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1章【真実編】
第93話・飛翔、躊躇、停止⋯⋯到着。
しおりを挟む「──う、ぐ⋯⋯ッ、何故勝てぬ⋯⋯!?」
息を切らし、オーガは片膝を地に着ける。
戦闘再開時こそ、凄まじい気迫で幼女に向かって行ったオーガだったが、やはり動きの差は歴然。
幼女の速度と機動性に対応できず、圧倒されていた。
「以前と同じね。私が貴方を見下ろし、貴方が私を見上げる⋯⋯。──これ以上は、もう⋯⋯分かるでしょ?」
「フン、“無駄”とでも言いたいのか? 笑わせる」
消えかけていた光背(こうはい)を金色(こんじき)に輝かせ、オーガは空へと飛び上がる。
諦めを知らぬその瞳に、幼女は溜息をついた。
それは呆れから出たモノだったが、同時にもう1つの感情も混じっていた。
(凄い。ここまで力の差を見せつけられて、まだ引き下がらないなんて)
心の内で賞賛を送り、幼女はオーガを見つめる。
対するオーガは、自身を見下す様に眺める幼女へ向けて、手に持つ杖を掲げた。
「──☾神の裁き☽!!」
シャンッ! と、無数の鈴の音が響き、オーガの背後に三本の巨大な武器が出現する。
長さ10メートルは下らないソレは、右からパルチザン・トライデント・ハルバードの形状。
まさに、“神器”と呼ぶに相応しい美しさと荒々しさを持つそれらが、幼女へと切っ先を向けた。
「⋯⋯。」
ただ無言で、幼女は手を自分へ向けてに扇ぐ。
彼女の意図を理解したオーガは、手の杖を振りかざし、幼女を差した。
その直後、三本の神器が彼女へ向けて発射される。
初速の時点で音速を超えた攻撃を、幼女の目は静かに捉える。
そして、直撃の瞬間──
「ふッ!!」
ごく僅かな呼気を挟み、幼女の手が動く。
だが、彼女の次の動作をオーガが認識するよりも早く、“事態”は起こった。
幼女にぶつかった武器の全てが、粉々に砕け散ったのである。
それも、一連の流れを最も近くで見ていたオーガですら、「まるで初めから壊れいた様だ」と錯覚する程に。
「ば、莫迦な!?」
「──これで終わり?」
残酷なまでの無表情で、幼女はオーガを見下ろす。
緋い宝石の如く輝く瞳の視線は、オーガの焦燥を見透かす様に注がれた。
あまりの実力差を理解したオーガの脳裏に、一時撤退という考えが浮かぶ。
しかし、それはほんの僅かな出来事。
即座に“くだらない考え”を振り払ったオーガは、次なる行動に出た。
「☾絶対防御☽!!」
天空にオーガの声が響き、幼女の周囲に変化が現れる。
今度は、直径100メートルもあろうかという程の大盾が2つ出現。幼女を押し潰す勢いで、両サイドから迫った。
(防御の能力を攻撃に⋯⋯。色々考えるねぇ)
やれやれ、といった調子で幼女は構える。
猛スピードで迫る盾に対して、彼女は両腕を広げながらその場に留まった。
──バァァンッッ!!
凄まじい速度のまま、2つの盾が衝突。
超広範囲に爆音と衝撃波をぶち撒けた⋯⋯かに、思えたが。
正確には盾同士は触れ合っておらず、2つの間には1メートル程の隙間が生まれていた。
そして、その中心には、顔色1つ変えていない幼女の姿が。
「フッ⋯⋯やはりそうくると思っておったぞ!!」
「ん、」
全ては、オーガの思惑通りだった。
破壊不可能の壁で挟み込み、両の腕が塞がった所で、特大の一撃を見舞う⋯⋯。
やっとの思いで掴んだ勝機に、オーガの口角が醜く歪んだ。
「──☾悪邪撃滅☽!!」
漆 黒。
武器や防具の形ではなく、ただ純粋な黒いエネルギーのが、オーガの杖から放たれる。
超高速かつ超高密度のエネルギーは、まさに“破壊光線”といった所。
自身に迫るソレに、幼女は思わず目を細めた。
──そこまでして、私を殺したいんだ──
ぎり。幼女は歯軋りをする。
オーガが撃ち出した“その攻撃”は、かつての彼が魔族を殲滅する為に使用していたモノであった。
