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一章 悪役令嬢のフラグを避けましょう

モナク 3

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モナクside


「さて!!マリアンヌを味方につけねぇと!!ちょっと行ってくるから待っててねモナク!!」

バタバタと、可愛らしいドレスを揺らしながら美しい少女の皮を被った男は出ていった。
白く柔らかい肌に濡羽色の肩下まで伸ばした髪、俺と同じ赤い瞳を思い浮かべる。

『・・・』

俺は前世まではあいつと同じだった。
記憶を持ったまま転生し、あいつは魔王としての別の人格を無意識に創り上げていた。
それが、俺だ。
悪意の塊、なのに変なとこで情けがある。
ツンデレで、部下を魅了する美しさ・・・
そして、この2度目の転生。
俺と、あいつの精神は分裂した。

『そして・・・』

魔王としての俺、日本という国で生きていた俺が別々に存在する事になった。
でも、大妖精になった事で魔王としての俺は完全にあいつとは別人になった。
それで、2度目の転生なんかを経験して俺が居ないあいつの精神が心配で見に来てみれば。
なんとも美しい赤子が居た訳だ。

『スキアーの醜い部分や嫉妬やら悪意やらを根こそぎとはいかねぇが大部分を奪って出来た人が俺・・・かぁ』

魔王だった頃の感覚はスキアーと同じようにある。
覚醒した勇者の真っ白なオーラが眩しい。
目に刺さる。痛い。痛い。痛い。
頭が痛い、胸も痛い。


聖剣で刺された。


多分、今世で光の大精霊などに会ったらあいつは怯えるだろう。
2度目でも、死は死だ。
しかも、1度目の死は痛みを感じること無くぽっくり逝ってるから・・・。
死の恐怖を忘れずに生きるのは辛い。
俺はずるくて、その死への恐怖だけをスキアーに置いて分裂してしまったんだ。

『悪いなぁ・・・スキアー』

その分、お前をしっかり守るから。
中身が男でも関係無い、俺はお前の・・・

『・・・お前の?』

なんだろ?

『・・・まぁ、いっか。』

窓を開け放つと気持ち良い風が舞い込んできた。
そこから無駄に広いベランダに出る。

『久々に力試しでもするか』

両腕を目の前に突き出し、ふっと軽く念を込めると小さな竜巻が現れる。
そのまま大きくしていきたいが、そうすると被害が・・・最悪の場合死人が出るな。
スキアーに害をなすなら殺すけど。

『なら、これだな』

たしか、スキアーが言っていた。
最近、この国は雨が降りにくく水不足らしい。
なのに俺たち貴族や国の重役は美味しい美味しいお水を平らげてる。

『どこの世界でも人間ってのは醜いねぇ』

元魔王だから言える事だが。
と、また両腕に軽く力を込める。
そのまま片手を持ち上げると黒い雲が浮かぶ。

『行け、水の無き村へ。雨を降らせてやれ』

少しでも、スキアーが殺されなくて良いように。
あいつは悪役令嬢なんかじゃない。
もう日本で暮らしていた男でもない。

(とても優しく美しい少女だ)


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