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記憶と状況理解とゲーム知識。
2話『ベリアルの問い。』
しおりを挟むおちつけ。おちついて、もちをつけ。わたし。ここは深呼吸だ。
ひっひっフウー ひっひっフウー。
落ち着いてきた。かも。
「さぁ、エミリア嬢。どちらをご所望かな?」
とりあえず、魔王ベリアル様には穏便に帰ってもらいたい。
でも、この人の叶える願いが殺人か呪いかのどちらかしかない。
もっと選択肢がないのか。悪魔めー! ※悪魔です
私は、勇気を出して聞いてみることにする。
「ベリアル様、お願いはその二択しかできないのでしょうか?」
ベリアル様は口元は笑みを浮かべたままキョトンとした。
「ん? どういう意味だ?」
「私の、願いはベリアル様の求めるものではないと具申します。
お互いの利害関係が一致していない場合は無効となりますよね?」
言葉に、「お帰りください」の副音声を混ぜる。
ベリアル様の顔が少しだけ難しい顔をする。
「つまり、君は呪いや暗殺では物足りぬと言うのか?
もっと苦しめる方法か? 恐ろしい女だな。」
何を想像したのか、ちょっとドン引きされてしまった。ショック。
「ち、違いますわ! 私の願いは……その……」
そこで、ハッ! っと欠けていた記憶を思い出した。
ゲームのエミリアの呪いについてである。
ドラマCD限定特典のキャラクター設定集の内容だ。
エミリアのかけた呪いの内容は死に至る程のものではないというもの。
そして、弟であるジョシュアルートでエミリアが死んだあとも
王子とヒロインは命を狙われるのだ。
これは、ゲームの中でも卒業あとのエミリア断罪後の2人が幸せなスチルと
ショートメッセージで語られるだけである。
『命を狙われながらも手を取り合い、幸せに暮らしました。』
というもの。だけど、なぜ命を狙われるのか?
さらに言えば、隠しキャラである商会子息ケヴィンルートは、
エミリアと王子は関係ないはずなのに、王子とヒロインは呪われていた。
これは、ゲームの中では全てエミリアが呪ったせいになっていたが、
他にもヒロインを呪った者がいたのではないだろうか?
いろいろと考え込んで急に黙ってしまった私にベリアル様が声をかけた。
「エミリア嬢。いろいろ考えているようだが、ひとつ聞きたい。」
ベリアル様は、少し戸惑った顔をしてこちらを見下ろす。
「君は、「誰」だ?」
「えっ……?」
ドキリとした。
私はきっと、淑女にあるまじき目を見開き、口は少し開いている。
ポカーン顔となっていた。
「ど、どういう、意味でしょう?」
動揺して声が震えてしまった。
「私は、エミリア嬢の魔力で呼び出された。そうだな?」
「ええ。そうです。」
そう、魔力水晶に三ヶ月間恨み言を囁きながら魔力を貯めたのだ。
そう答えたら怪訝な顔をしながらベリアル様が問う。
「君の魔力には狂気が混ざっていた。でも、今の君の魔力は惑いと絶望、
そして、決意がまざっている。先ほど、私を呼びだす瞬間までの憎悪が
綺麗さっぱり消えている。しかも、憎悪は憎悪でも憎愛だ。
そう簡単に消えるわけが無い。エミリア嬢、いや、君は「誰」だ?」
私に「誰」と聞いてくるとは。
きっと、この誰何の問いかけはエミリア・ヴォルステインではなく、転生者の
前世の私に対してだと、「わたし」に気づいてくれたのだと思ってしまった。
そして「わたし」は、自分のこと。これからの起こること。
全てをこの美青年魔王ベリアル・ヴェルノーマ様に話してしまっても
いいんじゃないかと思った。
記憶が戻った自分が自分自身で戸惑っていたのもあったのだろう。
なんとなく、彼は信じてくれるんじゃないかな。と思ったから……。
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