親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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学園生活開始~学園祭。

49話『エレノアの夢 番外編5』

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※過去のお母様視点です。




私とベリアル陛下は馬を引き連れて

転移し、山岳地帯を走った。



ちなみに、政務室にいたのは宰相で先見の預言者だという。

私が政務室に来ることも、馬を求めていることも分かっていたのだとか。



転移で移った場所は、以前の洞窟の中ではなく、

周りには尖った岩以外なにもない場所だった。



場所はなんとなく分かる。

どこの道を通ればいいのかも、なぜか分かるのだ。

これが星霊の力なのだという。

しばらく進んでいると、見覚えのある景色が見えてきた。

目を凝らすと倒れた馬車に複数の黒ずくめの男達の姿が。



(殿下とジェバース様は無事!?)



男達に囲まれている。

ジェバース様は複数の切り傷が見える。



アスト殿下が牽制して足止めをしている。

星霊アスカに教えてもらった映像が脳裏をよぎる―。



(まずい!)



私は、馬から飛び降りて魔力を足に込めた。

抜き放ったレイピアには炎が纏っていた。



足に集まった魔力を蹴る勢いで駆け出す。

思った以上にスピードが出て、その勢いで殿下とジェバース様の

後ろに隠れていたリーダー格の男を切り飛ばした。


「ぐ、うおおおおお!」



叫び声を上げて転がる男を無視して、片足でステップを踏む。

勢いをそのままに、殿下とジェバース様を取り囲んでいた男達を

次々にきり飛ばしていった。



遅れてやってきた魔王ベリアル様は、私の乗っていた馬と

一緒に近づいてきた。



落ち着いて、状況を把握する。



目の前には、切り伏せられた男達と

放心状態の殿下とジェバース様がいた。



よく見ると、男達から煙が上がっている。

症状は火傷状態だった。

炎は上がらずに、切り伏せた瞬間に火傷を負ったのだろうか?

男達は、それぞれうめき声を上げて、立ち上がることは出来ないようだった。



(自分が自分じゃないみたい。 これ、私がやったのよね?)



