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四章 裁かれ、嘘は砂に、優しさは霧に

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「お集まりいただき、感謝を。俺の名前は漣 斗真。今回のゲームマスターを務めさせてもらう。参加者42名には、ゲーム進行役として顔を覚えていただければ幸いだ」

あの後、何とか骨も身も残すことに成功した私は、堂島さんと御剣さんと会場入りを果たし、嘘つきゲームに参加していた。


「さて、今回で21回を数えることになるゲームだが、年々、参加者、そして、観客が増えていることを光栄に思う。それに恥じないゲーム内容にすべく、ゲームマスターの私は精一杯尽力させてもらう。参加者各位、協力願いたい」

この会場、鷹閃大学が大規模な講演などで使う大きなスペースを貸し切って設置されており、中央には円卓を模したように並べられた机に、参加者が着席するようになっている。その前には、番号が書かれた大き目のアクリル板が設置され、加えて、マイク、スケッチブック、そして黒のマジックペンが置かれている。


「さて、前口上はこれくらいで終わりにしよう」

その中央を取り囲むように、観客席として、無数のパイプ椅子が配置されており、既に多くのパイプ椅子が埋まっている状態だった。


なんとも緊張する。こんな大勢にみられるのは、今までの人生を振り返ってもそうある経験ではなかった。


心を落ち着かせるために周りを確認する。私の両隣は御剣さんと堂島さんだ。御剣さんのアクリル板には32の数字が、私のアクリル板には33の数字が、堂島さんのアクリル板には34の数字が記載されている。その他の参加者にもそれぞれ数字が割り振られており、それぞれの顔触れを確認する。しかし、お目当ての人物がいないことに私は違和感を覚えた。ラフィーさんが居なかったのだ。


「それでは、第21回嘘つきゲームを開催する」

その宣誓はマイクのハウリングとともに行われた。私の想像する大規模な大会ならば、歓声の一つ、拍手の一つでも聞こえそうなものだが、そんな音は一切聞こえず、ただ静寂を保っている。見れば、みんな固唾を飲んで見守っていた、このゲームの行く先を。


「まずはルール説明。嘘つきゲームはシンプルかつ明白。最初に係員が参加者各位に一枚のカードを配布する。そこには○か×の表記がある、他人に見られないよう、確認してほしい。尚、配られるカードに含まれる×は一枚のみ。それを手にした者だけに嘘をついてもらう。他の○を手にした者は、嘘つきを、つまりは、×のカードを持った者を当ててもらう」

みんなが円卓の中央に座るゲームマスターに視線を向ける。ガッシリとした体格の持ち主は、それすら意に介さず、流麗に言葉を紡いだ。


「ゲームの流れを説明する。まずは配られたカードを確認後、私が、つまりは、ゲームマスターが話題を提供する。その話題に対して、1番から順に答えてもらう。答えはあくまでもシンプルかつ明白に。この時、○のカードを持った者は、真実を、×のカードを持ったものには、嘘を述べてもらう」

ゲームマスターは、これほど多くの視線に物怖じもせず、むしろ跳ね返す勢いで話す。


「その後、再度ゲームマスターが、話題に関する質問を提示する。この時、嘘をついた者、つまりは×のカードを持った者は、真実を述べなければならない。そうしなければ、矛盾を見つけようもない、×のカードを持った者は、真実を言う際には、細心の注意を払って述べるのが賢明だ。逆に○のカードを持つ者は、しっかりと真実を見極めてほしい。尚、参加者が10人を下回った場合は、質問を2個用意する」

投げかけるその言葉は、強いインパクトを持っていた。恐らく、私の先輩にあたるであろうゲームマスターは、表舞台に何度も立ってきたひとなのだろう。


「一連の流れが終了した後、○のカードの所持者は、それぞれ手元にあるスケッチブックに×のカードを所持していると思われる人物、その人物の目の前にあるアクリル板に書かれた番号を記入し、一斉に提示してもらう。×のカードの所持者は適当な番号を記入してくれて構わない。掲示の次に、自身が持っているカードをオープンして曝してもらう。×のカードの所持者が、誰からも指摘されなかった場合、ゲームは終了、×のカードの所持者の勝利。×のカードの所持者が、誰かから指摘を受けた場合、×のカードの所持者は脱落、加えて×のカードの所持者を指摘できなかった○のカードの所持者も脱落だ。この場合、再度ゲームが行われ、最終的に、二人だけが脱落せずに残っている場合は、二人が勝者になる。決着がすぐについてしまうためだ。なお、勝者にはエキスビジョンマッチとして、商品を賭けて私と、つまりはゲームマスターと対決してもらう。その内容は、その時お伝えする。あぁ、ちなみにだが、このエキスビジョンマッチ、今までクリア出来たものはいないので、今回こそ、クリアするものが現れることを切に願っている」

そこで一旦、話は区切られた。今までの話を纏めると、


① 嘘つきを決定する。
② 話題について解答、嘘つきは嘘をつく。
③ 話題についての質問、嘘つきはここでは真実を語る。
④ 嘘つきを見つける、嘘つきは嘘をつききる。
⑤ 繰り返すか、嘘生き残りで勝者決定。


このようなフローだ。


「簡単にだが、例を表示しておこう。俺が“今日の朝食は?”という話題を提示したとする。それに対して嘘つきが“御飯と焼き魚”と解答したとしよう。その後の質問内容は“朝食に使われた食材は?”と仮定し、嘘つきが“豚肉”と答えた時点で矛盾が発生する。それを指摘するゲーム。そして嘘つきは、この矛盾を隠し上手く真実を述べるゲーム」

説明を聞いた堂島さんは、私に対し、軽く話掛けてくる。


「このゲーム、聞いてはいたけど、不平等ね」

それに対して、反応したのは、御剣さんだ。


「いや、一概にそうもいえねぇ。運の要素が絡んでくる以上、ワンパンで沈められる可能性もある」

二人が言っているのは、恐らく、


「ゲームの一番初めに、×のカードを所持した場合ですね」

簡単に説明すると、ゲームの一番初めに×のカードを所持した場合、多数の人から指摘を受けることになる。一人でも正解を指摘されれば、嘘つきはその時点で敗北。それを掻い潜れる確率は低いだろう。逆にゲームが進行すればするほど、指摘する人数は減る。

だが、指摘される人数が多いということは、指摘することが出来る人もまた、多数存在しているということにもなる。選択肢が多数あるため、他に分散しやすいのだ。自分という存在を極力薄くすることが出来る。


「出発点がそこだからな。そして、話題。その後の質問がわからねぇ以上、どんな嘘をついていいかも不明だ。運が絡む」
「むしろ、それは運というより、ゲームマスターの匙加減な気がするわね。矛盾を上手くつく質問を策定するのがゲームマスターの仕事みたいだし」

凄いなこの人たち。私は思わず唸った。ゲームの意図を的確に汲み取っているその様は、やはり天才というに他ならない。


というより、お米うんぬんかんぬんで目が曇っている私より、正直頼もしかった。私は先ほどからエキスビジョンマッチに想いを馳せてならない。勝てると決まったわけでもないのに。


「それでは説明は以上。始める」

ゲームマスターのその声とともに、カードが参加者に配られた。

私は他人に見られないよう、こっそりとカードを確認する。


書かれた印は、○だった。


よかった、二人が最初に×を引くという話題を出したから、その通りになるかと心配してしまった。


そんな安堵もつかぬ間、ゲームマスターは最初の話題を口にする。


「それでは、最初の話題。最後になるかも知れないが、言わせてもらおう。“今日一番最初に口にした飲み物は?”」


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