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35話 提案と対策
しおりを挟む私は母と言う、大地の女神と話をすることができた。ほんの少しだけど、甘えることもできたと思う。いっそこのまま頭を空っぽにして、永い眠りに就きたい……。
「…………どう、様子は?」
「…………ハァァ、キーナ……」
「兄貴、しっかりしろよ!」
誰だ、話声が聞こえる、私はゆっくり重い瞼を開けた。そこには顔面蒼白の來斗と、ウロウロと落ち着かない直斗が目に映った。一体何があったのか、声を振り絞って來斗に話し掛けた。
「……來斗、どうしたの?」
「ハッ! キーナ? 俺が分かるか?」
「來斗だろ?……何を……言ってるんだよ」
「キーナ……ああ良かった……」
「あっ! キーナ! 目が覚めたか! おい婆ちゃん! キーナが目を覚ましたよ!」
だから何なんだよ、ちょっと仮眠したくらいでそう騒ぐなってば、直斗も大袈裟だな。
婆ちゃんって桜ちゃん? なぜここに?
あれ? どうしたんだろう、うまく起き上がれない――
「キーナ、無理に起き上がるな、1週間も寝たきりだったんだ、体力も落ちてるさ」
「えっ、1週間? そんなに……」
「どんなに心配したか……」
まさか1週間も経っていたなんて、神に寄り添うだけで、こんなにもリスクを伴うものなのか。
ただ母の温もりと、闇について助言を貰っただけなのに……ああ、來斗のサポートがあったか、見守るだけの曖昧な役目。
結局のところ、私には目的も指示もない自由を与えられたのみ。だからどうしたとかではなく、初めから決まっていたことなのかもしれない。
母と話していて分かったことがある。私は破壊、來斗は治癒、正反対の関係性、水と油ほどの違いがある。相容れない関係だから引かれ合った、神は來斗という存在を求めていた、そういうことだ。
だったら迷うこともない……でも一応、桜ちゃんの意見も訊いてみようか。
「キーナ、何があった? お前は重傷を負ったばかりだ、それが負担に? それとも俺が原因?」
「來斗、ちょっと落ち着いて……」
「なぜ、お前ばかり……」
なぜって、私は神のドールだからだよ、なんて言ったらまた心配するかな。
「もう大丈夫だから、ゴメンね」
來斗はあまり寝ていないのか、目の下にクマができている、せっかくの色男が台無しだ。
なので來斗の腕を取ってベッドに引き摺り込んだ、そして來斗を抱き枕に添い寝する。
來斗は安堵したのか、あっという間に眠りに就いた。そこへ、ガチャっと勢いよくドアを開けて誰かが入ってきた。あ、桜ちゃん。
「キーナさん! ああ、良かったよう、一時はどうなることかと……」
「シーッ、來斗が寝てる。今そっちへ行くから」
私は來斗を起こさないように、そっとベッドから抜け出し、部屋の隅で私達は小さく丸まって話し始めた。何から話せばいいのか迷う、でもまずは私の正体から明かすべきだろう。
「キーナさん、起きて大丈夫なのかい? 一体キーナさんに何が起こっていると言うの?」
「その前に、いつも私の味方でいてくれてありがとう、感謝してる」
「何を言い出すのかと思ったら、來斗の事といい、琉ちゃんの事といい、みんなキーナさんのお陰さ。味方だなんて、それはこっちのセリフさね」
「フッ、そう言ってくれると助かる。あのさ、ちょっと恥ずかしいんだけど、どうやら私は神の使いらしい、笑っちゃうよね」
桜ちゃんはなんて言うだろうか、既に人外であるのは承知の上だろうけど、來斗を巻き込んでしまった事実を、桜ちゃんは受け入れてくれるだろか。
「やっぱりね。不思議な力に変わらない容姿、アタシ的にはそうだったら良いなって、ずっと思っていた、間違ってなかったね」
桜ちゃんは満面の笑みで応えてくれる。
「それって、私を受け入れてくれるってこと?」
「当たり前じゃないか、元より、來斗よりアタシの方が先にキーナさんを好きになったんだ、絶対に離さない、やっとファミリーになれたんだからね」
私は恵まれている、これは神の思し召しか、いや違う。私が桜ちゃんを見つけ、來斗が私を見つけてくれたからだ。
ん? 來斗との出会いはあのファミレス、ファミレスといえばストーカー直斗、なら直斗のお陰?
いや、ファミレスのお陰にしておこう。
それよりここからだ、どう來斗のことを打ち明けようか……。
「その來斗のことなんだけど……」
「ごめん! 実は來斗から全部聞いてたんだよ」
「えっ?!」
「シッ! 來斗が起きちゃう。あのね、キーナさんから打ち明けてくれるかなって、アタシを信用してくれてるかなって、ごめんよ、試すようなことをしてしまって……」
「ううん、來斗を巻き込んで、ごめんね」
「もう謝らないでおくれよ、勝手したのは來斗だ」
しかし、來斗が自ら話したとは考え難い、おそらく桜ちゃんが何かに気付いた、そうか、ピアスだ。
そして桜ちゃんがあれこれ問い詰めた、來斗は桜ちゃんに弱いからなあ。
あ、もしかして……。
「ええっと、もしかして、ファミリーにも?」
「当たり。リーフとルートは誇らしげに興奮してさ、直斗は随分とショックを受けちゃってね、兄貴ばっかズルいって、宥めようとした矢先にキーナさんがあんな状態になって……」
「えっ、リーフとルートも? そっか……」
私の心配はどこへやらだ。だがまだ話は終わっていない、トップに就任したばかりとはいえ、今さら來斗を連れ出すとか、桜ちゃんは承諾してくれるだろうか、それが神の提案だとしても――
「なあ桜ちゃん、悪いんだけど、この話しには続きがあるんだ」
「続き? どんな話しだい?」
「ハァ、実は、神から提案を受けてね、そのう、私の仕事を世界に広げてふたりで回れと、來斗が能力を使ういい機会だと……このことを神が桜ちゃんに相談しろって、ど、どうかな?」
ちょっとばかし脚色してみたけど、流石に仲間もとはまだ言えない。
「神様がアタシに相談しろって?! こりゃえらいこっちゃ! ん~、來斗がポリスを離れるってことだね、能力……他の地……來斗の立場……」
桜ちゃんがぶつぶつと何か考え込んでいる――
「ねえキーナさん、來斗が神様の役に立つなら連れて行くのは構わないよ、來斗も張り切ってたし。で、來斗の能力って治癒だけかい?」
「えっと、愛のオーラとかもちょっと……」
「愛のオーラ? なんだいそりゃ、でもキーナさんがそばにいれば大丈夫だろう」
「それがそのう、私は來斗の能力に関与するなって言われていて、見守ることしかできないんだ」
桜ちゃんがムッとした顔で言う。
「はあ? それって來斗に群がる女を黙って見てろってことだろ? まったく、キーナさんを何だと思ってるんだい! ならアタシから提案と対策だ」
男女問わずらしいんですが……まあいいか。
「提案って?」
「関与するなってことは、來斗は試されてるってことだ、なら仕事の時は別行動を取るってのはどう? 対策はそうだねえ、來斗には監視役を付ける、キーナさんには見守り役として直斗だ。キーナさんのためなら喜んで付いてくるはず、來斗は直斗に借りがあるらしいから、文句は言わないだろう」
そういえば引越しの時にそんなことを言ってたな。でも直斗までポリスを抜けてしまったら、桜ちゃんが困ると思うんだけど……。
そこへ――
「おい、老婆に病み上がり、そこで何やってんだ」
あ、直斗……。
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