(人々を護る為に使っていた技を、私に使うなんて⋯⋯)
衝撃と落胆、そして怒り。
胸の奥から湧いてくる感情に、幼女は大きく息を吸った。
「は──⋯っ」
腹に、喉に、口に。
身体の奥底から登ってくる感情を凝縮する様に、幼女はエネルギーを口内に溜める。
──そして、刹那。
「があァッッッ!!!」
彼女から、真紅のエネルギー波が放たれる。
その一撃は、迫るオーガの漆黒のエネルギーとかち合う──事もなく、全てを掻き消して貫いた。
しかし、オーガから約1メートルの周囲は、常に異なる世界へ攻撃を転送する空間となっている。
つまり、彼に真紅のエネルギー波が命中する事は無い。
⋯⋯が、
「 う、うう⋯⋯!!」
絶対的な“死”のイメージを突き付ける事なら出来る。
事実、幼女の攻撃が過ぎ去った後のオーガは、その場で身動き取れずに震えていた。
余談だが、幼女の攻撃の余波はこの時。
太陽系を突き進み、射線上にあった衛星を木っ端微塵にしてから消滅した。
「こ、こんな⋯⋯こんなッ!!」
「『こんな事があってたまるか』って?」
「黙れッ! 黙れ黙れ⋯⋯ッ、黙れえぇーーッ!!」
持っていた杖を投げ捨て、オーガは叫ぶ。
驚愕の形相のまま、彼は両手を広げて魔力を全開放した。
「☾慈悲の雨☽ッッ!!」
辺り一面に、オーガの魔力がぶち撒けられる。
その名とは裏腹に、豪雨や猛吹雪が如く降り注ぐエネルギーの弾丸の嵐を見て、幼女は素早く行動に出た。
「──おっと♪ 大丈夫?」
「さ、流石に死ぬかと思ったぜ⋯⋯」
地上に降りた彼女の傍には、猛紅竜の姿があった。
先程までも、戦闘の余波に巻き込まれない様、彼の周囲には結界を張ってはいた。
だが幼女は、現状の結界では今のオーガの攻撃を防ぎ切るのは少々厳しいと判断。
確実に彼を守る為、より強力な結界を張るべく降りてきたのである。
「ホント、やってられないぜ⋯⋯」
「だよねー。ここまで粘られると、流石に滅入るというか。
なんか、ヤル気なくなっちゃうよ♪」
「バックれられないのか? こう⋯⋯今のうちに」
「いいねー、バックれちゃう??」
見境なく攻撃をするオーガを遠目に、猛紅竜達は軽口を言い合う。
そんな最中でも、幼女は虎視眈々と反撃の隙を窺っていた。
オーガの攻撃の隙間を通り抜け、駄目押しで恐怖心を煽る事で、一時撤退を選択させる為の隙を。
そんな折だった。
“事態”が急変したのは。
「──金焔竜ーーっっ!!」
「「!?」」
猛紅竜と幼女、2人は同時に目を見開いた。
とある少年が、自分達の方へ向けて来ていたからだ。
それも、空を飛翔しながら。
「く⋯⋯ッ!!」
この時、幼女に一瞬の躊躇が生じた。
オーガ撃破の要である猛紅竜を守っていた事、そしてたった6歳程の少年が空を飛んでいた事。
衝撃と驚愕が邪魔をして、“少年を助ける”という判断に辿り着くまでにラグが発生したのである。
本来であれば、幼女にとって猛紅竜を守りつつ少年も助ける事など容易い事だ。
だが、この時ばかりは違った。
「逃げ──」
「あぐ⋯⋯ッ!!」
幼女が言い終えるより早く、少年が光に貫かれる。
即座に幼女が少年を回収し、素早く結界内に運び込んだ。
「な⋯⋯おい、無事か!?」
「いや、心臓も他の臓器も殆ど吹き飛ばされてる。
一体、どうしてこんな時に来たの?
⋯⋯そもそも、なんでこの年齢で飛行が⋯⋯」
「細かい事はいいだろ! 助けられるのか!?」
「今すぐは無理。⋯⋯だから──」
そこで言葉を区切り、幼女はアレンに手をかざす。
だが、身体に空いた穴はおろか出血すら止まっていない様子に、猛紅竜は声を荒げた。
「俺が回復をやってみる! アリアはオーガを何とか──」
「いや。この子の“時間を停止”させたから大丈夫。
兎に角、君は落ち着いて」
「時間を⋯⋯?! よく分かんないが、大丈夫なんだな!?
