猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
187 / 195
1章【暗黒討伐編】

第186話・双紅

しおりを挟む
「圧し潰れるがいいわァーーッッッ!!!」

 巨大化したアルマが、大地を踏み付ける。
 地響きと衝撃音が戦場に轟き、砂煙が空高く舞い上がった。
 さながら、巨大爆弾の起爆。もうもうと空へと舞う砂煙は、キノコ雲の様に形を変える。
 砕けた大地を見下ろしながら、アルマは己の勝利を確信したのだった。

「──むんッッ!!」

 力強い掛け声が、アルマの足裏から響く。
 次の瞬間。大地の激しい揺れと共に、踏み付けを行ったアルマの足が浮き上がった。
 そしてその下には、屈強な両腕でアルマの巨体を持ち上げるテュラングルの姿が。

「ふぅんッッ!!」

 彼の額と両腕に、見事な青筋が入る。
 アルマの足裏の僅かな皮膚を掴んだテュラングルは、大股で後方へと踏み込んだ。
 それと同時に素早く振り返り、自身の何百倍もある巨体を引き寄せ──

「せあァッッ!!!」

 一本背負いにて、アルマを大地に叩き付ける。
 舞い上がった砂煙は、アルマ自身の踏み付け攻撃時よりも、更に高い地点にまで到達した。
    
「オオオ⋯⋯バカなぁ⋯⋯ッ!!」

 鼻っ面を押さえ、アルマが立ち上がる。
 “先程よりも強力になった”という確信と、それに反する現状の有様に、彼は脳内回路は混線気味だった。
 そもそも、彼は見落としているのだ。
 「巨大化した」と「勝率が上がる」といった二つの事柄は、別物であるという点を。
 巨大化によって質量が上昇した分、比例して攻撃の威力も上がったのは確かな事実だ。
 だが、その分 攻撃速度は遅くなり、加えて被弾面積が増えたのもまた事実。
 つまりは、アルマが巨大化した事で「相性」が変化し、テュラングルにとっては寧ろ戦い易くなったのである。

 そして更に。超がつく程の巨大化をした事で、アルマには途轍も無く大きな“欠点”が生まれていた。
 
「──小虫がああアアーーッッッ!!!」
「フン。我が小虫ならば、貴様は蛞蝓なめくじといったところだな」

 テュラングルを握り潰そうと、アルマは両手を振り回す。
 勢いよく迫り来る巨大な掌。その指の隙間を、テュラングルは縫う様に通り抜ける。
 直後に加速をして、アルマの顔面へと急上昇。右の拳に炎を纏わせ、下顎を殴り付けた。

「ぐンンッ⋯⋯!?」

 歯茎から血を吹き出し、アルマはよろめいた。
 しかしギリギリで踏み留まり、そこから反撃を開始──などという隙を与えず、テュラングルによる追撃。 
 後方へ体勢が崩れるアルマの背後へ回り込み、今度は背中に打撃を打ち込んだ。
 左肩甲骨、脊柱、右肋骨。それぞれ粉砕しながら、アルマの周囲を大きく旋回する。
 再び正面へと戻ると、続け様に急上昇してアルマの頭上へと飛び上がった。
 そして、堅牢で重厚な拳骨を、アルマの脳天へと、

──ゴッッッ──ツンンンッッッ!!!!!

 重い快音を轟かせ、打ち込んだ。

「ぐぁがあああッ!!」

 鈍い痛みに絶叫しつつ、アルマは頭部を覆って防御の姿勢を取る。
 だが、直後に彼を襲ったのは重い打撃では無く、真紅の炎の大津波であった。

「むおオオオァーーーーッッ!!?!!?」

 灼熱の炎が、アルマの全身を包み込む。
 その業火の先には、本来の龍の姿へと戻ったテュラングルの姿があった。
 彼は、気付いたのである。巨大化した事で生まれた、アルマの“欠点”について。
 巨大化した際に、アルマの転送能力は性能が大きく低下していたのだ。

 そもそも神将の転送能力とは、自動防御オートガードの様に“攻撃が来た時に自動的に能力が展開する”仕組みになっている。
 故に、その展開速度を超える速度で攻撃を打ち込む事が、能力突破の一つ方法として挙げられる──のだが。
 巨大化したアルマの肉体では、その展開された能力が全身に行き渡るまでに時間が掛かっているのだ。
 そして何より、転送能力はアルマの巨大化に伴って、彼の全身に“引き伸ばされた”状態にある。
 それを言い換えるなら、“転送能力の効果が薄まっている”とも表現出来るのだ。

 ──魔王ゼルがやった様な、高い魔力出力によるゴリ押しでの転送能力の突破が可能な程に。

「ぐぬうう⋯⋯ッ!!」

 巨大化という選択が過ちだった事に気付き、アルマは縮小を開始する。
 同時に転送能力の性能も徐々に回復し、全身を包む火炎の無効化を始めた。
 しかしここで、テュラングルは火炎の出力を大幅に上げる。
 アルマを撃破するには、今この瞬間が最も好都合だと考えたのだ。 

