親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

文字の大きさ
15 / 231
記憶と状況理解とゲーム知識。

15話『お母さん。』

しおりを挟む


空が茜色に染まるころ、

ブルード城に母であるエレノア・ナスカ・ヴォルステイン侯爵夫人が帰宅した。




ベリアル様にはそのまま地下室で待ってもらい、

私はお母様の元に向かう。





自室で休憩を取っていたお母様に声をかける。

ノックをして、侍女に取り次いでもらう。

許可が下りたので、美しく見える所作で軽くあいさつをすませて入室する。


お母様は、窓際の丸テーブルでくつろいで刺繍ししゅうをしていた。


お母様は美しい。

私と同じ、夕日色の長い髪をお団子にしてシニヨンネットで結い上げまとめている。

瞳は切れ長の茜色で、口紅やほほ紅もすこしオレンジがかったピンクだ。

ドレスの色も濃い茜色のハイウエストドレスでゆったりしている。





反対側のイスをすすめられ、イスに座る。

背筋を伸ばして真っ直ぐ見つめる。

お母様は微笑をたたえたまま、ゆっくりと刺繍を楽しんでいる。



ここからが本番だ。

きっと、お母様がお母さんなら、私の話を聞いてくれる。

今からする質問は、ある意味、賭けだった。





「お母様、納豆ご飯とお味噌汁が食べたいですね」







「ええそうね」







部屋の隅で紅茶を入れていた侍女はキョトンとしている。



お母様は、言葉の意味がじっくりと脳にしみていってるのか、

眼はゆっくりと開いてきている。表情も無表情に近づいている。






「出し巻き卵は砂糖多め。お兄ちゃんとお父さんはマヨ派だったよね……?」









「…………!」











その後、何があったのかを簡単に説明するとね?



お母様は私のお母さんだった。





前世での記憶はあるが、名前が出てこなくて、もどかしそうだったけど。

侍女の目も気にせずに、貴族のマナーなんて無視して私を抱きしめてくれた。

母と私は泣きながら、まとまりの無い言葉が延々と紡がれる。



うん。うん。そうだね。そうだったね。



私も泣きながら、お母さんをやさしく抱いて、手で背中をなで続けた。

ちなみに、このとき侍女はあたふたしていた。

落ち着きを取り戻したお母さんは、心配している侍女に何度も

「大丈夫よ」と言ってさがらせた。



二人きりになった部屋で最初に口を開いたのはお母さんだった。



「ねぇ、あんた。記憶はいつからよ?」



前世のように砕けたしゃべり方だけど、見た目とのギャップがすごい。

ちょっと可笑しくなって笑ってしまった。





「ついさっき! 2時間くらい前からだよ」



へぇ~って顔をしてたお母さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。





「何? 婚約破棄でもされた?」







ドキンッと心臓が跳ねた。





私の顔色はサァーっと青白くなっていったと思う。

その様子を見ていたお母さんはちょっとした冗談のつもりだったらしく

私の表情の変化に驚愕の表情を浮かべてた。







「あんたもかぃ……。」







この時の、お母さんの顔をみて、

なんとなく察してしまった自分が恨めしく思ったのだった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...