猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【地獄のスパルタ訓練編】

第113話・“魔力格闘”

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 ──は、ギルルとの鍛錬中に起こった事だった。
 今日も今日とてギルルにボコされ、いい所ナシで迎えた休憩時間。
 鍛錬の反省に俺が眉を顰(ひそ)めていると、アインヘルムが鍛錬場に顔を見せる。
 どうやら、少し前から様子を見ていたらしく、俺の戦い方に“助言”があるとの事。
 
「──バカだな、お前」
「⋯⋯えっ?」
「基本の戦闘法についても言いてえ事ァあるが、ソッチは一旦置いておく。
 肝心の問題は、点だ」
「魔力を格闘に? いや、でも⋯⋯」

 と、俺は炎装を発動してみせる。
 炎装形態の肉体は、間違いなく魔力によるパワーアップを果たしている筈だが⋯⋯はて?
 魔力操作・魔法の扱いに長けたアインヘルムが言うからには、魔力には更なる使い方があるのだろうか。
 
「まぁ、そもそもお前はグレイドラゴン。無理もねぇ。
 ──おい、ギルル!」
「んん~? なぁに~??」
「コイツに手本を見せてやる。ちょっと付き合え」
「ええ~っ。面倒臭いよ~、ティガとやってよ~」
「いいから、ホラいくぞッ!!」

 アインヘルムが、前へ重心を傾ける。
 それを俺の目が認識すると同時に、アインヘルムの前蹴りがギルルへと放たれていた。
 その直後、アインヘルムのスタートダッシュによる風圧が、俺の全身を強く叩く。
 ここでようやく、俺の脳が驚愕するに至った。

「いったぁ⋯⋯何すんのさ~?」
「いいかぁ、よぉ~ッく、観察しとけよぉ? 紅志ィ」
「うげえ、僕は強制参加なんだ⋯⋯もお~」

 アインへルムの前蹴りを、ギルルは腕で防いでいた。
 俺であれば、間違いなく身体に穴が空く威力であろう蹴りを、難無く防げる肉体。
 なにより、そんな攻撃を防ぐに到れる程の反応速度に、俺は思わず苦笑していた。
(思ったより、道は遠いな⋯⋯)
 幼女から課された、『ギルルに一撃当てる』という目標。
 それを思い出し、俺は改めて鍛錬の厳しさを目の当たりにした。

「ふッ!!」

 感嘆する俺に構う事無く、アインヘルムが動く。
 ──次の刹那に覚えた違和感。その対象は、“光景”ではなく“感覚”であった。
 
──ドンッッ!!

 唐突に、ギルルが後方へと吹き飛ぶ。
 彼はハッキリと蹴りを防いでいたし、蹴りの衝撃で飛ばされたと考えるには、少し時間が経ちすぎている。
 まるで、“別の衝撃”が突然発生した様な状況に、俺は目を見開いた。
 驚いた訳ではない。
 ⋯⋯いや。ある意味では驚いたのだが、それは“別の衝撃”自体へ向いているものではなかった。
(──⋯⋯!?)
 そう。蹴りのインパクトの後に、アインへルム体内の魔力が高速で脚先に移動。
 “更なるインパクト”として、ギルルを吹き飛ばしたのである。

「分かるか? コレが、格闘においての魔力の使い方だ。
 体内の魔力の流れ。それをコントロールする事で、威力や能力の“付け足し”をするんだ」
「付け足し⋯⋯?」
「そう、付け足しだ。
 まぁ、言葉で説明した所でお前に理解できる代物じゃねぇ。
 魔力感知を最大にして、しっかりととけ」

 そう言って、アインへルムは構える。  
 一呼吸の後、起爆。200メートルは吹き飛んだギルルへ、たった3歩の内に追い付いた。
 その時に感じたのは、やはりアインヘルムの体内での魔力の動きである。
 地面を踏み締め、そして蹴る瞬間に、先程と同じ様に魔力が脚を伝って下部へ移動。
 足の裏が爆発したかの様な、凄まじい勢いでの高速移動を実現していた。

「──ッ!!」

 呼気を挟み、アインヘルムが僅かに跳ねる。
 ギルルの正面まで肉薄したアインヘルムは、空中で横に回転。フィギュアスケーターの様な動きを見せ、勢いそのままに蹴りを打ち込んだ。

──ドドドッッ!!

