冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

文字の大きさ
1 / 71

1. 婚約破棄は受け入れるしかないみたいですね

しおりを挟む
「フィーネ・アレイドル公爵令嬢!
 私は、貴様との婚約を破棄することをここに宣言する!」

 その声は、突如としてパーティー会場に響き渡りました。
 

 あー、はい。分かりました。
 分かったので、どうか大声を出さないでいただけますかね。

「フォード王子? いきなり何をおっしゃるのですか?」

 私の名前はフィーネ・アレイドル。
 これでも、一応この国の公爵令嬢だったりします。

 そして私の目の前にいるのは、フォード王子。
 その美貌は見た目だけなら、国でもトップクラス。
 我が国の第一王子です。

 ひとときは婚約を羨まれました。
 そしてその羨みは、やがては憐れみに変わりました。

 ――あのバカな王子の面倒見るのは大変ね、と

 原因はこの王子の性格にあります。

「心当たりがない、とでも言うつもりか?」
「これっぽっちもございませんわ!」

 決めつけたら一直線。
 感情のままの振舞いは、とても王族だとは思えません。

「とぼける気か!
 貴様がしたジュリーヌに対する非道な仕打ちの数々。
 まさか忘れたとは言わさぬぞ!」

 なんとも一方的な物言いです。
 こちらの言うことに、まったく耳を貸そうとはしません。


「私はカレイドルさんに対して、何もしていません。
 婚約者がいるにも関わらず、人目も気にせず王子に気安く話しかけたこと。
 その非常識っぷりを、少し厳しく注意させて頂いただけです」
「……あくまで罪を認めぬつもりだな」

 ジュリーヌ・カレイドル。
 それはフォード王子の浮気相手の男爵令嬢でした。
 このバカ王子は私という婚約者がいながら、あろうことか日中から堂々と男爵令嬢に浮気をしていたのです。


「ふん。私と仲良くするのが許せなくて、嫌がらせをしていたのだろう」


 私は、なおも反論しようとして……

 ――これ、さっさと婚約破棄された方が良くね?

 そう気が付いてしまいました。


 もともとフォード王子と私の婚約は、フォード王子の地位を確固たるものにするための政略結婚にすぎません。
 そこには何の愛情もなく、あるのは己の役割を果たさねばならないという義務感のみ。

 もちろん王子の婚約者として、行き過ぎた行動があれば注意はしました。
 ですが、それはあくまで役割に従ったまでのこと。
 そんな私をフォード王子は『可愛げがない』と疎み、やがては疎遠になっていきました。

 そんな冷え切った関係性だったからこそ。
 フォード王子とジュリーヌさんの浮気を見ても、私は特に何も感じることはありませんでした。
 興味もなく、むしろ2人を相手にするのもバカらしいと思ってしまったのです。


「私の行動は、すべて王子のためを思ってのことでございます」

 だから私の返答はこれ。
 どうとでも取れるような言い方を、わざと選びます。
 私のことを疑うものが聞けば、さらに悪印象を持つような言い方。

「貴様の嫉妬心からの行動を、よりにもよって『王子のため』だと? 恥を知れ!」

 案の定、ジュリーヌさんを盲目的に信じる王子は、怒りに声を震わせました。


「事実です。
 ジュリーヌさん、あなたではフォード王子に釣り合いませんわ」
「ひどいですわ、フィーネ様。私は……」

「貴様! おのれ、まだ言うか!」

 嫉妬からジュリーヌさんを貶めた、と王子は激昂します。



 私は、なにも間違ったことは言っていませんからね?
 仮にこうして私との婚約を破棄したところで。
 家柄を考えれば、代わりに選ばれる婚約者がジュリーヌさんになる可能性は少ないでしょうに。

「改めてここに宣言する!
 私は貴様との婚約を破棄し、カレイドル男爵令嬢と新たに婚約すると!」
「フォード王子!」

 嬉しそうに名前を呼び、感極まったように涙ぐむカレイドル男爵令嬢。

 どうでもいいですが、その自由に涙を出し入れするスキルには感心します。
 『可愛げがない』と言われ続けた私としては、羨ましい限りです。


「そこまで言い切られてしまっては仕方ありませんね。
 婚約破棄は受け入れるしかないみたいですね」

 これだけ目撃者がいます。
 一国の王子が言い切ってしまった以上、今更取り消すことは簡単ではないでしょう。
 


 そのまま立ち去ろうとした私ですが……

「何を勝手に立ち去ろうとしている?」

 と王子の声が追いかけてきました。
 どうやら、この茶番ははまだ終わらないようです。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

処理中です...