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三章 カーストに敬意と弾丸を
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しおりを挟む「答え合わせって何を? そんな事より外は冷える、中に戻ろう」
「初めに思ったのが、馴れ馴れしいってことです」
私は意に介さず述べる。彼はまだ、生徒会長のままだ。自分が上だと思っている、カーストの上にいると、高校の時のことを引きずって。
「私、高校時代に生徒会長と話した記憶がありません」
いや、でもそれは間違いない。人はコミュニケーション能力があった方が好まれる、能力が高い方が好まれる、容姿が良い方が好まれる、人を形成する重要なファクターだ。必死になって友達付き合いしている人もいれば、必死にファッション雑誌をめくる人もいる。それはきっと、重要なことで、大切なことだ。それをしていない私が批判していいと、私は思わない。きっと、それをしている人は、私よりずっと、人らしい。
「そこまででしたか?」
スクールカーストと言われる言葉がある。それは、きっと理不尽な決められ方をして嘆く人もいれば、絶対に努力して上位の人と仲良くなって、上にいった人もいる。良いか、悪いかで決められるものではないと思う。
「理由を練って、合コンに参加させてまで」
だが、それでも、絶対に悪いと思う人はいる。こんな私でも、絶対に間違っていると、声を大にして言える人がいる。
「アルコールを飲ませたかったですか?」
他人を蹴落としてまで、自分の地位を守ろうとする人だ。
「本当にどうしたんだ? 飲みすぎ?」
生徒会長は、それでも善人だった。本当に寂しい人だと私は思う。
「どこをどう考えても都合がいいんです。合コンで見栄を張ることはあるかもしれません。でもこの町で鷹閃大学出たのは私くらいなものです。それを、鷹閃大学を騙るのは、あまりに都合が良いとしか思えません。それに私聞いてません。あのメンバーの中の誰が嘘をついいたのか」
最初から仕組まれていたとしか思えない。全部この為に。
「貴方です。貴方が嘘をついた」
それが答えだった。きっと、こっちに帰ってくると知って、本来の合コンに一人空きができ、急遽私を入れた。私を入れるしかない状況を自分で作ってまで。
「ちょっと待て! 俺が仮にアルコールを飲ませたからって何になる!?」
「何とでもなりますよ。例えば、偶々誰かが未成年の飲酒を目撃して、偶々その未成年の帰り道に警官が行くよう誘導した、それでいいと思います」
「だから!! 俺も飲んでただろ!! ビール!! そんなことするはずないだろ!? 俺も捕まるっ!!」
「ノンアルコールビールですよね、飲んでたのは」
男性がビールを飲むように進言したのは生徒会長。セッティングをするのは簡単だったはずだ。幹事だったら尚更だ。一人、ドライバーがいるからビールを頼まれたら、一つだけノンアルコールビールを入れてくれと。そんな融通の利く個人経営の居酒屋を探したのだろう。だから、チェーン店ではなく、個人経営の居酒屋を探した。受け取る際には、わざわざ自分が店員に応対してまで、その事実を隠した。
「何を根拠に!!」
「写真、写らなくてよかったんですか?」
「っ!!」
全員で撮ったあの写真、生徒会長が撮った写真、生徒会長が写っていない写真。証拠を抱え込もうとし、それが返って疑惑を深めた。
「間違っているのなら、謝ります」
風が吹き抜ける。生ぬるい風が、私と生徒会長の間を走った。
瞬間、笑い声が高らかに響く。生徒会長が、その口を醜く歪め、笑っていた。
「今更謝ってもおせぇよ!! お前は飲んだ!!未成年なのに!! 今頃気づいたところでおせぇおせぇ!! その足りない頭でよく出来ました!! 写真もありまぁぁっす!! どうしようも出来ませぇえええん!!」
それは苛烈で、強烈で、優劣だと、私は思う。
「聞く必要もないんですけど、なんでこんな事を?」
「黙れよ! お前は知ってるかぁ!? 俺も鷹閃大学受けたんだよ!! くそったれ!! なんでお前みたいなゴミが受かって!! この俺様が落ちんだよおおおお!! お前と俺を鷹閃大学は間違えたんだよ!? 分かるか!? 分かんねぇよな!? この地元で一番と言われ続け!! 生徒会長にまでなった俺が!! お前に負けるって!!」
「そんなことだろうとは思いました」
聞くだけ無駄だった一連の言葉を反芻する。逆恨みもいいところだ。
「あぁ、ちなみになんですけど」
一旦言葉を区切る。カーストという崖にしがみ付いた生徒会長が酷く、辛そうだった。
「店員さんにお願いしておきました、ビールって言われたら全部ノンアルコールビールを持ってきてくださいって」
「は?」
生徒会長が先に店に入った後、私は店員さんにそうお願いをしていた。
「不思議な顔してましたけど、了承してくれました」
「は? 何言ってんの?」
「飲んでませんよ、アルコールなんて。未成年ですから」
一応、ノンアルコールビールを未成年が飲んでいいかどうかという議論は諸説あるが、決して違法ではない。どれだけ生徒会長が頑張っても、私を退学には追い込めない。それだけで十分だった。
金魚が酸素を求めるよう、何度も何度も口をパクパクする生徒会長は、事態を上手く呑み込めていないようだった。
「生徒会長、私、珍しく怒ってるんです」
そして、感謝もしていた。
「実は、他にもこんな事、2回ほどされていまして」
彼は違っていた。堂島さん、白銀さんは明確に違っていた。そう思うと、不思議と心が救われた。
「それでも、天才はこんなことしなかった」
私が鷹閃大学に通う理由は、未だはっきりしない。
だがそれでも。教授との会話。ラフィーさんとの電話、生徒会長との答え合わせ。それを通して、私はそれでもいいと思った。
悩めばいい、苦悩すればいい、対立すればいい。堂島さんも、白銀さんも真っ向勝負で、こんな私に挑んでくれた。そのことは決して無駄ではないと、今の生徒会長を見れば断言できる。
「他人を巻き込むようなことはしなかった!!」
店員は言っていた、変えるように頼まれたグラスは一つだけだと。
生徒会長は自分以外は、全て蹴落とすつもりだった。自分より、強いか、弱いか、憎んでいるか、憎んでいないか、それもすべて無視して。自分以外を蹴落とすつもりだった。
私が言っている意味を、恐らく、生徒会長は理解できてはいない。
ただ、すべて悟ったようだった。どうやら、自分の企みは失敗したと。金魚のように開いたり閉じていたその口を今は、結んでいた。
国道沿いの店の明かりが、いよいよはっきりとその姿を現す。
それは、全てが明るみに出たと暗示しているようで。
「・・・なぁ」
生徒会長は、口を開く。
「黙っててくれないか?」
まだ、取り繕えると、崖にしがみ付いているようで。
それに返答はしなかった。代わりに見せたのは、スマホ。通話中と表示されたスマホ。店を出る前、メッセージで生徒会長からサプライズがあるといって、他の男性と電話を繋ぎっぱなしだったスマホ。
「席、残っているといいですね」
風が一つ、吹き抜けた。涼しくて、暖かい風だった。
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