 膝、肋(あばら)、顔面を狙った三連蹴り。
 アインへルムの攻撃に合わせ、ギルルは防御を行う。
 膝への蹴りは、逆に膝から事で相殺。肋への蹴りは肘で、顔面は拳の甲で防ぎ切った。
 そしてこの時、俺は気付く。
 ギルルもまた、アインヘルムの攻撃に合わせて体内の魔力を操作していたのである。
 防御を行う部位に魔力を集中し、肉体強度を上昇。
 その上でアインへルム同様に身体から衝撃を発生させ、被ダメージを最小限に抑えていたのだった。。

「⋯⋯いったいなぁ、もう」

 次の瞬間。今度は、ギルルが仕掛けた。
 前に倒れ込む様な動作から、空中で前転する様にギルルが跳ねる。
 右脚を大きく振り上げたギルルは、アインへルムに向けて踵(かかと)落としを繰り出した。
 ソニックブームが発生する程のソレは、俺が受ければ間違いなく即死だろう。

「いただきッ!」
「げ、」

 最早斬撃と化していた踵落としを、アインへルムは躊躇無く受け止める。
 ギルルの右脚を、正面からガッチリと掴んだアインへルム。
 彼は直後に後ろへ振り返り、両手で掴んだギルルの右脚を引いた。
 直後、衝撃。
 攻撃の勢い利用されたギルルが、顔面から地面へと叩き付けられた。
 三連蹴り直前からここまでの遣り取りが、約10秒未満の出来事である。

「──やったね? 僕、少しやる気出す」
「⋯⋯ホォ。そう言えば、お前とガチった事は無かったかもな」

 瞬時に立ち上がったギルル。
 首の骨を鳴らすアインヘルム。 
 黒赫(こくかく)と銀翠(ぎんすい)。それぞれが、自身の力の一部を解放する。
 遥か上空まで飛び上がった2人は、もう俺の事など記憶の端なのだろう。
 既に戦闘は、見える見えないの話では無くなっているし。

「──オイオイオイ! 楽しそうな事やってんなァ!!」
「おぉ、ティガ」

 双の閃光が幾重もの軌跡を描く中、ティガが顔を出す。
 どうやら、ギルル達の戦闘に気付いた様だ。
 本人のテンション的に、このまま戦いに割り込んで三つ巴に⋯⋯。
 という心配をしていた俺だったが、それは直後に霧散していく事になる。

「──馬鹿共が⋯⋯」

 現れたのは、グレンデルだった。
 相も変わらず、全方位に嫌悪感を向けてそうな奴である。

「次期に魔王様がお戻りになられる。いつまでも遊んでいるなッ!!」

 ビリビリと、大気が揺れるのが分かる。
 ティガ達は流石に慣れている様子だが、俺はどうかと聞かれれば⋯⋯
 まぁ細かい事はいいよな。
 別に、ちょっと失神しかけただけだし。別にそんな⋯⋯

「チッ。いい所だったんだが⋯⋯仕方無ぇ。ギルル! 次で終いにするぜ!!」
「はいはい。僕も眠かったし、別にいいよ~」

 黒赫と銀翠の衝突。
 それを見届ける事無く、グレンデルは立ち去る。
 戦いを終えたアインヘルム達は、少々物足りなさを感じている顔をしていた。
 無論の事だが、2人とも全力とは程遠い領域でやりあってたのはあるのだろう。
 それでも、俺からすれば学びの多い一戦だったのは確実だ。
 それは言い切れる。
 
「──まぁ、ざっとこんな感じだな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
「ン、どうした?」
「⋯⋯俺は、まだまだ強くなれるか? アンタらみたいに」  
「僕は興味な──」
「「あたりめぇだろ!」」

 言いかけたギルルを遮り、ティガとアインへルムが俺の肩を叩く。
 俺の心に、新たなる薪がくべられた瞬間であった。
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