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白魔法の文献編
201話『内緒の話し合い 1』
しおりを挟むコンラート様とマリエラが運んでくれた荷物をもって部屋へ向かう。
場所は2階に登ってT字に分かれた廊下を右側へ進む。
進んだ廊下の先の左右に扉がある。
大部屋が向かい合わせにある感じだ。
真っ直ぐ進むと窓際に長いすが置いてあり、
ちょっとした休憩スペースになっていた。
左側の壁の扉には青い文字で使用中の壁掛けが。
右側の壁の扉の壁掛けには空き部屋と書かれてあるので、
カウンターで受け取った壁掛けと交換する。
こちらは赤い文字で使用中となっていた。
部屋の中の様子は、隅々まで掃除が行き届き、
入ってすぐのところに丸テーブルとイスが5つ。
奥に等間隔に8つのベッドがあり、
左側の壁際にはイスにもなる横長いチェストに、本が入った本棚、
入口から右側に暖炉、洗面台に衝立と
ちょっとお高い宿屋のイメージの部屋だった。
とりあえず荷物をチェストに入れる。
マリク君は暖炉に火をともしてくれた。
ちゃんと薪も暖炉の横に積まれてあるよ。
暖炉は四角い煉瓦で上に物が置けるような造りだった。
暖炉の中にはかぎ爪タイプのフックがついており、お肉を燻したり、
ポットや鍋を引っ掛けることができるようだった。
「紅茶を入れますね」
マリク君はなれた手つきで暖炉にポットをかけていた。
「手伝います」
私はマリク君に声をかけて、暖炉の上にカップを並べる。
小分けした紅茶のパックを取り出して、ポットの中に放り込んだ。
3分くらいして、ポットの中の紅茶をカップに注いだ。
本当はこんな適当な作り方だと、あまりおいしくは無いのだけど……
まぁ、今は文句を言う人はいないし、
ちゃんと作っていたら時間と手間もかかるしね。これでいいのだ。
荷物の片づけを終わらせたマリエラとナナリーが「ふぅ」と息をついて
丸テーブルのイスに座った。
出来上がった紅茶をテーブルに運ぶ。
一緒に角砂糖の入った小瓶も置いた。
2人はお礼を言って紅茶に手を伸ばした。
マリエラが皆にイスに座る様に促していた。
私はマリエラの隣に座り、遅れてベリアル様もイスに座って
紅茶を口に運んでいた。
久しぶりに絵になる! 眼福です!
ちなみに、私が紅茶を作っている間、
ベリアル様は部屋の中をくまなくみて回ったあと、
本棚の本を読んでいたよ。
マリク君は暖炉に下げた何かの干した果実を燻していて
手が離せない様子だった。
「それで? マリエラが話したい内容って?」
ナナリーがマリエラに話を切り出した。
「まずは、貴女達の話を聞かせてもらえる?」
マリエラは私に視線を向けて言った。
「エミリア、何かあったんでしょう?」
さすがマリエラ。
私の暗い様子を察知できるとは! さすが親友!
私は、マリエラ含む皆に、先ほどの女性医師とのやり取りを説明した。
「そうだったの……」
マリエラとマリク君は悲しい表情を。
ナナリーは両手を握って泣きそうな表情のまま俯いていた。
「私……
私ね、その女性医師の気持ち、少しだけ分かる気がするの……」
ナナリーが、自分の手を見つめて静かに語りだした。
「どうしようもない……
助けたくても助けられない、変わってあげたいって思っても
どうしてもムリなの……
苦しみを少しでも和らげるために沢山お薬を飲んでも
薬の副作用でまた苦しくなる……
でも、薬を飲まないと……。
それでね、最後にはね、何度も同じ言葉を繰り返すようになるの……」
俯いたナナリーは一呼吸置いて……
「「楽になりたい……」」
重なった言葉はマリエラとナナリーの言葉だった。
ナナリーは驚いてマリエラを見たけれど、とっさに焦った表情のマリエラは
顔を逸らして誤魔化すように言った。
「そうじゃないかと思って……」
ナナリーが言った言葉は、誰の事を差しているのか分かった。
ナナリーの前世でのお姉さんの言葉だよね。
……あれ?
マリエラの前世の最後って病気だって言ってなかった……?
私は気づいてしまった。
ナナリーのお姉さんって、マリエラだったのね!
私はとっさにマリエラを見つめてしまった。
マリエラは私に向けて小さく首を振った。
なるほどね……。
マリエラは、ナナリーのこと、気づいていたのね。
マリエラ自身はナナリーに自分の正体を言いたくないみたいだった。
私は脱線する思考を戻して、ナナリーの話に集中する。
「きっと、さっきの女性は、
患者さんの楽になりたいとか、殺して欲しいって望んだ人の
願いを聞いてしまったんだと思うわ……」
「確かにね……
助けられないんだから、助けられる人を優先するのは
当然よね……
優先して欲しいって思う患者の気持ちもあるのだし……
まぁ、それを聞いた人が納得できるかは別問題だけれど……」
なんというか、マリエラの言葉には重みがある気がした。
2人の説明で何となく分かった。
だけど、納得できるかは本当に別問題なのだ。
それはきっと私に治療できる力があるからな訳で……。
「とにかく、2人が重症の患者も癒すことが出来るって
分かったのだから、明日から残りの患者も癒していけばいいじゃない。
きっと、医師たちが懸命に延命処置をしてくれているわよ」
マリエラの言葉に、ナナリーも私も頷いたのだった。
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