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白魔法の文献編
188話『ヒロイン達の苦難 3』
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※ナナリー視点です。
私は歯を食いしばって、しがみつくのが精一杯だった。
方向感覚も分からず、手綱を握って前を向くだけ。
カチカチとなる自分の歯音がうるさい。
マリク君と一緒に乗っていた時よりも激しい揺れが起こっている。
この子は本当に、私の事を気遣ってあまり揺れないように
走っていてくれたのだということが深く理解できた。
この子の全速力とまではいかないけれど、かなり速かった。
怪我が治っても、流した血液は戻っては来ない。
荒い息を繰り返す馬の首元をそっと撫でる。
どれくらい走ったのかわからなかった。
実際の時間は30分も経ってないのかもしれない。
マリク君たちからかなり離れてしまったのは分かる。
私は、手綱を強く握り締め、目を閉じる。
(お願い――誰か、助けて――)
「止まれ!!」
声に気づいて、馬が止まる。
目を開けると、兵士達が列を組んで、
私が来た道に向かって進んでいる最中だった。
「我々、コルニクス兵が進軍中だ。 道を空けなさい」
「兵士……」
絞り出した声は声が掠れていた。
私は、馬に乗って近寄ってきた
兵士の中でも目立つ赤いマントと青いマントの人に手を伸ばした。
「た、たすけて!!」
私の手には、馬の血だったものが変色してついていた。
いや、手だけじゃない。
私の制服にはところどころ赤黒い染みが多くあった。
そんな私の姿にただ事じゃないと兵士達は気づいた様子だった。
「何があったの?」
後ろから、こんな兵士だらけの場所に似つかわしくない声が聞こえた。
集まる兵士が分かれて、間から馬に乗った声の人物がやってくる。
「ナナリー!? 一体どうしたのよ?」
「マリ……エラ……?」
見知った人物、マリエラの姿に私は耐え切れずに涙を流した。
「マリ…… ひっぅ、た、助けて……
ま、魔物に襲われて……
エミリア……が霧に閉……ひっぅ……
マ……ク君と……リー……さんが……戦ってて……。」
支離滅裂だった。
さっき起こったことをそのまま声に出していたと思う。
だけど、それだけの状況説明しか搾り出せなかった。
「分かったわ」
マリエラは堂々とした態度で頷く。
「至急、この子が来た道に兵士と救護班を向かわせて!」
マリエラは周りの兵士にさまざまな指示を飛ばしていた。
「はっ!」
それからの兵士達の動きは早かった。
隊列を組み、青いマントの人の指示で
私が来た速さの倍以上の速度で馬に跨った兵士達が向かっていった。
私は、このままここに残るように言われてしまった。
落ち着いてきた私は、どうしてマリエラがここにいるのか問いかけた。
マリエラが視線を戻し私に説明をした。
マリエラと赤いマントの人の話では、
ここから北に位置する場所にある村で複数の魔物が出現した。
その魔物は疫病を振りまくイノシシの姿だったという。
コルトに現れたあのイノシシだ。
コルニクス公爵は兵を連れて討伐に向かったが、
魔物の一体を逃がしてしまったのだという。
「イノシシ……!! そいつに、私達は襲われたんです!
私の仲間がまだ戦っていて……
お願いします! 助けて!!」
私は、赤いマントの兵士の人にしがみつくように懇願した。
「大丈夫だ。
コルニクス兵と隊長が向かった。
君の仲間達は助かる!」
赤いマントの人に頭を撫でられる。
「そうよ。
ナナリー、大丈夫だから。
私のお義兄様はとっても強いのよ。
貴女も疲れているでしょう。
後方で陣を張っている場所があるの。そこへ行きましょう」
私を落ち着かせるためにマリエラはやさしく促す。
馬はマリエラの言葉に従って動き出した。
私もマリエラに頷いたのだった。
私は歯を食いしばって、しがみつくのが精一杯だった。
方向感覚も分からず、手綱を握って前を向くだけ。
カチカチとなる自分の歯音がうるさい。
マリク君と一緒に乗っていた時よりも激しい揺れが起こっている。
この子は本当に、私の事を気遣ってあまり揺れないように
走っていてくれたのだということが深く理解できた。
この子の全速力とまではいかないけれど、かなり速かった。
怪我が治っても、流した血液は戻っては来ない。
荒い息を繰り返す馬の首元をそっと撫でる。
どれくらい走ったのかわからなかった。
実際の時間は30分も経ってないのかもしれない。
マリク君たちからかなり離れてしまったのは分かる。
私は、手綱を強く握り締め、目を閉じる。
(お願い――誰か、助けて――)
「止まれ!!」
声に気づいて、馬が止まる。
目を開けると、兵士達が列を組んで、
私が来た道に向かって進んでいる最中だった。
「我々、コルニクス兵が進軍中だ。 道を空けなさい」
「兵士……」
絞り出した声は声が掠れていた。
私は、馬に乗って近寄ってきた
兵士の中でも目立つ赤いマントと青いマントの人に手を伸ばした。
「た、たすけて!!」
私の手には、馬の血だったものが変色してついていた。
いや、手だけじゃない。
私の制服にはところどころ赤黒い染みが多くあった。
そんな私の姿にただ事じゃないと兵士達は気づいた様子だった。
「何があったの?」
後ろから、こんな兵士だらけの場所に似つかわしくない声が聞こえた。
集まる兵士が分かれて、間から馬に乗った声の人物がやってくる。
「ナナリー!? 一体どうしたのよ?」
「マリ……エラ……?」
見知った人物、マリエラの姿に私は耐え切れずに涙を流した。
「マリ…… ひっぅ、た、助けて……
ま、魔物に襲われて……
エミリア……が霧に閉……ひっぅ……
マ……ク君と……リー……さんが……戦ってて……。」
支離滅裂だった。
さっき起こったことをそのまま声に出していたと思う。
だけど、それだけの状況説明しか搾り出せなかった。
「分かったわ」
マリエラは堂々とした態度で頷く。
「至急、この子が来た道に兵士と救護班を向かわせて!」
マリエラは周りの兵士にさまざまな指示を飛ばしていた。
「はっ!」
それからの兵士達の動きは早かった。
隊列を組み、青いマントの人の指示で
私が来た速さの倍以上の速度で馬に跨った兵士達が向かっていった。
私は、このままここに残るように言われてしまった。
落ち着いてきた私は、どうしてマリエラがここにいるのか問いかけた。
マリエラが視線を戻し私に説明をした。
マリエラと赤いマントの人の話では、
ここから北に位置する場所にある村で複数の魔物が出現した。
その魔物は疫病を振りまくイノシシの姿だったという。
コルトに現れたあのイノシシだ。
コルニクス公爵は兵を連れて討伐に向かったが、
魔物の一体を逃がしてしまったのだという。
「イノシシ……!! そいつに、私達は襲われたんです!
私の仲間がまだ戦っていて……
お願いします! 助けて!!」
私は、赤いマントの兵士の人にしがみつくように懇願した。
「大丈夫だ。
コルニクス兵と隊長が向かった。
君の仲間達は助かる!」
赤いマントの人に頭を撫でられる。
「そうよ。
ナナリー、大丈夫だから。
私のお義兄様はとっても強いのよ。
貴女も疲れているでしょう。
後方で陣を張っている場所があるの。そこへ行きましょう」
私を落ち着かせるためにマリエラはやさしく促す。
馬はマリエラの言葉に従って動き出した。
私もマリエラに頷いたのだった。
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