冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

文字の大きさ
36 / 71

35. え? 私、戦場に連れて行かれるかの瀬戸際だったんですか。二日酔いを醒ますためだけに?

「それにしても、ひめさまの力はとんでもなかったな~」

 改めて、この場にいる魔族の集団を見ながらブヒータさん。
 リリーネさんにこってり絞られたのもあり、キリッと表情を引き締めています。
 もっとも今更すぎて、飲んだくれのイメージが消えません。

「そこまで言うほどですか?
 別に怪我を治したわけでもないです。
 いくらでも出来そうな人はいると思いますが……」

 ここで「魔族に対して」という断り書きが付くと、一気に希少性が上がりますが。
 癒しの力自体は、微々たるものです。


「これまで怪我とかされた場合、どうしていたんですか?」

 ふとした疑問。
 私たちの国では、戦いに赴いた兵士を癒すための専門の組織がおり、兵士の治療に当たっていました。魔族たちはどうしているのでしょう。
 医療専門施設がどこかにあるのでしょうか?
 

「自らの生命力に感謝しながら、酒飲んで寝る!」
「ひめさまが困惑しているので、ブヒータさんは少し黙って下さいね。
 悲しいことに、あながち間違いではないのですが」

 ――何をおっしゃる、この酔っ払い?

 と思った私に、リリーネさんが補足説明を加えます。

「ご存知のとおり、魔族には聖属性の魔力が毒ですから。
 魔法による治療なんて、まず不可能なんですよ。
 いまだに魔族の強靭な生命力に任せ、自然治癒で済ませることが多いんです」

 特に出先での治療は限られ、たまたま手に入ったハーブで応急処置する程度。
 だから癒しの魔法が効果を発揮しただけで、あんなに喜んだのですね。



「ひめさまのさっきの力、まだ使えるのか?」

 何かを見定めるように、ブヒータさんがそう尋ねてきました。

「ええっと……。初めてのことでしたので加減も分からなかったので。
 今すぐ同じことをやれと言われたら、さすがに厳しいです」

「効力を弱めたらどうだ?」
「それなら、使う魔力を絞れば何回でも使えると思いますよ」

 私は、考え込むブヒータさんをおずおずと眺めます。
 飲んでいたときの陽気な表情は影を潜め、その豚面は何の意図も読み取らせません。
 少しは有用性を見出してくれていると良いのですが……。


「どんな説得をしても、無駄だと思うけどね。
 魔王様がフィーネちゃんをどれほど大事にしてるか、知らないわけじゃないだろ?
 戦場なんて危険な場所に連れていくことを、許可する筈がないね」

 リリーネさんが唐突に切り出します。
 え? 何故そんな話になったのでしょう。

 と驚きますが、ブヒータさんは「そうだよな~」と未練がましい表情。

「え。私、戦場に連れて行かれるかの瀬戸際だったんですか。
 二日酔いを醒ますためだけに?」
『ひめさま~? 二日酔いから離れようよ……。
 魔族相手にも効く癒しの魔法。もう少し自分の力を自覚するべきだよ』

 アビーが呆れたように言いました。
 やった! ブヒータさんに癒しの魔法の有用性を認めさせる、という目標はバッチリみたいですね。

『効果がある癒しの魔法ってだけでも、喉から手が出るほど欲しいのに。
 これほどの効果を持つなんて。誰がここまでやれと……』
「ええっと……? 私を持ち上げても、何も出てきませんよ」

 それとも冗談?
 魔族の兵士に囲まれ緊張していた私の、気を紛らわせようとしてくれてるとか。
 リリーネさんの迫力が凄すぎて、緊張ならなんて吹き飛んだのでもう大丈夫です。

 困惑する私をよそに、ブヒータさんは真剣な表情で語り続けます。

「これまで俺たちは、足をやられたら終わりだった。
 助けを求めて叫ぶ仲間を見捨てたことだって数え切れない。
 いざという時は、見捨てられる覚悟だって出来てる。そういう職なのさ」

 兵士を束ねる立場にいるブヒータさん。
 その地位に立つまで、数え切れないほど口にしたような経験があることを伺わせます。

「そんな状況を変えられそうな、まさしく奇跡としか言いようのない力だ!
 それなのに、我慢しろっていうのかよ!?」

 血を吐くように紡がれたブヒータさんの言葉。
 宴会で大騒ぎする姿は、兵士としての覚悟の現れでもあったのでしょう。
 生きてるうちに、楽しめる時に楽しみを味わいつくそうと。


 そんなブヒータさんが縋った奇跡と言った力。
 そこまで大層ものでは無く、明らかな過剰評価ではありますが。
 それでも、そこまで言ってもらったなら――


「申し訳ありませんが、戦場に着いていくことはできません」

 まずは一言。
 明らかに落胆した表情を浮かべるブヒータさんたち。
 
 少しは考えてほしい。
 私は、これまでおしとやかな令嬢として育てられたただの人間です。
 医療班が兵士に着いていく体制が整っているならまだしも、今この状況で付いていっても足を引っ張るだけでしょう。

「ですがみなさんが無事に戦場から帰って来られるように。
 そのお手伝いはさせて頂きたいと思います」
「どういうことだ……?」

 わずかな期待をのぞかせた目。

 多くは自然治癒に任せ、ハーブを使った応急処置が良いところ。
 そんな魔族の医療事情を聞いてたとき。
 私が、もし役に立てる部分があるとしたら――
感想 12

あなたにおすすめの小説

試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました

あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。 断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。 平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。 ――だが。 私にはもう一つの試験がある。 それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。 そして数日後。 その結果は――首席合格だった。 冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る

あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。 しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい

あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!