「おッ、おのれぇぇえええーーーーッッ!!!!」

 再び灼熱に包まれたアルマが、前進を開始する。
 既に、転送能力の性能回復が間に合わないと理解したのだ。
 だからこそ、前進する。せめて道連れに出来る様に。
(ここが好機だな。いい加減に終わらせてやるとしよう)
 アルマを見据え、テュラングルは爆炎の威力を更に上げる。
 そして遂に、転送能力の完全突破が目前となった──その時だった。
 
「ム⋯⋯!?」

 思わず、火炎の出力を弱める。
 全てを焼き尽くす己の炎。その射線上に、ドラゴン族の指揮を取って戦うリゼルがいたのだ。
 このまま火炎の出力を上げ続ければ、いずれ確実に被弾してしまう様な場所に。
 最上位ドラゴンの一体である彼女であれば、炎を食らっても死ぬ事は無いだろう。
 しかし、そういった話ではない。
 過去の事とはいえ元々はつがいであり、そして今も尚愛している存在が⋯⋯
(──否。リゼでなくとも、王自らが同胞を傷付ける事など、あってはならん!!)
 カッと目を見開き、魔力の操作を始めるテュラングル。
 そして──例えるなら、振動を電気信号に変換して伝達する電話の様に。
 テュラングルは、脳内の言葉を魔力によって信号に変換し、リゼルへと飛ばした。

『──リゼ、聞こえるか』
『はい』
『すまないが、我に協力してくれ』
『はい、あなた様』

 僅かなやり取りの後、リゼルは即座に行動に移る。
 テュラングルとアルマの様子を見て、彼女はこれ以上無く完璧な回答を示してみせた。
 広範囲に氷を生成を開始し、更にはそれを防壁の様な形状に変化させたのである。
(──流石だな、リゼ)
 静かに称賛し、テュラングルは微かに笑みを浮かべる。
 彼の考えとは、リゼルに自身の炎を防いでもらう、というものであった。
 アルマの撃破には、転送能力の完全突破が不可欠だ。だが、その為に火炎の出力を上げ続ければ、退避させた者達にすら影響を与えかねない。
 だからこそ、リゼルに頼った。この場において、自身の炎を確実に防ぎきってくれるという信頼があったからだ。
 王の炎が、他のドラゴン達までをも焼いてしまわない様に。

『──うぐっ?!』

 突然、リゼルの苦しそうな声が伝達される。
 理由を尋ねるまでも無く、彼女の悲鳴の原因をテュラングルは察知していた。
 リゼルの安否自体には、懸念は全く不必要だった。
 確かに彼女は攻撃を受けたが、それに殺意が無かった事の断言が出来るからだ。
 事実、リゼルは傷の一つも負っていない。
 その全身が、黒いたこの足の様な触手で締め付けられている事を除けば、一応は無事と言える状態だ。
(くッ、ヴァルソル⋯⋯!!!)
 テュラングルの視線の先には、リゼルの遠い背後でしたり顔を浮かべる黒龍ヴァルソルの姿があった。
 烈火が突き刺さる様な視線をものともせず、ヴァルソルはただリゼルの行動を阻害する。
 その理由に、大きな意味は無い。
 憤怒と、憎悪と、嫉妬と、哀傷と孤独を。晴らせるタイミングが、たまたま今だったというだけである。

「オ"オ"オ"オオオォォオオオアアァァーーーーッッ!!!」

 その瞬間。アルマの手が、テュラングルを掴んだ。
 火炎の範囲を絞り顔面へと集中させるが、このまま出力を上げようにも、リゼルが拘束された事で氷の防壁が消滅してしまっている。
 アルマを倒すには今が絶好の機会だが、仲間のドラゴン達を王である自分の手で危険に晒す事は出来ない。
 リゼルの動きが封じられている以上、今は攻撃を中断するしか選択肢が──

「なにやってんだ、このアホがぁッ!!!」

 不意の台詞が、テュラングルの葛藤を掻き消した。
 その直後。拳の形をした蒼い魔力の塊が、リゼルを締め付けていた触手に高速で命中する。
 僅かに弱った拘束に、リゼルは即座に反応。氷の刃を形成して、全ての触手を瞬時に斬り裂いた。

「──テュラングルッッ!!!」

 叫んだのは、銀色の竜だった。
 蒼焔を身に纏い、大きく空中へ飛び出し、口元に紅い炎を揺らがせた。

「来いッ!!!」
「⋯⋯!!」

 予想外の言葉に、テュラングルは驚いた。
 しかし、直ぐに理解する。彼なら大丈夫である、と。

「「──ガルオオォオオオアアァァァァァァアアアアーーーーーーッッッッッ!!!!!!」」

 龍と竜、二重の咆哮が轟く。
 二つの紅い炎が、アルマを挟み込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...