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26. 報復戦争なんて起こらなかった、それだけが事実です
魔王様の『この国の恩人』という言葉。
何の心当たりがない私は戸惑い、とりあえず笑みを貼り付けます。
「ふ、それがアビーも言っていた癖か……。
魔族のことを信じられず、目線が泳いで笑みがぎこちなくなる。
なるほど、分かりやすい」
そんな私の様子を見て、魔王様は苦笑。
「アビーを助けた過去に付け入って、自らの立場を有利にすることも出来ただろう。
それをせず、馬鹿正直に答えるとはな……」
「覚えの無いことで過大評価されているのが気持ち悪かっただけです」
新しい土地での新生活。
知り合った方には、できる限り誠実でいたいですからね。
「それで、『この国の恩人』というのは?」
「ふむ。フィーネ嬢は、自分がどれだけのことをしたのか分かっていないのだな。
アビーは余の右腕だ。
……仮に、あの場でアビーが殺されていれば何が起きたと思う?」
「それは……悲しいです」
「ああ、その通りだ。アビーはああ見えて、魔族たちに慕われていてな。
死を悼んだ後に残されるのは、人間たちに対する大きな恨みだ」
大切なものを殺された心の痛み。
その痛みは決して我慢することはできず。
怒りを向ける先が必要になることもあるでしょう。
「そうなったら余には止められない」
これまでの様子から、魔族から人間に対する敵対心は感じられませんでした。
どちらかというと、人間が魔族を一方的に恐れているというのが正しいのでしょう。
だとしても。恐れのあまり人間が先に手を出してしまえば、その均衡はあっという間に崩れてしまうのでしょう。
「違うな、またしても余の大切なものを奪おうというのなら。
止める必要もない。国中の魔族を集めて攻め入っただろう」
またしても余の大切なものを奪おうというのなら。
そう吐き捨てた魔王様の横顔からにじみ出るのは、明確な怒り。
人間という種族に向けられた冷ややかな感情に、思わず背筋がゾっとしました。
それは、彼が初めて見せる"魔族の王"としての姿でした。
「……魔王様? フィーネちゃんが怯えてます。
そんな話をするために、ここを訪れたのでは無いはずですよ」
リリーネさんの諭すような声。
「ああ、その通りだな」
消え入るように、魔王様はそう答えました。
こちらの出方を伺っているような、どこか後悔している様子で。
また距離感を測りかねた、沈黙が広がりそうになり――
「――だとしても、アビーは無事に魔族領に帰ってきた。
ヴァルフレア様の大切なものは奪われなかった。
そう、魔族と人間の戦い――報復戦争なんて起こらなかった。それだけが事実です」
その沈黙を破るように、私は口を開きました。
魔王様と向き合います。
初めて会ったときに、こうして人間に対する敵意を向けられていたのなら。
魔王様を恐怖の対象としか見られなかったのかもしれません。
それでも……昨日の歓迎パーティーで、いろいろな魔王様の姿を知ってしまいましたからね。
私の扱いに困りながらも、たしかな気遣いを見せていた優しさを。
リリーネさんに突っ込まれ、ときには情けない姿を見せていた魔王様を。
「だとしても起こり得た未来だ。
これから人間と敵対する可能性があるのなら――結局、余は貴様を悲しませるだけなのかもしれない」
私のことを"恩人"とまで言って、もてなしてくださった魔王様。
それでいて、どこか距離を置かれているように感じた理由。
ようやく腑に落ちた気がします。
相手を傷つけることを恐れて、そうなるぐらいならと距離を置く。
それは優しい考え方で……同時にとても寂しい考え方に思えました。
何の心当たりがない私は戸惑い、とりあえず笑みを貼り付けます。
「ふ、それがアビーも言っていた癖か……。
魔族のことを信じられず、目線が泳いで笑みがぎこちなくなる。
なるほど、分かりやすい」
そんな私の様子を見て、魔王様は苦笑。
「アビーを助けた過去に付け入って、自らの立場を有利にすることも出来ただろう。
それをせず、馬鹿正直に答えるとはな……」
「覚えの無いことで過大評価されているのが気持ち悪かっただけです」
新しい土地での新生活。
知り合った方には、できる限り誠実でいたいですからね。
「それで、『この国の恩人』というのは?」
「ふむ。フィーネ嬢は、自分がどれだけのことをしたのか分かっていないのだな。
アビーは余の右腕だ。
……仮に、あの場でアビーが殺されていれば何が起きたと思う?」
「それは……悲しいです」
「ああ、その通りだ。アビーはああ見えて、魔族たちに慕われていてな。
死を悼んだ後に残されるのは、人間たちに対する大きな恨みだ」
大切なものを殺された心の痛み。
その痛みは決して我慢することはできず。
怒りを向ける先が必要になることもあるでしょう。
「そうなったら余には止められない」
これまでの様子から、魔族から人間に対する敵対心は感じられませんでした。
どちらかというと、人間が魔族を一方的に恐れているというのが正しいのでしょう。
だとしても。恐れのあまり人間が先に手を出してしまえば、その均衡はあっという間に崩れてしまうのでしょう。
「違うな、またしても余の大切なものを奪おうというのなら。
止める必要もない。国中の魔族を集めて攻め入っただろう」
またしても余の大切なものを奪おうというのなら。
そう吐き捨てた魔王様の横顔からにじみ出るのは、明確な怒り。
人間という種族に向けられた冷ややかな感情に、思わず背筋がゾっとしました。
それは、彼が初めて見せる"魔族の王"としての姿でした。
「……魔王様? フィーネちゃんが怯えてます。
そんな話をするために、ここを訪れたのでは無いはずですよ」
リリーネさんの諭すような声。
「ああ、その通りだな」
消え入るように、魔王様はそう答えました。
こちらの出方を伺っているような、どこか後悔している様子で。
また距離感を測りかねた、沈黙が広がりそうになり――
「――だとしても、アビーは無事に魔族領に帰ってきた。
ヴァルフレア様の大切なものは奪われなかった。
そう、魔族と人間の戦い――報復戦争なんて起こらなかった。それだけが事実です」
その沈黙を破るように、私は口を開きました。
魔王様と向き合います。
初めて会ったときに、こうして人間に対する敵意を向けられていたのなら。
魔王様を恐怖の対象としか見られなかったのかもしれません。
それでも……昨日の歓迎パーティーで、いろいろな魔王様の姿を知ってしまいましたからね。
私の扱いに困りながらも、たしかな気遣いを見せていた優しさを。
リリーネさんに突っ込まれ、ときには情けない姿を見せていた魔王様を。
「だとしても起こり得た未来だ。
これから人間と敵対する可能性があるのなら――結局、余は貴様を悲しませるだけなのかもしれない」
私のことを"恩人"とまで言って、もてなしてくださった魔王様。
それでいて、どこか距離を置かれているように感じた理由。
ようやく腑に落ちた気がします。
相手を傷つけることを恐れて、そうなるぐらいならと距離を置く。
それは優しい考え方で……同時にとても寂しい考え方に思えました。
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