26 / 71
25. アビーが魔族だと知っていれば、真っ先に逃げたと思いますよ
「余計なこと、なんてそんなはずありません。
調子に乗って羽目を外した私が悪いんです。
ほんと、お恥ずかしい限りです……」
こう答えた私に、魔王様は何も答えませんでした。
何を話せばよいのか分からない、そんな沈黙。
「大事な恩人……とおっしゃいましたね?」
「余の大切な忠臣・アビーを助けてくれたこと。
人間界で兵士に囲まれ、命を落とすところだったと聞いている。
そんな中、魔族にも届く『奇跡の癒し』を使って治癒したと、アビーが興奮して話していてな」
魔王様は面白そうに言いました。
「奇跡の癒し」などと大層な持ち上げられ方をしていますが、私の魔力適正は特別高いわけではありません。
「大げさですよ、ヴァルフレア様」
「ただの事実だ。
その場にいたのがフィーネ嬢以外なら、アビーは助からなかっただろう」
そもそも、と魔王様は言葉を続けます。
「人間界ではとどめを刺そうとする者が大半であろう。
恐怖の象徴たる魔族を治療する酔狂なものなど、そうはおるまい」
それは否定できません。
結界を貼って、決して魔族を生活圏に入れない。
私たち人間は、そうすることで魔族への恐怖を飲み込み安全を守ってきたのです。
結界内で見かけた魔族に対して、手心を加える者はいないでしょう。
そして、それは私も例外ではありません。
幼い私は、ただ哀れな死にかけの猫を助けたかっただけ。
アビーが魔族であることを知ったうえで、治療を試みたわけではありません。
そんな内心もあり、私は魔王様の感謝の心を素直に受け取ることができませんでした。
「あの時は、アビーのことをただの猫だと思っていましたから。
アビーが魔族だと知っていれば、真っ先に逃げたと思いますよ」
「そうか……」
居たたまれずつい出てきた本音に対して、ヴァルフレア様はただひと言。
今後のことを考えるなら、魔族に対して昔から友好的だったとウソをつくべきだったのかもしれません。
それでも魔族領に来てからしてもらったことを考えると、ここで魔王様を騙す形になるのは不誠実に思いました。
――失望されるかもしれないな
今になって、これだけ魔王城でもてなされた理由も想像が付いた気がします。
魔族に対して友好的な人間、というのはさぞかし珍しかったのでしょう。
魔族相手にも無条件で癒しの力を行使する人間となれば尚更です。
さらには私の【元・公爵令嬢】という肩書き。
それなりの地位の者が、親・魔族派であること。
魔族を束ねるものとして、私は重要な立ち位置にいるのでしょう。
否、重要な位置にいたのでしょう。
今、私にはこうして魔王城でもてなしを受けるような価値なんて……
「そんなことはどうでもいい。
事実、貴様はアビーの恩人であり。
……この国の恩人だ」
どんな答えが返ってくるかと、戦々恐々として待つ私でしたが。
魔王様は優しい笑みを浮かべると、そう言いました。
どういうことでしょう?
意図が読めず、私はおずおずとヴァルフレア様を見上げます。
ヴァルフレア様は、普段のように目線を逸らすことなく真っ直ぐとこちらを見つめ返してきました。
はじめて、ようやくヴァルフレア様と目線が合った気がします。
その瞳に浮かんでいたのは、大切なものを慈しむような色。
最初に受けた印象がウソのような、どこまでも優しい表情でした。
調子に乗って羽目を外した私が悪いんです。
ほんと、お恥ずかしい限りです……」
こう答えた私に、魔王様は何も答えませんでした。
何を話せばよいのか分からない、そんな沈黙。
「大事な恩人……とおっしゃいましたね?」
「余の大切な忠臣・アビーを助けてくれたこと。
人間界で兵士に囲まれ、命を落とすところだったと聞いている。
そんな中、魔族にも届く『奇跡の癒し』を使って治癒したと、アビーが興奮して話していてな」
魔王様は面白そうに言いました。
「奇跡の癒し」などと大層な持ち上げられ方をしていますが、私の魔力適正は特別高いわけではありません。
「大げさですよ、ヴァルフレア様」
「ただの事実だ。
その場にいたのがフィーネ嬢以外なら、アビーは助からなかっただろう」
そもそも、と魔王様は言葉を続けます。
「人間界ではとどめを刺そうとする者が大半であろう。
恐怖の象徴たる魔族を治療する酔狂なものなど、そうはおるまい」
それは否定できません。
結界を貼って、決して魔族を生活圏に入れない。
私たち人間は、そうすることで魔族への恐怖を飲み込み安全を守ってきたのです。
結界内で見かけた魔族に対して、手心を加える者はいないでしょう。
そして、それは私も例外ではありません。
幼い私は、ただ哀れな死にかけの猫を助けたかっただけ。
アビーが魔族であることを知ったうえで、治療を試みたわけではありません。
そんな内心もあり、私は魔王様の感謝の心を素直に受け取ることができませんでした。
「あの時は、アビーのことをただの猫だと思っていましたから。
アビーが魔族だと知っていれば、真っ先に逃げたと思いますよ」
「そうか……」
居たたまれずつい出てきた本音に対して、ヴァルフレア様はただひと言。
今後のことを考えるなら、魔族に対して昔から友好的だったとウソをつくべきだったのかもしれません。
それでも魔族領に来てからしてもらったことを考えると、ここで魔王様を騙す形になるのは不誠実に思いました。
――失望されるかもしれないな
今になって、これだけ魔王城でもてなされた理由も想像が付いた気がします。
魔族に対して友好的な人間、というのはさぞかし珍しかったのでしょう。
魔族相手にも無条件で癒しの力を行使する人間となれば尚更です。
さらには私の【元・公爵令嬢】という肩書き。
それなりの地位の者が、親・魔族派であること。
魔族を束ねるものとして、私は重要な立ち位置にいるのでしょう。
否、重要な位置にいたのでしょう。
今、私にはこうして魔王城でもてなしを受けるような価値なんて……
「そんなことはどうでもいい。
事実、貴様はアビーの恩人であり。
……この国の恩人だ」
どんな答えが返ってくるかと、戦々恐々として待つ私でしたが。
魔王様は優しい笑みを浮かべると、そう言いました。
どういうことでしょう?
意図が読めず、私はおずおずとヴァルフレア様を見上げます。
ヴァルフレア様は、普段のように目線を逸らすことなく真っ直ぐとこちらを見つめ返してきました。
はじめて、ようやくヴァルフレア様と目線が合った気がします。
その瞳に浮かんでいたのは、大切なものを慈しむような色。
最初に受けた印象がウソのような、どこまでも優しい表情でした。
あなたにおすすめの小説
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る
あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。
しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい
あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!