悲しみ、憧れや希望、そして結婚、随分な収穫だ。

 当時の私にできる事といったら仕事しか思い付かなかった。いつしか悪人から悪と呼ばれ、お尋ね者として追い回される日々。今は多少なりとも緩和されたと思う。

 フッと影が過ぎった、バサバサっと隼が車の周りを旋回する。私は車から降りて自然と腕を伸ばす、隼は当然のように留まった。

「おっと、人懐っこいな、どうした?」
 
『どうしたって、お前を待っていた』
 
「…………んー、今なんか聞こえたような……」
 
『バカモン! 目の前におるだろうが!』
 
「……はあ?! そんなバカな……」

 とうとう嫉妬心に呑まれてしまったのか、幻聴が聞こえる。でも喋る鳥も確かにいるっちゃあいるよな、隼ってその類だったかなあ……?

わしの話しを聞け、キーナ・エフケリア』
 
「ゲッ! やっぱりお前か、どうして……」
 
『この鳥を通して話しをしておる。お前も人外なら分かるであろう、儂は天上界の王である』
 
「王って、あの神か?」

 天王のお出ましとは驚きだ、今更なんだよ。

『お前はまだまだ未熟だ。されど、方向性は間違いではない』
 
「――――で?」
 
『でって……そのう、結婚おめでとう』
 
「ど、どう致しまして……ん?」
 
『ハァァァ……調子狂うのう。お前はつがいを得た、その話しをするために来たのだ』

 番って、來斗のことだろうか。得たといってもまだ口約束だ、それもどうなるか……。

「番ねえ、まだそうと決まったわけじゃない」
 
『ふむ、キーナよ、信じる事から始めよ』
 
「信じる? 私なりに色々と信じてきたと思うよ。でも來斗に関してはまだ謎が多い、そもそもふたりの時間が短すぎる、信用と信頼は違うだろ?」

 そう、いくら警察官でも、桜ちゃんの孫でも、信頼するにはそれなりの時と実績を必要とする。
 
『ハァ、お前は何故そう哲学的に考えるのだ。その反面、諦めというより見切りをつける、まるで何事も無かったかのようにのう。それでは幾時経いくときたっても信頼関係は築けんぞ。それで良いのか?』

 哲学的なのは当たり前だ。私の基盤は哲学者の友の賜物たまもの、だからこそ腐らずにこうしていられる。神だからって哲学を舐めんなよ。

「成るように成るだ。私が騒ぎ立てたところで相手が知らぬ存ぜぬを通せば、それこそ何事も無かったのと同じだろ? 醜い争いは御免だね」
 
『それにより番でなくなってもか?』
 
「それを運命って言うんじゃないの? 人間の寿命は短い、私にはあっという間だ。相手が番を望むのなら、私はフレンドとして過ごせばいいだけの話、誤魔化すことくらい屁でもない」

 そういう私に対し、天王は静かに続ける――

『まあ聞け。人間は不器用で、愚かで、哀しい生き物だ。本能を捨て知恵に頼る、よって言葉を武器とする、善し悪しが付いて回るのは必然。お前はその武器をも砕くのか?』

 天王は相手の話しを聞けと言いたいんだろう。
 なら相手が話してこなかったら?
 自分は正当で話す必要はないと思っていたら?
 わざわざ私から問いただすのか?
 すべて私の責任か?
 悪いのは私なのか?

「あのさあ、私は信用されていないも同然、だからお互い様ってことで済む話しだろ?」
 
『キーナよ、儂は疑問や不安を抱えたままで良いとは思わんがな。素直になれ』
 
「素直になった途端この様だ、もういいだろ? これ以上話すなら動物愛護団体に訴えるぞ」
 
『動物? ああこの鳥のことか。まったく、己より鳥の心配か、頑固な奴め。仕方がない、今日は退散しよう。良いか、愛だけは捨ててはならんぞ』

 そう言って天王の気配は消えた。隼は解放されたことに喜んでいるのか、空高く飛んで行った。

 夜も更けた頃、私は山を降りて來斗のマンションへと向かった。駐車場でエレベーターを待っていると、後ろから來斗が走って来た。見れば息を切らせている、何を慌てているのか。

「キーナ! ハァハァ、ああ良かった、帰ってきてくれた。探しちゃったぞもう、連絡しろよ」

 何が良かったのか、そういう來斗は何処から帰ってきたのか、探すって何をだ、疑いだしたらキリがない。

「子供じゃないんだ、そりゃ用事が済めば帰るよ」
 
「こんな夜遅くまで仕事なのか?」
 
「ああ、仕事は嘘だ。ちょっと気になる事があってね。まあ、私も人並みに悩むことくらいあるさ」

 やはり嘘は嫌だから正直に話した。
 どうだクソ神、私なりに譲歩してやったぞ。

「悩み? 俺には言えない悩みか?」

 ほらみろ、本人は何も気にしてないぞ、悩み事にかこつけて有耶無耶うやむやにしようって魂胆だ。そんなものなんだよ、現実なんて。

「來斗が気にすることじゃない。腹減ったよ、まだカレー残ってたよな?」

「なあキーナ、夫婦になるんだ、悩み事はふたりで考えようよ、な?」
 
「あ、夫婦で思い出した。もし結婚しても私達のことは内緒な、お互い仕事に支障が出るからさ。特に内戦中の今は。ほら早くメシ食おう、行くよ」
 
「キーナ……もしって何だよ、俺たち結婚するんだろ? 違うのかよ!」

「……するよ、心配するな。ほら、行こう」

 結婚を内緒にして欲しいのは本当だ。今まで男としてやってきたんだ、今さら請負人が女じゃ格好が付かない。
 それより、人のことばかりで自分の話は一切しないって、もう信用もへったくれもないだろ。思った通り、仮面夫婦の出来上がりだ。
 恋ははかない、だから皆んな夢を見る――

 さて、ここからは気持ちを切り替えて、桜ちゃんの依頼に専念しよう。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...