なら、今すぐオーガを⋯⋯」
「──ねぇってば」
幼女は、猛紅竜の肩に手を当てる。
そこから伝わってくる重さに、猛紅竜は彼女へ振り返った。
「まずは、君が、落ち着いて。ね?」
「俺が⋯⋯?」
幼女の言葉で、猛紅竜は気付いた。
自身が、いつの間にか炎装形態に移行していた事と、その炎の中に僅かながら蒼色が混じっていた事に。
無意識の内に感情が爆発してた事態に気付き、猛紅竜は平静を取り戻す。
ようやく落ち着いた彼を見ながら、幼女は静かに口を開いた。
「今の力は⋯⋯まだ、君には早すぎる。
身体が壊れるところだったよ」
「スマン。⋯⋯取り敢えず、この子は助かるんだよな?」
「⋯⋯⋯⋯うん。今は、オーガを何とかしなくちゃね」
1つ、幼女は嘘をついた。
現時点で既にアレンは死亡しているのである。
(望みはある。全ては、オーガを倒しさえすれば⋯⋯!!)
上空のオーガを強く睨み付け、幼女は拳を握る。
1歩前に出た彼女は、張っている結界へ向けて片手を掲げた。
「はッ!!」
掛け声と共に、結界の範囲を拡大。
そのまま、攻撃を乱れ打ちするオーガの目前まで押し広げた。
「チィッ⋯!!」
舌打ちをし、攻撃を中断するオーガ。
結界の破壊は不可能だと理解した為の判断である。
地上の幼女、そして猛紅竜を見下ろしながら、オーガは両手を握り合わせる。
その格好は、神であるオーガが、“祈っている”かの様な光景にも見えた。
「儂は、貴様を殺すぞ。必ずな」
「来なよ。その覚悟、試してあげるからさ」
「ほざけ⋯⋯!!」
再度、両者は睨み合う。
その様子を、猛紅竜はアレンを抱えながら固唾を呑んで見守る。
起爆はいつか。
数分後か? 数秒後か? 次の瞬間か?
高鳴る緊張を胸に、戦いの再開を──
「おっと。邪魔だったか?」
静寂を打ち破ったのは、そんなセリフだった。
まるで、たまたま知人に遭遇でもしたかの様に、彼はこの場に現れたのである。
「──き、貴様はッ!?」
「⋯⋯やぁ、悪いね。迎えに来てくれるなんて」
オーガと幼女。
それぞれの反応を見せる中、彼と最も近くにいた猛紅竜は、身動き取れずにいた。
実際は、ただ肩に手を当てられているだけだが、当の本人といえば。
「だ、誰⋯⋯ですか?」
「あ? 別に大したモンじゃねえよ」
そんな訳あるか! というツッコミすら出て来ず、猛紅竜は怯えていた。
純粋に、圧倒的過ぎる存在を前に、恐怖しているのである。
「まぁ、積もる話もあるってヤツだ。──グレンデル?」
「はい」
「足止めしとけ」
「はい」
男の背後から、もう1人現れる。
グレンデルと呼ばれた青年──の様な見た目の何か──は、真っ直ぐとオーガへ向かっていた。
上空で様々な光が炸裂し始める中、猛紅竜に向けて男は話し掛けた。
「で、俺が誰か⋯⋯だったか?」
「⋯⋯はい」
恐怖でロクに目を見る事も出来ず、猛紅竜は頷く。
そんな彼の心情など知らず、男は軽く首を傾げながら悩み始めた。
「んー、色々言われてっからなぁ。
“りゅうおう”とか“カオス”とか、“キングなんとか”つう、3本首で金色のドラゴンかなんかにも例えられてるし⋯⋯」
「そ、それってつまり、“ラスボス”って事なんじゃ⋯⋯?」
「あー、それそれ。“らすぼす”って呼ぶ奴もいるらしいな」
ピクリ。
猛紅竜の表情が動く。
胸の中で巻き起こる“まさか”の考えは、猛紅竜にとって、口に出さずにはいられなかった。
「あの、もしかしてですけど、【魔王】って呼ばれたりもしたりして⋯⋯??」
「おう、それは俺だ」
『──まぁ、王っていても、他の連中が勝手に着いてくるだけなんだがな。ハハッ』と。
ここまでの魔王の言葉など耳に入っていない猛紅竜は、ただひたすらに考えていた。
(この人から、どうやって逃げようかな)
などと、内心では逃げれぬ事を理解しておきながら。
「──彼の名前はゼル。
まぁ、詳しい話は落ち着いてからにしよう」
降りてきた幼女が、魔王の横に立つ。
そして、魔王の肩に手を当ててから、一言。
「じゃ、飛んで♪」
「お前は、後で覚悟しとけよ? 色々話す事があるからな」
「⋯⋯えへへー、そっかー」
「あ、さては逃げる気だな?」
「んー? ナンノコトー??」
2人のやり取りを後目に、猛紅竜は諦めた。
今更になって、気が付いてしまったのである。
(もう、引き返せないんだな⋯⋯)
と。
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