「エレノア……なのか?」



殿下の声に振り返る。

私は、殿下とジェバース様に近づいて傷の様子を確認した。


「ええ、殿下。お久しぶりです。間に合って良かったですわ」



殿下とジェバース様の傷を見て治療優先を見定める。



「殿下、腕の骨を折られましたね。

 筋もすこし痛めています。無理な戦闘をされた証拠です」



私の治癒魔法では骨折は治せない。

無理に治そうとすると、変な形でくっついてしまったりするのだ。



ジェバース様は、打ち身と切り傷だった。

打ち身は馬車から叩き出された時だろう。



私は、2人に治癒魔法を施した。



ちなみに、アスト殿下とジェバース様が山岳地帯にいた理由は、

私とラナー様の消息が消えた場所を探しに来たのが理由だった。


そのあとは、ラナー様の無事を伝えた。

魔族の街へアスト殿下とジェバース様を連れて戻り、

ラナー様を連れてすぐにでも王都に向かうことになった。

もちろん、魔王ベリアル様も同行するようだ。



星霊アスカの力を引き出せる私がいれば、自分は行く必要ないかもしれないと

なんとも不服そうな表情ではあったが。



アスト殿下とジェバース様の調べで国王ガザート陛下の居場所が判明した。

国王陛下は宰相家の牢屋に閉じ込められているようだった。



王宮にはリリーナが陣取っているという。

なんでも、国の重鎮たちをたぶらかし、女王様きどりだという。

なんというか、すごい説明だった。


私達は、二手に分かれて作戦を決行することにした。

私とジェバース様が宰相家で捕まっているガザート王を助けること。



ラナー様とアスト殿下、ベリアル陛下は時間稼ぎとして

王宮に向かう。出来れば、王宮の敵を減らす役目を担ってもらう。



ラナー様は、正直言って足手まといだろう。

だからこそ、相手は油断する。

ベリアル陛下に守ってもらう前提での作戦だった。

ベリアル陛下は、もちろん守り抜くと仰った。あれは、マジの顔だ。



準備が出来次第、私達は王都へ旅立つことにした。

ラナー様は馬には乗れないので、ヴェルマ制の帆馬車を借りることになった。



王都に着いてからの皆の行動は早かった。

まず、あらかじめ国民には外出禁止令が出してあった。

内容は、王宮に賊が侵入し、包囲網を作り上げているために、

貴族含む、一般庶民達は外出を禁止する。というものだった。



これは、アスト殿下の手書きの勧告書と

こういう緊急事態時に使用できる王印のおかげだった。



王都は夕刻近い時間に対して、とても静かだった。

私達は、二手に分かれてさっそく作戦を決行した。




ジェバース様と二人乗りした馬の上でレイピアを振るい、

宰相家の前にいた護衛を切り伏せる。

星霊アスカのお陰で、身体能力、動体視力共に向上しているようだった。



宰相の家の牢屋はあっけなく見つかり、

奥にいた宰相と宰相息子を問いつめ、王様を救い出すことに成功したのだった。



「国王陛下。今、王宮ではアスト殿下ががんばって居られます。

 疲れていることかと存じますが、なにとぞ私達と共に

 王宮へ向かってはいただけないでしょうか?」



ジェバース様の説得もあり、ガザート王も納得したようだった。



この後の展開も早かった。



王宮で頑張っていた殿下たちの下に、王様と私達が加勢した。

王宮の騎士達が自分達の勘違いに気づいた様子で、

こちらの見方になってくれた。



本当の賊が分かった彼達は強かった。



そのあとは、リリーナ側に居た重鎮たちも

罪を逃れるために次々にこちらに寝返り始めた。



謁見室の間。

そこで、一人佇む女性がいた。

彼女の着飾る装飾品と衣服は王家の家紋が施されている。



リリーナ・アドラメレク子爵令嬢。

ピンクがかった茶色のふるふる毛の髪を後ろに流し、

顔立ちは幼く鼻筋は低いが、ぷっくりとしたピンクの唇とルビー色の大きな瞳。

大人の色気と気品のある印象のご令嬢だった。



彼女は、王様に駆け寄ってきた。



「王様ぁ! 助けてください!

 私、クラーク様に騙されてぇー。

 自分が王様になるから、私を王妃にするって言うんですぅー」



甘ったるいしゃべり方は周囲の者達をいらだたせる。

上目遣いで見上げるリリーナに、ザガート王は手を振るった。



バシィ!



王様が放った張り手で倒れこんだリリーナは、頬を押さえて王様を見上げる。



「気安く触るな賊が。

 宰相も、その息子も全て白状した。お前にそそのかされたとな」



「なっ!?」



リリーナの顔色はだんだん悪くなっていく。



「気づいておらなんだか?

 貴様の周りには誰もいないのが証拠だ。

 皆、罪を認めて牢で萎縮いしゅくしておる」



リリーナは、王様では無駄だと悟ったのか、アスト殿下に目を向けた。



「アスト王子! 信じてください! 私は、やってないんです!

 私は、ずっと、貴女をお慕いして―――」



「やめてくれ。」



アスト殿下の言葉でリリーナの言葉は遮られる。

殿下はラナー様を隠すように移動して言った。



「君には、真実なんて一つもない」



リリーナは感情の抜けた表情を作ったあと、

私とラナー様を見て、顔を歪ませた。



「お、おまえぇえ! お前らのせいか!!

 お前らのせいで私はこんなあああああ! ――」



リリーナの目には涙が、狂気が、憎悪が、混ざっていた――



「呪ってやる!! 呪ってやる!! 呪ってやるぞ!!

 お前ら全員、呪ってやる!! 死ね! 死ね! 死んでしまえええええ!」



リリーナは両手を上に掲げて魔力を溜め始めた。



「魔力暴走?! 危険だ爆発するぞ! 離れろ!!」



私達は、魔王ベリアル様の指示に従ってその場を離れようとした。

リリーナの魔力が空間を歪ませるほどの濃密さで溜まっていく。 



眩しい光がリリーナに集まり―――



『なんと うまそうじゃ。 なんという まがまがしさじゃ』



子鬼の様な真っ赤な体に蝙蝠の羽をもった人型の何かが

リリーナに重なるように堕ちていく。

黒と紫のもやに包まれたリリーナはその靄を自分の中に

閉じ込めるように自分を抱く――



「きゃははははははは!! あははははははは!

 あーーーーはははははははは!!! きゃははははははははは!!」



高笑いするリリーナの声が聞こえて――



『「お前ら全員、復讐してやる」』





濁った声で、そう言い残してリリーナ・アドラメレクは姿を消した――。








――――気が付くと、見慣れた天井と見慣れた顔があった。



「大丈夫かい? なんだか、うなされていたよ?」



やさしい紫色のタレ目が私を覗き込んでいる。



「ジェバース」



起き上がって気づく、頬を伝う感覚。



「エレノア?」



「私は、あの子に何をしてあげられるのか、分からないの」



ジェバースは、黙って私の言葉の続きを待ってくれる。



「もし、あの子達にリリーナの影が忍び寄っているとしたら、私は――」



ジェバースは私を引き寄せて抱きしめる。

彼の暖かい感触に涙が溢れる。



「大丈夫だよ。あの子は強いから」



ジェバースは、私が泣き止むまで

抱きしめ続けてくれた。




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