それでも平凡は天才を愛せるか?

由比ヶ浜 在人

文字の大きさ
24 / 35
三章 カーストに敬意と弾丸を

しおりを挟む


 翌日。

「それじゃあ、全員準備は出来たか?」

 おう、と低い声が木霊した。私以外の数人の男子が声を揃え、目を合わせる。その統率の取れた動きは自衛隊の訓練を彷彿とさせた。この場合、小隊長となる人物は、間違いなく生徒会長だ。


 これが、合コン。戦慄を禁じ得なかった。
 全員が今から死地へと赴く、その覚悟を持ち合わせているように感じた。さしずめ、私は派遣されたばかりの新兵か。


「女子は全員、既に席についている。段取りは先に済ませたよ。ここからが本番だ。いこうか、聖地へ」

 なるほど、合コンのセッティング場所を聖地と呼ぶのか。私は不覚にも感心してしまった。私が思い浮かべる聖地と言えば、メッカくらいなものなのだ。

 生徒会長の合図とともに、先頭が「ゴーゴーゴー!」という掛け合いのもと、国道沿いにポツンとたたずむ、個人経営の居酒屋へ殺到する。全員が、そこへ突入した後、生徒会長にポンと肩を叩かれる。


「フォローは任せたよ」

 こんな重大そうなフォローを任されるとは思っていなかった。全員が命懸けという雰囲気とは思ってもみなかった。それでもここまで来て嫌とは言えず、生徒会長が店の中に入ったのを見届け、少し後悔した。


「あ」

 私はそう零しつつ、慌てて店に入る。少し店に入るのが遅くなってしまった為、先を歩いていたはずの生徒会長を見失ってしまう。その時、たまたま、店員さんが通りかかった為、お願いをした。





「では、飲み物頼んだ後、自己紹介から!」

 そんな掛け声とともに合コンはスタートした。既に目の前には、御通しと箸が置かれている。確かこの後にコースの料理が運ばれてくる手筈だ。男性が声を揃えて、ビールと注文するのを皮切りに、女性側が各々飲み物を注文する。そんな中、御通しをスマホで撮っている女性がおり、なるほど、こうやってSNSに食べ物がアップされていくのかと感心しながらも、たかが料理を写真に取ることに違和感を覚えた。


 ちなみに男性がビールを頼んだのは、生徒会長の入れ知恵である。女の子の前で、ウーロン茶なんて言うのは流石にカッコ悪い、と生徒会長の鶴の一声があったからだ。


「君の番だよ」

 思考にふけっていると、生徒会長がその意識を救い上げる。私は慌てて、自己紹介をした。


「鷹閃大学に通ってます、名前は」
「え、本当に鷹閃大学の人いんの!?」
「男子の嘘かと思ってたー!」
「証拠! 証拠プリーズ!」
「ぴぃ」

 思わず、私は言葉を漏らす。もはや、私の自己紹介などどうでもいいとばかりに、彼女らは、証拠を探し始め、男性はそれに便乗し、私の財布から学生証を奪いとり、彼女たちに渡していた。


 理不尽だ。そう思わずにはいられなかった。


「マジなんだけど!ウケる!!」
「マジ卍!!」

 そう言いながら笑う彼女たちは、一体どこの言語を使っているのだろう。少なくとも、私にはよくわからなかった。
 分かったことは、彼女たちは私ではなく、鷹閃大学という名前に興味があるということ。


「だろ、こいつさ、昔から得体の知れないところがあって」

 生徒会長はそう言って、場を繋いでいた。彼はこの合コンを滞りなく進めようと、逐一みんなに飲み物を聞いて回ったり、率先して店員から飲み物を受け取り、それを一人一人に手渡しながら、会話を弾ませる。


 その後、比較的に順調に合コンは進んだ。私はあまり女性と会話をしていないが、それでもたまに向こうから鷹閃大学の話を聞かれたので無難に答える。そして、ビールを飲む。その間に、生徒会長が記念に写真を撮ろうと言い出し、写真を一枚撮った。後で送るよと彼に笑顔で言われたが、別に欲しくもないので断った。


 そして現在。盛り上がった男性の一人が、唐突に王様ゲームをやろうと言い出す。私はそれがどういうルールのどういうゲームか全く分からなかったので、隙を見て離席した。スマホは勿論持つ、なにされるのか分からない。


 スマホを操作し、メッセージを送る。しばらくして、スマホが振動したことを確認し、店の外に出る。季節は夏だが、それでも夜は肌寒い。


「楽しくない?」
「生徒会長」

 聞こえた声に、後ろを振り返る。どうやら、生徒会長がついてきたようだった。音がしたので誰かきたと思っていたのだが、ここまでズバリだと笑ってしまう。


「幹事がいないと、大変ではないですか?」

 私はつっけんどんに返す。事実、さっきまで、彼が上手く場を回していたからこそ、合コンは滞りなく進んでいると言ってもいい。そうでなければ、人と話すことを苦手とする私は、さっさと帰れと言われていたに違いない。


「そんなことないよ、場も大分盛り上がってたみたいだし」
「そういう、ものですか」
「そういうものさ」

 言い終わると彼は、突然私に瞳を合わせる。そして、深くその腰を折り曲げた。


「今日は来てくれてありがとう。助かったよ」

 姿勢を戻し、笑顔で話す彼の顔は、高校時代に見た、答辞を読む彼と何ら変わらない。そう変わるわけもないか、と私は思う。


「君がこっちに帰ってきた時、なんとなく元気が無さそうだったから心配した。来てくれるか分からなかったけど、それでも君は来てくれた」

 たかが、4か月か5か月。この田舎を離れて過ごした期間はまだ短い。恐らく私も変わってはいない。人の本質も人との関わり合いも、そう簡単に変わるものじゃない。

 だが、


「何か力になれることがあったら、遠慮なくいってくれ」
「やめてください」

 私は変わらないといけない、そう思う。それがきっと、悩むということだから。


「善人のふりするの、やめてください。生徒会長」
「え?」

 白銀さんが言った言葉の意味はよく、分からない。彼ですらよく分かってなかったと思う。だから、きっとこれも延長線上の出来事だ。


をしましょうか」

 人と人が関わっていく、人が人を愛していく延長線だ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...