双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも

文字の大きさ
5 / 22

04

しおりを挟む
「なんて顔をしているんだ」

 そう言ったのはユーリだった。

 私とユーリの間にいる人々が、私達の視線を遮らないように移動した。

「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」

「えっ?」

 マヌケな音が私の口から零れていた。
 婚約までの経緯を考えれば、あり得ない事だったから。

「何を言っているの? もう結婚式の招待状は出してあるのよ。 ただの結婚式とは違うのよ!! どれほど大切な事か分かっていなませんの?」

 ニヤニヤと慌てる私を見る視線に私は絶望を覚えた。

 ユーリとの婚約は決して愛情からではなく、大人の都合でしかなかった。 それでも私にとっては10歳からの全てがこの結婚のためにあったと言ってもよくて……私の全てが否定されたかのようで……苦しい……。

「あぁ、だから、結婚式はする。 だがお前とではない、彼女エリスとだ!! 僕はずっとお前ではなく彼女を愛していた。 彼女はお前とは違って繊細で儚くて……僕がいなければ生きていけない……。 だけどお前は違う!! 僕なんかどうでもいい。 ずっと、そうだった。 何時だって僕を放っていた!! その間、僕を支えてくれたのがエリスだったんだ」

 ユーリと寄り添うエリスは、何時もの……頼りない表情で、不安そうにユーリを見つめていた。 ユーリは大丈夫とでも言うように何かを語りかけそして、エリスを抱きしめている。

「元々、家同士の約束。 僕の妻となるのは、お前でもエリスでも良いはずだ。 お前が望むなら今まで通り我が家で働いてもいい、僕の義姉となるのだから今まで通りの生活は保障しよう」

「実家は……どうするのよ……」

 訳が分からなくなっていた。

 私はオルエン商会の未来の当主と婚姻するはずだった。 実家であるロイド伯爵家の領地は気候が良く農作物が豊かな地域だが、それもインフラ管理と、商会との繋がりがあってこその豊かさ……肥沃な大地は何時だって自然災害と共にあった。

「何の問題もない。 彼女は予定通り女伯爵の地位に就く」

「では商会の方は?」

「うるさいな!! 問題はないと言っているだろう!! 僕がオルエン家で、僕が商会そのものだ!! 伯爵家が商会となり、商会が伯爵家となる。 これまで以上の結びつきでより良い成長を遂げるさ!! それより、本当にお前は可愛げがないな……婚約を破棄すると言っているのに、商会が、伯爵家が、そんなんだから……僕はお前との未来を考えられなかったんだ。 こんな強欲な女……幾ら家同士の約束と言っても愛せる訳がない」

「強欲……」

 周囲の視線がユーリの言葉を肯定し私を責める。

 伯爵家の娘として、貴族令嬢として、オルエン商会の未来の女夫人としての日々は忙しく、強欲とは無縁ではあったけれど、世間に見せていた華やかな姿の大半は何時だってエリスが担っていて……私ではないのだと、違うのだと言っても通用しないだろう。

 彼女は私を演じ、私は彼女を演じていたのだから。

 呆然としている私にユーリは続けた。

「だがエリスは違う。 未来の女伯爵でありながら、お前のような傲慢さはない!! 僕を支え、寄り添ってくれた。 女伯爵となるプレッシャーに悩むエリスは……オルエン家の当主となる僕を良く理解してくれた。 彼女は……僕にとってなくてはならない人になった。 それに比べてお前と言う奴は女らしさの欠片も無い欠陥品じゃないか!! そんなお前と結婚しなければならないと言われ、どれほど僕が絶望を感じ、苦悩の日々を送っていたか……」

 ぐしゃりと髪をかきむしり、わざとらしい演技が繰り広げられていた。

「それは……」

 悪かったですね。

 冷ややかに言おうとすれば、私の言葉を双子の妹のエリスが遮る。

「ユーリ様!!」

 責める妹の声が空々しい。

「あぁ、すまない……君の姉だと言うのに、余りに君と違い過ぎて……」

「ゴメンなさい……お姉さま。 全て私が、恋に落ちてしまった私達が悪いの。 私、彼の事が好きなの……愛してしまったの。 でも、いいでしょう? お姉さまは彼を愛していないのだから。 えぇ……お姉さまは、彼よりもお金を愛していたのでしょう? だから……。 いえ、違う……私はお姉さまを責めたかったのではないの……そう、謝りたかったの……ゴメンなさい。 私は彼が好き……愛している、愛し合っているのよ。 許して、お姉さま」

 呆然とするしかなかった。

 確かに愛しているかと言われれば、答えに詰まった……。 何しろ私は何時だって忙しくて……。 それでも、それは何時だってユーリとエリスのためで……。

 頭の中が思考がグルグルと巡って、まともに考えがまとまらない。

 こんなとき何を言えば良いのでしょう??

 ボソボソとした囁き、向けられる視線の中には私への同情もあって、救われたと言う気持ちよりも惨めさだけが増していく。

 夫と定められた相手なだけで、愛がどうこうなんて考えたこともない。 それでも……認める事が出来なかった。

「エリス!!」

「姉さま、姉さまなら、私の幸せを祝って下さいますわよね?」

 疑いようもない言葉、何処までも甘ったるく甘え絡みついてくる。

 こんなの認められる訳がない!! 私の人生はなんだったのよ!! そんな思いを遮って来る。

「私はお姉さまで、お姉さまは私。 私達は何時だって2人で1人なのだから、私の幸せはお姉さまの幸せでしょう?」

 幼い頃から繰り返された言葉が、私を追い詰め……私の思いを声にする熱量を奪っていく。 その間もユーリは語り続けていた。

「あぁ、僕が君を愛し、君が僕を愛したばかりに……だけど、コレは止めようのない運命なんだ。 どうか傷つかないで……エリス。 いや……僕は君の悲しみも全て愛している」

「でも……私は、お姉さまとは違って、貴方を愛する事しかできない……ただ、貴方を愛するだけの女に過ぎない。 そんな私でも、本当にいいの?」

「君が、君で無ければ嫌なんだ。 そんな君が良いんだ」

 二人の世界が繰り広げられていた。

 三門芝居も他人事なら物語のように美しく思えるのかもしれない。 徐々に人々の思いが、2人を祝福する方向へと向かっていき、私は虚しさと共に途方に暮れ……祝福する事も、怒りに身を任せる事も出来ずにいた。

 そんな私の耳元に優しい囁きが届いた。

「お茶でも一緒しませんか? お嬢さん」

 きっと私達は、妹と弟の馬鹿馬鹿しい暴走に苦笑いするしかない……そんな顔をしていた事でしょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

犠牲になるのは、妹である私

木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。 ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。 好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。 婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。 ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。 結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。 さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
私アイラと妹マリンは、いわゆる双子だった。一卵性で同じ格好をしてしまえば、見分けがつかないほど姿かたちも声もすべて似ていた。 しかし病弱な妹は私よりも人に愛される術にたけていた。だから気づけば両親の愛も、周りの人たちの評判もすべて妹が独占してしまう。 それでも私には、自分を理解してくれる唯一の味方である婚約者のリオンがいる。それだけを支えに生きてきた。 しかしある日、彼はこう告げた。「君よりも妹の方を愛してしまったと」 そこから全てが狂い出す。私の婚約者だった彼は、妹の婚約者となった。そして私の大切なものが全てなくなった瞬間、妹はすべて自分の計画通りだと私をあざ笑った。 許せない、どうしても。復讐をしてしまいたいと思った瞬間、妹はあっけなく死んでしまった。どんどんと狂い出すは歯車に私は――

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

処理中です...