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三章 カーストに敬意と弾丸を
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しおりを挟む翌日。
「それじゃあ、全員準備は出来たか?」
おう、と低い声が木霊した。私以外の数人の男子が声を揃え、目を合わせる。その統率の取れた動きは自衛隊の訓練を彷彿とさせた。この場合、小隊長となる人物は、間違いなく生徒会長だ。
これが、合コン。戦慄を禁じ得なかった。
全員が今から死地へと赴く、その覚悟を持ち合わせているように感じた。さしずめ、私は派遣されたばかりの新兵か。
「女子は全員、既に席についている。段取りは先に済ませたよ。ここからが本番だ。いこうか、聖地へ」
なるほど、合コンのセッティング場所を聖地と呼ぶのか。私は不覚にも感心してしまった。私が思い浮かべる聖地と言えば、メッカくらいなものなのだ。
生徒会長の合図とともに、先頭が「ゴーゴーゴー!」という掛け合いのもと、国道沿いにポツンとたたずむ、個人経営の居酒屋へ殺到する。全員が、そこへ突入した後、生徒会長にポンと肩を叩かれる。
「フォローは任せたよ」
こんな重大そうなフォローを任されるとは思っていなかった。全員が命懸けという雰囲気とは思ってもみなかった。それでもここまで来て嫌とは言えず、生徒会長が店の中に入ったのを見届け、少し後悔した。
「あ」
私はそう零しつつ、慌てて店に入る。少し店に入るのが遅くなってしまった為、先を歩いていたはずの生徒会長を見失ってしまう。その時、たまたま、店員さんが通りかかった為、お願いをした。
◆
「では、飲み物頼んだ後、自己紹介から!」
そんな掛け声とともに合コンはスタートした。既に目の前には、御通しと箸が置かれている。確かこの後にコースの料理が運ばれてくる手筈だ。男性が声を揃えて、ビールと注文するのを皮切りに、女性側が各々飲み物を注文する。そんな中、御通しをスマホで撮っている女性がおり、なるほど、こうやってSNSに食べ物がアップされていくのかと感心しながらも、たかが料理を写真に取ることに違和感を覚えた。
ちなみに男性がビールを頼んだのは、生徒会長の入れ知恵である。女の子の前で、ウーロン茶なんて言うのは流石にカッコ悪い、と生徒会長の鶴の一声があったからだ。
「君の番だよ」
思考にふけっていると、生徒会長がその意識を救い上げる。私は慌てて、自己紹介をした。
「鷹閃大学に通ってます、名前は」
「え、本当に鷹閃大学の人いんの!?」
「男子の嘘かと思ってたー!」
「証拠! 証拠プリーズ!」
「ぴぃ」
思わず、私は言葉を漏らす。もはや、私の自己紹介などどうでもいいとばかりに、彼女らは、証拠を探し始め、男性はそれに便乗し、私の財布から学生証を奪いとり、彼女たちに渡していた。
理不尽だ。そう思わずにはいられなかった。
「マジなんだけど!ウケる!!」
「マジ卍!!」
そう言いながら笑う彼女たちは、一体どこの言語を使っているのだろう。少なくとも、私にはよくわからなかった。
分かったことは、彼女たちは私ではなく、鷹閃大学という名前に興味があるということ。
「だろ、こいつさ、昔から得体の知れないところがあって」
生徒会長はそう言って、場を繋いでいた。彼はこの合コンを滞りなく進めようと、逐一みんなに飲み物を聞いて回ったり、率先して店員から飲み物を受け取り、それを一人一人に手渡しながら、会話を弾ませる。
その後、比較的に順調に合コンは進んだ。私はあまり女性と会話をしていないが、それでもたまに向こうから鷹閃大学の話を聞かれたので無難に答える。そして、ビールを飲む。その間に、生徒会長が記念に写真を撮ろうと言い出し、写真を一枚撮った。後で送るよと彼に笑顔で言われたが、別に欲しくもないので断った。
そして現在。盛り上がった男性の一人が、唐突に王様ゲームをやろうと言い出す。私はそれがどういうルールのどういうゲームか全く分からなかったので、隙を見て離席した。スマホは勿論持つ、なにされるのか分からない。
スマホを操作し、メッセージを送る。しばらくして、スマホが振動したことを確認し、店の外に出る。季節は夏だが、それでも夜は肌寒い。
「楽しくない?」
「生徒会長」
聞こえた声に、後ろを振り返る。どうやら、生徒会長がついてきたようだった。音がしたので誰かきたと思っていたのだが、ここまでズバリだと笑ってしまう。
「幹事がいないと、大変ではないですか?」
私はつっけんどんに返す。事実、さっきまで、彼が上手く場を回していたからこそ、合コンは滞りなく進んでいると言ってもいい。そうでなければ、人と話すことを苦手とする私は、さっさと帰れと言われていたに違いない。
「そんなことないよ、場も大分盛り上がってたみたいだし」
「そういう、ものですか」
「そういうものさ」
言い終わると彼は、突然私に瞳を合わせる。そして、深くその腰を折り曲げた。
「今日は来てくれてありがとう。助かったよ」
姿勢を戻し、笑顔で話す彼の顔は、高校時代に見た、答辞を読む彼と何ら変わらない。そう変わるわけもないか、と私は思う。
「君がこっちに帰ってきた時、なんとなく元気が無さそうだったから心配した。来てくれるか分からなかったけど、それでも君は来てくれた」
たかが、4か月か5か月。この田舎を離れて過ごした期間はまだ短い。恐らく私も変わってはいない。人の本質も人との関わり合いも、そう簡単に変わるものじゃない。
だが、
「何か力になれることがあったら、遠慮なくいってくれ」
「やめてください」
私は変わらないといけない、そう思う。それがきっと、悩むということだから。
「善人のふりするの、やめてください。生徒会長」
「え?」
白銀さんが言った言葉の意味はよく、分からない。彼ですらよく分かってなかったと思う。だから、きっとこれも延長線上の出来事だ。
「答え合わせをしましょうか」
人と人が関わっていく、人が人を愛していく延長線だ。
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